共同体家族と核家族 | 小動物とエクリ

共同体家族と核家族

 

 

本来、簡単に避けられたウクライナ戦争の原因と責任はプーチンではなく米国とNATOにある。

1 第三次世界大戦はもう始まっている

「戦争の責任は米国とNATOにある」

「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアは明確に警告を発してきたのにもかかわらず、アメリカとNATOがこれを無視したことが、今回の戦争の原因だとしているのです。

ミュンヘン会談よりキューバ危機

歴史のアナロジーで言えば、「ミュンヘン会談」よりも、ソ連がキューバという"アメリカの裏庭"に核ミサイルを設置しようとして、アメリカがこれを許さなかった一九六二年の「キューバ危機」になぞらえるべきだ、と。

ウクライナを「武装化」した米国と英国

「ウクライナ軍の予想を上回る抵抗」は、まさに「アメリカとイギリスによる軍事支配の成果」なのです。

「手遅れになる前にウクライナ軍を破壊する」が目的だった

軍事上、今回のロシアの侵攻の目的は、何よりも日増しに強くなるウクライナ軍を手遅れになる前に破壊することにあったわけです。

ウクライナ軍が抵抗するほど戦争は激化

ネオナチの極右勢力「アゾフ大隊」〔二〇一四年に白人主義極右思想の外国人義勇兵を含めた民兵組織として発足。現在はウクライナ内省傘下にあるが、ナチスを彷彿とさせるエンブレム「ヴォルフスアンゲル」を部隊章として用いている。

ロシアが言っていることに我々は耳を傾けなければならない。「非ナチ化」とは、このアゾフ大隊を叩き潰すという意味です。

ロシアによるウクライナ侵攻は、アメリカ主導の国際秩序に直接挑みかかるもので、この点にアメリカは衝撃を受けました。

アメリカの地政学的思考を代表するポーランド出身のズビグネフ・ブレジンスキーは、「ウクライナなしではロシアは帝国になれない」と述べています。

アメリカに対抗しうる帝国となるのを防ぐには、ウクライナをロシアから引き離せばよい、と。

つまり、こうしたアメリカの政策こそが、本来、「ローカルな問題」に留まるはずだったウクライナ問題を「グローバル化=世界戦争化」してしまったのです。

「二〇世紀最大の地政学的大惨事」

「スラヴ」の核心部は、ロシア(大ロシア)、ベラルーシ(白ロシア)、ウクライナ(小ロシア)からなりますが、ベラルーシとウクライナの分離独立、すなわち「広義のロシア」の核心部分が分裂することまで受け入れたのです。

冷戦後の米露関係

冷戦後のロシアは、「西側との共存」を目指しました。けれども、ロシア人はすぐに裏切られたのです。

誰もがロシアを責めますが、アメリカと同盟国の軍事基地のネットワークを見れば一目瞭然であるように、囲い込まれているのは西側ではなく、ロシアの方です。軍事的緊張を高めてきたのは、ロシアではなくNATOの方だったのです。

ロシアは、人口規模は日本と同程度ですが、アメリカに対抗しうる勢力であり続けようとしたわけです。だからこそ、アメリカによるウクライナの「武装化」がこれ以上進むことを恐れ、ロシアは侵攻を決断したのです。
 今の状況は、「強いロシアが弱いウクライナを攻撃している」と見ることができますが、地政学的により大きく捉えれば、「弱いロシアが強いアメリカを攻撃している」と見ることもできます。

超大国は一つだけより以上ある方がいい

超大国は、たった一つしかない状態よりも、二つ以上ある方が、世界の均衡はとれるのです。

起きてしまった事態に皆が驚いた

ロシアの侵攻が始まると、アメリカとイギリスの軍事顧問団は、ポーランドに逃げてしまいました。

要するに、アメリカとイギリスは、ウクライナ人を"人間の盾"にしてロシアと戦っているのです。

米国の誤算

アメリカは、第二次世界大戦後も、常に戦争をしてきた国です。

アフガニスタンにしろ、イラクにしろシリアにしろ、アメリカがこれまで行ってきた戦争は、弱小国に対する戦争でした。それに対して、今回、大国のロシアが、事実上、アメリカを敵に回しているわけです。

プーチンがここまでの決断をし、これほど大規模にウクライナに侵攻し、アメリカ主導の国際秩序に正面から刃向かうとは思っていなかったでしょう。こうしたロシアの挑戦を受けて、アメリカも非常に驚いたはずです。
 アメリカの外交は、現在、混乱を極めています。掌を返すように、つい一カ月まで「最大の敵」であったはずの中国に急遽、協力を要求したり、厳しい制裁を科していたベネズエラとの関係構築を急ぐなど、アメリカの動揺が伺えます。

ロシアにとっても予想外

ロシアも、西側諸国、とくにヨーロッパがこれほど強硬に出るとは予想していなかったはずです。ロシアのエネルギー資源に依存するヨーロッパ経済の脆弱性を確信していたからです。

さらにロシアは核大国です。そうである以上、ヨーロッパは、ロシアとの経済的断交は決断できず、この国に問題に本格的には介入できない、と考えていたはずです。

共同体家族のロシアと核家族のウクライナ

しかし、ロシアの最大の誤算は、ウクライナ社会の抵抗力を見誤ったことです。

ロシアは「共同体家族」(結婚後も親と同居、親子関係は権威主義的、兄弟関係は平等)の社会で、ウクライナは「核家族」(結婚後は親から独立)の社会です。

プーチンのような人物が権力の頂点にいるのは、ロシア社会自身が、彼のような権威主義的な指導者を求めているからです。

「国家」として存在していなかったウクライナ

「民主主義」が成立するには、まず「国家」が建設されなくてはなりません。民主主義は、「強い国家」なしには機能しないのです。個人主義だけでは、アナーキーになってしまうからです。

ウクライナの核家族構造が生み出したのは、「民主主義国」ではなく「無政府状態」だったのです。

「親EU派」とは「ネオナチ」

かつてナチスドイツの側についた西部ウクライナの極右勢力が、実質的にドイツの支配下にあるヨーロッパ、すなわち「『ドイツ帝国』と化したEU」に入りたがったわけです。要するに、「親EU派」て西側メディアで好意的に報じられた勢力の実態は、「ネオナチ」だったのです。

共産主義を生んだロシアの家族構造

ムジクであれ、経営者であれ、あらゆる階層のロシア人は、法律には敬意を払わないが、権威には敬意を払う。

家族構造の違いから生じたホロドモールの惨劇

父親と妻帯の息子たちが同居するという外婚制共同体家族のロシア社会は、行き過ぎた個人主義には、おのずと抵抗を覚えるのです。

「ヨーロッパ最後の独裁者」を擁するベラルーシの家族構造

ロシアにおけるプーチンがそうであるように、ルカシェンコのような人物が権力の頂点にいるのは、ベラルーシ社会自身が、彼のような権威主義的な指導者を求めているからです。

「近代化の波」は常にロシアからやって来た

ウクライナは、ロシアという"中心"に対して、常に"周辺"として「保守的」な態度を示してきたわけです。

要するに、ウクライナは、「独自の推進力」を持ち合わせていないのです。

そしてロシアから逃れるために、もう一つ別の勢力の支配下に入る必要が出てきます。そこで、アメリカやヨーロッパに近づいたのです。

西側諸国は、一九九一年にウクライナが独立したことの主たる意味を見誤りました。「モスクワとサンクトペテルブルクで進んでいる民主主義革命からウクライナが切り離された」ということを理解できなかったのです。

国家建設に成功したロシアと失敗したウクライナ

ウクライナは、独立から三〇年以上経過しても、十分に機能する国家を建設できないでいます。ウクライナには「国家」という伝統がなかったからです。軍隊も、アメリカやイギリスの支援なしには、再組織化できませんでした。

ロシアの侵攻が始まる前から、まさに「破綻国家」と呼べる状態だったのです。しかも高等教育を受けた労働人口が大量に流出しました。本来は国家建設を担うべき優秀な若者が、よりよい人生を求めて国外に出ることを選んだのです。現在、大量の戦争難民が発生していますが、ウクライナからの人口流出は、実は以前から起きていたのです。

プーチンの誤算

おそらくプーチンとしては、「母なるロシア」に回帰させることで、「破綻国家」である「小ロシア(ウクライナ)」の秩序を立て直そうとしたのでしょうが、まったくそうはなりませんでした。ロシアが強硬に出るほど、国内に残ったウクライナの人々は、むしろ「反ロシア」に自らのアイデンティティを見出し、ナショナリストニヒリスト(自暴自棄)の武闘派になっていったのです。
 「反ロシア」の感情が、むしろ崩壊しつつあるウクライナ社会を方向づける一つの存在様式になってしまいました。これがプーチンの最大の誤算です。

この戦争が、ウクライナの人々に「国として生きる意味」を見出せたと言えるかもしれません。実に悲しいことです。

プーチンが「ネオナチ」と呼ぶ武装勢力には、多くのロシア語話者も加わっているようです。これは、ロシアが想像していなかった事態で、「ロシア語圏社会の崩壊」の一側面と見ることもできます。

ロシアはすでに実質的に勝利している

一九一四年の第一次世界大戦の始まりを彷彿させるかのように、まさに今、「新しい地図」が描かれようとしています。

いずれにしても、ウクライナの全土を占領するには、ロシア軍の規模は明らかに足りません。
 しかし、ロシアが奪った土地は、現時点ですでに広範囲にわたります。

しかも産業はこれらの地域に集中しており、ウクライナの産業地域の三〇%から四〇%に相当します。

過去のヨーロッパでの戦争と照らし合わせれば、今回のロシアの「戦果」は、ルイ一四世やプロイセンのフリードリヒ二世のそれより大きいとも言えます。

欺瞞に満ちた西欧の"道徳的態度"

ロシアからの天然ガスの供給路だけは確保しながら、ロシアに対して経済制裁を科すことも"道徳的"ではないでしょう。ロシアの天然ガスを購入しているヨーロッパは、ある意味で、ロシアの戦争に"出資" しているからです。

オリガルヒへの制裁は無意味

ロシアは、国家がすべてをコントロールする中央集権国家です。これこそ、ロシアの政治体制の際立った特徴なのです。
 超富裕層が国家をコントロールしているのは、むしろアメリカ、ドイツ、フランスの方です。

ロシアの残忍さを糾弾し、プーチンと"その取り巻き"を「戦争犯罪人」と名指しすることから見えるのは、実はヨーロッパ人たちの無力感です。こうする以外に何もできないゆえに、「ロシアを悪とみなす」ことで、西欧の各国政府は、自分たちの無力さと卑劣さを隠そうとしているのです。

もし「戦争」をさまざまな理由から始める国の指導者を裁きたいのなら、まず裁くべきはジョージ・W・ブッシュではないでしょうか。まともな理由なしに戦争を始め、ロシアがウクライナにしている以上に醜悪な行為をアメリカはイラクでやってきたからです。

「ロシア恐怖症」

つまり、無意味になりつつある「ヨーロッパ」という政治的・通貨的なまとまりを無理に維持するために、「ロシア」という"外敵"を必要としているだけではないか、ということです。

ヨーロッパでの「ロシア嫌い」の高まりは、実はヨーロッパにとっては損失以外の何物でもないのですが、アメリカにとっては「前略的成果」と言えるでしょう。ロシアとヨーロッパの関係を引き裂くことが、ブレジンスキーのようなアメリカ地政学者が想定する「国益」に適うからです。

「消耗戦」が始まる

あらゆる資源を投入しなければならない「消耗戦」では、軍事面よりも経済面が重要になってくる、あるいは軍事面に左右されることになってきます。この点において注目すべきは、中国がロシアをどれだけ支援するかでしょう。

中国はロシアを支援する

ロシアが倒されれば、どんな形にせよ、次に狙われるのは中国自身だからです。

米国の戦略目標に二重に合致したウクライナ

「ブレジンスキーの計画は簡潔にして明瞭である。(略)ウクライナを西欧の側に併合し、ウズベキスタンを利用して中央アジアをロシアの影響圏から離反させることによって、ロシアに止めをさし、ロシアの核心部の解体をもたらすこと」(『帝国以後』)

アメリカの経済(消費)を維持するために、アメリカは、世界の富への統制力を政治的・軍事的に確保しなければならないという必要性。

だからこそ、アメリカは、ユーラシア大陸に戦略的関心を持ち続けたのです。というのも、世界の人工と経済活動の主要部分は、ユーラシアに存在しており、アメリカ国民の生活水準を維持するために不可欠な商品とカネは、ユーラシアから流入する仕組みになっているからです。

アメリカ軍の"プレゼンス"を維持するために、言い換えれば、ユーラシアにおいてアメリカ軍が"必要"とされる状況を無理にでも持続させるために、アメリカは、ユーラシアにおける軍事的・戦略的緊張を維持する必要性があるというわけです。

「世界の不安定がアメリカには必要」ということなのです。

NATOと日米安保の目的は日独の封じ込め

極論すれば、NATOや日米安保は、ドイツや日本という「同盟国」を守るためのものではありません。アメリカの支配力を維持し、とくにドイツと日本という重要な「保護領」を維持するためなのです。

現実から乖離したゼレンスキー演説

ゼレンスキー大統領が多くの演説で繰り返し求めていることは、はっきりしています。ヨーロッパを戦争に引き込むことです。「ウクライナの次にロシアに狙われるのはあなた方の国だ」と、ヨーロッパ諸国を戦争に引き込もうと必死になっているのです。

そもそも、ロシアがウクライナ以外の領土への侵攻を考えているとは、私には思えません。すでにその人口規模から見て広大すぎる領土を抱え、その保全だけで手一杯だからです。

エストニアとラトビアという例外

ここで期待されるのは、ドイツの動きです。というのも、ドイツこそがロシアとの経済パートナーの代表であり、フランスは二次的なパートナーにすぎないからです。この世界大戦の終息のために、ドイツは重要な役割を担えるはずです。

世界を"戦場"に変える米国

アフガニスタン、イラク、シリア、ウクライナと、アメリカは常に戦争や軍事介入を繰り返してきました。

大きな島国のような存在で、脅威となる隣国もなく、世界一の軍事大国でもあるアメリカ自身は侵攻されるリスクがないからです。

だから間違いを繰り返すのです。
 共産主義が崩壊してから、アメリカは世界中で戦争状態を維持させてきました。みずから関わった地域差をすべて"戦場"に変えてしまったのです。

 

 

2 「ウクライナ問題」をつくったのはロシアでなくEUだ

「共同体」でなく「国益追求の道具」と化したEU

ベルリンがEUに押し付けた経済政策は、ドイツ人だけの利益になる

反露政策はポーランドにとってマイナスにしかなならない

 

 

3 「ロシア恐怖症」は米国の衰退の現れだ

ロシアの力の回復は、後戻りすることのない長期的な現象です。ですから、ロシアと共存することを学ばなければならないのです。

ロシアとの共存以外に選択肢はない

我々は、大いなる災厄に向かって進んでいますが、人口減少という危機には、ポジティブな面もあります。人口増大の局面よりも、共存することがより容易だからです。

実は補完し合っていた米ソのシステム

アメリカはロシアを「成長」へと向かわせ、ロシアはアメリカを「平等」へと向かわせました。

時期のズレはあったものの、他の国と同様、米ソはともに大衆の識字化を経験しました。「誰もが読み書きできる状態に達した」と社会が認識したとき、人々は互いを対等な存在と捉えるようになり、「市民」という観点から物事を考えるようになります。

ロシアでは、権威主義的かつ平等主義的な家族構造、そして戦争と宗教の衰退という時代背景から「共産主義」が出現しました。個人主義レベルの平等文化が、ロシアをレーニン、スターリン、ブレジネフといった全体主義の時代に導いたのです。

しかし、子供たち(兄弟)が「平等」とみなされないアメリカは、どのように自らの社会のうちに平等主義の理想を見出したのでしょうか。

アメリカにおける「平等」という思想は、あくまで「白人同士における平等」であり、「家族構造に由来するもの」というより、「人種主義に由来するもの」なのです。
  ソ連の「全体主義的民主主義」とアメリカの「人種主義的民主主義」ーーこのように現実の歴史は、政治哲学の机上の空論からは遠く離れたところにあるのです。

「黒人も平等」が「白人間の平等」を破壊

「万人の平等」というのは、そもそも兄弟間が不平等なところ(絶対核家族社会)では考えられないものなのです。強力な労働組合とともに、アメリカの労働者階級が解放され、彼らがやがて中産階級になっていったのは確かです。

こうしてアメリカでは、経済的な不平等の広がりが抑えられなくなり、社会保障制度は崩壊に至りました。

ベトナム戦争での敗北

ベトナム戦争での敗北は、アメリカにとって正真正銘の屈辱で、それまでにないモラルの崩壊を引き起こしました。アメリカは五万八〇〇人もの死者を出しまたした。しかも、三〇〇万人も犠牲になったベトナム側の死者の大部分は、アメリカの保護下にあったはずの南部に集中していたのです。

「新自由主義」が生まれたのはなぜか

一九六〇年代のアメリカの危機は、次のように要約できます。企業の利益率の低下、黒人の解放、教育による階層化、軍事上の屈辱的敗北。これらが、イデオロギー崩壊の四つの要因で、レーガンの新自由主義(あるいは新保守主義)という反動を生み出したのです。

米ソの相互破壊

我々が目にしているのは、アメリカで「新自由主義ナショナリズム」が、国内産業、労働者階級、社会保障制度を破壊し、生活水準を低下させ、ついには平均寿命まで低下させたという現実です。

こうしてもう一つの新しい冷戦の分析が可能になります。ソ連という一国が敗北し、アメリカ一国が勝利したのではなく、二国とも敗北したという見方です。つまりこの二国は互いに互いを破壊したというわけです。

「人種」にこわり続ける米国社会

アメリカのシステムは、ソ連のように、ある日、突然崩壊したわけではありませんが、徐々に形を変えていき、やがて根本的なもの、つまり白人の集団感情が崩れ去ったのです。

以前は人種主義が効率的な集団行動を促していたのが、今ではそれを阻んでいます。

「民主制」から「寡頭制」への移行は、ロシアとの対立によって形づくられたのです。

 

 

4 「ウクライナ戦争」の人類学

第二次世界大戦より第一次世界大戦に似ている

軍事面での予想外の事態

自国の国境に対するロシアの懸念にさえ理解を示せば、それ以外の意味において、ロシアは国際社会にとって脅威ではないのです。

経済面での予想外の事態

我々が目の当たりにしているのは、軍事的にも経済的にも、意外にも"比較的安定した"状況で、この「世界戦争」が長期的なものになることを示唆しています。
 その意味でも、今次の戦争は「第一次世界大戦」を彷彿とさせるのです。

米国は戦争にさらにコミットする

アメリカの戦争の"真の目的"は、アメリカの通貨と財政を世界の中心に置き続けることにあります。

米国の戦略家の"夢"を実現

アメリカは、冷戦終結後も常に戦争をしてきたわけですが、相手は弱小国ばかりで、自分より強い敵を相手に直接戦うことはありませんでした。その意味では、「アメリカの優れた軍事技術に支えられた、死も厭わず自分よりも強い相手に立ち向かう勇敢なウクライナ軍」は、アメリカの戦略家たちの"夢"をは実現したものとも言えるのです。

ポーランドの存在感

ウクライナ側で戦っている外国人兵士の多くが、ポーランド人とラトビア人であることが明らかになってきました。

"真のNATO"に独仏は入っていない

軍事的な意味での"真のNATO"とは、アメリカ、イギリス、ポーランド、ウクライナ、そしておそらくスウェーデンから成り立っています。

この戦争の"非道徳的な側面"

"真の被害者"は、ウクライナ人です。この戦争の"非道徳的な側面"は、戦略がウクライナ軍によって遂行されながらも、戦場で西側の武器が使用され、ウクライナが自分より強大なロシアを相手に戦っている点にこそあります。

ウクライナ侵攻に対する各国の反応

①「非難して制裁を科す国」 
②「非難するが制裁はしない国」
③「非難も制裁もしない国」
④「支持する国」

家族構造における父権性の強度

「人類学」と「地政学」が驚くほど、"一致"していることをこれから示そうと思います。

伝統的な家族システムは、近代化ーー工業化ーーによって崩壊していくわけですが、代わりに共同体主義的な傾向や権威主義的な国家を生みだすことになります。これによって、「過渡期の危機」において、共同体主義的で父権的な家族システムが、ロシア、中国、ベトナムなどでは共産主義を生みだし、イスラム諸国ではイスラム過激派を生みだしたことも説明できます。

これらの国々に共通しているのは、個人主義的な傾向がないこと、見えてくるのです。これらの国々に共通しているのは、個人主義的な傾向がないこと、そして西洋世界の人類学的な基盤となっている核家族構造が見られないことです。

ちなみに、みずからを「最も先進的」とみなしている西洋社会は、家族構造の歴史から見ると、実は「最も原子的」なのです。

そして、自らを「普遍的」とみなしてきた、その西洋社会は、現在、ますます自らの内に閉じこもり、閉鎖的になっているのです。

ロシアの女性とキリスト教

ロシアは世界でも女性の地位が最も高い国の一つであり、スウェーデン(同一四〇人)に次いでいることが分かります。

キリスト教(正教)のフェミニズム的特徴が、ロシアにおける父権性の高まりに一定のブレーキをかけたことが十分考えられるのです。

現在の英米は「自由民主主義」とは呼べない

「自由民主主義国」の代表とされるアメリカとイギリスの現在の姿を見れば、この呼称が空虚なものであることが分かります。これらの国では、不平等があまりに大きく広がっているからです。

「リベラル寡頭制陣営VS権威民主主義陣営」

政治や地政学だけでなく、そこに人類学的な視点を加えれば、いまの世界で生じている真の対立は、「民主主義陣営VS専制主義陣営」ではなく「リベラル寡頭制陣営VS権威民主主義陣営」だということが分かります。

権威的民主主義陣営の「生産力」に依存

今日の経済はかつてないほどグローバル化しており、二つの陣営の相互作用が、「専門化」と「経済相互依存」という非常に興味深い状況を生み出しているからです。

リベラルな寡頭制の世界は、自国の産業、工業生産能力をないがしろにしてきました。

財政上の理由から、労働力が安価な権威的民主主義の陣営に、工業生産を委ねたからです。この点で、アメリカと中国の関係はとくに際立っています。

「高度な軍事技術」よりも「兵器の生産力」

ヨーロッパにとっての死活問題は、これまで輸入してきたロシアの天然ガス、石油、肥料、さらには戦争による破壊で途絶えるウクライナからの輸入品に、今後は頼らずに済むのかどうかです。

近年明らかになったのは、ロシアも「専門化」を進めていたことです。ロシアは、今日、天然ガス、石油といったエネルギー資源や農業生産品や肥料の輸出大国となっており、その「生産力」によって世界に貢献しています。
 要するに、西洋社会、すなわちEUを含めたリベラル寡頭制の陣営は、権威的民主主義陣営の「生産力」なくして生き延びることができない状態にあるのです。これは、非常に奇妙で、それだけに予測不可能な状況と言えます。

要するに、★戦争が長引くほど需要が高まるのは、高価で高度な複雑な兵器よりもシンプルな弾薬で、そのことによって戦闘はより暴力的になり、より血が流れるようになるわけです。ですから、両陣営の「兵器を供給する能力」が今後ますます問題となってくるでしょう。

米露の生産力

ロシアは、人口規模では日本と同程度にすぎません。

たとえば、一九四五年時点でのアメリカの生産力は圧倒的で、世界の工業生産の半分をも占めていました。しかし今はそうではありません。

真の経済力は「エンジニア」で測られる

アメリカは、勇敢なウクライナ兵と優れたアメリカの武器でロシアを追い詰めようとし、ロシアを永久に弱体化させることを目的にこの戦争を長引かせるために、ウクライナに膨大な貨幣を供給しています。
 しかし、ここには大きなリスクがあります。

中国には、戦争が長期化するなかで、ロシアを利用してアメリカの武器備蓄を枯渇させることで、アメリカの弱体化を図るという選択肢が残されています。巨大な生産能力を持つ中国からすると、ロシアに軍需品を供給するだけで、アメリカを疲弊させることができるのです。

本来、この戦争は簡単に避けられた

この戦争は、「ウクライナの中立化」という当初からのロシアの要請を西側が受け入れていれば、容易に避けることができた戦争でした。

ロシアは、戦争前にすでに安定に向かっていました。自国の国境保全に関してロシアを安心させていれば、何事も起こらなかったはずです。

西洋社会が虚無から抜け出すための戦争

ここで私は、人間の本質について悲観的な考察をせざるを得ません。物事を"逆に"考える必要があるのではないか、ということです。つまり、ロシアではなく、むしろ西洋社会こそうまくいっていないのであって、この戦争がそれを物語っているのではないか、と。
 西洋社会では、不平等が広がり、新自由主義によって貧困化が進み、未来に対する合理的な希望を人々が持てなくなり、社会が目標を失っています。

第一次世界大戦は中産階級の集団的狂気

フランス、ドイツ、イギリス、オーストリア=ハンガリー帝国は、経済的にも、文化的にもこれまでなかったような黄金期を経験しのちに、まったく取るに足らない口実、すなわちサラエボ事件を理由に、大規模な軍事的衝突に突入しました。

自殺率が高くなり、精神疾患やアルコール依存症の患者数が増えているのは、労働者階級ではなく、中産階級でした。ノーマルな精神状態にあった労働者階級に対し、中産階級の精神状態が不安定だったのです。つまり、「一九一四年の狂気」とは、「ヨーロッパの中産階級の狂気」です。当時のヒステリックなナショナリズムも、ヨーロッパの中産階級の産物でした。

最も自殺率が高いのは、金利生活者です。要するに、高い自殺率は、低い所得が原因ではないのです。経済的要因ですべてが説明できるわけではない、ということです。

"軍事支援"でウクライナを破壊している米国

ロシアによる侵攻前に、大量の人口流出によってすでに「破綻国家」近かったウクライナが、この戦争によって、さらに破壊されていくのです。
 要するに、アメリカは"支援"することで、実はウクライナを"破壊"しているわけです。

 

『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド/著、大野 舞/訳より抜粋し引用。

 

 

追記:離散から集散、拡散?

 

“共同体家族のロシアと核家族化されたウクライナ”という対比から、Emir Kusturiiciaの『Do you remenber dolly bell?』を憶い起こす。“家族”という形態は近代化とともに核家族化して離散。それぞれの自由を求めて集散しつつ拡散。民主化も平等性も「わたしたち」から「わたし」へと行き来しながら思い描くしかない、のだろうか?!