サルコジ大統領の「改革」で誰が得をし、誰が損するのか【7】司法 | PAGES D'ECRITURE

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フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。

サルコジ大統領の「改革」の影響に関する話題の続きです。今回は司法「改革」です。

これまで取り上げた、税制、労働時間、医療保険、学校、大学の「改革」が新自由主義的だとすれば、今回の司法「改革」は新保守主義的ということになるでしょうか。既に一部で悪化しているとされる治安を、新自由主義的政策でさらに悪化させる結果、見かけ上の治安維持のために厳罰化するという、「右傾化」する国に共通の病理と言えるでしょう。

『司法: 監視された自由にある判事』



Justice

Les juges en liberté surveillée



Les lois à venir rompent avec tous les principes en vigueur dans l’institution. Seront-elles pour autant efficaces ?

来るべき法は体制における全ての現行の原則を棄て去る。だからといって、効果があるのだろうか?



累犯者と未成年犯罪者に関する法案は、議会に最初に委ねられる法案の一つで、司法大臣ラシダ・ダティに擁護されているが、象徴あるいは革命でさえある。その法案はアメリカで大流行のやり方に着想を得ている。最も保守的な右翼に着想を得て、普通は野球の試合中に使われる用語で要約される、Three strikes, and you’re out ! つまり「三回目の空振りで、君は退場!」だ。それはまた、16歳から18歳までの年少者の処遇を成人のそれに合わせることを目指している。

 この新しい措置によって敗者となるのは、人々が信じている者では必ずしもない。第一に、確かに、多くの少年法廷判事、社会福祉に携わる人々、教育者は、この法に、無益なだけでなく危険な逆行を見ている。しかし左翼という評判のない判事の数も同じ位多い。司法制度、特に寛容主義者と呼ばれた、少年法廷の判事を絶え間なく批判しながら、ニコラ・サルコジは既に数ヶ月前に、当時破毀法廷の第一裁判長だった、とても穏やかなギー・カニヴェと、目覚しく前代未聞のやり方でボビニーの司法官にその指示をもたらしてきた検事総長、ジャン=ルイ・ナダルを激怒させることに成功していた。サルコジは左翼の弁護士を敵に回したが、明らかに、右翼の弁護士も敵に回した。同様に自分自身の陣営の代表者も。実際何度も、UMPの党首は累犯者と犯罪少年の免責に打ち勝つために、自分の意見を認めさせようと試みていた。ドミニク・ドヴィルパン、司法大臣パスカル・クレマンとUMPグループの一部は、受け入れられず、憲法評議会の検閲にかかる可能性のある法案を阻止していた。これからは、国民議会での大幅な多数派を保証され、「幸福の絶頂」に興奮した共和国大統領は、手段は自由であると見なしている。

 まず累犯に関して。ニコラ・サルコジは「最低刑」、すなわち判事が逆らうことのできない刑罰の固定した尺度を主張する。ラシダ・ダティによって示された法案は、それほど過激ではない(現実の原則があるためか?)。公式には、「自動的な」刑罰は消えた。しかし判事の判断の自由は今後、司法官の組合を茫然自失させている、非常に厳格な一覧表によって枠をはめられることになる。例えば、重罪裁判所では、犯罪が15年の刑を受ける場合は最低5年の刑、予想される最高刑が20年の場合7年、被告が終身刑を受ける可能性のある場合は15年である。軽罪裁判所では、最高刑が3年なら1年、5年なら2年、7年なら3年、10年なら4年である。束縛から逃れたければ、司法官は自分の決定を特別に正当化しなければならなくなる。

 第二の大仕事は、未成年だ。子供の権利に関する国際協定(刑事上の成人年齢は、民事上の成人年齢も同じように引き下げられる場合にしか引き下げることができないと規定する)に反して、累犯の場合には、司法官が書面で自らの拒否を説明する労をとらない限り、成人と同じように裁かれ得る。2000年代の若者の非行は60年前の「それと比べて何ら見るべきものがない」という理由で、ニコラ・サルコジが長い間要求してきたように、未成年に対する司法の取り扱いは、従って、大きく変更される。「ろくでなし」から「Kärcher」(注:ドイツの掃除機メーカー)へ、未成年を巻き込む三面記事のたびに、サルコジは善良な人々から、人生をだめにする暴力的な若者を取り除くと約束してきた。これらの施策の「勝者」は誰か?刑罰に関わらないことに不平を言う警官か?困難な地区の住民か?そうでないことは確かだ。恐らく、サルコジ的計画は世論の注意を引き、安心させている。これらの計画は複雑な問題に単純な解決策をもたらすことを主張する。関わりのある当事者の大半の意見では、象徴的な次元には多分有効で、原則(刑罰の個人化)についての次元では疑わしく、いずれにしても、それらの計画は制度を超える危機に対処する任に耐えない。というのは、悩んでいるのは行刑機構全体だからだ。手段の不足(最も完璧な例証となっている、メッツでの司法官襲撃という最近の事件)、仮釈放時の追跡調査の欠如、過剰収容の刑務所・・・

 司法省は「抑止力」という賭けに出る。裁判所では、司法官と弁護士が「拘留者製造機」に直面するのを確信し、投獄の急増を予言している。

AGATHE LOGEART



出典:

AGATHE LOGEART

Le nouvel Observateur No.2223 14-20 JUIN 2007

URL: 

http://hebdo.nouvelobs.com/hebdo/parution/p2223/dossier/a347100-les_juges_en_liberté_surveillée.html




7回にわたった、サルコジ大統領の「改革」に関する記事は今回で一旦終了します。

今回取り上げた中でも、少年に関する「改革」は、フランス国内でも特に反発を招いており、少年に関わる多様な職業の人々(司法官、弁護士、小児精神科医、教育者・・・)が署名活動を開始しています。Le nouvel Observateur の通巻2225号(国内版のみ)に掲載されたアピール、『少年は大人ではない』 

APPEL Les adolescents ne sont pas des adultes

という記事は、この署名活動の開始を宣言するものです。いずれ取り上げたいと思います。


民事上の成人年齢が18歳のまま、16歳の少年に成人と同等の刑罰を課すことが問題になっているわけです。本文中にもあるように、「子供の権利に関する国際協定(刑事上の成人年齢は、民事上の成人年齢も同じように引き下げられる場合にしか引き下げることができないと規定する)」 la Convention internationale des Droits de l’Enfant (qui stipule que la majorité pénale ne peut être abaissée que si la majorité civile l’est aussi)  にも反しています。

 もっとも、日本はとっくの昔にこの規定に反しています。死刑が存置されていること自体が大問題ですが、民事上「行為無能力者」とされる18歳の少年にまで死刑が科せられているのですから。少年法改正云々以前に、行為無能力者とされながら、死刑を科されるという矛盾には目を向けないで刑事罰を科せられる年齢を引き下げようとする現政権の手口は、保守化に名を借りた権威主義化に他なりません。


 この少年犯罪以外のもう一つの柱、「厳罰化」(最低刑期の設定)について、「抑止力」が期待されていますが、どうだか。確実な効果は、収監人口の増加でしょう。刑務所に「更生」という機能は期待しないで、犯罪者を社会から隔離することだけを目指した「幸せな監獄の国」(byマイケル・ムーア)アメリカは、2006年の人口10万人あたりの収監人口が738人と、OECD加盟国の中でも断然トップを独走しています。2位のポーランド、228人に3倍以上の差をつけて。フランスは88人と比較的少ない方に属していますが、サルコジ的刑法が成立したらどうなることでしょう。


 日本は68人で、アイスランドの39人に次いで、2番目に低い数字となっています。医療費や教育費などが、先進国としては極めて恥ずかしい水準にある(しかも、さらに減らそうとしている)日本にとって、ほとんど唯一といっていい誇れる数字だとは思いますが、その日本でさえ、刑務所の過剰収容が問題になっています。今後、フランスが同様の問題に直面する可能性は高いと思われます。


 ところで、GDPという数字には刑務所関係の予算も含まれます(軍事費なども)。軍事大国にして犯罪大国アメリカのGDPの、かなりの部分がこうした「負の予算」に依存しているとすれば、日本もフランスも、GDPの「成長」が見込めるということになります。さらに言えば、収監人口は求職者に数えられないので、見かけ上の失業率低下につながります。新自由主義と新保守主義という狂気に取り付かれたアメリカと日本、それを追いかけようとするフランスの政府にとっては、良いことづくめでしょう。(国民には何の幸福ももたらさない)


収監人口に関する参考エントリー

http://ameblo.jp/cm23671881/entry-10028891217.html



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