10年ぶり(!)くらいに吉祥寺に足を踏み入れた。夫と息子がお世話になっている美容師さんが、南青山から独立して美容室を開いたのが吉祥寺なので、夫と息子は定期的に吉祥寺に通っている。今は夫が入院中なので、今回は私が連れてきたというわけだ。

 我が家は息子が2歳半になるまで井の頭線沿いに住んでいたので、吉祥寺は良く遊びにきていた。時間的には渋谷に出るのと変わらないが、吉祥寺の親しみの湧く感じが好きだった。

 東急百貨店吉祥寺店の出入り口(メインの出入り口ではないほう)のドアを開いた瞬間、思い出した。息子が生きのいい魚のようにピチピチ暴れながら泣いた日のことを。

息子が生まれた2013年、新幹線N700Aが導入され、東海道新幹線の主力はN700系に置き換わり、2015年には700系車両の引退が加速していた。それに伴い、おもちゃ屋さんの店頭からも700系のプラレールが姿を消し始めていた。*1) そんな中、2歳児の息子は見つけてしまった、、、東急百貨店吉祥寺のおもちゃ売り場で700系のプラレールを。店頭でレールの上を走る700系を羨望の眼差しで熱く見つめ、20分以上動かない。もちろん脇には700系の細長い箱をしっかりと抱えている。そこで、夫がしゃがみ込んで、息子と目を合わせて言った。

「今日は誕生日でもクリスマスでもないから、買わないよ。」

息子はその瞬間、「受け入れきれません。」という表情でパタリとデパートの床に倒れ込み、一呼吸置き、手足をバタバタさせて泣き始めた。そばにいた、孫を連れてきたよそのおばあちゃんが、漫画に描いたようなシーンを目の当たりにし、目を細め「可愛いわねぇ。」と笑っていた。「お誕生日に買おうね。」などとなだめてみたところで息子の耳に届くはずがない。夫は息子をヒョイと持ち上げ、横抱きにして抱え(縦抱きだと暴れる手足が当たって痛いから)、必死に笑いをこらえていた。

「なんか羨ましいなぁ。こんなに泣き喚くほど欲しいものがあることが。」

相手は2歳児とはいえ、全力で泣いているところを笑ったら申し訳ない。とは言え、私と夫は堪えきれない笑い声を漏らしながら、お互いの顔を見ては何度も吹き出しつつ、東急の吉祥寺店をあとにした。その時出てきた扉が、まさに今手をかけた扉だった。

可愛い。泣くところすら愛おしい。もちろん今の成長した息子も愛おしい。ただ、まだ分別のつかない時期の息子も、生き物として格別だったなぁ、と思う。


 私は2人目が欲しいんだろうか。あの小さい頃の息子に寄り添った日々が懐かしいだけなんじゃないのか。もう一度あの頃と同じような日々を送りたいという気持ちが2人目を希求しているような気がするが、これって2人目の子供にとって大分と重くないか。息子の時は「〇〇みたいな子供」をイメージすることなく、純粋にその存在を望まれたのに、2人目は「第一子のような可愛い子供」を求められることになる。これって純粋さに欠けやしないか。もし仮に2人目を産むことができたとして、ちゃんと1人の人間として愛せるのだろうか。息子とぶらぶら吉祥寺を歩きながら、私の抱える気持ちは、2人目を望む気持ちとして、正しくない気がしてきた。


*1) ネットで探せばあったのでしょうが。