犬との旅 明石へ 3
人間のいない道
いつも木曽路を走っていると目につく光景のうちのひとつに山口ダムの放水がある。
いつもここを通るとき車体が名古屋方面を向いているために放水はバックミラー越しに小さく観ていた。今回はポーリーも一緒だし、時間にも余裕があるからトラックから降りてこの放水を近くで観ようと思った。ダムを通り過ぎてからすぐに左側にスペースがあった。トラックを止めようとウインカーを出すと、ポーリーは降りる事を悟り、助手席で立ち上がって興奮した。
勢いの良い木曽路の流れからはずれて急停車をするようにトラックを止める。エアー式のサイドブレーキを引くと車は「プシュー」と大きな音を立てる。これでポーリーはトラックから降りると確信する。そして、ポーリーはさらに興奮をして、運転席にいる俺の腿の上に立ったままの姿勢でのっかる。犬の小さな手でツボが押されて気持ちいい。俺はエンジンを止めて財布と携帯カメラだけを持って運転席を飛び降りて助手席側に回りドアを開ける。そして尻尾を振っているポーリーを抱きかかえてトラックから降ろした。少し歩くと目の前には閉鎖された旧道があった。立入禁止と書いてあった。俺とポーリーは無視してゲートを通り越した。使われていない道は荒れ果てていた。進行方向に向かって左手にあるガードレールの下は谷。アスファルトがひび割れて所々が崩れている。使われなくなったコンクリートの蔦だらけの橋もあった。近づくとこわい。右手は急斜面。苔の生えた大きな樹がたくさんある。水の音がするけれど水が見えなかった。ポーリーはジグザグに獣の匂いを嗅ぎながら忙しそうに足早で歩いていた。
この人の通らなくなった道が閉鎖されてどのくらいの時が経ったのかはわからないけれど、周りの大きな自然は、人の造った道を消し去ろうとしている様に覆い被さってきている様だった。
歩いていくとトンネルがでてきた。
出口の方から工事の機械の音が聞こえてきた。
ポーリーが何の躊躇もせずにトンネルの闇に消えていきかけたところで呼び止めた。ポーリーがこのまま進むのなら大丈夫なのかもしれないと思ったけれど、俺はこのトンネルには入る事が出来なかった。なぜなら、この晴天の空の下、そこには真っ黒な闇が存在していたからだ。
