移民に対するDNA鑑定は中止か? | PAGES D'ECRITURE

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フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。

サルコジ大統領就任後の2007年10月に、移民の家族呼び寄せで血縁関係を証明するDNA鑑定導入を含む新移民法案が成立しました。このDNA鑑定は、18ヶ月の試行期間を経て、正式に適用されない可能性が出てきました。

9月15日の『ル・モンド』に掲載されたと思われる論説Edito du monde、 Tests ADN, fin (DNA鑑定、終わり)という記事です。


Edito du Monde

Tests ADN, fin

LE MONDE | 14.09.09 | 14h07



それは、ニコラ・サルコジの当選から4ヵ月後の、2007年度の大きな論争だった。さらに厳格な方法で移民を抑制しようとする意志を示そうと強く決意した共和国大統領と、その友人で、当時の移民・国家アイデンティティー相、ブリス・オルトフBrice Hortefeuxは、移民の家族呼び寄せの出願を認可するために遺伝子検査を用いることを認める法改正を支持していた。

抗議の叫び声は社会全体か、ほとんど全てに広まった。左翼、中道の中だけでなく、与党の一部でも、宗教、科学、あるいは倫理学の権威の側でも、非常に多くの声が、あらゆる点で衝撃的な措置を非難していた。この改正案は、出生地主義を適用していることを誇りにする国に血統主義を狡猾に導入しようとしただけではない。移民の出願者が潜在的に不正行為を働く者であるという半ば明示的な前提に基づいていただけではない。それはまた、生命倫理に関する法律にも、親子関係に関する法律にも反していた。意識されるか否かは別にして、その根底にある人種主義については言うまでもない。

しかし国家元首とその大臣は、元老院によって、次いで議会の両院によって、それから憲法評議会によって、厳密に適用を制限するために最終的に採択された多数の複雑な注意書きを受け入れることになっても、象徴にしがみついた。母親だけが、自発的な意思に基づいて、DNA検査を求めることができ、その決定は判事に委ねられ、データの絶対的な秘密が保障され、いかなるファイルも作られない、等々。既に、多くの人々がこの管理策は適用できないと判断したほどに。

オルトフ氏の後任の移民・国家アイデンティティー相、エリック・ベソンEric Bessonはそのことを確認し行動を取ったところである。ベソン大臣は、9月13日日曜日、「この法の精神と字句を遵守すること」は自分にとって不可能であり、したがって遺伝子の指紋の検査の適用の政令に署名することはないと発表した。

2年前、元首相エドゥアール・バラデュールEdouard Balladurは、次の言葉で、この措置の撤回を求めていた。「過ちを犯したら、それを正すべきであり、後退してはならないと言う人によって強い印象を与えられることを放置すべきではない。間違えることに恥ずべきことは何もない。我国のイメージと評判を傷つけてはならない。」 それから2年後、政府はこの適切な忠告に従うことを決定した。全くしないよりは遅れてする方がよい。


Article paru dans l'édition du 15.09.09



http://www.lemonde.fr/opinions/article/2009/09/14/tests-adn-fin_1240118_3232.html


エリック・ベソン氏が「政令に署名しない」と発表しただけで、法律の規定そのものがなくなったわけではありません。

これに関して日本では報道されているのかどうか知りませんが、2007年10月に成立した時点では、下記の記事のように、比較的多く報道され、特定の層の支持を得ていたようです。



担当大臣が署名しないというだけで、実際にはまだ論争が続きそうです。
Lemonde.fr の他の記事によると、サルコジ大統領は、移民相に「理がある」としているそうです(Tests ADN : Sarkozy donne raison à Besson )が、だったら2年前の「公約」とやらは何だったのでしょう。人種差別的発想に由来して、極右受けした政策ですが、昨今の経済情勢などから、大統領自身が左にシフトしているのかもしれません・・・ フランソワ・フィヨン首相は9月14日、DNA鑑定が「放棄された」わけではないが、「現状では適用不可能」と言い、議会での新たな話し合いを検討しているそうです(Tests ADN : Fillon envisage une nouvelle discussion avec le Parlement )。