「フハハハ…フハハハハッ!ハーッハッハッハ!!!どうだね!?綺麗な花火だろう!?」
下卑た笑い声が木霊する。
黄ばんだ白衣にボサボサ頭。
無精ヒゲに銜え煙草。
その男…芦田雄介は笑っていた。
燃え盛るHeven's Doorの前で――笑っていた。
「マスター。何者かが超高速で敷浪センタービルから飛行してきます」
紺城サユリがモバイルデバイスを見ながら言う。
「反応が2つの為…イーグルでは無いと思われます」
デバイスから芦田に目を向ける
「いいじゃないか。これでやっと…やっと全部が揃う」
ニタァ――と口の端を持ち上げ、芦田は笑みを浮かべる。
「芦田ァァァっ!!!」
遥か上空から、白い戦士と黒い戦士が急降下してきた。
「待っていたよ――落合君」

第9話 【 決 戦 】

地下室は蒸し風呂状態だった。
手負いの3人を地下室に非難させ、これからの対策を練ろうとした時…
大爆発が起きた。
≪無垢なる皇女≫の粉塵爆発なんて比べ物にならない程の大爆発。
建物一つが消し飛ぶ程の大爆発。
幸いと言うか、不幸と言うか、地上には誰も居なく、爆発による怪我人は誰も居なかった。
「ぬおぉぉぉぉわぁぁぁぁぁっ!!」
扉をこじ開けようにも、無傷なのは非戦闘系の3人と美園くらいである。
絶体絶命の大ピンチに秋華はディスプレイに向かっている。
「なんか方法…なんか方法…なんか方法…」
ブツブツとメトロノームの様に同じ言葉を繰り返している。
「小型爆弾で扉だけ吹き飛ばす?でも上に敵がいたら?…そうだ!」
秋華はバッと顔を上げる。
淳が持ってきた重火器の中にロケットランチャーがあったはずだからそれを改造すれば…と思いついた。
「ロケットランチャーの改造なんてしても…無理だと思います。恐らく、扉の前と上に瓦礫が乗っているのでしょう…」
冷静に、恵一がアドバイスをする。
「それより…通信で夕馬さんに助けを求めるのが一番いいんじゃない?」
香も秋華に申し開く。
「…だけど!」
その時爆発音と共に、地下室に光が差し込んだ。
「大丈夫か!?」
其処に居たのは黒い装甲の戦士…レイヴンだった。

2人がHeven's Doorに到着した直後。
「待っていたよ――落合君」
ニタァと蛇の様な微笑で夕馬を見る芦田。
「芦田…貴様ァッ!」
殴りかかろうとする夕馬に向かい、芦田が燃えるHeven's Doorに目をやる。
「いいのかい?――君の大切な仲間達は今頃、地下室で木乃伊になるのを待っているが?」
ピタっと動きを止めるレイヴン。
「救出するならすればいいさ。…私の目的は君達の抹殺ではない。真逆だからねぇ――」
再び蛇の様な微笑を浮かべる芦田。
「落合!さっさと助けて来い!変な動きしたら――俺が撃ち殺す」
自動小銃を芦田に構え、イグレットが言った。
「ほほぉ…その声はNo.19か?…まさか適応するとはねぇ。…愛の力は偉大だな」
カハハハと笑う芦田。
「動くな。1ミリたりとも動くな、息をするな、笑うな、俺と目を合わせるな…」
静かな声で言うイグレット。
「俺はトリガーを引きたくてウズウズしてるんだ…」
カチャ――と銃口を芦田の頭に向ける。
「ハハハ…これはこれは…」
顔はニヤニヤしたまま両手を上げる。
その間にレイヴンは地下室の入り口の瓦礫を吹き飛ばし、扉を開いた。
「大丈夫か!?」
エネルギーの消費を抑える為にヤタと分離をし、通常体のレイヴンになる。
「夕馬!!」
飛び出してきたのは、秋華ではなく美園だった。
美園が飛び出し、秋華が続いて出てくる。
全員地上に出て来た所で芦田が口を開いた。
「さぁ…これで役者は全員揃ったな」
ニィっと笑う。
「これより君達には私の仲間になって貰おうか。…いや、戻ってもらおうかと言うのが正しいかな――?」
両手を降ろし、秋華の方を向く。
「なぁ…鈴峰秋華。いや…【超頭脳実験被検体“第4号”】と言った方がいいかな?」
超頭脳実験と言う言葉に秋華の体がビクッと硬直した。
「第…“4号”…?」
ガタガタと体が震えている。
「アキちゃん!」
美園が駆け寄り、秋華の肩を抱く。
「ふむ…ならば、こう言おうか…“さぁおいで、我が娘”」
ニィと笑い芦田が嘯く。
「うぅ…」
秋華が頭を抱え、美園の手を振り解き、その場にしゃがみ込む。

「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」

カッと目を見開き、天に向かい絶叫をする秋華。
「イヤだ!イヤだ!イヤダ!イヤダ!イヤダ!イヤダ!イヤダ!イヤダ!」
しゃがみ込んだまま発狂する秋華。
「アキちゃん!?どうしたの!?ねぇ!!アキちゃん!!」
美園が抱き締める。
「イヤ…ダ…記憶なんていらない!!イヤァァァァァァァァァァ!!」
ガクン――と、力が抜ける。
「アキちゃん…?」
顔を上げた秋華は、虚ろな…生気の無い目をしていた。
その姿はまるで改造されたばかりの夕馬の様だった。
「ドクター。オハヨウゴザイマス」
感情が全て失われた様な無機質な声で秋華がそう言った。
「アキちゃん…?」
抱き締めていた美園を振り払い、秋華は芦田の方に歩いていく。
「芦田!!貴様ッ!!秋華に何をした!!」
芦田に向き怒声を浴びせるレイヴン。
「何をした?フフフ…“元に戻した”だけだが」
懐から煙草を取り出し咥えると、サユリが火をつけた。
フゥ――と煙を吐き出し――
「何か勘違いしていないかね?彼女は元々私が作った改造人間≪モノ≫だ。持ち主の元に戻ってくるのは当たり前…だろう?」
ニタァと笑う。
「モノ…だと…?」
怒りに身を震わせるレイヴン。
「秋華は…無茶苦茶で、天真爛漫で、スッゲー馬鹿で、誰よりも明るく、コロコロと表情を変える。…そんな女の子だったんだぞ!」
レイヴンのカメラアイが怒りに呼応するかの様に赤く…緋く光る。
「そんな子を…貴様ァ!」
芦田に飛び掛るレイヴン。
だが――
芦田の前に秋華が立ちはだかった。
「秋華!?」
ピタリと寸前で拳を止める。
「落合夕馬…ドクター ニ 触レルナ」
生気の無い…抑揚の無い声で、レイヴンに向かって言う秋華。
「違う…だろ?…違うだろ!?アイ君だろ!?何言ってんだよ秋華!目ェ覚ませよ!!」
変身を解除し、秋華の肩を持ち揺する。
「何 ヲ 言ッテイル? 貴様 ハ 落合夕馬 ダロウ?」
虚ろな目…
生気の無い顔…
抑揚の無い口調…
全てが、夕馬の知る秋華では無かった。
「芦田…。元に戻せ…。今すぐにだ…元の秋華に戻せェェェェ!!!!」
背後ではイグレットの変身を解除した海人が銃を構えている。
「俺もこんな姿のこの子は見たくない。戻すんだ。今すぐに」
静かな怒りを込めて銃口を向ける。
「ぐっ…と、目が覚めたらとんでもない事態じゃないか。…秋華がそんな喋り方するのは似合わないねぇ」
満身創痍の碧羽も立ち上がり構える。
「…」
煙草を銜え、無言で銃を構える淳。表情だけで怒っている事が分かる。
「秋華ちゃん…正気に戻って!お願い!いつもの調子に戻ってよ!」
香は涙をポロポロと流しながら立ち上がった。
「その子は…貴様の娘ではない…。うちの大事な次女だ。開放しろ」
修也も立ち上がり、構える。
「その子が…その子が例え何であろうと…貴方に渡すわけにはいかない」
スッと雨音も立ち上がる。
「フフフ…フハハハハ!ハァーッハッハッハッハ!!」
その様子を見て、芦田が高笑いをする。
「いいねぇ…美しい!友情ゴッコか!フハハハハ!!!実に…」
ピタっと笑いを止め全員を見る。
「くだらない。なぁ…そう思わないか?恵一」
芦田が恵一に目をやる。
全員が恵一の方を見る。
「全くですね。くだらない。実にくだらない」
ふぅ――とため息をついて、恵一が芦田の方に向かっていった。
「どういう事だ!?恵一、お前…裏切ったのか!?」
夕馬が恵一を睨み付ける。
「裏切ったもなにも…元々僕はあちら側ですよ。夕馬さん」
ポン――と肩を叩き、芦田に向かう。
「――と、言うわけだ。残念だったね諸君」
ニヤついた顔で芦田が言う
「ご苦労だった…例のデータは集まったかね?」
恵一が懐から1枚のCDを取り出す。
「こちらに…これで“レイヴンの戦闘データは全て”です」
全員に戦慄が走る。
レイヴンの戦闘データが敵に渡ると言う事は明らかにこちら側が不利になる。
「恵一ッ!」
夕馬が叫ぶと同時に恵一が懐から拳銃を取り出し芦田に向ける。
「渡すわけにはいきませんけどね」
引き金を引く。

―パァン

乾いた音が響いた。
恵一の銃が火を吹いた。
だが――

倒れたのはサユリであった。

「くそ!」
恵一が舌打ちをする。
「ほぅ?…裏切るのか…面白い」
サユリと言う助手が撃たれたと言うのに平然としている芦田。

―パァン

再び銃声がする。
「ドクター、ご無事で…?」
撃ったのはサユリであった。
そして、撃たれたのは――
「ぐおっ…」
恵一だった。

2発の銃声。
倒れる恵一。

その瞬簡に碧羽が、夕馬が、淳が、海人が、それぞれ芦田に向かって飛び掛った。
「貴様ァァァァァァァ!!!!!」
だが、寸での所で上空から矢が降ってきた。
「なにッ!?」
上空からふわりと白銀の装甲兵が降りてきた。
「ご苦労だ。ルフ」
白銀の装甲兵に向かい芦田が労いの言葉を掛ける。
「アキ…正気に…戻りなさ…い…」
息も絶え絶えな恵一が秋華に近寄る。
「君は…優しい子だ。君のいるべき場所は…芦田の元じゃない…修也さんや…夕馬さんの元だよ…」
恵一はごふっと血を吐き出す。
「わかる…ね…?君の居場所は…おいしいココアのある…優しい母がいる…Heven's Doorなんだよ…」
無表情で見下ろしていた秋華に変化が見え始める。
苦しそうな表情を浮かべている。
「け…い…さ…ん…?」
そっと秋華の頬に触れる恵一。
「そうだ。君は…あんなに喜んでた…じゃ…ないか。家族が…できた…って…さぁ…」
「ルフ、あの目障りな小虫を片付けろ」
ルフと呼ばれた白銀の装甲兵に芦田が言った。
「イエス」
ルフが左手を恵一に向けると、手首から矢が射出された
―キュンと、鋭い音がすると、恵一の右腕が吹き飛んだ。
「恵一!!!!」
ルフに向かって自動小銃を撃つ海人。
同じく大型拳銃を撃つ淳。
だが、どちらの弾丸も“まるで意思があるかのようにルフを避けた”
「――!?」
「な…アレは…」
修也は絶句した。

右腕が吹き飛び、絶命しかけている恵一に秋華がフラフラと歩み寄る。
「ケイ…さん…?ケイさん!!!!!!」
涙をボロボロと流しながら恵一に駆け寄る。
「ケイさん!何で!?何でよ!!ケイさん!!」
右腕が無くなった恵一を抱き上げ、ボロボロと涙を流す。
「そう…それが…君の…本当の君だよ…」
血液が足りないのだろう。顔色が真っ青である。
「うん。うん!わかってるよ…わかったよ!だから…だから…だから…」
子供のように泣く秋華。
「だから――死なないで!ケイさん!!」
その様子を見てヘタッと腰を抜かす香。
「嘘…ですよね…死ぬとか…嘘ですよね…」
ごふっと再び血を吐く恵一。
「最後に――僕達を駒の様に扱う…あの男に一矢報いたかったけど…」
すっと目を閉じる恵一

「やっぱり…ダメ…か」

その言葉を最期に――恵一の心臓は止まった。
「ケイさん…?ダメだよ…寝たらダメだよ…ケイさん!?ケイさん!!!」
美園と香が恵一と秋華を引き離す。
「アキちゃん!落ち着いて!アキちゃん!!」
「秋華ちゃん!落ち着いて!!」
必死で引き離す二人。
何故ならば、芦田が向かってきているのが見えたからである。
「ふん…駒に感情を持たせるとこうなる…いい結果を知らせてくれたよ。小虫にしてはいい働きだ」
息絶えた――恵一の死体を踏みつけ、芦田は唾を吐く。
「キサマァァァァァァァァ!!!」
その行動を見た碧羽が激昂し、殴り付けようと駆け出した。
だが、先程まで淳と海人を相手にしていたルフが立ちはだかった。
「姉ちゃん!頭下げろ!!」
後から夕馬の声がする。
碧羽が頭を下げると碧羽の背中を転がり、遠心力をつけた浴びせ蹴りがルフの顔面にヒットした。
「マスターには指一本たりとも触らせない」
避けようとも、掴もうともせずに顔面で夕馬の蹴りをうけ、ルフは嘯いた。
「まぁ――落ち着きたまえ…落合夕馬。落合碧羽…いや…」
ふぅ――と煙草の煙を吐き出す芦田。
「“紅花”夕馬、“紅花”碧羽。と呼ぼうか?」
ニタァと笑う芦田。
「な…なに…?」
「紅花…だと!?」
その名前に反応したのは――修也と淳だった。

紅花…
この名は二人にとって因縁の深い名である。
かつての宿敵――
防衛省 特殊人災処理局々長『紅花 國靖』
通称≪神を殴った者(ゴッドハンド)≫
その通称の通り――神を殴った男である。
異能力者でありながら――非異能力者。
非異能力者でありながら――異能力者。
世界の為に特異点を殺そうとした男。
最強で最凶で最悪な宿敵――。
宿敵とは言え、憎んでいたわけでは無い。
宿敵とは言え、恨んでいたわけでは無い。
その宿敵の子供が…目の前にいる。
その事実に――芳田修也と設楽淳はただ純粋に驚いた。

「そもそも――不思議に思っていたのだよ、私は――」
困惑している全員に目もくれず、芦田は語りだした。
「何故…あのナノマシンが適応したのか?何故…これほどまで力を引き出しているのか?」
煙草を銜え、ボリボリと頭を掻いている。
「気になった私は――君の血液を調べてた。いやいや驚いたよ。なんと君はあの≪神を殴った者(ゴッドハンド)≫と同一の遺伝子情報を持っている」
バッと両手を広げ天を仰ぐ。
「それもそのはずだ!君の父上は世界で一番偉大な男なのだからなぁ!」
ハハハハハッと軽く笑う
「失礼だが君の母上の経歴を調べさせて貰った。27年前に紅花氏と夫婦になっているではないか!そしてその1年後に第一子、碧羽嬢を産んでいる」
碧羽を見る芦田。
「そして3年後に――第二子である夕馬君!君を産んでいる」
当たり前の事を大げさに、まるで舞台上に居るかのように話す。
「その後は君達のよく知る通り――父上はその男に殺されている!」
大仰な手振りで修也を指差す。
「君達は皮肉にも、父の仇と共に暮らし、笑いあっていたのだよ!」
ぐっ――と言葉を詰まらせる修也。
「だから?」
「それがどうした…」
夕馬と碧羽は同時に口を開く。
「親父がどうとか――」
「修也さんがどうとか――」

「「そんなもんはとっくにケリがついてる事だろうが!!」」

芦田を睨む二人。
「大の男がグチグチグチグチと…全くみっともないねぇ」
碧羽はいつでも攻撃できるように構える。
「親父と修也さんがどうだったとかしらねぇなぁ…」

―realization

「俺にとっては修也さんの方がよっぽど親父だ!変身!!」

-transformation

「こい!ヤタ!!」
ベルトを押し込む。

―Standing by―

「テメェの腐った根性…叩き直してやるッ!」

―Union Complet―

夕馬はレイヴンヤタに変身した。
それは、もう聴く耳を持たない。と言う意味であった。
「フン…まぁ、いい。力づくにでも協力させてやろう…ルフ!」
「イエス」
一瞬で芦田とレイヴンの間に入るルフ。
(この声――どこかで――)夕馬の脳裏に疑問が過ぎる。
ニィっと笑う芦田。
「聞き覚えある声だとは思わないかね――?彼の正体を知りたいか?」
ニヤニヤとにやけ続けている。
「ルフ、見せてやれ」
芦田が言うと、ルフは仮面を外した。
「――!!」
仮面を外したその素顔は――芳田修也であった。
「クッ――やはりか…!」
修也が銃を構える。
「“私に銃弾は効かない”――貴方が一番分かっているでしょう?」
修也の声で修也に話しかける。
「どういう事だ…」
再び困惑するレイヴン。
「なぁに――簡単なことさ。そこに居るのは…最強の異能。≪世界の敵≫を備えた…芳田修也のクローンさ」
高笑いをする芦田。
「さらに絶望をプレゼントしようか…」
懐から何かの装置を取り出す。
「これを見たら諸君も戦う意思など――失せるさ」
――ピィィィと装置から警告音がなる。
すると、敷浪センタービルの方角から爆発音と共に何かが――金色に輝く何かが飛んできた。
その金色の何かはビルを切り裂き、電柱をまるでバターの様に切り裂き、一直線にHeven's Doorに向かってきた。
―ドォン。と派手な音を立て、金色の戦士は芦田の近くに着地した。
白銀の装甲兵――ルフは西洋の甲冑の様に美しく羽根が生えているのに対し
金色の装甲兵は――レイヴンとよく似た姿をしていた。
違うのは――金色に輝く装甲と、両肩から生えた鞭のような物、そして猛禽類の爪が両手にある事くらいだった。
「改めて紹介しよう…第四世代型“人造人間”Type-φ…フューニクスだ」
すぅ――と、ゆっくり立ち上がるフューニクス。
「よう…初めましてだな。息子」
フューニクスが嘯き、仮面を外す。
仮面の下の素顔は――夕馬によく似ていた。
「――!バカなッ!そんなバカな!!」
修也が驚き、後ずさる。
「フハハハハハ!!!絶望しろ!!そうだ!君の予想は合っているぞ!フューニクスは…紅花國靖のクローンだ!」
高らかに笑う芦田。
物凄い高圧に全員が動けなくなる。
「どうした…?お前等が動かないと…後の奴等死ンじまうぞ?」
再び仮面を被り、歩き出すフューニクス。
「チィ――!」
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
「させないッ!!」
夕馬、海人、碧羽の3人が同時にフューニクスに飛び掛る。
「ライトニング…ブロウ!!!」
「ブレイジング…ショット!!」
「石神流古武術!奥義!!朱雀≪スザク≫」
三人が最大の攻撃。最強の攻撃。辺り一帯が壊滅してもおかしくない攻撃。
だが――
「おいおい…真面目にやれよ」
縦回転の蹴当である朱雀を避け、腹部を殴りつける。
近距離の猛禽の爪を弾き、下顎に掌底を叩き込む。
中距離から放たれた光速の弾丸を摘み、体を捻り肩の鞭で腹部を殴打する。
その動作を――3人を同時に相手にしていると言うのに…その動作を一呼吸で済ますフューニクス。
吹き飛んだ3人は呻き声さえ上げず、気を失っている。
「終わりかい…?情けねぇなぁ…」
くるりと振り向き、芦田に向かう。
「興が削がれた。こいつ等は殺る価値がねぇな」
ルフも同じくくるりと振り向き、芦田に向かう。
「私が出るまでも無かったですね。…脅威にはならないでしょう」
ルフはボロボロになった淳を一瞥し、興味無さそうに言った。
煙草を地面に投げ捨てる芦田。
「これで分かっただろう…圧倒的な差だ。大人しく降伏して、私の元に来い…君達の能力は価値がある…」
黄ばんだ白衣を翻し、背を向け大仰に天を仰ぐ芦田。
「こちらにも準備はある…そうだな、猶予をあげよう…気が変わったら私の元に来たまえ…気が変わらなかったら…その時になればわかるようにしよう」
高笑いをして立ち去る3人…。
吹き飛んだ3人を介抱しながら、美園が叫んだ。
「誰が!誰がアンタなんかのトコに行くもんですか!!見てなさい!必ず…必ず!!」

こうして――敷浪の長い1日は最悪な形で幕を閉じた。
衝撃の過去…
最悪の未来…
絶望だけを残して…


―最後の戦い。
―その先にあるものは
―希望か
―絶望か

最終話【 明日 】

「必ず――必ず帰ってきて――お願い」
敷浪センタービル最上階――AM11:30
「Dr.芦田。侵入者です」
無機質な声――サユリの声がビル最上階の一室に響いた。
「おそらくType-Rかと思われます。いかが致しますか?」
部屋の真ん中でコンピューター操作をしている芦田は見向きもせず
「放っておいて構わんよ。それにしても…流石だな落合夕馬」
芦田はニタァと下卑た笑いを浮かべた。


第8話【 進化 】


敷浪センタービル付近――AM10:00
「何だ今の爆発音…?」
センタービルまで残り1kmを切ったところで物凄い爆発音がした。
しかも方向的にはHeven's Doorの方角…。
夕馬に不安がよぎったが、(姉貴がいるから多分大丈夫だろう…)と想いなおす。
―マスター、秋華サマから通信です。
不意にクロウが話し掛けてきた。
「繋げてくれ」
『やっと繋がったぁぁぁぁぁぁ!!!!もー!!勝手にきるなぁぁぁぁぁ!!!!!』
物凄く怒っているのが良く分かる程の声量だった。
「わりーわりー!どうしたんだ?」
少しクロウから離れ気味で返す夕馬。
『…ふぇ…ふぇぇぇぇぇぇん』
突然泣き出す秋華。状況を掴めていない夕馬は困惑する事しか出来ない。
「どどどどうした!?」
訂正、困惑と言うよりも動揺している。どんなタイミングであれ、女の子の泣き声に男は弱いのだ。
「あー、すいません。泣きじゃくっちゃって状況説明ができそうもないので…僕が」
クロウの音声が恵一に変わった。
「…申し上げにくいのですが。…芹沢先生が…戦死されました」
一瞬、恵一がなにを言っているのかわからなくなった。
「戦…死…?」と言葉を詰まらせ、その場で拳を握りこんだ。
「…はい」
5分か―1時間か――あるいはもっと一瞬なのか――沈黙が走る。
「…報告ありがとう。すぐにセンタービルに向かう」
そう言い通信を遮断した。
「ク、ソッ――クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
ドゴン―と、ビルの壁を殴りつける夕馬。
―マスター、落ち着いてください。
「落ち着いてられるか!瑠璃さんが…瑠璃さんが死んだんだぞ!!」
クロウに怒鳴りつける夕馬。
「――フン。…大事な人が死んだから――そこで阿呆みたいにモノに当たるのか…。思った以上に小さい男だな」
背後からそう声を掛けられる。
振り向くと、其処には海人が煙草を燻らせていた。
「――んだと!?」
夕馬は走り寄りガッと海人の胸倉を掴む。
「小さい男だから小さい男と言ったんだ!お前は其処でモノに当たり続けるよりする事があるだろうが!!!!」
掴む手を弾き、逆に胸倉を掴んで怒鳴りつける海人。
「落ち着けよ!お前の目的は何だ!?芦田じゃねぇのか!?それともビルをぶっ壊すのがお前の目的なのか!!」
ギリっと歯を噛み締める海人。
「――離せ…」
夕馬は胸倉を掴む手を振り解き、海人を真っ直ぐ見た。
「頭に血がのぼってた。――すまん」
悪いと思えば素直に謝罪が出来る。それが落合夕馬と言う男だ。
「フン、わかりゃいいんだよ…で、どうする?」
煙草を地面に擦り付け、火を消す海人。
「敷浪センタービルが――敵本陣のようだ。そこを叩く」
真剣な面持ちで夕馬が言う。
「――どうりで…あの辺りは敵がうじゃうじゃしてた。だが…あの人数…。突破するだけで5分を使っちまうぞ――」
5分――それはレイヴンとイグレットの活動限界時間。
「一点突破――それしかないだろ」
作戦も何も最初からそのつもりでいた。と言わんばかりに夕馬は嘯く。
「熱血馬鹿が。…一点突破って言っても物凄い量だぞ!?恐らく100体以上は配置されているってのに…」
はぁ…とため息をつく海人。
「ま、何とかなるだろ」
夕馬はケラケラと笑ってる。先程まで怒りに身を震わせていた人物と同一人物とは思えない。
―『何とかなるよ!』
突然クロウから秋華の声がする。
『話は聞かせてもらった!勝手に聞いちゃった!ごめん!』
秋華も先程まで泣いていた様子を見せない。
『あと10分!…いや、5分位そこで待ってて!とっておきを送るから!なんとかなるとっておきだよ!あ、安心してねカイ兄さんの分もあるから!』
そう言って一方的に通信を遮断された。
「「とっておき…?」」
二人は声をあわせて首を傾げた。

Heven's Door地下室――AM10:10
「完成したぁぁぁぁぁッ!!!できた!」
ガバっとモニター前の椅子から立ち上がる秋華。
「急いでアイ君に教えなきゃ!」
とまた席に座る。
クロウにチャンネルを合わせると『敷浪センタービルが――敵本陣のようだ。そこを叩く』と夕馬の声が聞こえる。
続けて『――どうりで…あの辺りは敵がうじゃうじゃしてた。だが…あの人数…突破するだけで5分を使っちまうぞ――』と聞き覚えがある声が聞こえる。
「んに?この声…カイ兄さんか!」
ココアに手を伸ばし、暫く二人の会話を聞く。
一口飲んで、一息ついてマイクに向かった。
「話は聞かせてもらった!勝手に聞いちゃった!ごめん!」
話に割り込む様に秋華が言う。
マイクの向こうで二人が呆然としている様が見えるようだ。
後では苦笑交じりで恵一が作業をしている。
香はもう呆れながらもレーダーとディスプレイを交互に見ている。
「あと10分…いや、5分位そこで待ってて!とっておきを送るから!なんとかなるとっておきだよ!あ、安心してねカイ兄さんの分もあるから!」
チラッとさっきまで作業していた隣のコンテナと水の入ったボトルを見る。
ブチッとマイクの電源を落とす。
「よっし!急いで最終チェックだぁぁぁ!!」
通信を切ってくるりとモニターから体ごと恵一の方を向く秋華。
「もう大体終わってますよ…通信中に済ませました」
コーヒーを飲みながらしれっと言いのける恵一。
「おおう!ケイさんはやり手だな!一人上手だ!」
ブッ――と、コーヒーを噴出する恵一。
「アキ…意味わかって使ってますか?」
「…んにゃ?」
「いや、いいです…とにかく最終チェックは終わってるから――」
「あとは打ち出しだけだね!」
コクリと頷く恵一。
「…盛り上がってるトコ悪いんですが――」
香が神妙な面持ちで二人に言った。
「敵増援です…数50。さっきまでとパターンが違うのが1体います…」
一瞬戦慄が走る。
表で碧羽が持ち堪えてくれている。
最初の襲撃後も何度が増援が来ているが、50体ともなれば話は変わってくる。
しかも1体はパターンが違う。…ここで弱いのを混ぜる訳が無い。
恐らく隊長格。
恐らく本部隊。
碧羽の力を脅威と判断し一気に潰す作戦に出たのであろう。
「思い切った事しますねぇ…」
恵一はコーヒーをテーブルに置いた。

Heven's Door店内――AM10:20
淳が持ってきた重火器のお陰で修也も戦えていた。
碧羽と淳の直接砲火支援くらいしか出来ていないがないよりはマシだった。
前線に立つつもりだったのだが碧羽に
「娘と奥さんを守るのは修也さん――アンタの役目だ。増援が止んだら安全な場所に逃がしてやってください。それまでアタシが持ち堪える」
とまで言われたらバックアップに回るしかなかった。
「それにしてもキリが無いッ――!」
白と黒は際限なく、四人小隊編成で攻めてくる。
もうかれこれ5回増援がきている。お陰で、美園と雨音は未だ店内に残っていた。
美園は、碧羽の渇で立ち直りはしたものの――やはり精神的に磨り減っていた。
無理も無い。人が――大切な人が一人居なくなったのだ。
奇しくも黒づくめの女の予言が当たってしまったのだ。
「クソ――」
弾薬が切れ、リロードをする修也。
碧羽にも、淳にも疲れが見え始めてきている。
一瞬増援の手が止んだ。
空を見上げると、敷浪センタービルの方角が暗くなった。
ごちゃごちゃと動いているのが分かる。
絶望的な数。
「碧羽!淳!センタービルの方角を見ろ!!」
肩で息をしている二人に向かって叫ぶ修也。
「チッ…まだ来るのか――」
地面に唾を吐き出す碧羽。薄っすらと血が混ざっている。
「この量…。半端ないねェ…」
フフッ――とやや自嘲気味に笑う淳。
その時、地下室から秋華が店内に駆け込んできた。
「しゅーパパ!大変だ!物凄い数の敵が――」
センタービルの方角を見て秋華が言葉を詰まらせる。
「あんじゃありぁぁぁぁぁぁ!!!!うおー!!!スッゲー数!!!」
続いて絶叫。
後から恵一が大きなコンテナを持って出てくる。
「アキ!今しかない!射出しよう!」
コクリと頷く秋華
「やっちゃおう!ついでに…くらえ~!」
と取り出したのは…
イグレットの左腕に着いていたレールガンより一回り大きいレールガン。
「秘密兵器!アキカ・キャノン!」
…ネーミングセンスは悪いようだ。
センタービルの方角に向かってレールガンを撃つ。
―キュンと、物凄い音と衝撃を放つレールガン。
「ぎゃにゃぁ!」
秋華は吹っ飛びカウンターに頭をぶつける
「アキちゃん!」と声を上げる雨音に対し、「大丈夫!」とケロッとしている秋華。
続けてその弾道にあわせる様に黒い物体が恵一のコンテナから射出された。
その黒い物体は――三本足の黒いブルーバードであった。
急ぎゴーグルを装着し、軌道を追う秋華。
「よっしゃ!成功!!急いでアイ君に教えに行かなきゃ!」
とバタバタと地下室に戻っていく。
「雨音!美園!一緒に――」
修也が叫ぶのとほぼ同時に敵の降下が始まった。
「クソッ!」
一緒に戻れ!と言おうとしたが、目の前に降下されてしまい、その隙さえなかった。
雨音も出るタイミングを逃してしまい、再び美園を守る形で店内に留まった。
雨音は「美園だけでも――」と思ったが、さっきまでとはうってかわっての猛攻にその場に留まるしかなかった。

敷浪センタービル付近――AM10:30
『今射出したよ!クロウ君が後は何とかしてくれるはず!』
煙草を吸っている二人にクロウが突然喋りだした。
もちろん秋華の通信なのだが、突然だとびっくりするらしく。煙草を落とした。
「びっくりした…」
「ああ…」
『こっちはまたまた大変なコトになってる!物凄い数の敵がきちゃったんだ!』
続けて言う秋華。
「大丈夫なのか!?一回戻るか――」
夕馬は立ち上がりheven's Doorの方を向く。
「いや――」
海人がそれを遮る。
「逆に好都合かもしれない…」
仲間のピンチを好都合と言われ少し怒りを顔に出す夕馬。
「好都合って――」
「いいから聞け!逆にセンタービルが手薄になってる可能性もある。“とっておき”と合わせればなんとかなるかもしれない」
夕馬の言葉を遮って海人が続けた。
『その通りだね!こっちは碧姉ちゃんと淳さん以外にもしゅーパパも居るからなんとかできるはず!僕の秘密兵器もあるし!』
秋華も海人の案に賛成のようだ。
『―秋華ちゃん!妨害電波の新パターンできた!』と後から香の声がする。
「――少しはヤツ等を信じろ。大丈夫だ。俺たちはセンタービルをさっさと制圧しちまおう」
諭す様に海人が夕馬に言った。
それと同時にクロウが反応をした。
『到着したみたいだね!それはレイヴンの新装備…YATAユニットだよ!』
上空を見ると、黒い装甲を纏った三本足の飛行ユニットがゆっくりと降下してきた。
『カイ兄さんはそのユニットにくくりつけてある水飲んで!アイ君はもう飲んでるよね?』
YATAについているボトルに手を伸ばす海人。
「なんだこれ…」
「出発前に飲んだ水…?」
『飲んだ10分後くらいから効果でるはず…それは――』
怪訝な顔をする海人と夕馬。
『中和ナノマシンなのです!』
「中和――」
「――ナノマシン?」
また同時に首を傾げる二人。なんだかんだと言ってもいいコンビのようだ。
『さっきは説明する暇なかったけど――解析した結果。300秒って言うのは要するに喧嘩してたんだ!』
説明を始める秋華。
『アイ君とカイ兄さんの体の中には今2種類のナノマシンと元々の細胞があるの!それが喧嘩しちゃって体に負荷をかけているんだ!その喧嘩を収める――中和させるナノマシンが必要だったのだ!』
自慢気に続ける秋華。
『そのナノマシンをホントは血液に流し込むのがよかったんだけど…思ったより開発に手間取っちゃって…薄めて飲む。って方法にしたんだ!後は体内で自己分裂を繰り返して体中を巡るから!』
―ドォン! ドォン!と爆発音がし始める
『ぎゃにゃ!爆撃始まった!香ちゃん!新パターンを直接叩き込んで!少しは動きが鈍るはず!』『―了解です!』と言ったやりとりが聞こえる。
『時間が無い!飲んだら10分くらい待って!活動時間が飛躍的に延びるから!アイ君はもうとっくに大丈夫のはず!』
Heven's Doorの方も戦々恐々としてきている。
「チッ――10分も待ってられるか!」
「――同感だ。落合!お前が先行しろ!オレは後からこの玩具と一緒に行く!」
YATAと呼ばれた黒い飛行ユニットを指差す海人
―YATAです。海人さん…少々お待ちください。YATAどドッキングします。
クロウがYATAの方に向かうとYATAのセンサーアイが赤く光った。
―It was recognized the crow.
背部のユニットが展開し、すっぽりとクロウが入るスペースがあった。
―docks
電子音声が流れるとクロウとYATAが合体した。
―ヤタクロウ。そうお呼びください。
黒いブルーバード…ヤタクロウから電子音声が聞こえる。
―マスター先行してください。海人さんのナノマシンの調整を私の方でやってみます。うまくいけば10分もかかりません。
夕馬は一瞬考えて「先に行ってる!」と敷浪センタービルに向かって走っていった。

Heven's Door――AM10:45
猛攻が始まってからおよそ15分が経った。
いくら倒しても
いくら蹴散らしても
しつこく攻め立ててくる装甲兵達
今までの敵とは明らかに動きが違った。
「ハァ…ハァ…石神流古武術――刺突の型…啄木鳥≪キツツキ≫」
貫手での刺突が黒装甲の首に突き刺さる。
流石の碧羽も息が切れ始めてきている。
45分間。殆ど休憩無しでぶっ続けて戦っているのだ。
「いい加減…ハァ…ハァ…しんどいね…」
しかしそんな愚痴さえも言う暇を与えてくれなかった。
『死ね――』
黒装甲兵が鋭い爪で碧羽に強襲した。
「しまっ…」

―ダァン

「まだまだ――だな」
淳の愛銃が火を吹いた。
「すんませんね」
舌を出し礼を言う碧羽。

―パチパチパチパチ

拍手の音が聞こえる。
「お見事、お見事…」
装甲兵を掻き分け…いや、装甲兵が道を作り、其処にスーツ姿の男がゆっくりと歩いてきた
「いやいや…お見事お見事…たったの2人でこのブラックとホワイトをかれこれ40体近く葬ってるのか…。見事、だなぁ」
まるで他人事の様に…男は軽くいった。
「どうです?そちらの着物のお嬢さん。あんた…うちの組織にこねぇか?すぐに幹部クラスになれるほどの力を備えている」
碧羽に向かい言う男。その態度、その姿勢、その風体…全てが碧羽の癪に触った。
「お生憎と、デートのお誘いは腐るほどきてるんでね。…アンタみたいな不細工に誘われても予定は100年先だよ」
ペッと唾を吐く碧羽。
「チッ…。生意気な小娘だ…」
明らかに怒りを表情に出して、男は言った。
「そんな生意気な小娘には…御仕置きが必要だなぁ!」
ボウ――と目が赤く光り、姿がみるみる変わっていった。
「…ッ!?何だコイツ…!!夕馬が言ってた第弐世代ってヤツか!」
グッと足に力を込め、戦闘態勢を整える碧羽。
だが――
姿の変わったスーツの男の速度は、一瞬で碧羽との差を縮めた。
「初めまして娘さん。オレは第弐世代型…レオだ」
ライオンの様な姿をした男。レオは碧羽を思いっ切り殴り飛ばした。
碧羽は、かろうじて両腕を交差させガードしたが、衝撃を殺すまでは至ってなかった。
店内に吹き飛ばされる碧羽。
「ぐぅっ…」
頭を強打したらしく、朦朧とする碧羽。
「チッ――!」
すかさず淳がフォローに入る。
ダァンと、愛銃が火を吹く…が。
「人間のクセに腕は立つみたいだね。あんた等――だが」
銃弾を指先で摘んでレオは続ける
「所詮、人間だ」
ピンッ――と銃弾を爪弾く。
「ぐおっ…」
返された銃弾は淳の右肩を貫いた。
「淳!碧羽!!」
店内から修也が飛び出してくる。
「貴様ァ…」
怒りをあらわにし、修也がレオの前に立った。
「ほう?これはこれは…≪世界の敵≫じゃねぇか…」
レオは、修也にゆっくりと近寄ってくる。
「しかし…戦えるのか?異能は消えた。と聞いたが?」
フフフ――と笑みを浮かべている。
そして修也の向こうに居る人物を見るレオ。
「≪特異点≫も一緒とは…連れて帰ればオレの地位もあがるかもしれないねぇ」
ニタァ――と笑い、雨音を見る。
「雨音と美園には指一本たりとも触らせない」
バッと手を広げ、通せんぼの形を作る。
すると、レオはサッと手を上げる。
「殺せ」
後に居たホワイトが一斉に銃を構え――発砲した。
「オレに…オレに銃弾は…当たらないッ!」
声高に修也が叫ぶと、銃弾が意思を持っているかの様に修也を避けた。
「ほう…」
異能の力に驚くレオ、しかし…修也の様子がおかしかった。
「ぐぅ…」
額に脂汗を浮かべている。
「フ…フハハハハハハ!!!無理に使うと副作用が起きるのか!?フハハハハハ!不完全な状態で異能など使うからだ!フハハハハハ!」
スタスタと修也の横を通り過ぎて行く。
「ぐっ…ま…まて…」
朦朧とする意識の中、それでも愛する妻と娘を守る為にレオに立ちはだかる。
「おーおーおーおー。美しいこった…」
せせら笑うレオ
「パパッ!」
「修也!」
店内から駆け出してくる雨音と美園。
にぃ…と笑うレオ
「いぃい事思いついた…。どっちかだけ助けてやる。娘か嫁か…選べよおっさん!」
レオはグイッと修也の胸倉を掴み持ち上げる。
「選んだ方は生き残らせてやる。選ばれなかった方は…ぶち殺してやるよ」
下品な笑いを浮かべている。
「選べるわけ…ないだ…」
「私を殺しなさい」
修也の言葉を待たず雨音が前に出た。
「ママ!?」
思いつめた風でもなく、決心したように雨音は美園に向き合った。
「美園…辛かったでしょう。苦しかったでしょう?…ゴメンね。母さんのせいなのよ…」
美園を過酷な運命の輪に入れてしまったコトを悔いるように雨音は言った。
「何言ってるの!?やだ!殺すなら私を殺しなさい!」
美園は、涙を浮かべている。
「大丈夫…。きっとこれが貴女を守ってくれるわ…」
そっと無骨な鎖のブレスレットを美園に渡す。
「っつー訳だ…嫁の方を殺して、娘の方は実験体にでもなってもらおうかねェ…」
ぶん――と、乱暴に修也を地面に投げ捨てる。
「や…め…」
這って…這い蹲り、愛する妻の元へ向かおうとする。
「パパ…ママ…イヤ!!ダメ!!」
その時美園の脳裏に男の声が聞こえた。
『――ありったけの思いを込めろ』
力強く、雄々しく、真っ直ぐな声。
『今のお前のありったけの思いをそのブレスに込めろ。出来るはずだ…なぁ、姪っ子』
その言葉のまま…美園はブレスに思いを込める。
「助けたい…パパとママを…」
ブレスレットをぎゅっと握りしめる

「 助 け た い ! 」

パァッと光が美園を包んだ。
そして…雨音に触ろうとしていたレオの間にぼんやりと影が見える。
その影はニィ――と不敵な笑みを浮かべた。
「テメェ…。誰に許可取ってこの女に障ろうとしてるんだ?あぁ?」
その影はみるみる実体化を始める。
「その女はなぁ――」
只の直突き。
物凄い拳骨。
「修也の女なんだよ!!!!!」
只の拳骨でレオの体が5メートル以上吹っ飛んだ。
赤いスカジャン、古くなったジーンズ、汚れたスニーカー。
左右の耳にはピアスがそれぞれ3つ。
スカジャンの背には「唯我独尊」の4文字。
パンパン――と手を叩く男。
「なぁにシケた顔してんだよ!修也!情けねぇなぁ…」
懐から煙草を取り出し、手馴れた手つきで火をつける。
「積もる話は…コイツをノシてからでいいか?」
ニィ――と笑う。
「ホントに…?」
雨音が涙を浮かべている。
「ホントに…大河なの…?」
ポリポリと頭をかき、バツが悪そうにしている。
「ホントではないけどな…。まぁ、兎に角だ」
ピンッ――と煙草を投げ捨てる。
「天は人の下に人を作らず。人の上に人を作らず…だが、残念な事にオレを作っちまった」
拳を握り締め、レオに向かう。
「天の上も天の下も唯、我を独り尊べ――東雲大河…テメェをぶっ飛ばしに閻魔と喧嘩して現世に来たぜ」
再びニィ――と不敵な笑みを浮かべる。

AM11:00――敷浪センタービル
正面玄関には10人近くの警備装甲兵…。
正面広場にはやはり20人近くの装甲兵が警戒態勢を引いていた。
「――凄い数だな。…やっぱここが敵本部で間違いなさそうだ」
既にレイヴンに変身している夕馬は、正面広場へ500mといった所で様子を伺っていた。
「っと…ここで見ててもどうしようもないか――」
グッと脚に力を込める。
「――行くぜッ!」
ダッと駆け出し、言葉通り正々堂々と正面から突撃をする。
『――全然今までと違う…100%全部伝わってる…って感じだ』
改めて変身して気がついた。
秋華の言う通り、5分を過ぎてもまだ全然動けるし、力の伝達率が今までの非じゃない。
今までは変身すると、多少違和感があり、100%の動きは出来ていなかった。と今になって要約気付いたようだ。
「オラァ――!」
敵前線に飛び蹴りで突っ込む。
『――!敵襲!正面から…Type-Rです!』
一番手前に居たブラックが、無線で言うのが聞こえた。
「――Type-Rじゃねぇ!」
右腕の猛禽類の爪を展開し、頭を掴み持ち上げる。
「レイヴンだ!」
そのまま敵集団に向かって投げつけた。
「よーく覚えておけよ」
投げたまま右手を前に突き出し、装甲をスライドさせる。
「宣戦布告の花火だ――受け取れッ!!ライトニング・ブロウ!!」
再び駆け出し、右手から光を放出しながら突撃する。
派手な音を立て5体のブラックが爆発する。
『ホワイト部隊――撃てェ!』
指揮官と思わしき1体が叫ぶと、上空から一斉に銃弾が飛んできた。
地上以外にも上空にもいたようだ。
「チッ――!」
上空の敵に対する攻撃はライトニングブロウぐらいしかない。
だが、そのライトニングブロウはさっき撃ってしまい、チャージにあと40秒掛かる。
弾丸の雨を潜り抜け、正面玄関に向かうレイヴン。
上空に気を取られていると、左右からブラックが襲ってきた。
「――!」
―ドスッ
腹部に鋭い痛みが走る。
「ぐおっ――」
ブラックの手に持っていたブレードが腹部に深く突き刺さった。
『―死ね!』
ブラックが仕留めたと、気を緩ませた瞬間――レイヴンの目が赤く光った。
「いてぇじゃねぇかコノヤロウ!!!」
猛禽類の爪が左右に居たブラックを殴り飛ばした。
動きを確認し、再び銃弾の雨が降り注ぐ。

だが――

―ダダダダダダダダダ…

先程とは違う方向から聞こえる銃撃音。
「待たせたな!落合!」
ヤタクロウの背に乗ったイグレットが上空の敵に牽制を仕掛けていた。
「チッ――おせぇよ、海人」
ブシュ―と、腹部に刺さったブレードを引き抜き、血を振り払うレイヴン
「愚痴は後で聞いてやるよ!とにかく、コイツを連れて行け!俺がここは引き受ける!中を制圧しろッ!!」
バッとヤタクロウから飛び降り、途中で自らの力で飛ぶイグレット。
「オレにも新兵器があるからな…!」
と大型自動小銃を見せるイグレット
「恩に着る…!こい!ヤタクロウ!」
―イエス・マスター
一気に降りてくるヤタ。その背に飛び乗るレイヴン。
「行けッ!落合ッッッ」
上空から地上部隊に自動小銃で射撃をするイグレット
「突っ込めェェェ!!」
超高速の低空飛行で一気に正面玄関に突っ込んで行った。

AM11:05――Heven's Door前
「オラオラオラオラ!!!!」
赤いスカジャンの男―東雲大河の幻影はレオを圧倒していた。
レオの拳は先程から大河の体にかすりもしない。
特徴的な戦い方。
両手は握らず、第ニ関節までしか曲げない。平拳と言われる拳で相手の攻撃をいなし、弾き、こちらの攻撃は的確に当てているのだ。
レオの拳を左の平拳で受けそのまま手を開いて掴み、引っ張った後、右の掌底で顎の左側を打ち抜く大河。
ぐらん―と、レオの脳が揺れる。体制が崩れた所に再び膝を顎に叩き込む。
一瞬の猛攻に膝をつくレオ。
「どうした?あぁ?さっきまでの威勢は何処いったんだ?聞こえてるかい子猫ちゃん」
膝を着いているレオの真正面に仁王立ちをする大河。
「クッ――てめ…」
大河の問い掛けに前を見たレオのこめかみを蹴り飛ばす。
「元気そうだなァ。…オレはよ…とっくにキレてるんだよ」
倒れたレオに向かい静かな声で言い捨てる大河。
怒りがにじみ出ている。
「何だ?さっきの2択…娘か妻か選ばせてやるだぁ?――テメェは一体何様だ」
大河は懐から取り出した煙草に火を着ける。
「ぐっ…」と声を上げ立ち上がるレオ。
「じゃあオレも煮2択だ…“ボッコボコにされて死ぬ”のと“ギッタギタにされて死ぬ”のどっちがいい?」
ニィ―と再び不敵で邪悪な笑みを浮かべる。
「っざけんじゃねぇぇぇぇ!!このクソ人間!!」
その言葉に激昂し、鋭い爪を立て突撃してくるレオ。
「危ない!!!」
思わず叫ぶ美園。
「危ない?」
くるりと美園に向き、レオに背を向ける大河。
カカトを跳ね上げレオの顎にヒットさせる。
そのまま一回転し、着地と同時に鳩尾を蹴り飛ばす。
「そりゃぁ…相手に言ったのか?優しいなお前」
大河はニッと笑った。

レオが倒れると、付き従っていた多数の装甲兵は一斉に後退した。
すると、大河の体が薄くなり始めた。
「っと…どうやら時間みてぇだな」
自分の腕を見て淡々と言う大河。
「アニキッ!…アニキじゃないですか!!」
右肩を貫かれ、気を失っていた淳が目覚めた時、目の前に居たのは…かつて慕っていた大河であった。
「おぉ…淳坊。老けたな」
ケラケラと笑っている大河。
「そりゃ…20年も経ちましたからね…アニキも息災…ってわけじゃないか…死んでるんだもんな」
肩を抑え、起き上がる淳。
目に涙を溜めている
「確かに…20年前に死んでる人間に息災はねーな」
大河の手が消えかけている事に気がつく淳。
「お嬢の…美園ちゃんの能力ですか…」
まぁ…なと笑う大河。
「っと俺より別れを言いたい人が居るみたいなんで…そっちに逝ったらまた面倒みてくださいね…お元気で」
ペコリと頭を下げると身を翻し、大河の前から立ち去る淳。
「淳坊!…その…なんだ。ありがとうな!これからもアイツ等の事よろしく頼むぜ!」
淳の背中に向かって照れ臭そうに言う大河。
淳の目に溜まった涙は、頬を伝って落ちていった。
「大河!!」
修也を担いで大河に向かってくる雨音。
「…雨音」
大河はバツが悪そうに…懐かしむように、頭を掻いている
「大河…話す事一杯あるんだ…!もう煙草だって平気になったんだよ!?修也がね…修也があの戦いから煙草を吸うようになったの!」
雨音が少女の様な口振りで話す。事実この時の雨音は少女に…あの頃に戻っていた。
「…」
沈黙で応える大河。
「修也はね…『アイツが好きだった物は俺がアイツの分も楽しむ…俺の中にいるアイツの為にも…』とか言いながら煙草を吸うし、お酒も飲むし…」
涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。
「でもね…。修也は修也なんだよ。大河じゃないんだよ…。だから…だから…帰ってきてよ…帰ってきて…大河…」
泣き崩れる雨音。
泣き崩れた雨音にしゃがみこみ、消えかけた手で頭を撫でる。
「ばっかだなぁ…」
優しい声で囁くように、慈しむ様に大河が続ける。
「俺の願いは修也と雨音の幸せだぜ?俺は安心したんだよ。…こんな別嬪な娘が居て、いい具合におっさんになってる修也と、華やかになった雨音が居て…」
ポンっと頭を優しく叩き、立ち上がる。
「幸せだろ?」
その問い掛けに、雨音は顔をガバッと上げ、頷きで応える。
「なら、先に逝って待ってるよ。…美園の花嫁姿をみて、孫を抱いて、ヨッボヨボの爺さん婆さんになって。時期が着たら…時期が着たらまた三人で暮らそうぜ」
ニッと笑う。
「あの頃みてぇにさ」
大河は修也の顔を見る。
「…修也。後は頼んだぜ」
修也は顔だけ上げ大河を見る。
「最期の言葉と同じ事を今言うな…バカヤロウが」
修也の目にも涙が溢れている。
「泣くなよバーカ!」
と手を差し出す。
「泣いてねぇよバーカ!さっさと逝け!雨音泣かすな!バーカ!」
差し出された手をパァンと叩く。
「…またな!」
最後の最後までニィっと不敵な笑みを浮かべ、大河は中空に消えた。

AM11:05――敷浪センタービル内部
最上階に向かい進撃する2つの影。
戦闘支援用飛行ユニット「ヤタクロウ」
近接戦闘特化型改造人間「レイヴン」
内部での戦闘は激化していたが、突入の際入手したブレードと、ヤタのフォローで行く手を阻む者は何一つとしていなかった。
通った後には白い装甲兵の骸と黒い装甲兵の残骸しか残らなかった。
―マスター、そこの階段で上に行けます!
ヤタが前方の階段を促した。
「オーケイ。あと何階昇れば芦田に辿り着く!?」
―およそ3階上に人間の生体反応があります。恐らくそれが芦田かと…。
ピピっとセンサーの音がした後にヤタクロウがそう応じた。
「一気に行くぞ!」
―サー!
まるで紙屑の様に、まるで塵の様に、白装甲と黒装甲を蹴散らし階段を駆け上っていった。

「―っと…ここは…?」
2つ階を進み、広い空間に出る。
どうやら何かの展示場の様な雰囲気を醸している。
恐らく車等の展示場として使われていたであろう空間。
「ヤタ!上に行くには!?」
見回してみたが階段が見当たらず、レイヴンはヤタに尋ねた。
―現在、建物のマップを参照しています…参照終了。200mほど先にエレベータがあります。それを利用しないと最上階には行けません。
電子音声の声がする。
ヤタが言い終わるか終わらないかの時にレイヴンは走り出していた。
―マスター上です!
「!?」
ヤタの声に反応し、一瞬で身を翻すレイヴン。
今までレイヴンが居た位置に矢のような、槍のような物が突き刺さった。
「これ以上先に進ませる訳にはいかない」
上空に居たのはワシの様な顔をしている改造人間だった。
「我が名はイーグル。第弐世代型改造人間、イーグルである」
腕を組み、上空で羽ばたいている。
「チッ――急いでるんだ。道を譲ってもらう訳にはいかねぇか?」
宙に浮く敵に向かって言い放つレイヴン。
「愚問。芦田様の元に行かせる訳にはいかん…」
音も無く、レイヴンの背後に回る。
「――!」
気配を感じ、振り向くが既に其処に敵の姿は無い。
「これで分かっただろう?戦う等と言う意識は持たない方が懸命だ。私は超高速で移動・飛行が可能だ。君は私の姿を追うことさえ出来ない」
何処からとも無く声が聞こえる。
「チッ――!出てこい!かくれんぼする趣味はねぇんだよ!」
何処にいるか分からない敵に叫ぶ。
「悪いが、そうもいかない。…ここで死ねとは言わんよ。ここで立ち去ってくれないかね?」
右上空から声が聞こえる。
その位置に反応し、ヤタが飛び掛る。
―発見しました。
キュン――と、交差する音がする。
「やりますね…だが、軽い」
当たりはしたが、かすり傷を負わせる事さえ出来なかった。
―マスター。ヤツの戦闘速度は私と同等です。
落ち着いた、電子音声だから落ち着いているのは当たり前なのだが、とにかく落ち着いた声でクロウは言った。
「みてぇだな…っと」
またも矢の様な、槍の様な物がレイヴンの居た位置に突き刺さった。
「諦めて引きなさい。君では私を倒すことは出来ない」
すぅ…と降下してくるイーグル。
「そうもいかねぇんだわ。…悪いけど、抗わせてもらうぜ!」
一瞬で距離を詰める夕馬。
その歩法は、前に碧羽がやって見せた瞬撃の型・軍鶏≪シャモ≫だった。
稽古の時とは桁違いのスピード。
それもそのはずだ。改造人間としての能力をフルに使っている。
だが――
両の拳は空を切った。
「シッ!」
一瞬の隙を付いて、イーグルの右拳がレイヴンの腹に突き刺さる。
吹き飛ばされ、片膝を着くレイヴン。
「ぐっ――この男…強い」
顔を上げ、イーグルを睨み付ける。
「無駄――と言ったであろう」
悠々と1m程度の高さで羽ばたいているイーグル。
虎の子のライトニング・ブロウはこの距離で撃っても意味が無いだろう。
それにライトニング・ブロウは密着させてはじめて本来の威力が出る。
下手に放出で使うのは隙を作るだけだ。
レイヴンが逡巡している間に、イーグルは矢の様な、槍の様な物を投げつけてきた。
それを間一髪で避け、少し距離を取る。
どんなに逡巡しようとも、近付かなければ倒せないと言う結論に達する。
突進からの軍鶏はあっさりと避けられた。
あと思い付くのは…ヤタの背に乗っての突進。
「ヤタッ!」
―不可能です。
ヤタは心を読んだように、言った。
―私の背に乗っての高速飛行では…ヤツの動きを捉える事は不可能です。ですが…。
ヤタは勿体つける様に続ける。
―ユニオンすれば…或いは。
「ユニオン…?」
聞き慣れない言葉に困惑し、尋ねるレイヴン。
そこに再び、イーグルは矢の様な、槍の様な物を投げつけてくる。
「チッ――」
避ける時にヤタと分断されてしまう。
「お見事です。私のフェザーランスをこんなにも避けたのは君が初めてですよ」
喝采を送るように、仰々しくイーグルは言う。
「ですが…引いて頂けないようでしたら、そろそろ終わりにしましょう」
今度は二本のフェザーランスを取り出す。
流石のレイヴンも戦慄を覚える。
(一本だってギリだったのに…二本かよ…)
こいつぁヤベェな…とボソリと呟き、唾を飲み込む。
―マスター、ユニオンの許可を…
いつの間にか隣に来ていたヤタが内部通信で直接言ってきた。
「何だってんだよ!ユニオンてのは――」
イーグルが投射体制に入る。
―説明している余裕は無いようです。すれば分かります。マスター…私を信じてください。
直接回線でヤタが言う。
「だぁぁぁぁぁぁっ!信じる!許可だ!なんとかできるんだろうな!」
―了解。ユニオン許可。ユニオンフェイズに入ります。マスター、ベルトの光っていない部分を強く押してください。
はぁ!?と言いながら、光っていない部分を押し込むレイヴン。

―Standing by―

ベルトとヤタから同時に電子音声が流れる。
すると――
ヤタのボディー部分がバラバラになる。
二本の脚は、レイヴンの脚に――
真ん中の脚は、レイヴンの左腕に――
胴の部分は、レイヴンの肩に――
顔面は分離し、レイヴン頭と胸に――
背中の飛行ユニットはレイヴンの背中に――
それぞれ――合体した。

―Union Complet―

ぼう――と、胸のセンサーアイとレイヴンのセンサーアイが赤く光った。
―マスター、これならヤツと同等の速度で動けます。
ヤタの内部通信が終わるか終わらないかの時に、フェザーランスが射出された。
「チィッ――」
グッと力を込めると、爆発的な加速でイーグルとの間を詰める。
一本目のフェザーランスは後の壁に突き刺さった。
「何ィっ!!」
身の危険を察知し投げると同時に宙に逃げるイーグル。
「甘いッ!」
突進のまま宙に舞うレイヴン。
そのまま、空中で右腕の装甲をスライドさせ、猛禽類の爪を展開させる。
「これで…終わりだぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
がばっと開き、イーグルの腹部に右手の猛禽類の爪を密着させる。
「ブレイジング…」
コォォォォォォッと赤熱化する猛禽類の爪。
「クロォォォォォォッ!!!!!」
密着のまま、腕を振り上げ、腹を貫通させる。
「ぐはッ――」
レイヴンは貫いたまま手を握る。
「フィニッシュ…ヒィィィィト!!!」
ごうッと音を立て――
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
イーグルの体は爆発した。
「これが――」
スタッと床に着地するレイヴン。
いや、レイヴン・ヤタ。
「――新しい力。…悪くない」
ぐっと拳を握り締め、エレベーターホールへと向かった。

エレベーターは当たり前のように止まっていた。
ドアをブチ破り、本来エレベーターが通る縦穴を上昇するレイヴン・ヤタ。
少し飛ぶと、行き止まりに着く。
つまり、最上階――芦田がいる部屋である。
再び勢いよくドアをブチ破ると…そこには

誰も居なかった。

「逃げられた!?」
ヤタになると、活動時間が短くなるのか、レイヴンは変身を解除し辺りを見回した。
正面に大きなモニターが見える。そのモニターが―ヴン―と音を立て映し出された。
『よくぞ、ここまで着た。だが残念ながら惜しかったねェ…君の大好きな店の方角を見てみるといい』
モニターには芦田が写っていた。
嫌な予感を抑えながら、夕馬はHeven's Doorの方角を見た。
『5...4...3...2...1...』
モニターからイライラするようなカウントダウンが聞こえる。
『ぜぇろ』
0の掛け声と共に…Heven's Doorの方角が爆発した。
「貴様ッ!!」
バッとモニターを向くが、其処には何も写っていない。
チッ――と、舌打ちをし、窓から飛び降りる。
―ガシャン
地上40階の最上階の部屋からダイブする。
ダイブしながら、再びレイヴンに変身し、レイヴン・ヤタに合体した。
地上20階に差し掛かった辺りで、水平に保つ。
5メートル下ではイグレットが戦っている。
「海人!」
手にしたブレイドで次々と群がってくるホワイトを蹴散らした。
「おせーよ!バカ!」
背中合わせでイグレットが悪態をつく
「ヘッ――ヒーローは遅れて登場するもんなんだよ」
レイヴンも負けじとイグレットに向かい悪態を付く。
「とにかく…Heven's Doorに向かうぞ!付いてこれるか!?」
チラッとイグレットを一瞥する。
「誰に向かって言ってるんだ?」
イグレットもよく見ると背中の形状が少し変わっている。
レイヴンほどではないが、多少なり再改造されているのか、背後のノズルの形状が変わっていた。
「お前の方こそ…置いてけぼり食らうなよ!?」
キュン――と、音をたてて、イグレット・改とレイヴン・ヤタはHeven's Doorに向かっていった。
「死んでんじゃ…ねぇぞ!!!」
願う様に、祈る様に、マスクの向こうで叫んだ。


次回予告

―新たな力を得た、夕馬。
「知っているかね?落合君…」
―悪夢はまだ終わらない。
「――!バカなッ!そんなバカな!!」
―戦士に休息は訪れるのだろうか?

次回 【 決 戦 】

「やっぱり…ダメ…か」
「キリないねぇ…」
ギリっと奥歯を噛み締め、碧羽は黒い装甲の戦士を相手にしていた。
もう何体葬ったことだろうか――
碧羽の額には汗がにじんでいる。
だが「ここを持ち応えるのは私の使命…」と言い聞かせ、自身を奮わせていた。
一瞬の隙を付いて、黒い装甲の戦士が詰め寄ってくる。
「チッ――石神流古武術・斬撃の型…隼!」
手刀が煌くと、装甲ごと戦士は叩き斬られ絶命した。
「早く…早くしろ!夕馬!」
碧羽は敷浪センタービルに向かって叫んだ。

第7話 【 信頼 】

前日――AM 2:00
「夕馬さん!これ見てください」
香が自分のモバイルパソコンを夕馬に見せている。
「さっき…“とある研究所”をハックしたんです。芦田雄介の研究所を」
芦田の名前に文字通り目の色を変える夕馬。
「なんだ…?なんだこれは!!」
モバイルパソコンに映された映像は――
300人を超えるレイヴンとイグレットの姿だった――
細かい箇所は違うが、おおよそTypeシリーズと同じだった。
大まかな違いと言えばツインアイかゴーグルか…その程度だが、恐らく夕馬の血液サンプルを使って作られた量産型であろう。
「これ以外にも色々な情報を掴みました。…その中で一番苦労したのが――これです」
と画面を切り替える香。
心なしか青ざめている。
「―Type-φ…?」
仕様書の様なモノが画面に写っていた。
「超近接型強化外装…第四世代型――第四世代型だと!?」
コクリと頷く香。
「芦田は――第四世代型の開発に成功したんだと思います…」
「…」
黙ってしまう夕馬。
第四世代型の開発に成功…。それは即ち…自分の血が使われたからであろうと予想していたからだ。
「ちょっと見せて」
ずいっと夕馬の前に入る秋華。
シゲシゲと仕様書を見つめる秋華。
「んー。これ違うよ?アイ君の遺伝子は使ってない」
不安を読み取ったのか、秋華はにぱっと夕馬に笑いかけた。
「秋華…」
申し訳なさそうに秋華を見つめる夕馬。
「と、とにかくさ!」
秋華と夕馬の間に入る美園。
「ここで不安がってたって仕方ないんじゃない?」
「うのあ」と変な声をだして押しのけられる秋華。
「そうね…。直ぐにどうにかなるって訳じゃなさそうだし、ひとまず皆休みましょう」
雨音は落ち着いた雰囲気で言い。
その一言で全員が落ち着きを取り戻し、各自部屋に戻った。
一応纏まっておこうと言う修也の提案で、全員が芳田家に当分泊まる事になった。

だが――
雨音の思いとは裏腹に――
運命の歯車は加速する――

翌日――AM8:00
殆ど寝れていない全員がリビングに揃った。
雨音が朝食を用意してくれていて、修也はテレビを見ながらモーニングコーヒーと洒落込んでいた。
いつもの朝のニュース番組を見ていると、突然テレビ画面にノイズが走る。
「なんだ…?」
全員が怪訝な顔でテレビを見る。
「――ガガッ。ザ――」
と不快な音を立てるテレビ。
次の瞬間、テレビの画面が切り替わった。
「――おはよう。敷浪の諸君…。私は芦田…芦田雄介だ」
テレビに映ったのは…ボサボサ頭に無精髭の科学者――芦田だった。
「なにっ!!」
夕馬はテレビに駆け寄り、香はモバイルパソコンの電源を入れ、物凄い速さでキーボードを打ち始めた。
「喜びたまえ…。敷浪町は実験地に選ばれた!」
テレビの向こうで芦田は不気味な笑顔を浮かべている。
「崇高な実験さ。これより、敷浪町を舞台とした市街戦実験を行う。
 今より“とある者ども”がそちらにお邪魔する。…諸君は――何もせずともよい」
にたぁと笑う芦田。
「“何もせずに殺される”だけでよい…。優秀な頭脳の持ち主は生かしておこう。生かして私の実験に役立ってもらおう!」
高らかに笑いながら続ける芦田。
「抵抗したい者は抵抗するがよい!どちらにせよ――諸君等の運命はもう決まっている!――死だ」
そこで映像は元のニュース映像に戻った。
「――ッ!」
リビングから飛び出そうとする夕馬。
「待ちな!」
飛び出そうとする夕馬に向かい一喝する碧羽。
「何処に行く気だ?敵の勢力も分からず、敵の位置も分からず、敵の正体も不明のまま――何処に行こうってんだい?」
動揺する美園や、一心不乱にキーボードを叩いている秋華、香と違い碧羽は一人落ち着いていた。
「――だけど!」
「落ち着け!夕馬!」
修也も碧羽と共に夕馬を見た。
「今、その情報を香と秋華が調べている。その結果次第でも大丈夫だ。敷浪はそんなヤワな街じゃない!」
くっ――と言葉を失い、ソファに座る夕馬。
「そ…そんな!!」
ガタッと音を立て香が椅子から立ち上がった。
「敷浪に…ココに…高速で接近する影があります…」
へたっと椅子に座り、香が続けた。
「その数――200」

絶望的な数字を叩き付けられたが、直後の秋華の発言により、多少は絶望感が薄れた。
「特殊な波長の電磁波を流そう、それを使えば指揮系統が乱れるはず!
 その内にカオッチと私で敵本部を探し出す!うおー!やらせんぞー!」
恵一と香、秋華の三人は地下室に篭った。
――AM8:30
丁度謎の影が敷浪上空に到着した頃に、敷浪全体に特殊電磁波が流れた。
秋華曰く――「これで30分は稼げるはず!」だそうだ。
事実、上空にきて15分経った今でも何も起きていない。
「30分で本部を探し出すって――可能なのか?」
夕馬が心配そうに頭脳派組の3人を見る。
「愚問ですねぇ――」
恵一がため息を漏らす
「僕のコンピュータを使ったカオッチは――」
秋華が続けた
「ほとんどさいきょーだよ!」
にっと笑いブイサインを作る秋華
「――戦う事は夕馬さんたちに任せます。私は私のやれる事をやります。無能は無能らしく――待っててください」
香は夕馬の方を一瞥し、また一心不乱にキーボードを打ち始めた

――AM9:00
カタカタとキーボードの叩く音が部屋に響く。
「ううう…ヤバイヤバイ!ケイさん!散布パターン変更!」
「オーケイ。αからβに変更」
特殊電磁波の散布パターンを変えて、また変えてと動き始めたのが10分ほど前。
どうやらパターン解析され、徐々に指揮系統が回復し始めているようだ。
「ぬお!また!βからγ!」
秋華が解析し、恵一が実行する。
6回目のパターン変更をした頃――沈黙を守っていた香が口を開いた。
「分かりました!敷浪センタービルを本部としているみたいです!」
ぷはっと息を盛大に吐き出し、香は汗だくになっていた。
無言で、全感覚を遮断し物凄い量の情報を捌いたのだろう。
心なしか息も切れている。
「敷浪センタービル!?よし、直ぐに行って――」
「まった!アイ君!!」
言いかけて夕馬は秋華に止められた
「今度はなんだ!?」
切羽詰りすぎて若干イライラし始めている夕馬に秋華はニカっと笑った
「とりあえずこれ飲んで落ち着いて!あと――この子連れて行って!」
ペットボトルに入った水を渡し、秋華はコンテナを取り出す。
「落ち着いて居られる状――」
「いいから飲んで!」
いつに無く真剣な表情になる秋華。
「まぁ…落ち着きましょう。アキはあーなったらテコでも動きませんよ」
と恵一が耳打ちをする。
「チッ――」
ごくりと水を飲む夕馬。
その様子を見てから秋華がコンテナを開いた。
中に入っているのは――機械で出来た鳥だった。
「この子は――クロウ。ブルーバードに搭載されるはずだった小型ナビロボなんだけど…それを戦闘用ナビロボに書き換えたの」
そう言いながら秋華はいつものゴーグルとツールを使い、クロウを操作する。
「今のアイ君は300秒しか体がもたない。でもこの子が居ればその300秒を有効に使う事が出来るはず――」
ブオンと言う音と共にクロウが起動する
「お願い。無茶しないで…アイ君は僕のお兄さんなんだから!」
ぐっと真っ直ぐな目で見つめられる。
秋華に歩み寄り、クロウを受け取る夕馬。
「秋華…。わーってるよ!無茶なんかしねーさ」
くしゃっと頭を撫で、ドアに向かった。
「夕馬――!」
ぎゅっと後から抱きつく美園。
「死なないでね!絶対死なないでね!」
美園はうっすらと涙を浮かべ必死に訴える。
「大丈夫――俺は死なない。死なないさ」
にっと笑い、美園の頭も撫でる。
「姉ちゃん――!ここは任せた!」
コクリと頷き、右手を上げる
「誰にものを言ってるんだい?」
夕馬はパァンとハイタッチをし「いってくる」と外に駆け出した。

夕馬が部屋を出た直後――
秋華はコンソールを操作し始めた。
「アキちゃん?」
美園が秋華に駆け寄る
「ソノちゃん…。話す事があるの――このタイミングで言うのもなんだけど…ソノちゃんの能力。分かったんだ」
コンソールの操作をしながら秋華は話し始めた。
「――え?」
予想外の発言に驚く美園。
「多分…いや、殆ど確実だと思うんだけど――ソノちゃんの能力は“所有者の残留思念を発動させる能力”で間違いないと思うんだ」
かちゃかちゃとキーボードを叩く秋華
「発動条件は“触れる”もしくは“装着する”」
チラリとテーブルの上にあるヘアピンに視線を移す。
「残留思念の発動…?」
「時間が無いから分かりやすく言うよ?“異能力者の異能を発動させる能力”…名付けて“天使≪アンジェラ≫”」
秋華は美園を見てニコッと笑う
「まぁ、前回みたいな場合じゃないとそうそう発動しない能力だから――不安になる必要は無いよ?ダブル不安は心に毒だかんね!」
そう、美園は自分の能力に不安を覚えていた。
人を傷付ける能力だったらどうしよう――と。
さらに今回の事件で心身ともに疲れていた。
「アキちゃん…」
ポロポロと泣き出す美園。
「――ありがとう」

敷浪センタービルに向かう道は予想外に人が居なかった。
恐らく殆どの人がこの1時間で逃げ出したか、隠れたのだろう。
「これなら――10分もかからずに行けるッ!」
Heven'sDoorが2丁目。敷浪センタービルが5丁目にある。
直線距離にして10km程だ。
改造され、身体能力が跳ね上がっている夕馬にとってみればたいした距離ではなかった。
――邪魔さえ入らなければ。
その時、ごうっと言う音と共に黒い装甲の戦士が10人程度“降ってきた”。
「アイ君!気をつけて!!特殊電磁波が突破された!!」
ほぼ同時にクロウから秋華の声が聞こえた。
「秋華。…ダンスの相手が来たみたいだ――クロウ!通信カット!」
―了解。通信をカットします。
「にゃ!ま――」と秋華の声はそこで消えた。

―realization

「一瞬だ――急いでいるんでね!」
ベルトを装着し、八の字を描く。
「変身…ッ!!」

―transformation

―Combat Mode
ベルトと別に音声が流れる。
クロウの羽根が紅く熱を持っている。
―これより戦闘支援を行います。

キュンと言う音と共にクロウは敵に突撃した。

一閃――

瞬間で3体の黒装甲の戦士を撃破した。
夕馬も右手の爪で2体撃破していた。

その様子を見て怖気づいたのか、黒装甲は後退を始めた。
「待てッ――」と追撃しようとする夕馬に通信が入った。
―マスター、追撃は不要です。無駄なエネルギーをロストします。センタービルに向かいましょう。
冷静な判断だった。
夕馬は一瞬躊躇ったが、300秒と言う変身時間制限がある以上無駄な力は使うわけにいかないと判断し、変身を解除し再びセンタービルに向かって走り出した。
センタービルまで――およそ9km

戦闘が始まる前から既に戦々恐々としている場所が敷浪にはあった。
――芹沢診療所。AM9:00
避難しようとして負傷した。と言う患者が続々と運ばれていた。
それ以外にも命令無視で動いていた黒装甲にやられたと言う者も何人かいた。
運ばれてくるのは、極道や浮浪者が大半であった。
「全く、なんなんだ!?」
空を見上げ、上空を旋回している白装甲を睨み付ける瑠璃。
白装甲は黒装甲を抱えている。
二人一組で動いている様だ。
すると上空を旋回していた3組の装甲兵が診療所に向かって急降下してきた。
屋根に当たる寸前に白装甲は急上昇し、黒装甲のみを落下させた。

――ドォン

激しい爆発音と共に診療所に墜落する3体の黒装甲。
ボウっとゴーグルを光らせ、周囲を見回す。
『これより、殲滅行動を開始する』
マスクの中から篭った声が聞こえる。
「ぐァ――」とか「いてぇ――」と言う声がそこら中から聞こえる。
最初の墜落攻撃で芹沢診療所は約半数の患者が息絶えた。
「なんなんだ――あんたらは!!」
―バン
瑠璃が机から拳銃を取り出し、黒装甲相手に発砲する。
キュンと言う音と共に発射された銃弾は地面に落ちた。
『…排除開始』
ゆらりと瑠璃の方を向き、ゆっくりと、狩りを楽しむように黒装甲は近寄ってくる。
(助けて…樹さんッ!)
瑠璃は目を瞑り、昔の恋人に助けを求めた。
その瞬間――彼女は少女に戻っていた。
―ドォン
激しい炸裂音がする。
―ドォン ドォン
さらに二発。
「ぐお――」と呻き声が聞こえたかと思うと3つの倒れる音がした。
「大丈夫ですか――瑠璃さん」
目を開けると黒装甲が3人倒れていた。
そして――炸裂音の方向を見ると白いスーツに銜え煙草の男が大型拳銃を構えていた。
「叔父貴には連絡してあります。急いで叔父貴のところへ向かってください――」
ふーっと煙を吐き出し、懐に拳銃をしまう男。
「ここいら一帯は――俺らがケツ持ちますんで――」
白スーツの男の後ろから、屈強な極道と思わしき男達が重火器を持って入ってきた。
「ありがとう――無事で」
白スーツに頭を下げ、玄関に向かう。
「姐さんを叔父貴の場所まで送って差し上げろ!テメェら――敷浪の意地見せるぞ!」
白スーツが激を飛ばすと、周りの男達が「おぉう!」と気合を入れた。
「さぁって――Show Timeだ」
にぃ…と笑い白スーツの男は芹沢診療所を後にした。

同刻――Heven's Door 
「頼んだぞ――圭太。敷浪を無事脱出した人たちを随時非難させてくれ!」
電話に向かっている修也。
今朝の映像の直後から修也は片っ端から昔の仲間に連絡を入れていた。
【蜂蜜狩り】には情報錯乱を頼んである。
少しでも時間稼ぎになれば――と。
今電話している相手も元異能である壬園圭太であった。
『俺も向かえればいいんですが――』
と電話先で圭太は申し訳なさそうにしている。
「いや、大丈夫だ。寧ろ外の事を任せられるだけで充分だ。よろしく頼む」
そう言って電話を切った。
「クソ――こんな時いつも思うよ。…こんな時に――“アイツ”がいたら――って」
悔しそうに、口惜しそうに修也がこぼした。
「修也――。いくら望んでも“あの人”は帰ってきてくれない。…私たちがしっかりしなきゃ――」
ポンと修也の肩を叩き、宥める様に雨音が言った。
「…分かってる。こんな事で音を上げてたら空の上からアイツが言いそうだよ――」
ぐっと前を見る修也
「なにやってんだよ修也!!男は黙って行動だ!道は俺の後に出来る!――てな」
ふふふと二人は微笑みを交わした。
「しゅーパパ!雨音ママ!大変だ!すぐ地下室に来て!」
と秋華が階段の下から大騒ぎしている。
「どうした!?すぐ行く!待ってろ!!」
階段下に向かって叫ぶ修也。
一緒に階段を下りる雨音。
修也の背中を追いながら『大河――修也は強くなった…貴方のお陰ね――ありがとう』と雨音は亡き友に感謝していた。
その手には無骨な鎖のブレスレットを大事に握りしめながら――。

AM9:15――Cafe「Do:Do」前 
芹沢診療所の向かいのカフェの前で白いコートを着た男が佇んでいた。
「クソッ――なんだってんだ」
上空を飛び交う20近くの機影を見ながら毒づいた。
放送はいつものカフェで見ていた。
すぐに出ようとしたが、店内は混乱に包まれていた。
落ち着いたのは放送から1時間経った頃――つまりやっと落ち着いたのだ。
外に出て上空を旋回しているモノを見て驚いた。
「白と――黒?」
まるで“オレと落合みたいじゃないか”と驚いた
「――ッ!!」
突然、旋回していた機影が地上に向かって急降下してきた。
幸いにも付近に人影は見当たらない。
「チッ――」と舌打ちをしながらドライバーを腰に当てる。

―realization

「明らかに敵意持ってやがる――」
胸の前で腕を交差させ、その後に腰まで降ろした

―transformation phase

ドライバーから電子音声が流れ、ベルトが発光した。
「変身!」

―transformation

白い装甲の戦士――イグレットに変身をする海人。
「さっさと終わらせて…落合に合流する必要があるな」
チャキ――と、右手にハンドガンを構える。
派手な炸裂音がし、一体が地に堕ちた。
同時に背中のブースターを唸らせ空に舞った。
「悪いが――急いでるんでね」
超高速で空に舞い、一瞬で背後を取り――白装甲のブースターに2発。更にその隣に併走していた別の白装甲の頭に1発。
ドォン――と、派手な音を立て最初の一体が爆発した。
隣を飛んでいた白装甲もがくんと地面に墜落していく。
「2つ――3つ!」
くるりと反転し、背後から狙っていた白装甲に2発――全く同じ所に2発放った。
「がふっ――」と声がしたかと思うとまたも糸の切れた凧の様に地面に堕ちていった。
別の方向からマシンガンを乱射しながら突っ込んでくる白装甲が2体。
「チッ――」
軽く舌打ちをし、ローリングで避けるイグレット。
ローリングしながら、左腕の装甲をスライドさせ――レールガンを起動させる。
「―――」
キューンと甲高い音を立て、左腕のレールにプラズマが走る
丁度射線上に2体重なった瞬間を狙い、手首のスイッチを押す
「――シュート!!!」
パァン――と、音速を超える音と共にプラズマで加速された弾丸が2体を貫いた。
『撤退する――オリジナルと遭遇した。撤退する』
別方向の白装甲がマスク越しの篭った声で言うと、一斉に15機が後退した。
フンと鼻で笑い、地面に向かって降下した。
すると――着地する寸前にマスクの先を銃弾が掠めた。
「なっ――!」
発射元に視線を移動すると其処には白いスーツの男と屈強な男が居た。
「人間体でもまぎれていたのか――ッ!!」
だが、時間がない――さっきの戦闘で使ったのがおよそ150秒。
あと半分で――変身は解除されてしまう。
と、言うよりも解除しなくてはならない。
「逃げるしかないか…」
後退しようとしたが、背中を見せた瞬間に撃たれる。そういう確信があった。
「兄さん――動くんじゃあないぜ」
白スーツの男が口を開いた。
「手ェ上げな――」
ゆっくりと、脅すような口調でイグレットに近付く。
「くっ――」
そうこうしている間に時間は流れる。
残り――1分45秒。
関節が放電を始めた。
「――?兄さん…ヤツ等の仲間じゃあないのか?」
放電と微妙に違う装甲に違和感を覚えたのか、白スーツの男は銃を下げた。

―Release

電子音声と共に光に包まれ、白コートの姿に戻る海人。
「貴方も…グランツではないみたいですね」
真っ直ぐに目を見る。
「…信用できる目だ――ちょいと暗い過去持ってるみたいだがな」
とスーツの男はサングラスを外す。
年齢は30代半ばと言ったところだろう。
「兄さん――疑って悪かったな。コイツは詫び代わりだ」
と白い銃身の拳銃を渡してくる。
「――いいんですか?撃つかもしれませんよ」
と警戒しながらも拳銃を受け取る海人
「撃ちてぇなら撃てばいいさ――まぁ」
懐から煙草を取り出すと後にいた男が火をつける
「白い服を着こなすヤツに悪いヤツァ――いねぇ」
と煙草を燻らし、くるりと背中を向け「気ィつけろよ兄さん」と4丁目――Heven'sDoorの方に向かって歩いていった。
「とにかく、落合と合流する――しかないか」
懐から煙草を取り出し、火を着ける海人。
「あの熱血馬鹿は何処に居るんだ――」
吐いた煙は――すぅ…と空に消えた。

AM9:30――Heven'sDoor地下室 
「にゃ!待って!待って!待って!だぁぁぁぁぁぁ!!」
交戦状態に入ったらしく無線をカットされてしまった。
「んにゃー!!勝手だなぁ!」
秋華は少し怒った風に通信用のマイクを置く。
――ビーッ! ビーッ!
けたたましくアラート音が鳴った。
「特殊電磁は完全に無効化されましたよ!」
モニターを見ていた恵一が秋華に目をやる。
「んー。とりあえずは時間稼ぎになったかな。…うおっし!次の手を打とう!」
香に目をやる秋華。
「かおっち、ハッキングされないようにモニターしてて!僕よりかおっちの方が分かると思うんだ!」
コクリと頷く香。
「ケイさん!“例のアレ”準備進めよう!」
同じく頷く恵一。
「うおっし!“アレ”を何とかできれば戦況は直ぐに変わるはず――組み立てるだけなんだ。…あとは組み立てるだけなんだ」
がこ――と、ゴーグルを被りなにやら作業を始める秋華。
5分程度の時間が過ぎる――。
―ビーッ! ビーッ!
またもけたたましくアラートが鳴り出す。
「――!そんな…!」
キーボードを叩く速度が上がる香。
「どしたの!?」
作業を一時中断して香の方を見る秋華
「ハッキングされてる!?…クッ――」
真剣な眼差しになる香。
がばっと自分のコンピュータに向かう秋華。
「デコイ(囮)プログラムを流すよ!あとウォールも!」
カタカタッとキーボードを叩く音が部屋にこだまする。
「了解です!こっちでも進行を抑えてます!」
二人とも真剣な眼差しでコンピューターに向かう。
「なんなの――」
「このハッカー」

「「凄腕過ぎる!!」」

秋華のデコイにも反応せず。
香の防衛にも全く動じず。
物凄い速度で進行してくる招かざる客。
「ダメ――突破される!!」
香と秋華の必死の抵抗も虚しく15分で進入されてしまった。
ディスプレイに文章が打ち出される。
「見事なかく乱と――褒めておこう。芦田雄介」
それだけ残し、侵入者は綺麗に消えた。
データを壊すわけでもなく、何かを持ち帰るわけでもなく、ただそれだけを言いにきた。と言った感じだった。
秋華、香の完全な敗北だった。
「く…」と、心から悔しそうに言葉に詰まる香。
「…馬鹿にしてるなぁ――ぎゃふんといわせちゃおう!」
秋華も悔しいだろう――拳は硬く握られていた。
コクリと頷き、再び持ち場に戻る香。
「今度は――こんなみっともない姿は晒しません」
ぎゅっと唇を結んだ香の目は死んでいなかった。

事態が急変するのはこの事件の10分後だった――

「敵影がこちらに向かってきています!その数…20!」
静寂を切り開いたのは恵一だった。
何かの準備を終わらせ、後は秋華の最終チェックとの事なので、レーダーの確認をしていた恵一は異変に気がついた。
敵が明らかにこちらに向かっているのだ。
恐らくハッキングした際に位置情報を掴まれたのだろう。
「――!!」
その場にいた全員に戦慄が走った。
それもその筈である、今この場で戦えるのは碧羽のみ。
いくら碧羽が地上最強と言われていようと、20もの敵を同時に相手するのは厳しいだろう。
「それと車両が1両。芹沢診療所から向かってきています!その車両も8体から襲撃を受けているみたいです!」
瑠璃がこちらに向かってきている。と見て正しいだろう。
「と、とにかく!しゅーパパと雨音ママも地下に来てもらおう!呼んでくる!」
急ぎ二階にいる二人を呼びに行く秋華。
「瑠璃さん…!」
戦々恐々としていた為、美園が外に出た事に気がついたのは誰も居なかった――。

Heven's Door前――9:45
走るのがやっとといった風のセダンが着いたのと美園が外に出たのはほぼ同時だった。
「瑠璃さんッ!!」
駆け寄りほぼ壊れているドアを開けると、頭から血を流している瑠璃が居た。
運転席の男も怪我をしている。
セダンが止まるのと同時に空から4体の白装甲。地上にも4体の黒装甲が駆けて来た。
「美園ちゃん…?逃げなさい…」
私は大丈夫だから――と力なく言う瑠璃。
そうしている間にも装甲兵達はジリジリと距離を縮めてきている。
「な…何言ってるんですか!酷い怪我…。一緒に逃げますよ!」
瑠璃の肩を持ち、車から降ろし店内に向かう。
「パパなら…、パパなら何とかしてくれます!」
そう言った直後。
目の前に白装甲が降りてきた。
いつの間にか、周りを取り囲まれていたのだ。
「クッ…。アタシの異能が在れば――美園だけでも逃がせたのに…」
悔しそうに、口惜しそうに、瑠璃は自分を呪った。
それでもジリジリと距離を詰めてくる。
女と子供なので、ゆっくりとじっくりと殺すつもりなのだろうか。銃器の類は一切使ってこなかった。
「――!」
その時、美園の頭にある言葉が浮かんだ。
『――ソノちゃんの能力は“所有者の残留思念を発動させる能力”で間違いないと思うんだ』
今朝の秋華の言葉。
『発動条件は“触れる”もしくは“装着する”』
チラリと瑠璃に目をやると、ペンダントを着けている。
――いける!
美園は決心した。
「瑠璃さん!ペンダント借ります!今から――【無垢なる姫君】を――発動させます!」
ペンダントトップを握り、集中する美園。
「――!」
瑠璃は一瞬困惑したが全て理解した。
美園は“異能だ”と理解した。
「≪擬似・無垢なる姫君(シンデレラ・ドライブ)≫――!」
ペンダントトップから光が溢れ、次の瞬間に粉塵が――どこからともなく粉塵が発生した。
「なっ――馬鹿ッ!!!!」
「えっ――!?」
がばッ――と、美園の体を自身の体で覆う瑠璃。
自分の能力だからこそ、知っていた。
自分の能力だからこそ、理解していた。
次の瞬間――粉塵が大爆発を起こした。
≪無垢なる姫君(シンデレラ)≫――
自在粉塵爆発の能力――
その欠点は…自らの体をも爆発に巻き込んでしまう事――

―ドゴォォォォン

地形が変わるのではないか、と言うほどの大爆発。
慢心で無防備だった装甲兵は一人残らず吹き飛んだ。
煙が晴れ――
爆心地に居たのは――
血まみれになった瑠璃と、瑠璃のお陰で無傷でいられた美園だった。
「みその…ちゃん…無事…?」
体中から出血しながらも美園を気遣う瑠璃。
「瑠璃…さん…?瑠璃さん!」
ごふっ――と血を吐き出す瑠璃。
「嘘…瑠璃さん!」
涙を浮かべる美園。
「泣かないでいいの…結果的に、あなたを守れたんだから――」
そっと涙を拭う瑠璃。
慟哭するしか出来ない美園。
「立ちなさい、あなたは生きなさい。生きて…。自分の運命を呪わないで…強く…強く生きて…」
ブンブンと首を振る美園。
「で…も…。そんな…私の…。嘘…?いや…死な…ないで…。死なないで…瑠璃さんッ!」
もはや声にならない声を出し。
完全に混乱している。人の死――身近な人の死は18歳の少女には重すぎた。
「馬鹿ね。…順番が着ただけよ。…私…も、次に繋げることが出来た…」
再び血を吐く瑠璃。
「あぁ――貴方もきっとこんな気持ちだったんでしょうね――樹さん…今…今…そっちに…逝きます」
瑠璃はそっと目を閉じ、二度と開くことはなかった。
「瑠璃さん…!瑠璃さん!瑠璃さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!」
元異能者――≪無垢なる姫君(シンデレラ)≫ 芹沢瑠璃。
死に顔は、とても落ち着いた――まさに無垢な姫君だった。

「何だ!?今の爆発…」
地下に降りる途中で物凄い爆発音がした。
修也は外を見て、愕然とした。
「瑠璃…!?美園…!!」
倒れる仲間と、抱え泣き叫ぶ娘。
その背後に20近くの装甲兵。
「クソッ!クソッ!!どうなってやがる!!」
「修也――!」
雨音の制止も振り切り急ぎ階段を降り、美園の元へ駆け寄る修也。
「美園――!!」
叫び声よりも、装甲兵の銃弾の方が早かった。

――が

銃声より一瞬早く。
銃弾より一瞬早く。
紅い番傘が――美園を襲う銃弾から守った。

Heven's Door前――AM10:00
「その人も言ってた――」
カランコロン――と、下駄の音が響く。
「立ちなさい、生きなさいと――言ってた」
赤い高下駄。薄碧の着流しの裾には大きく牡丹の柄が入っている。
「だけどアンタはそこで泣いているだけだ――」
長い髪は鼈甲の簪で纏められている。
「それでいいのかい?芳田美園」
異彩を放つは――狐の面。
――カラン
美園のすぐ隣で立ち止まる。
泣いている美園の方は一度も見ていない。
「碧羽…さん」
ぐいっと顔を上げ、狐面の女を見上げる美園。
「聞いてるんだ。…アンタはそこで泣いて、泣き喚いて、その人の意思を無駄にするのか?」
首を振る美園。
「――だったら立ちなさい。まだ“あんよ”は着いているんだろ――?」
美園はぐっと立ち上がる。
「上出来だ――こっから先はアタシの出番だ。…修也さんと一緒に下がってな」
狐面を外し、着流しを翻す。
美園は頷き、修也と共に後退する。
サラシで身を固めた上半身を曝け出す。
その背には牡丹に蝶。
「石神流古武術・当主。十三代目“石神武心”一宿一飯の恩義の為、助太刀致す」
下駄を脱ぎ、素足になる。
「推して参る―――」
次の瞬間、一番近くに居た黒装甲の胸部装甲にこぶし大の穴が空いた。
「石神流古武術――遠当ての型…鳳凰」
静かに――だが、怒りを込めて…落合碧羽――石神武心が、いくさ場に立った。

圧倒的――としか言えなかった。
ほんの数分間で既に5人の装甲兵が絶命している。
碧羽は怒っていた。
勝手な事をした美園にではなく、襲ってきたグランツにでもなく、助ける事が出来なかった自分自身に――
(何が石神武心だ。何が石神流古武術だ。何が地上最強だ。――女の子の心に傷を負わせた――ふざけるな。何をしている)
そんな事を考えながらギリっと奥歯を噛み締める。
(何をしているんだ、落合碧羽!何すっとぼけてやがる。何の為にここまで鍛えたんだ)
「石神流古武術――瞬動の型…燕」
音も無く、気配も無く、一瞬で黒装甲の懐に入る。
「石神流古武術――打撃の型…雀≪スズメ≫」
ゴッと言う音が響く。
(守るためだろうがッ――!)
「接続連撃…雲雀≪ヒバリ≫・鴨≪カモ≫・鵯≪ムクドリ≫・四十雀≪シジュウカラ≫!」
雀≪スズメ≫から合わせて五連撃。
これで6人目。
10分も経たずに6人…。
「次ィッ!!」
怒りの形相で次々と敵をなぎ倒す。
『――何だコイツは…総員近寄るな!上空からの銃撃で確実に仕留めろ!』
部隊長らしき男がマスク越しに叫ぶ。
上空に散開する白装甲。
「チッ――」
流石の石神流も上空の敵を討つ技は――
「石神流古武術…遠当ての型…鳳凰≪ホウオウ≫!」
あった。
最初に放った技、遠当ての型である。
威力は半減だが、地面に落とせばいい。
地面に落ちれば、そこは石神流の舞台だ。

しかし――

威力半減では、撃墜とまではいかない。
装甲にほんの少し傷をつける程度。
「クソッ――」
上空を睨みつけるが、跳躍では届かない位置にいる。
飛距離が足りないのだ。
「万事休す――か…」
次の攻撃方法を探る碧羽。
装甲兵が銃を構えたその時。

―ガゥン

派手な炸裂音と共に銃を構えた白装甲が地面へと堕ちた。

―ガゥン ガゥン

さらに二発の銃声。
「お前等――誰の許可取って人の庭で“おいた”してるんだい――?」
銃声のした方を見るとそこには、白いスーツに大型拳銃を構え、悠々と煙草を吸っている男が居た。
「白猿≪ホワイトアウト≫の淳…いや、硝煙≪ガンスモーク≫の淳とでも名乗るかね――」
フーッと煙を吐き出し、煙草を捨てる。
「喧嘩に混ぜてもらいにきやしたぜ」
ニィッと不敵な笑みを浮かべる。

Heven's Door付近――AM10:15
薬莢の落ちる音と硝煙の匂いが立ち込める。
淳は愛銃を的確に装甲兵のゴーグルに打ち込んでいる。
見事な命中精度であった。
地上に堕ちた敵は絶命していた。
既に6体は葬った。
残り――7体。
うち4体は碧羽が相手している。
淳に与えられたノルマは3体。
上空に居る3体が淳のノルマである
「石神流古武術――蹴撃の型…鳶≪トンビ≫!」
碧羽の回転式浴びせ蹴りが黒装甲の脳天に直撃した。
ぐらりと動くと、そのまま地面に倒れた。
地上に居る敵はこれで3体になった。
「しっかし――姉さん…おっかないねぇ」
弾幕を張り、牽制を仕掛けながら軽く碧羽に話しかけた。
「フン――そんなゴツイ銃をぶっ放してる様な男におっかないって言われる筋合いはないねぇ」
同じく軽口で返す碧羽。
「ちげぇねぇ」
フフっと笑いながらリロードをする淳。
美しい修羅と白い悪魔。
血遊びをするさまは――美しかった。
鬼の血遊びはものの10分でカタがついた。
「フン――」
「――たいした事ねぇな」
二人とも自分に怪我はおろか――返り血一滴さえ浴びていなかった。



次回予告
―激化する戦闘。
「これが――」
―激化する運命。
「完成したぁぁぁぁぁッ!!!できた!」
―青年は、新たな力を得る。
「行けッ!落合!!」

第8話 【 進化 】

「ヘッ――ヒーローは遅れて登場するもんなんだよ」