ええと、「三角の距離は限りないゼロ」の新刊がそろそろでるなぁ、ということで、 ちょいと岬 鷺宮さんの過去作品の読みなおししようからとおもって、読みました。
たぶん、3回目か4回目の読み直し。 この作品を読んでいない人向けの紹介/おすすめのための感想というよりは、 読んだことのある人向けの感想です。読んでいない人にはついてけない端折り方だと思います。 (ごめんなさい)
ということで、自分向けの備忘録です。
自分を変えようとwebラジオで配信する後輩女の子(御簾納/サキ)と、自分の趣味を否定されるのが怖い先輩男の子(長谷川)の高校生の恋心を、当人達の視点も交えて、ラジオのリスナー視点でもサキのことが見守れる良作でした。
普段、ラジオ番組を聞いていて、アナウンサー/ナビゲーターさんのトークは、話題から脱線しないメッセージだと感じています。話題から脱線しないトークというのは案外難しく、まさに小説のようにしっかりとした大筋がないと、聞いていて不安になってしまいます。
小説の中で、サキのwebラジオトークを読んでいると、サキの気持ちが浮足立っていても、サキは毎回大筋を作ってからwebラジオの時間を迎えていることがリアルというか、小説とも親和性が高いな、と感じました。
サキがwebラジオでリスナーに向けて、先輩(長谷川)に好意を抱くに至る経緯の説明をしたときに、サキが長谷川に紹介した作品(名作/小説)に対して長谷川が感想を聞かせてくれたこと、その解釈がサキの感じていた名作に対する解釈への違和感を言い当てたこと、そしてそれがサキが長谷川に好意を抱くに至ったことだというストーリーはリスナー目線で言えばきれいな大筋があって非常にわかりやすい「サキが先輩に好意を寄せるに至ったストーリー」で、リスナーもみんな納得するストーリー。ただ、それをリスナーにまじって聞いていた当事者の長谷川から見たら「サキの解釈は美化しすぎ」というのがいかにも長谷川らしいなとも思いました。
そして、先輩がサキの思っている解釈とは違うのかもしれないというコメントをwebラジオを聴いている1リスナーとして投稿する長谷川(RN ハセリバー)の再解釈(?)に、サキも言葉を止めて思考し、理解を示しながらも、それでも先輩(長谷川)のことに好意を持つにいたった大切なイベントであることは変わらない、という思いを再認識することからも、解釈は1つではないことと同時に、解釈に正解がないことをサキはよく判っているということを示していると感じました。
その一方で、長谷川との公園での出来事で、自分の殻を破り先輩にアプローチしていきたいとwebラジオで公言したサキが、図書委員の作業の延長で長谷川の部屋を訪ねたいと切り出したときに長谷川から色よい返事がない中で何度食い下がっても最後まで拒否されたことで、失恋したと勘違いした部分も、解釈が1つではないと判っている敏い子(サキ)でも、感情に左右されてしまうことが、前段との対比になっているのかな、と思いました。物事の解釈とは、自分にとって一番合理的な解釈を選ぶのかもしれないですね。それが先輩に恋心を抱くに至る解釈であっても、失恋したと確信するための解釈であったとしても、です。
そんなサキに「失恋した、殻に閉じこもっていたほうがよかった」、と思わせた原因は、長谷川がDTM/音楽創作趣味を知られたくないためにサキを自分の部屋に招けなかったことだったわけですが、その長谷川が他人に趣味を知られることを怖がる原因が、動画サイトなどで活動しているアマチュアの先人たちの作品/楽曲につけられている否定的なコメントを見て楽曲の発表に躊躇しているというのは、webでの発表や第三者に意見を聞く上での懸念であり、それがサキに部屋を見せたくない直接の原因になるのか、というと、半分ぐらいは正しのかもしれませんが、本当の理由はそこじゃなくて、(作品には書かれていないけれど、)第三者からの悪意のある否定され方の原体験があるのではないかな、と感じました。
悪意のある否定され方の原体験は何なのか、作品の中では言及がないので、読者が考えるしかないわけですが、例えば友達に楽器を弾いたり楽曲作ったりすることを楽しげに語ったら全否定された、というようなトラウマとかがあるのかな、と(私は)想像しながら読みました。
もちろん、この辺りは作品に書かれていないので、完全に一読者の想像でしかないけれど、サキを部屋に呼ぶ場合に片づけなければいけない機材の数や、寄付の本を引き取りに行った時の公園での出来事に自分のやらかしに恥ずかし悶えた長谷川のギターテクニックの描写(列記だけですが)を、思い付きで弾けたりする状況(アドリブでも弾けてしまう状態)を察するに、長谷川のギターキャリアは1年2年というレベルでは無いと考えます。小学生ぐらいから趣味でやっているのかな、と仮置きすると 長谷川の態度は秘密主義にこうなるだろうな、と理解しやすかったです。中学ぐらいになると、吹部とかの音楽系部活動もあるので、楽曲製作やDTMを趣味としてやっていてもそこまで友達にdisられることはないけど、小学生って、ほら、ちょっと人と違うことをやっていると馬鹿にしたり容赦なく否定する生き物ですからねぇ。
しかし、サキが週末に部屋を訪問したいといって断るかねぇ、長谷川君(笑)
部屋片付けに1日かかるレベルの自宅DTM環境って、8チャンネルのアナログMTRの環境でアナログシンセ音源で音を重ねていた時代とかならわかるけど。。。それでも、なりふり考えず押し入れに押し込めば2時間かからないでしょ(笑)。
そしてサキが失恋の報告と、最終回を示唆したwebラジオのOA中に、長谷川がサキにOA中の公開電話を要求。 自分の秘密をサキに説明する覚悟をした長谷川、添付の楽曲を聞いたサキの感情の変化を、webラジオのリスナー目線で読むことができて面白かったです。
ただ、長谷川がOA中にサキのことを実名の苗字で呼んでしまっている記載がいくつかありますが、これは長谷川の不器用さからくる天然なのか、長谷川がなりふり構っていられないと思った結果、頭の中から実名バレへの配慮が消えてしまった結果なのか、それとも作品の校正ミス(謎)なのか。。。。
リアルにOA中の配信にサキの実名バレはだめでしょ先輩。 ってことでちょいと長谷川君のヤラカシ感がありますが、でも作品に出てくるサキの配信を聞いているリスナーのみなさん、優しいから大したことにはならないのだろうけど、コメント欄は炎上しない代わりに生暖かいコメントがあふれかえって盛り上がりそうですね。
という感じで、最初から最後まで何回読み返してもリスナー目線で楽しめる作品でした。