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 ある朝起きたら俺は妻になっていた。

 本当にそんなことってあるのか。

 間違いない。

 現に、妻、いや、今は俺なのだが、きぜわしくネクタイなぞしめている。

 俺はことあるごとに妻に言い続けていたんだ。

「専業主婦は楽でいいなあ。時間に縛られないし、3食昼寝つき」

 妻は若干力のない笑みを浮かべて、否定もしなかった。

 本気で俺は入れ替わりたかったからびっくりしたのと同時にうれしさが全身にまわってくる。

 妻がやっていたように、コーヒーをいれ、パンを焼き、楽勝楽勝。

 妻は会社に行き、俺はまあ、朝のうちに洗濯掃除をすませるとすっかり用はなくなり、睡魔に襲われる。

(いいねえ、いつまで寝ていても文句なし)

 昼近くになり再び目が覚めると、ワイドショーを見ながらだらだら食事。

 午後は買い物。夕飯作りも特に苦にならない。

 こんな暮らしが毎日保証されているなら俺、一生女でいいや。

 見たいテレビもリアルにみられる。そう、時間あるんだから、本も読める。

 新聞の勧誘や生命保険の勧誘もインターフォン越しに断れるし、問題はないね。

 世間が狭くなるとか言われてるが今はパソコンあるからいながらにして買い物できるわ情報はいるわ、

「天国天国!!」

 毎日がパラダイスなわけで。

 妻は妻で結構楽しそうにやっているようだ。

 が、 男と女が逆転したのではない。妻と俺が逆転したのだ。

 俺は、そこのところをわかっているつもりが、実はまったくわかってなかったことに気づくときが。


 1ヵ月後。

 俺は強烈な不快感に見舞われる。

 下腹部が痛み、トイレに行くと下着が血だらけ。

「ぎゃああああ!」

 叫ぶが、妻は出勤した後。

(そうだ!忘れていた!)

 妻は40歳。まだまだ女ざかり。生理もまっさかり。

 ナプキンのありかを探す。

(こんな座布団みたいなナプキンをあてるのかよ!)

 赤ん坊みたいだ、なんていってられない。

 ナプキンをあてても、全然不快感はおさまるどころか、気持ち悪くなる一方。そのままトイレの前で気を失ってしまった。

 

 その頃会社で妻はばりばり仕事をこなしている。

(普通なら今頃はベッドで痛みにのた打ち回っているところだわ)

 妻の生理は重い。

 最低3日間はベッドから起き上がれない。恥じらいもあって夫にはそのことは一切隠してきた。生理ナプキンのありかすらわからないように配慮していた。結婚時に住居場所の関係で退職していたが、再就職したくても毎月3日間は休まなければならないとなると、就職は不可能だった。

 しかも生理不順ときたら、日程の管理すらできない。だから積極的に働くことは難しかったが、夫は妻の表面的な楽さしか見てなかったようだ。生理の3日の間、夫の食事は何とか用意するが、自身はほとんど食べられず、薬を飲むために仕方なく口に入れる程度なので、確実に3キロは体重も落ちる。

 

(夫は私なんだから、何事もなかったかのように食事を用意しておいてくれるはず)

 肉体的苦痛から解放され、かつ、夫の優秀な能力をそっくり受け継いだ妻は、最早夫以上の成果をあげている。


 一生男でいいや。妻。

 早く元に戻りたい。夫。

 しかし、両者の意向が一致しなければ性変換はできないシステムになっているので夫の願いはかなわない・・・かもしれない。

                              終わり

 

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