「現役自衛官セクハラ国賠訴訟」の原告は、先日、ロイター通信による取材に応じました。取材内容が含まれている英文記事が5月19日、オンラインに発表されました。記事の要旨を、同訴訟を支援するクローバーの会にてまとめました。
末尾に、英文記事へのリンクを置いてあります。
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日本の自衛隊はもっと女性を必要としている。しかし、ハラスメントに関してはまだ失敗している。
自衛隊内の女性隊員の割合は一時上昇していたが、セクシャル・ハラスメント事件が相次ぎ、減少に転じた。
元自衛隊員の五ノ井里奈氏が2022年に性的暴行疑惑を公表した後に、防衛省は「ハラスメント防止対策有識者会議」を設置した。同会議は2023年8月に「ハラスメント防止対策の抜本的見直しに関する提言」をまとめた。この提言では、一元的な監督体制を求めている。また、自衛隊の従来のハラスメント防止教育は表面的なものであり、国としての一元的な監督体制の欠如が、自衛隊の体質の問題に関係していると指摘している。
五ノ井氏が性的暴行疑惑を訴えたのち、防衛省は全自衛隊員に対して特別防衛監察を実施した。その結果、170件あまりのセクハラ疑惑が明らかになった。
別の、自身が受けたセクシャル・ハラスメントで国家賠償請求訴訟をしている女性自衛官は、ここ10年間のハラスメント防止研修は効果がなかったと言っている。彼女は2013年に沖縄で古株の隊員からセクハラ発言を受けた。その後、2014年に実施されたセクハラ防止研修資料では、彼女は名指しされ、一方で加害者の名前は伏せられた。
五ノ井氏も、この国賠訴訟原告も、制度が不十分だと批判している。
自衛隊内のハラスメントを根絶し女性兵士を増やそうという声は、日本の高齢化が進む一方近隣国との緊張が高まり、同国が戦時中の重い遺産に対処しようとする中で出てきた。米国の女性軍人の割合は17%であるが、日本の女性自衛官の割合は9%である。
ロイターの取材に対し、防衛省は、ハラスメントは決して許されない、と答えている。2023年度は外部講師による研修に力を入れたが、2024年度は研修を見直すために専門家を招くとのことだ。しかし自衛隊全体としての研修の一元化については回答しなかった。
ロイターが担当職員に取材したところ、防衛省にはそのような体制を導入する計画はないとのことだ。
担当職員はさらに、防衛省は、一般的なハラスメントに関するオンライン研修プログラムを提供しているが、実際に研修が実施されたかどうかの確認は実施しておらず、指揮官に裁量がある、と述べた。
ロイターは4月、外部講師を招いて行われたハラスメント防止プログラムに参加した。ロイターが講師にインタビューしたところ、世代間格差によるコミュニケーションの難しさがあり、ハラスメント防止にはコミュニケーションの基本を理解する必要があるとの答えだった。
有識者会議の座長を務めた只木誠教授は、この外部講師による研修は提言に応えるものではなかったと述べ、研修実施に対する監視の徹底には時間がかかるだろうと付け加えた。
ロイターが上記の担当職員および2人の幹部隊員にセクハラ事件について質問しても、答えは一般的なハラスメントに関するものに終始した。担当職員によれば、自衛隊は特殊な環境であり、標準化された研修を行うのは困難とのことだ。一方、幹部隊員はハラスメント防止対策が作戦上の問題を生じさせたり、正当ではない苦情の申し立てにつながったりする可能性について示唆した。
防衛省はある声明の中で、指揮官が「ハラスメントを懸念するあまり、職務上必要な指導をためらうことがない」ようにすることも研修の目的としていると述べている。
只木教授は、米英仏各国の軍隊のハラスメント対策は、根本的な原因からハラスメントを防止し、組織の体質や文化を改善できるよう設計されており、日本はこれらの国の軍隊から学ぶことができるだろうと述べている。
(了)
原文:
“Japan's military needs more women. But it's still failing on harassment.”
Reporting by Sakura Murakami and Tim Kelly; Additional reporting by Nobuhiro Kubo; Editing by John Geddie and Katerina Ang