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#GQuuuuuuX

 

――アイドル文化、オタク性、オマージュの倫理をめぐって

 

  要旨(Abstract)

本稿は、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(以下、『GQuX』)を通して明らかになった、アニメーション演出家・鶴巻和哉によるキャラクター私物化の傾向を、「オマージュ」「推し」「アイドル文化」との関係から読み解く私論である。鶴巻の初監督作『トップをねらえ2!』を皮切りに、彼の演出には一貫して特定の女性アイドルへの執着的な投影が見られる。その欲望の形式は、「庵野秀明的オマージュ」の継承と変奏であり、庵野の「そのまま使う」美学の延長線上にある。さらに『GQuX』に登場するキャラクター名や性格設定には、乃木坂46およびハロー!プロジェクト出身の女性タレントの実名的暗喩が散見され、明確なモデルが存在するとされる。このような実在アイドルの“私物化”を含むキャラクター構築は、創作と欲望の倫理をめぐる問題系を示唆している。

 

  第一章 ガンダムを語ることは「俺」を語ること

ガンダム作品を語ることは、自己の記憶と欲望を語る行為である。とりわけ「推し」や「オマージュ」を通じて語られるガンダムは、もはや戦争や国家という公的テーマよりも、「誰のためのガンダムか」「誰にとってのガンダムか」という私的な問いに回収されつつある。ユニバーサル・センチュリーの物語世界は、ファンの内面性と不可分になり、ガンダムは自己投影のメディア装置として再構成されていく。

 

  第二章 『ミニモニ。THE(じゃ)ムービー お菓子な大冒険!』を起点として

『GQuX』を論じる上で重要なのは、2002年公開の『ミニモニ。THE(じゃ)ムービー お菓子な大冒険!』(以下、『MTMO』)である。本作は「シン・ゴジラ」の樋口真嗣の初監督作であり、鶴巻和哉が画コンテとして参加していた。『MTMO』は当時のハロー!プロジェクトと子供向け実写映画、さらに特撮文法が交錯した作品であり、「推し」的視線によるアイドルの演出の萌芽が確認できる。

同日公開作品は『とっとこハム太郎 ハムハムハムージャ! 幻のプリンセス』であり、併映には『ゴジラ×メカゴジラ』があった。この配置は、東映・東宝・円谷といった特撮系プロダクションの重層的接続を意味し、後の「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」を先取りする構図が既に成立していたと言える。

 

  第三章 私物化されるキャラクター──『GQuX』と乃木坂・ハロプロ

『GQuX』に登場する主要キャラクターたちは、現実のアイドルをモデルにしているとされる。例えば:

  • マチュ:松村沙友理(元乃木坂46)
  • ニャアン:西野七瀬(元乃木坂46)
  • シイコ・スガイ:菅谷梨沙子(Berryz工房)

このような直接的な命名とキャラ造形は、偶然の一致とは考えにくい。特に「マチュ」の元ネタとされる松村沙友理は、スキャンダル(路上キス)によって世間を賑わせたが、それでもなお作品内でヒロイン的存在として私物化される。この行為は倫理的な問題を孕む一方で、創作者の“推しを守る”という強い欲望の表出でもある。

また、「ノノ=辻希美」説に代表されるように、鶴巻の初監督作『トップをねらえ2!』でも実在アイドルをベースとしたキャラ構築が行われていたと考えられる。これは「実在する女性=フィクション化することで永遠化する」という、きわめてオタク的所有欲の表象である。

 

  第四章 オマージュか、私物化か──庵野的芸風の継承

庵野秀明は、「オマージュ=原作再現」に徹し、その“引用”の正確さをもって自己の欲望を表現してきた。『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』では、「特撮を愛しすぎた者による特撮の再演」が行われた。それは、ある種の偏愛と、演出家としての倫理のギリギリのバランスの上に成立していた。

この庵野の「芸風」を、鶴巻和哉はほぼそのまま継承している。ただし、庵野がリスペクト対象を“作品”に向けたのに対し、鶴巻は“人物”=“推し”に向けている点が大きな違いである。この転位が、オマージュから私物化への転化を生む。つまり、庵野的引用美学の“個人化”であり、ガンダムという巨大IPの中で、監督の推しカルチャーを具現化する行為でもある。

 

  第五章 推し文化とメディアミックス──ガンダムは誰のものか

「量産型リコ」シリーズや「LINKL PLANET」のように、現在のメディア展開ではアイドルとガンダムの関係は既に商業的にも結びついている。乃木坂46やハロプロといったアイドルと、バンダイ・サンライズの“顔”であるガンダムが、同じ資本の中で有機的に連動している状況は、もはや私物化という言葉を超えて、「戦略的萌え化」「制度的推し化」と言えるかもしれない。

創作者の“推し”と、コンテンツの“利権”が一致するこの時代において、「誰のためのガンダムか」という問いは、「誰がガンダムを推しているか」に言い換えられつつある。

 

  結論──空に浮かぶ庵野の顔

本稿を貫くのは、「推し」と「ガンダム」の交錯である。庵野秀明が「変わった人だと自覚しています(笑)」と語ったように、推しを愛すること、推しを作品にすること、推しを永遠化することは、作り手としての愛であり狂気でもある。

空に巨大な庵野の顔が浮かぶように、我々の“推し”もまた作品の中に浮かび上がる。鶴巻ガンダムは、その実験装置である。

 

  注釈

  1. 『GQuX』のキャラクター名と実在アイドルとの一致は、制作者や脚本からの直接的証言はないが、SNSやファンの間では広く共有されている読みである。
  2. 『トップをねらえ2!』と辻希美の関係については公的な根拠は存在しないが、ファンの間では愛称「ノノ」と「辻ちゃん」の一致がしばしば指摘されている。
  3. 『ミニモニ。THEムービー』の同日公開作品と上映配列は、2002年12月14日公開当時の東映公式資料に基づく。
 

  参考文献

  • 『GQuuuuuuX』公式サイト
  • 金子修介監督『GMK』(2001)、樋口真嗣監督『MTMO』(2002)
  • 『トップをねらえ2!』(2004)
  • 『機動戦士ガンダム00』(2007)
  • 「Yahoo!知恵袋」内の高橋愛・田中れいなCM起用に関する回答
  • Wikipedia各項目(「菅谷梨沙子」「松村沙友理」「鶴巻和哉」など)