彼の仕事が終わるまで



そう長くはなかった。



私は駅近くのカフェで



何から考えたらいいのか、



混乱する頭がショートしてしまい



ボーっとしていた。






久しぶりに会った彼。



そんな突然の再会をするやいなや



彼に至近距離で髪を触られる状況…。




優しい言葉で緩む涙腺…。





もう考えても整理できないことが

短時間で起きていた。







『いらっしゃいませ』





カフェの入口で




こちらを向いて手招きしている彼を見つけた。






私は飲んでいたカップを片付け、


足早に彼の方へ向かった。








「お待たせ。
オレ、車なんだけど
酒飲むなら車置いてくし

どうする?」




「私、明日も仕事だし
お酒も強くないから
今日はナシでいいわ。

カツ君が飲みたいなら話は別だけど…」






「オレは明日休みだし
飲みたいな~

お前、運転してよ(^O^)」





「いいよ~
悪酔いしないでね~。」






今夜、彼と過ごす一晩が




この先、私の身体と記憶に




忘れられない1日となった。



「オレ?

オレは子供が7人の子沢山パパしてる!」








は!?





信じる間もなく
開いた口を閉じる前に





「うそうそ

オレもまだ独身だよ


いや…
ごめんごめん。
なんかお前、
疲れてる顔してたから
いろいろ聞いてみたくなってさ…。

仕事キツイのか?」






彼の優しさに

張り詰めてた糸が切れた音がした。



気づけば
目頭が熱くなってきて


下瞼に乗ってギリギリにこぼれそうな滴を

必死で瞳に返した。




「心配してくれてありがとう。

仕事はキツイ…
というか

結局プレッシャーと自分の意地との戦いなんだよね。
自分を休める時間もないし、
リセットする勇気もない。

お蔭様で
仕事終わりに愚痴を聞いて慰めてくれる彼とも別れたので
この疲れた顔で毎日歩いてますわ…」




私は『それでも大丈夫』と
冗談まじりに
強くなった自分を見せた。






ホントは、
指一本で押されても倒れてしまいそうなくらい

心身ともにフラフラだった。







そんな私の話を、
彼は黙って聞いていた。




彼から目を逸らして俯く私の頭に

ゆっくりと優しく
彼の手が乗り
撫でてくれた。






「お疲れ。

頑張ってんだね。

でも、10年前と変わってなくて強がりだな。


オレも今日早番だし

この後
飯でも行く?」






私は俯いてた頭を
慌てて上げた。



彼が鏡越しに
ニコッと微笑んでいた。




私は黙って頷いた。
「失礼します…」





彼は黙々とカットを始めた。






私と彼は、






彼がケイちゃんと付き合い始めたのをきっかけに








接触しなくなったんだったな…









彼がなかなか話さないのは








不意打ちに私が来店して若干戸惑っているのかもしれない。










「美容師さんになったんだね」






沈黙を破ったのは私だった。





「ん……うん。」





彼だって10年も経てば、






ケイちゃんと結婚してるかもしれない。








ケイちゃんと別れてたとしても







こんなにかっこよくなってるんだから





彼女くらいはいるだろう。







私は緊張していた自分に言い聞かせて




緊張を解いた。










「お前は今何してるの?」










「あっ…私はデザイン会社で営業してるんだ…」








そう。



私の仕事は営業。







毎日ノルマ達成!ノルマ達成!と上から言われ、









ストレスと過労の塊だった。








「そんな近くにいたのに
なかなか会わなかったね」








彼の何気ない言葉に、







一瞬ドキッとした。







「あぁあ……私、最近この支店に異動になったからさ…ハハッ」








「そっか……」










10年前と変わらず、









2人は話すことに不慣れな会話をしていた。














「結婚はしてるの?」










彼から突然直球が投げられた。











「してません。
彼氏もいません。

久しぶりに会って
この年頃の女性に
すごいデリケートな質問するじゃん---」












「ぁあっ!失礼しました!


てか反応おもしれ--クックッ」








彼は悪戯に笑う。






私は恥ずかしくて顔を紅くする。









でも何となく







緊張が解けた。











「そういうカツ君は?」











私は恐る恐る






質問を返した。