<第二章 努力を続ける 1-2>
電話が終わるのを待っていたように、ディレクターの山本が聞いて来た。
「鈴木さん、なんだって?」「田中取締役から、『コンセプトとデザインのロジックが繋がっていないんじゃないか?と指摘されたそうです。」
「そうか、それで明日行くんだね。じゃ俺も同行するよ。」 山本は、佐藤よりも4歳年上の26歳、鈴木由美子と同じ小平美術大学を卒業し、このエレメントデザインに入社した生え抜きだ。エレメントデザインのディレクターの中では最年少で、今は、スマート電気を担当しているプレイングマネジャーだ。
「TH-EAは、低迷する洗濯機事業に新しいライフスタイルを提案することで再起を試みる重要なプロジェクトだから、佐藤にまかせっきりではまずいからな。」
TH-EAは、従来樹脂やステンレスで構成されていた洗濯僧の表面に、シリコーンゴム製で可動式の内壁をつけることによって、もみ洗いや絞り脱水を実現し、洗濯及び脱水時間を時間を従来の1/2に短縮するという製品であった。この技術により、独身者から共働きの主婦、大家族にまで受け入れられる製品を目指していた。
「やっぱり、1つの機種で全てのターゲットに満足してもらうというのは難しいんじゃないか?」と山本は、聞いた。佐藤は応えた。
「しかし、設計の渡辺課長によると、『全ての部品が新規になるため、ターゲット別に容量の違う商品を用意すると投資金額が大きくなりすぎて、プロジェクトそのものが立ち行かなくなる。』とのことでした。」
「だとすると、やはり、最もコンセプト適合性が高いターゲットに資源を集中するというコンセプトにして、デザインを絞り込んだ方が良いのではないかな?」と山本は続けた。
「そうですね。やはり、洗濯機を購入するタイミングは、独立するとき、結婚するとき、今使っている洗濯機が壊れた時だと思いますが、TH-EAは、共働きを継続する新婚のカップルにターゲットを絞った方が良いのでしょうね。」と佐藤が応えた。
「それに、鈴木さんが抵抗しているってことか、『容量を変えずに、操作パネルのデザインを変えることによって、異なるターゲットにアピールできる応用性の高いデザインにしたいということなんだね。」
「そうなんです。しかし、そうすると、スマートフォンなどに慣れた若い主婦用の操作パネルと、不慣れな40台の主婦向けに、違う操作パネルを用意しなければならないし、独身者向けのシンプルな機能の機種も用意しなければなりません。しかも金型投資がかさむ容量は共通だと言う矛盾が生じるのです。」
「そうか、わかった。でも、それは、うちの問題じゃないな、鈴木さんと中村課長との間で解決してもらわなければならない問題だな。」と山本はまとめた。