懐メロを家事をしながら聞き流していた*1)私のYouTube music から宇多田ヒカルの “First love” が流れた時、初めて耳にしたらしい息子が、「煙草の香りだって。嫌だね。」と言った。

「最後のキスはタバコのflavor がした 

 ニガくて切ない香り」という冒頭部分。


そうか、息子は煙草の文学的小道具としての価値を知らないのか、と思い、「かつての日本の文学や映画や音楽の世界では、煙草に、人間の感情をより趣深く描く効果があった。宇多田ヒカルのこの歌詞は、『タバコのflavor』というワードが失恋の切なさや苦さをより情緒的に感じさせる。また、この歌はこの歌手が15歳の時に書いたものだから、『タバコのflavor』というワードだけで、少し背伸びをして年上の男性と付き合っていたのかな、などという背景すらぼんやり感じ取ることができる。」と伝えてみた。昭和の最後で生まれ、平成に育った私たちの世代は、学童期には煙草の匂いが街の至る所に点在していたし、昭和時代の文学をゴリゴリにインプットして育ち、このなんとも言えない、それこそ染みついたflavor の様なぼんやりとした感覚を確かに身につけている。それは息子に伝えるために言葉にしようとするととても難しかった。と同時に言語化すると伝える意味があるのかわからなくなるくらいには白けちゃう、と思った。



*1)「懐かしい」という感情には気分調整機能があるらしい。気分を調整したい時は懐メロがオススメです。