春になると、聴きたくなるのがドビュッシーの歌曲集。ドビュッシーのどこか東洋的でアンニュイで軽やかな響きが、草木の色彩や香りがたちあがる蠱惑的な春という季節にシンクロするように思います。

 

 ドビュッシーの歌を通じて、私は詩人ヴェルレーヌやピエールルイス、マラルメの詩を知り、好きになりました。特にヴェルレーヌの「艶なる宴」は好きな詩のひとつ。宮廷風趣味的恋愛(ギャラントリー)を謳ったヴァトーの美術やバルビエの挿絵を想起させる詩です。

 

艶なる宴の「ひそやかに」の歌詞を読むと、「山桃」や「ナイチンゲール(西洋の鶯(うぐいす)と言われている)」が使われていることから、季節は春の夕べなのでしょうか。「望みなきふたりの声」とあるので、登場するふたりは、秘密の恋人同士なのかもしれませんね。とても好きな歌ですので、聴いていただけると嬉しいです。

 

1曲目「ひそやかに」ヴェロニカ・ジャンスの歌声で。

https://www.youtube.com/watch?v=_rsP2_-IscY

ひそやかに暗がりで

 高い梢から射す影に、

  二人の愛を注ぎ込もうね、

    この深い静寂に。

溶けてしまおう、ふたりの心も魂も

 うっとりとした感覚も。

  ぼんやりけだるい風情を

   醸し出すのは松と山桃。

暇を半ば閉じておくれ、

 胸に腕を合わせてね、

  そのまどろんだ心のままで

   何も思わずそのままずっとね。

ふたりの心を委ねよう、

 やさしくゆするそよ風に

  きみのの足もとに吹いてくる

   褐色の芝を波立たせる風に。

やがて夕べが厳かにも

 黒い樫(カシ)から降りて来るだろう、

  望みなきふたりの声を、

   ナイチンゲールが歌うだろう。

注)2020年3月19日の過去記事です。