私たち避難者は、私たち自身のすぐ足元に、巨大な時限爆弾が仕掛けられていることに、気付くことができませんでした。起爆装置のスイッチは、2011年3月11日に発生した東北太平洋沖地震でした。そして、翌3月12日、その爆弾は、水素爆発を起こしました。私たち原発周辺の住民は、「原子力、明るい未来のエネルギー」「原子力、正しい理解で豊かな暮らし」という標語が大きく掲げられた地域で生きてきました。私たちの地域は、この40年余り、原子力発電所とともに歩み、その経済的恩恵を受けてきました。
 しかし、私たちは失いました。「生きる場」そのものを失い。故郷を喪失しました。 避難過程の混乱の中で、多くの人々が命を落としました。かけがえの無い多くのモノを失いました。
 「まだ何も終わってないし、何も始まっていない。」
これはある被災者の言葉です。原発事故という一つの原因を発端に、様々な被害が発生し、苦しく重い問題が生じました。住むところ・食べるもの・家族離散・経済的困窮・ コミュニティーの崩壊・精神的ストレスの増大などです。また同じ被災者・避難者であっても、そのなかで賠償基準や支援対象などの違いにより様々な格差が生じ、心の溝まで生まれています。
 原発事故は終わっていません。私たちに、のしかかった問題も山積したままです。
「まだ何も終わっていない」、私たちの「心」は立ち止まったまま、あるいは揺れ動き、「始めることができない」でいるのです。
 一昨年6月に施行された『原発事故子ども・被災者支援法』は、原発事故被害者の生活を守り支えるための基本となる事項を定めた理念法とされ、私たちは大きな期待をし希望を持ちました。この法律には国の責務として、「~ ~これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、~ ~被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。」とも書かれていました。
 しかし施行後、復興庁担当参事官の被災者に対する暴言問題が発生し、さらに基本方針の策定を参院選後まで先送りすることで秘密裏に関係省庁間で合意していたことが明らかになりました。
 私たちは、自分たちの都合ばかりで行動する政府に、ずっと放置され続けていたのです。そして、ようやく昨年10月に閣議決定された基本方針も、支援対象範囲の線引きの基準があいまいで限定的なものとなってしまいました(多くの原発事故被害者が望む年間被曝線量1ミリシーベルトという国際基準は採用されず)。私たちの「期待」は今、「いかり」あるいは「あきらめ」ヘと変わりつつあります。「このままで良いのだろうか?」「このまま有耶無耶にされるのか?」私は、震災から3年を迎えるにあたり、不安を感じました。
 原発事故の責任は、原発をつくる事を許し、またその存在を認めてきた私たち大人にあります。だから、その被害は、私たち大人が受けて当然です。しかし、その被害は、『たまたま放射性物質が降り注いだ地域の人々』だけが被るものであってはならないはずです。少なくとも、子供たちには一切責任はありません、被害を与えてはなりません。
 しかしこのままでは、、、
 今、東日本を中心に、「訴訟」という手段で被害者たちが立ち上がりはじめています。
その訴訟は、『賠償請求による被害回復』を求めるだけではありません。この闘いを通じて、①国の損害賠償責任を明らかにする事、②被害に対する完全賠償を実現する事、③被害者に恒久的な補償制度の確立を実現させる事、④子ども・被災者支援法で打ち立てた理念を現実化する事、⑤事故原因を解明し再発防止策を徹底させこの地球上で二度と同じような惨事を繰り返させないようにする事、を求めています。
 この愛媛でも、国と東電を相手にどう立ち向かうかの話し合いは、震災直後からずっと続けられてきました。
 しかし、私たちだけで立ち向かえる相手なのだろうかと考えた時、大きな不安が募りました。漠然とした怖さも感じました。また疲弊しつつある私たちにとって、訴訟にまで発展すれば、精神的にも金銭的にもさらなる負担となるのは間違いありません。
 それでも、私を含め追いつめられた避難者たち6世帯は、今まさに立ち上がり、自分のために・子や孫のために・未来世代のために闘おうと昨日の3月10日に提訴をしました。
この闘いは、当事者ではない皆様の将来にも繋がるものです。無関係ではありません。
私たちに闘い続ける力を与えて下さい。なにとぞご支援をいただきたくお願い申し上げます。
渡部寛志
*子ども・被災者支援法
(基本理念)
第二条  被災者生活支援等施策は、東京電力原子力事故による災害の状況、当該災害からの復興等に関する正確な情報の提供が図られつつ、行われなければならない。
2  被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない。
3  被災者生活支援等施策は、東京電力原子力事故に係る放射線による外部被ばく及び内部被ばくに伴う被災者の健康上の不安が早期に解消されるよう、最大限の努力がなされるものでなければならない。
4  被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては、被災者に対するいわれなき差別が生ずることのないよう、適切な配慮がなされなければならない。
5  被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては、子ども(胎児を含む。)が放射線による健康への影響を受けやすいことを踏まえ、その健康被害を未然に防止する観点から放射線量の低減及び健康管理に万全を期することを含め、子ども及び妊婦に対して特別の配慮がなされなければならない。
6  被災者生活支援等施策は、東京電力原子力事故に係る放射線による影響が長期間にわたるおそれがあることに鑑み、被災者の支援の必要性が継続する間確実に実施されなければならない