連載小説更新しました。
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 そう、ひょうまは、「完全試合達成」の「恩恵」を全く被っていなかったのだと、今でははっきり認識できる。
 本来なら、完全試合達成したあと、胴上げされ、観客からもみくちゃにされ、インタビューの嵐、スポーツ番組にひっぱりだこ・・・。
 そうやって完全試合同様、パーフェクトな喜びを味わわなければ、「正しい先」へ進めるわけがない。
 子どもが発達過程において、正しい時期に正しく反抗期など経験していかなければ、あとでひずみが生じる可能性があるのと一緒。
 そもそも、同時に、今では当時のK上監督の言も理解できる。
 引退に際してセレモニーをしてほしいと頼んだひょうまににべもなく言い放った。
「こっちは完全試合なんて頼んでいない。完全試合でも1勝、10対9で勝っても1勝。その1勝のために、来季も君を戦力と考えていたのに、勝手に左腕崩壊してくれたんだからな、たかだか自分のオヤジに勝つためだけにな。チームをなんだと思ってるんだ!さっさと身を退け」
 そう・・・。
 いっかつオヤジに勝ったのかさえ疑問だ。
 左腕崩壊と刺し違えての完全試合。
「完全に」勝つなら、身体もそのままで勝たなければならなかったのではないか。
 考えると今までの人生総崩れになりそうだからあえて考えないようにしてきたが。

(いや、今はもう自分のことだけ考えていろんな思いにひたるわけにもいかん)
 
 でも、もし、戻れるならば、おきゅうと霧笛で再会したときよりももっと前・・・。
 大リーグ3号の魔球を医者に止められた時点なのかもしれない。
 いっかつに勝つ時期はもっと先になるにしても・・・。
 
 過去を振り返っても仕方ないが・・・。
 
 左腕の痛み、野球を失った喪失感は、完全試合達成、いっかつを乗り越えた喜びをさっさと脳のかなたに葬り去ってしまった。
 野球以外の人生へ連れて行かれることは本意ではなく、イメージもわかなかった。
 だから、いっかつ、あきこらの前から姿を消した。
 本当に野球をあきらめなければならないのかどうか、自分だけで考えたかった、いや、野球をあきらめたくなんかない、野球だけを考えて生きていたい、それだけの気持ちで、世間から姿をくらました。
 
 5年後。ひょうまは、野球で身を立てられるかもしれないという希望が見えてきた、だから、再びちょろちょろと世間に姿を見せ始める。
 投げられないなら打つしかない・・・打者として、孤独のトレーニングを積んできた成果を確認したかったこともある。
 草野球の代打屋として10割の成功率を収めること、成功報酬の5万円という金額はぶっちゃけどうでもよかった。
 巨○軍への足がかりをつかめるかどうか、関心はそれだけだった。
 だから、5年ぶりにあきこと再会させられたときも、あきこと再会できた嬉しさよりも、野球をやりたい思いを邪魔されることを恐れたし、会わなかった間の彼らの5年間にも全く興味がなかった。
 ひょうまは再びあきこの前から姿を消した。

 その後、ひょうまは親友半の奇特な友情に助けられ、巨○軍復帰を果たすことになった・・・。

 一旦芽生えたひょうまへの心配は、たとえ、ひょうまが成功を収めたとしても簡単にあきこの中から消えはせず、鼻形に対しても、ひょうまを悲しませることをしたら許さないと言っている。
「そうよ、だから、ひょうまとこうやって一緒に暮らせれば、私は少しは安心できるし・・・いえ、とにかく、ただただ一緒にいたいのよ」
 つづく