フルタイムアスリートについて述べたい。私は一時期フルタイムでアスリートをしている時期があった。

 

 フルタイムアスリートと聞くと皆さんはどういうイメージがあるだろうか。好きなことをやってお金がもらえてうらやましいと思うだろうか。私もかつてはそう思っていた。

 

 フルタイムアスリートになる前は仕事をしていて、仕事をしながらもそこそこの競技成績が出せていた。「仕事をやりながら成績が出せるんだから、競技1本に絞ったらどれだけいいだろう?」と。競技を仕事できるなんて羨ましく思った。

 

 運が良いことに、競技で成績を出せたことで私はフルタイムアスリートになることができた。期間は2年間である。

 

 実際にやってみると、思っていたのとは随分違うものだ。2年間であったが、少し怪我をした状態で始まったことも大きい。

 24時間・365日×2年間。好きなように過ごしてよい。トレーニングをするのはもちろん、寝てても良い。本を読んでても良い。1日かけてどこかに出かけても良いし、仲間と遊びに行っても良い。何をして過ごそうと自由であり、毎月決まったお金が入ってくる。今振り返っても、自分の人生の中でかなり特殊な時間であった。自由という点では学生に違い感じがするが、それで給料が貰える。

 

 次第にそう過ごすのが当たり前になってきたわけだが、同時に、少し違う感情も湧いてきた。その当時の私は20代の後半に差し掛かったころである。周りの人間は普通に仕事をしていて、そのくらいの年齢になれば社会人として経験を積み始め、後輩や場合によっては部下ができる。

 

 一方の私は、2年間競技中心で生活できるがその後はどうなるかわからない。不安定というか見通しが立たない。そのうちに、「不安」と言う一言では収まらなくなってきた。恐怖に変わってきたのである。

 

 競技中心ではあるが、124時間ある中でどのぐらい競技に費やせるか。睡眠時間が8時間位あったとして、残った時間は16時間。そのすべてを練習に充てられるかというとそうはいかない。トレーニングをしたら、回復の時間は必要であるし、そんなに長い時間は集中して質の高いトレーニングはできない。陸上競技であれば、3時間ぐらいの練習時間が一般的である。

 

 朝の9時からトレーニングを始め、12時くらいまで練習をする。お昼を食べて一息ついたら13~14時位になる。そこから2回目の練習をする場合もあったがある程度歳を重ねると、疲労をどう抜くかという視点が不可欠になってくる。特に試合期では長時間の練習で疲労は溜められないし、怪我のリスクも高まる。

 

 そのような中で競技と直接的に向き合う時間はそれほど長くはできないのである。私の場合は本を読むのが好きなので、読書自体を楽しむというより、自己啓発的な内容を競技に生かそうとする向きもあったが、それでも大半の時間は競技と関係のない時間を過ごしてしまったように思う。遊んでいたわけではない。普通に生活をしていたという感じだ。

 

 結局、空いた時間というのは、自分と向き合うことになる。自問自答である。自分自身が元々内省的である。人によってはそのようなことにならないかもしれないし、自分と向き合うのが嫌で誰かと過ごして気を紛らわせるということもあるだろう。けれども、結局自分は自分と向き合う時間が長くなった。これも人によるのかもしれないが、人間は考え始めると、ポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情に引っ張られるのではないかと考えている。夜寝る前に、ああじゃない、こうじゃないと考えているうちに寝つきが悪くなるという経験はそんなに珍しいことではないと思う。

 

 1日や2日なら小さな感情であっても、積み重なると大きい。1週間の内に5日間トレーニングするとして、3日間やって1日休み、2日やるとすると、前半の3日目が終わってから次の練習まで1日半である。何もやらない、やれない時間である。なにしろ回復時間である。変に気晴らしをして疲労を溜めるわけにもいかない。ここが結構難しい。これの繰り返しはきつい。そこをうまく過ごせるかどうかが一流のアスリートになるかどうかの大きな違いの1つなのかもしれないが、私の場合はそこを乗り越えられなかった。

 

 私の場合はフルタイムで活動できるのは2年間と定まっていたが、それなら、2年後は自分はどうなっているのか分からない。

 

 

 就職するなどしてある程度の見通しがもてると少し違うのかもしれないが、根本的には同じだろうか。

 

 自身の経験から言える私の結論としては、フルタイムアスリートは肉体的にでなく、精神的に厳しいものがあるということ。

 

フルタイムアスリートという環境を手に入れることには一生懸命になるが、実際にはなってからも周りのサポートいうかアドバイスはかなり必要であるということ。

 

 環境が手に入ったらあとは頑張れ、じゃなくてその後の過ごし方をどうするかって言う事を支えたり考えたりできる人間がいないと厳しいのかなと。

 

 精神衛生上は、ワークライフバランスというか社会と繋がってるって言う感覚がすごく大きい。競技だけの生活は、社会と繋がってる感覚を得るのは難しい。私の感想としては、ちょっと片手間でも良いから仕事をして、少しでも社会と繋がれてる実感を持ちながら競技に打ち込める、これがベストかなと。

 

 最近も、私の身の回りにフルタイムアスリートとして踏み出す人間がいるわけだが、経験者の小言としてそういうことは伝えたい。


 でも、やってみないと分からない、気づかないからね。