ちょうど曲が終わった頃
部屋から誰かが退室して
こちらに向かって来る気配がした。
私は店のフロント近くの
ベンチで俯いて座っていた。
足音があと5メートルで私に届く所で
カラオケの部屋をまた一人退室した扉の音と同時に、
「カツく~ん!」
と呼ぶ女の子の声がした。
その時に私は初めて
こっちに向かっていたのが彼だと知った。
クラスの女子が何やら彼に話している。
「3組のケイちゃんがさぁ、カツ君の唄を聴きたいって言ってるのよ。
3組もこの店でカラオケしてるらしいから、一緒に来て!」
カラオケボックスの騒がしさが
私に対してマイナスに手伝って、
必要以上に大きくなる話し声を
聞きたくないのに
聞いてしまった。
「オレ、遠慮しとく」
彼は断ってくれた。
「え~何で~?いいじゃん1曲くらい」
女子はしつこく交渉している。
「オレその子知らないし、もう帰るし…」
「え~、じゃぁ、その代わりに
カツくんのベル番教えて!
これでケイちゃんに勘弁してもらってあげるから

」
人に頼めば
こんなにも軽く彼の番号を聞けるものなんだ…
この子とケイちゃんて子が
すごく卑怯に思えた。
彼も仕方なしに番号を教えていた…
断りきれなかった状況は解るけど、
私はものすごく腹が立って
彼とその子の横を
無言で素通りした。
彼の視線が私の背中に痛いくらい突き刺さったが
マイに
『ごめん、門限だし帰る』
と伝えて
急いで電車に飛び乗った。