2000年の5月も末日に近いある日、

日元(ひもと)アイティシステムズの公共営業部にかかってきた一本の電話が、この受注戦の始まりだった。


「はい、お電話ありがとうございます。日元アイティシステムズ、公共営業部です。」


「こちらは日元総合電機の浅岡ですが、倉林さんおられますか。」


日元アイティシステムズは年間売上高1200億円、従業員4500人の情報処理業界の大手企業である。

日元総合電機は日元アイティシステムズの親会社で売上高3兆5千億円、従業員5万人、日本を代表するマンモス企業だ。


浅岡は、官公庁、とりわけ中央官庁に対する情報システムの営業を行っている。


「はい、私です。」

「ああ、お久しぶりです。国税庁さんは倉林さんのご担当ですよね。」

「ええ、そうですが。」


「実は、国税庁さんでうちが出られない物件がありましてね、

 日元アイシスさんにお話ししておいたほうが良いかな、と思いまして。」


日元アイティシステムズは、日元グループの中では、日元アイシスあるいは、

HIMSYS(ヒムシス)などと略して呼ばれている。

国税庁は日元総合電機のビッグユーザーで、日元アイティシステムズが日元総合電機を抜きにして、

大口の案件を直接国税庁とやり取りすることは考えられない。

また、小口の案件なら日元総合電機が口を出してくることも考えにくい。


通常は日元がタッチしないような小口案件を日元アイシスが対応しているのだ。

日元がアプローチしながら結局出られない物件とは何か、またそれを日元アイシスに紹介するのはどういう意味だろうか。


「どんな話ですか。」

「いや、ちょっと電話じゃちょっとなんですから、近々にもSEさんを連れて話を聞きに来てもらえませんか。」


浅岡の口調はやけに思わせぶりだ。


「分かりました。でも、どんな内容ですか。」

「ちょっと大きな話なんです。詳しくはその時に。」

「本庁の関連ですか。日元さんが出られないってどんな話なんでしょう。」

「まあ、詳しい話はその時で。来週あたりいかがですか。」

「調整して伺うようにします。ありがとうございました。」

「来週早々がいいですね。連絡ください、よろしく。」


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