宮古追跡大作戦!⑤ | ザ・ハングタン+

ザ・ハングタン+

「ザ・ハングタン」とは法で裁けぬ盛岡の鬼を退治する乙女たち。
この物語はそんな乙女たちの戦いのドラマである。
(現在「いわてマル秘指令ザ・新選組」アーカイブも公開中)

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翌朝、今井は午前5時に目を覚ました。
「どうしたんだろう、妙に胸騒ぎがする」
今井には何か予感があったのだろう。そしてそのままホテルを出た。
「チェックアウトで?」
フロントクラークにこう言われた今井は
「いいえ、まだ2泊残っています」
そう言ってホテルを後にした。

俊彦が目を覚ましたのは6時前。俊彦は慌てていた。
「もうこんな時間だよ。鍬ヶ崎へ…」
俊彦は気持ちを抑えきれない。これが彼の欠点である。
「鍬ヶ崎へ行きましょ~今井さん」
そう言って気持ちを切り替える俊彦。しかし今井はいなかった。
「あれ?今井さんは」
俊彦はフロントクラークに話を聞き、今井が出て行ったことを知った。俊彦は愕然とした。

その頃今井は宮古駅から三陸鉄道北リアス線に乗ろうとしていた。始発電車は久慈行きの朝6時ちょうど宮古発電車だった。時計を見ながら今井は行き先を検討していた。
「どこまで行こうか…」
今井にはまだ2泊するゆとりがある。無理することはないのだ。
「まずは三王岩か」
今井はまず田老にある三王岩へ向かうことにした。

三陸鉄道北リアス線は宮古駅から田老駅までは16分。ホームに下りたのは行商の老婆、今井、そして医療用マスクとレイバンのサングラスで顔を隠した福本の3人だった。
「しかしこの時間、暗いね」
この時期、三陸の朝6時はまだ夜が明けきらない浅葱色だ。この空から日が昇る瞬間を今井は見たかったのだ。
「三王岩はどこだ?」
今井が地図を見る。三王岩は田老駅から北に歩く。
「北に行けば田老魚市場がある。そこから海沿いに歩けば三王岩が見える」
今井は俊彦が以前ブログに書いた記事をプリントしたものを参考にしていた。人の受け売りと言うわけではないが、この方が早く着ける。
「よし」
その様子を福本も見てしまった。福本はサングラスを外して今井を尾行した。

さて、盛岡に戻ってきた夏子は俊彦の話を生徒たちに説明する。
「とりあえず、福本と言う人がこの写真の人で間違いないと思うけど」
さくらとさりが直哉に写真を見せた。
「この人よね」
しかし直哉はわからなかった。
「…」
さりが直哉を急かした。
「思い出して、お願い、後藤君」
理恵子が直哉を抑える。
「…」
直哉は目を閉じた。直哉に襲いかかった男はサングラスとマスクをしていた。そして男は中肉の顔つきで、あごにタコができていたことに気がついた。
「サングラスと、マスク?」
栞が直哉を問い詰める。
「マスクって、医療用の?」
「ああ」
直哉の事件の容疑者もサングラスに医療用マスクと言う姿で顔を隠していた。これを俊彦に報告すればいい。
「ちょっと待ってて」
夏子は俊彦の携帯電話に連絡した。
「あ、俊彦さん?」
俊彦は鍬ヶ崎の宮古魚市場で朝食を頂いていた。朝食は市場の定番、ラーメンだった。
「店ラーメンもいいが、市場のラーメンもなぁ」
市場のラーメンと言えば、博多長浜ラーメンもルーツは市場だった。市場のラーメンと言うものは得てして細麺であり、仕事を終えた漁師たちの活力にもなっている。
「うまいな」
そこへ夏子からの電話が入った。
「あ、原俊彦ですが」
「よかった」
俊彦は夏子に何事かと尋ねる。
「それなんだけどね、後藤君斬りつけた男はサングラスに医療用のマスクで顔を隠してたんですって」
夏子が俊彦と話をしていると、直哉は写真の男のジーンズを見てこう言った。
「あっ!これだよ」
さくらが例の写真を持って夏子に説明する。
「直哉が見たって人も、あの写真のようにジーンズがギラギラしていたって」
「ということは、金箔かラメ」

ここで俊彦は推理を始めた。まず元日に盛岡で直哉を斬りつけ、その足で宮古へ。そして翌日は宮古の鮭祭りに参加した。
「と言うことは、今日の行動は…」
今井はもしかして男に口を封じられるかもしれない。そして野沢も釜石で巻き込まれただろう。
「こうなったら、こっちにも覚悟がありますよ」

夏子は俊彦が推理したことを聞いた。
「ついでに福本という人物を洗い出し、盛岡学園に縁故があるかどうか調べてほしい」
「わかった」
夏子は電話を切った。

その頃野沢は宮古市某所で両手を猿轡のようなもので縛られていた。
「…助けてくれ、お、お前がやったことは」
だが野沢がいくら叫んでもその声は波の音にかき消される。

三王岩からのぞく朝日が今井の身を照らした。
「気持ちがいいな」
今井は三脚にもたれながら朝日を写していた。
「よし、今日の朝日は雲も程よくあってよさそうだな」
それを崖の上から福本が眺めていた。福本はサングラスをもう一度かけた。
「いい朝日だ。これがあいつの見る最後の朝日になるとも知らずに…」
静かに笑みを浮かべる福本に電話が入ってきた。
「はい」
「おはよう。実はもう一人…」
石森はもう一人始末したい人が出来たということで福本に依頼した。
「もう一人、誰です?」
石森の新たな標的は今井だった。
「今井豊彦は5年前のことを嗅ぎ回っている。原俊彦と行動を共にしているらしいしな、まずはこっちからやってもいいぞ」
「わかりました」
福本は今井が朝日を撮影しているところを見下ろすようにして立った。動けばすぐに今井を殺せるかもしれない。しかしあえてここは自重した。
(もしここでやってしまったら、野沢の身柄も警察へ…あいつの口から真実が漏れたら大変だ)
福本は今井と俊彦を一気に消す決断をした。そしてタクシーでそのまま宮古の街へ戻った。

夏子たちハングタン一同は朝8時に清水町のマンションを出た。夏子の車で約2時間、浄土ヶ浜で落ち合うことになっていた。
「先生、待って」
慌てていたのは理恵子だった。さりとどっちを直哉の看病役にするかで迷ったからだ。同級生のさりが看病することになり、さくら、栞と共に乗り込むことになった。
「よぉし、今度は逃がさないわよ」
こうして夏子の軽自動車は再び宮古に向けて出発した。