これが最後の更新かもしれないし、そうでないかもしれません。
2009年の政権交代で、某国は国連の社会権規約に定める、中高等教育の無償化への努力に向けて、「千里の道」の最初の一歩を歩み始めたかに見えましたが、昨年の再交代によって、無に帰し、さらには逆行さえしかねないようです。
その「逆行」の一歩先を行く、国連の人権規約を批准すらしていない某超大国での教育ローンのお話です。
週刊誌 Le Nouvel Observateur の2013年5月9-10日(通巻2531)に掲載された、 Gare à la dette étudiante (学生の借金に注意せよ) という記事です。
副題、“C’EST AUSSI RISQUÉ QUE DE JOUER AU CASINO’は、「それはカジノで遊ぶのと同じくらいリスクが高い」というような意味です。
画像は記事のイメージ、その下に見出しと訳を載せておきます。
“C’EST AUSSI RISQUE QUE DE JOUER AU CASINO’’
Crédit facile, dérapage des frais d’inscription universitaires... les Etats-Unis se réveillent avec 1000 milliards de dollars de dette étudiante. Une menace pour le “rêve américain” et pour la croissance future
(安易な与信、大学の入学費用の暴騰… アメリカ合衆国は1兆ドルの学生の借金に目が覚める。「アメリカンドリーム」への、そして未来の成長への脅威である。)
DE NOTRE CORRESPONDANTE À CHICAGO
ロリ・ダンコ Lori Danko は勉強することをいつも夢見ていた。しかし家庭にはそのための金も野心もなかった。18歳で結婚し25歳で離婚し、ミドルウェストの貧民街、グランド・ラピッズGrand Rapids の側で育った、二児の母は、運命の成り行きを変えるために闘ってきた。30歳で看護助手となり、その後看護
アメリカでは、ロリのように学生ローンの重みに耐えている人々が3800万人にも上る。20年前の2倍だ。借り手を保護することになっている消費者金融保護局によると、平均して25000ドルの借金を背負っているが、はるかに多額であることがしばしばだ。3分の1は、月々の返済額が収入の30%に達する。この問題は決して目新しいものではないが、今日、憂慮すべき様相を呈している。4月、学生の借金は1兆ドルという巨額に達した! ニューヨークの連邦準備制度によると、8年間で3倍になった。そして国の経済全体を脅かす、真の時限爆弾だ。どうしてこのような事態に至ったのか? アメリカ人自身が、損害の規模に気づいて茫然自失している。
高等教育の学費がこれほど高くなったことはなかった。確かに、アメリカの大学学部の費用はいつも高かった。中流階級の親は、「アメリカンドリーム」の必要不可欠な部分である教育を子供が確実に受けられるようにしたければ、生まれてすぐから貯金しなければならないことを知っている。しかし経済危機がこの方程式を深刻なまでに複雑化した。失業に直面した多くの家庭は、過去に自分たちの家庭がそうしたように、子供たちを助けることができない。子供の側では、必要な費用の一部でも得ることができるような、学生のアルバイトを以前ほど容易に手にすることができない。とりわけ、大学の費用は莫大に上昇した。公的補助の明白な切り捨てが理由だが、それだけではない。
ホワイトハウスに着任したバラク・オバマは、大学入学資格者が一人として、経済的理由によって大学からはいじょされることは問題外だと宣言した。そして連邦貸付金を大量に開放sチア。しかしこの賞賛すべき意図は倒錯した効果を生んだ。学生がほとんど無条件で貸付を得られることを知っている大学は、費用を引き締めて学費を安定化させるための努力を殆どしなかったのだ。学長の給与という例を挙げるだけで十分だろう。それらは今、多国籍企業の最高経営責任者の所得と並んでいる。二流の施設の経営陣で、140万ドルの基本給、250万ドルのボーナス、年間80万ドルの年金… 「この国では、教育は他と全く同じビジネスになってしまった」、86000ドルの借金を引きずる学生、ジョン・スケリー John Skelly は断言する。規制がないため、20年前にはほとんど無償の教育を提供していた州立大学が今では、これも学費が暴騰している私立大学と、ほとんど同じくらい高くなってしまった。ところが、収益を考える投資ファンドが大半を所有する私立大学もまた、学生に就職先を最小限にしか提供できない… 真の悪循環だ。「そして実にこれが、アメリカが世界中に輸出しようとしているモデルだ!」、アンドリュー・ロス Andrew Ross は抗議する。自分の学部に、6桁の数の借金を持つ学生から成る、「100のクラブ」があることを知った、ニューヨーク大学の社会学教授は、学生たちに資金的抵抗運動を呼びかけることにした。要するに、払うのを止めるのだ。断固として。「一つの世代全体を奴隷状態にするのは異常だ、ましてや、我々が今経験している雇用状況では」と説明する。「多くの学生が、自分が入り込もうとしていることを理解することもなく、借金を背負っている。彼らがそれに気づくときには、しばしば手遅れになっている。罠にはまっているのだ。」
学生にとっては、こう言わなければならない、貸し付けを得るほど単純なことは何もないと。金融を学ぶにしても、古代ギリシャ語にしても社会学にしても。連邦政府の貸し付けは、単純な申請に対して、自動的に付与される。そして、議会によって決められた利率が、8%を上回るとしても、どうでもよい。20歳にして、それらの詳細を心配する者は稀だ。私的銀行に関しては、キャンパスや大学のインターネットのサイト上で直接的に勧誘するという具合に、学生は大歓迎だ。「彼らは、”未来に投資しなければならない“、金は問題ではない、我々は返済を始めるまで数年間ある、と繰り返す」、32歳の図書館司書、アニタは嘆息する。税込28000ドルの年収と50000ドルの借金を負う。確かに、奨学金はある。しかしそれは大学の全課程のごく一部をカバーするに過ぎない。結果として、大学の学費が年間15000から50000ドルの国で、多くの借り手が40代を過ぎてもまだ借金を背負ったままになる。バラク・オバマ自身、8年前まで自らの借金を返し終えていなかったことを認めた。デトロイト(ミシガン州)の総合医、51歳のアンドリューは、最後の月払い額を支払い終えたばかりだが、その直後に今度は息子の勉学に金を出すために新たな借り入れを背負うことになる。「息子には私と同じような負担を一生引きずってほしくない。」 結果として、ますます多くの学生が今では、勉強することを、ハイリスクの賭けと見なすようになっている。「いずれにしても、統計的には、依然として良好な投資のままだ」と、消費者金融保護局のロヒト・チョプらRohit Chopra は含みを持たせる。「学卒者の失業率は、非学卒者よりも4%低いままだし、労働市場への参入時の給与は大幅に高い。」 まだそこに場所を見出さなければならない。失業中の弁護士、29歳のジルは、まだ払わなければならない30000ドルを返済し終えることができないで、母親のもとで生活しに戻らなければならなかった。まだ6万ドルの借金を背負っている、働き口のない27歳のデザイナー、アンドリューは、自分の夢の仕事を始めることができるようになるものの、借金をさらに3万ドル増やすことになる、1年間の修士課程を埋めることを躊躇している。「結局、カジノに賭けるのと同じくらいリスクが高い。ジャックポットで勝つかもしれないが、反対に、負けを取り戻そうと期待しながら穴の底に堕ちるかもしれない。」
妥当な線を越えて過剰債務に陥った個人と、犯罪まがいの銀行。何も思い出さないだろうか? 2008年、サブプライム危機の時のように、学生の借金の3分の1以上に相当する4000億ドルが「証券化」され、つまり、再構成された後に派生商品の形で投資家に譲渡されている。心配ではないだろうか? 同じ原因が、それでも必ずしも同じ効果をもたらすわけではない。「今回は、システムよりも個人に重くのしかかる脅威だ」と、ボストン大学の経済学教授、ケビン・ラング Kevin Lang は明確に言う。サブプライム危機の時には実際、銀行は過剰債務に陥った家計の家屋を大挙して差し押さえたため、不動産市場の崩壊を引き起こし、金融危機を経済危機へと変質させた。学生に対しては、差し押さえる物は何もなく、借り入れの主要部分は公的信用機関によって保有されているために、金融危機は今のところ、今日的な話題になっていない。「反対に」、ケビン・ラングは続ける、「この借金が消費、不動産、自動車市場に重くのしかかる可能性はかなり高い。」 そしてだから、いずれは、経済成長に対しても。
NATACHA TATU
Le Nouvel Observateur du 9 à 15 mai 2013, n° 2531
どこかの国とかどこかの国の教育費が、常識とか良識の枠を超えて天文学的に高額であるなどという話は、過去に何度も触れたことがあるので、今さら繰り返しません。
訳文中の 「これが、アメリカが世界中に輸出しようとしているモデルだ!(c’est un modèle que l’on veut exporter dans le monde entier ! )」 の、最も忠実な輸入国の一つが、恐らくこの某国なのでしょう。
おまけにここでは、(低利子とはいえ)教育ローンの一種が「奨学金」を名乗っていて、本来の奨学金と紛らわしいという問題もあります。たとえ無利子であっても、返済義務のあるものは「教育ローン」であって「奨学金」ではないという、世界の常識が通用しません。これらは、「ショーガクキーン」という名称の金融商品であるということを周知させないで借りさせておいて、返せなかったら「ブラックリスト」入りというのでは、国家レベルの詐欺と言われてしかるべきです。以下略します。