2026年3月8日、バンテリンドームナゴヤを発着点とする名古屋ウィメンズマラソン2026が開催されました。アジア大会代表選考会を兼ねたMGCシリーズG1という大一番。テレビ中継にて観戦しましたので、感想を交えながらレースを振り返ってみたいと思います。

スタート時の気温はおよそ6度、湿度34%、北北西の風5メートル。レース中は最大約7メートルの向かい風が吹きつけ、選手たちを徹底的に苦しめました。気温だけ見ればそこまで厳しくないように思えますが、この強風こそが今大会最大の試練だったと言えるでしょう。

序盤は3分20秒を切るハイペースで進みましたが、10km以降は3分30秒ほどに落ちる区間も。風への耐性の差が、そのまま順位の差となって現れた印象的なレースでした。



向かい風の洗礼を受けるように、実力者たちが次々と先頭集団から脱落していきました。

まず8〜9キロ過ぎに鈴木亜由子(日本郵政グループ)が苦悶の表情で後退。続いて11キロで安藤友香(しまむら)も第1集団から遅れ始めます。さらに19キロでは、女子マラソン日本記録保持者の前田穂南(天満屋)までもが集団から離れてしまいました。前田は「体が冷えて、おなかが痛くなった」とのこと。強風による体の冷えが腹痛を招いたようで、本当に気の毒な展開でした。

そして初マラソンの樺沢和佳奈(三井住友海上)も19キロ過ぎには集団についていけなくなります。パリ五輪10000m代表の五島莉乃(資生堂)も中間点を過ぎたあたりから徐々にペースダウン。こうして先頭集団は急速に絞られていきました。

見ていて感じたのは、この向かい風への「耐風性」の差です。脱落した順に耐風性がなかったとも言えるわけで、マラソンの奥深さを改めて実感しました。

そうしたなかで光り輝いたのが、佐藤早也伽(積水化学)です。

加世田梨花(ダイハツ)、大森菜月(ダイハツ)とともに冷静にレースを進め、31キロで大森が足のケイレンにより後退すると、海外勢2人(優勝したシェイラ・チェプキルイ=ケニア、アイナレム・デスタ=エチオピア)との4者の争いへ。40キロ前に加世田が苦しくなると、最後はチェプキルイとの一騎打ちとなりました。

ラストでは抜け出すことができず、2時間21分54秒で連覇を達成したチェプキルイからわずか2秒差の2時間21分56秒で2位。昨年に続く日本人トップです。

「チャレンジしようと思って先頭の選手に並びかけたりしたのですが、力負け。悔しいし、もっと強くなりたいと思いました」と佐藤は語っていましたが、個人的には最後まで崩れることなく粘り強く戦い抜く姿に、終始わくわくさせられました。佐藤の「粘り強さ」という信条が、強風という逆境のなかで存分に発揮されたレースだったと思います。なお、MGCシリーズ2025-26の年間王者も彼女が手にしています。

五島莉乃(資生堂)は2時間24分44秒で7位となり、MGCの出場権を獲得しました。28キロ付近まで先頭集団に食らいついた点は昨年より確実に成長しています。ただ、後半の失速という展開は昨年とどこか似ているようにも感じられ、五島自身も「30キロ以降も1段階、2段階とスパートをかけられるようにベースを上げつつ、スピードも落とさず強化したい」と課題を口にしていました。

樺沢和佳奈(三井住友海上)は2時間27分20秒の13位。パリ五輪5000m代表として今大会が初マラソンでした。もともとトラックの選手として世界と戦ってきた彼女ですが、「トラックでは世界とは戦えない」と悟りマラソンへの転向を決意したとのこと。トラック競技のペースに比べればマラソンのペースは遅いわけですが、最速ペーサーグループで最後まで粘るだけのスピード持久力はまだついていないようでした。五島・樺沢ともにトラックからのマラソン転向組ですが、後半に脚が売り切れてしまう点を見ると、距離への耐性という意味ではまだ課題が残ります。今後の成長に期待です。

鈴木亜由子(日本郵政グループ)は2時間33分28秒の23位。地元・愛知での再起を目指しましたが、8キロ過ぎに先頭から遅れ、涙も浮かべながらのゴールとなりました。「力不足なのかなと思う」と言葉を選びながら語る姿が印象的でした。今後については「ちょっと考えます」とのこと。次のステージに向けて、どんな決断をされるのか見守りたいと思います。

前田穂南(天満屋)は2時間31分21秒の21位でMGC出場権獲得はなりませんでした。故障からの復帰2戦目という状況で、「まずは走り切れてよかった。徐々に調子も戻ってきている」と前向きなコメントは出ています。

大森菜月(ダイハツ)は31キロで足のケイレンという アクシデントがありながらも2時間23分45秒で5位に入り、MGCの切符を掴みました。中継を見ていて感じたのは、上下動がなく非常に効率的なフォーム。マラソン向きのきれいな走りで、今後がとても楽しみな選手です。

信櫻空(横浜市陸協)は2時間24分34秒で6位。女性では珍しいプロランナーで、第2ペーサーグループから冷静にレースを進め、終盤には第1集団からこぼれた選手を次々とかわして両手を挙げてゴール。「MGC出場権を絶対に獲得する」という目標を見事に達成しました。プロとして覚悟を持って臨んだレースで結果を出す姿、本当に素晴らしかったです。

村上愛華(東京メトロ)も2時間25分07秒の9位で初マラソンにしてMGC出場権を獲得。「キツかったけど、すごく楽しかった」という言葉が印象的でした。第2ペーサーグループから粘り切った走りはお見事のひと言です。


今大会のMGC出場権獲得者は佐藤、加世田、大森、信、五島、村上の6選手で、女子のMGC出場権獲得者は計16人となりました。MGCは2025年10月3日、今回と同じ名古屋市内で開催予定です。今回の強風を経験した選手にとっては、尾張路特有の気象条件への対応力も大きなアドバンテージになるかもしれません。

ロサンゼルス五輪に向けた戦いはまだ続きます。出場権を掴んだ16人の今後の活躍が今から楽しみです。

おわり