連載を更新しました。
よろしくお願いします。
巨人・・・厳しいですね。でも、ひとつずつ勝つしかない。

 会話を軌道修正しなければならない。
 城戸と咲の結婚話のみに戻さねば。
 ひょうまは3回ほど咳ばらいをすると
「咲さんと結婚したら、やっぱり咲さんはこっちに来るんですよね」
 くだらなさすぎる質問だが、うそをつくよりはまし。
「え・・・?ええ、まあ・・・そうなりますけどね」
 しかし、城戸のほうからは会話の続きを振ってこない。
 いくつかどうでもいい質問を繰り返すひょうまだが、会話が続かず・・・。
 なぜなのか。
 そもそもひょうまを誘ったのは城戸。
 なのに、らしくない。
 かといって、話も続かないなら帰ると腰を上げたくもない。
 尻ポケットに入っている携帯が何度も震動している、もちろんあきこからに決まっているのだが、震動するたびにうざくなり、どうしてもここにいるほうがましという考えで落ち着いてしまう。
 
 ひょうまの中では最早振る話題も尽きて、黙ってワインやつまみを食べ続けるが、居心地が悪い。
「星さん・・・」
 やっと城戸が声をかけてきた。
「星さん、離婚の理由って、本当に亡きみーなさんを忘れられないからなんですか?」
 飲みかけたワインが変なところに入ってしまい、思い切りせき込むひょうま。
「僕も聞く立場にあるのかどうかも含め迷ったんですけどね・・・」
 迷うなら聞いてくれるな、という以前に、城戸に聞かれること自体困るを通り越して・・・表現が見つからない。
 咳がやめば城戸は言葉を続けてくる。
 ひょうまはこれでもかというくらい咳をし続けているうちにひらめいた。
 いや、ひらめくなんてたいそうなものではない。
 逃げるしかないと思っただけだ、この咳にかこつけて・・・いや、今また震動している携帯を利用してもいいだろう。
 あきこのところに帰りたくないなんて生ぬるいことは言ってられない。
 城戸にうそをつくことだけはしてはいけない。
「せ・・・先生、すみません。ちょっともう帰ります、ちょっとこのまま飲むのもなんか引っかかってるみたいでつらいし・・・今姉からも電話がかかっているようなので」
 城戸に次の言葉をかけさせる暇も与えず、ひょうまはそそくさと立ち上がると、逃げるように城戸宅を出た。

 今のひょうまはまだ、城戸に何も言えない。
 しかし、いつか、真実を告げるべきかもという思いは沸き起こってはいる。
 いずれにしても、当然、おきゅうとも相談して足並みをそろえ、告げるときは2人一緒でなければならない。
 こんな形で、真実につながる話をすることは断じてできない。
(だが、城戸涼介は、離婚理由が違うかもしれないと疑っている・・・たぶん、今に始まったことではなさそうで・・・恐ろしい洞察力・・・)
 
 家に戻るとあきこがそれはそれは嬉しそうに三つ指ついてお出迎え。
「ひょうま、一緒にキャンプに行かれてうれしいわ」
 あー・・・もうなんだか八方ふさがり。
「別に遊びに行くわけじゃないからな・・・」
「わかっているわよ。ほんと、今まであなたとは離れっぱなしだったから・・・誰はばかることなく一緒にいられるのがうれしいのよ。キャンプに一緒に行かれる日が来るとは思わなかったわ」
「一緒にといっても、夜は選手たちに部屋を開放して相談にのるから・・・」
 いいかけて、選手たちの家族も帯同するなら、そんなことも必要なくなるのかと、ひょうまは絶望的な溜息をついた。   つづく