<第二章 努力を続ける 1-3>
スマート電気の受付から内線電話で鈴木由美子を呼びだすと、先に中村課長が表れた。
中村課長は、40歳、佐藤と同じ表参道デザイン研究所を出て、エレメントデザインに入社した、3年後、当時まだ部長だった伊藤本部長に気にいられてスマート電気に引き抜かれた。
エレメントデザインの小林社長も、アイデアやスタイリングをクリエイトする能力よりも、調整力に優れた中村の将来を考えて、移籍を快諾したと聞いている。
「無理を言ってすいません、山本さんも来てくれたんだね。何しろ、2カ月後の四半期報告会で、ラフなモックアップを見せられるところまでこぎつけたいものだから。」
「いえいえ、これは、大事なプロジェクトですから、何としても四半期報告会に良いデザインを提示できるようにしましょう。」
「ありがとう。今日はテレビ会議室を押さえた」
「テレビ会議室?どうしてですか」
「伊藤本部長が上海に出張中なんだ」
「えっ伊藤本部長とテレビ会議ですか?」
「そうなんだよ」
テレビ会議室に入ると、テレビ画面の向こうに伊藤本部長の姿があった。
「山本君、鈴木君、ごくろうさん」
「伊藤本部長こそ、海外出張中にも関わらずありがとうございます。」と山本は、まるでそこに伊藤やいるかのように深く頭を下げたので、佐藤も一緒に頭を下げた。
「いやいや、佐藤君の操作系をタッチパネルにしたデザインを活かすためには、ターゲットを絞り込んだ方が良いと思ったんだよ。でも、マーケティングの連中は、欲張りだから、もう一度コンセプトを整理して強いメッセージにした方が良いのではないだろうか?鈴木君は、自分の主張は強いが、ロジカルな説得力という意味では、まだまだだからね。」
「本部長、お言葉ですが、マーケティングの期待に応えるのが、私たち開発の仕事では?」と鈴木由美子が口をとがらせた。