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サークル活動記です。
たまに関係ない記事も書かれます(爆


目のやり場に困る

だんだんと状況が掴めてくると

とたんにあたふたしてしまう

千尋「あ~ぁ、あの服気に入ってたのに…今日は何か起こりそうだと思ってめかし込んだのにな……油断した」

女の子から発せられる殺気が和らぎ

そのまましゃがみ込むと、地面から何かを拾い、とても大事そうに握り締めた。

蒼司「っ!」

画面効果:横に流す

効果音:茂み走る

俺はその間に、はっと我に返り、一目散に駆け出した。

逃げるなら今しかない。

俺の残り霊気は無いに等しい

千尋「あ! ちょっ」

逆に俺を油断させて殺す気だろう

さっきのプレッシャーを思い出す

効果音:



後ろから組み付かれた

蒼司「うあぁ!」

殺される!

千尋「待ってよっ!」

誰かっ!

蒼司「助けっむぐっ…んーっ! んぅんっ…」

口を手で塞がれた

いい匂いがする…

って、じゃない! 助けも呼べないじゃないか!

まずいぞ。

どうする。

???「服着てないんだから助けなんて呼ばないでよ! 誰かに見られたろどうするのよ!」

蒼司「……?」

は?



俺は自分の口をふさいでいる女の子の手をトントンと叩いた

蒼司「っぷはぁ!」

女の子が手を離してくれた。

しかし、俺を盾にでもしてるかのように背後にへばり付いている

一瞬女の子が何を言っているのか理解できなかった

蒼司「え?」

???「それとも女の子こんなにして一人で帰る気?」

蒼司「……ごめん」

よくわからなくなっている頭でとりあえず謝る

???「私を殺す気は無いみたいね…よくわからないけど雰囲気もこないだと全然違うわね」

蒼司「? 無いです無いです」

彼女も圧し掛かってきた時と別人の様に今は殺気が無い

肩を叩かれた時もなぜか殺気はなかった…

しかし、最初感じたあの殺気は? と思い出すがやはり全て同一人物だ

蒼司「……君は何なの?」

???「鬼灯 千尋……」

女の子はそう答えると俺に背を向ける

俺は見ないように別の方を向きながら自分の着ているコートを脱ぎ彼女にそれを手渡した

千尋「…どうも……」

ちょっと意外そうだけど嬉しそうな声

蒼司「さっきまで堂々としてたように見えたんだけど…」

千尋「敵と殺し合うのに恥じらいなんか邪魔じゃないの」

蒼司「…………」

まぁ確かに…ってことは、やっぱりさっきは俺のことを殺す気だったって事だよな…

蒼司「あの…無傷だし、自分で打っといてなんだけど、どういうこと?」

動きや気配でさっきまで殺されるかもしれないというのに

何故かもう俺を殺す気は全く無いように感じた。

それはこの子の目を見たからだろう

意味の無い殺意は向けない感じがする

千尋「服のこと?私の肉体自体は強いから別に、あんな程度の霊力じゃ傷つかないわ。でも服は服、妖力を服に通したり放出しとかないと強い奴と戦ったらすぐに裸じゃない…
それでも一点集中特化の攻撃とか戦ってる最中に服まで力を区分するのが勿体無いような敵に会ったらボロボロだけどね…」

蒼司「そうなのか…でも、なんで…俺のこと襲ってきたの?」

とりあえず右斜め上の木を見ながら話す

千尋「一昨日の事覚えていないの? 道端でいきなり妖気溢れさせて殺そうとしてきたのに……」

蒼司「俺が? 鬼灯さんを? どうして?」

殺そうとした?

宮内はもう死んでるし…誰だろう?

千尋「そんなのこっちが聞きたい! こっちは一昨日いきなり君に襲われて……それで今日君を見かけたから一人になるのを待っていたのよ…でも峠で会った時は無視されたし、
さっきも私の存在に気づいたのに発しているのは妖力じゃなくて霊力だしね。おかしいなと思って話しかけたらやっぱり霊力で、しかもぶっ放してくるから、なんだやっぱり殺る気じゃない! って思って行ったら殺気は無いし…なんなんだろう? って思ったわけ」

俺がその殺人鬼と同一犯なのは決まってるのか…

千尋「君は…人間なの?」

蒼司「あぁ人間、でもほんとにその襲ったっていう記憶が無いよ。 君を殺そうとしたなんて」

千尋「ふ~ん……」

鬼灯千尋は何か探るような目をしてこっちを見ている

蒼司「それよりほんとに怪我は無い? まともにはいったように見えたけど」

千尋「だからあんな霊力じゃかすり傷一つ付かないよ。確かにまともに入ったりはしたけどね。とにかく油断したよ……こないだは妖力を使っていたし。まさか霊力も使えるとわ
思わなかったもん……」

千尋「人間が妖力使うなんて珍しい…妖じゃないの?」

蒼司「俺は人間!」

千尋「あはは、わかったわかった。名前はなんて言うの?」

蒼司「天城蒼司」

千尋「天城蒼司…か……蒼司は霊術師の家系なの? ……」

蒼司「知ってるの?」

千 尋「ううん、なんとなく。元々私はこの土地の生まれでもないし。でも妖、霊、魔の三力のうち二つも使えるモノなんて見たことないし聞いた事も無いから…も しただの命知らずな妖だったら、命を狙ってきた以上すぐに殺してしまおうとも思ったけどね……だってあまりに久し振りだったし、私にケンカ売るやつなん て…」

蒼司「俺の先祖は鬼を血液に封印したって伝説があるみたい」

千尋「ふーん…確かにさっきの霊気より一昨日の妖気のほうが遥かに強力だったけど鬼の気配は無かったし、あの程度の妖力で鬼なんてちょっと妖気の強い"魑魅魍魎"なんじゃない?」

俺は絶対同一犯とは違うが、言われてるヤツを思うと不憫だ…魑魅魍魎だってさ

あっ、でも俺より強いのか…

蒼司「…そうだ。千尋は妖なの?」

千尋が下の名前で呼んできたし、歳もそんな変わらないか、もしくは俺より下だろうし俺も下の名で呼ぶ事にした。

千尋「うん。鬼」

蒼司「えっ!?」

は?

えっ!? 

蒼司「鬼?」 

千尋「うん。鬼」

鬼。

……この子が?

……鬼…ねぇ…

? あの鬼?

………………

でも、怖くない…

何よりさっき間近で見た瞳が、信用できる目だと感じた。

蒼司「…鬼……か…もっと怖いかと思ったな、さっきの妖気もほぼ一般人の俺にもわかるくらい強力だったし…それになにより話も通じるし」

千尋「あれ? 鬼って聞いても平気なんだ?」

蒼司「さっきは殺されるかと思ったけど」

千尋「蒼司が私の命を狙わないならその必要は無いわよ…」

やっぱり、今のこの子から受ける怖さが全く無い

蒼司「その……服…弁償したほうがいい?」

千尋「いや、それはもういいよ…それより帰りなんとかしてよ…まだ7時くらいでしょ? このまんまじゃ帰れないじゃないの」

蒼司「え……どっどうやって」

千尋「わかんない…」

……………

蒼司「深夜に何か持ってきてもらうか………」

千尋「深夜? 彼女?」

なんか言ってる? まぁいいや解決方法は…えーと…

深夜、自転車持っってないんだよなぁ

どうすっかな~

千尋「うぅ…寒い………」

とか言いながらジト目で見てくる千尋

草・走る音:

エフェクト

森の中から青い剣が千尋に向かって飛んできた

千尋はそれを掴むと青い光を放っていた剣は強力な妖気に触れ

黄色に剣が光ると、剣の周りが赤っぽく発光し本来の強力な力を発揮していく

しかし千尋は握っていた剣をたやすく握りつぶした。

蒼司「げっ! 凄い霊力を発し初めていたのに…」

いとも簡単に霧散してしまった剣

霧散した霊力は一つ一つが炎となり握りつぶした千尋の左手を伝い燃え始めた

燃える自分の手をボーっと眺める千尋

千尋「…………」

千尋は燃える手に息を吹く

すると宮内を軽く貫き焼き尽くした程の剣と霊気の炎はたちまち消えてしまった

千尋「?」

由紀菜が神社のある方角の森の方から宮内戦では考えられない霊気を発しながら真っ青な顔で飛び出してきた

由紀菜「天城君っ!」

蒼司「由紀菜?」

由紀菜「天城君! だいじょう……? ぶ…」

由紀菜が固まっている

そりゃそうだろう

自分の霊気を吹き消して涼しい顔をする少女

その少女がコート一枚で俺と対峙

寒い中コートを脱いでいる俺

倒れた木々

絶対普通の光景には見えない

…強………姦……?

蒼司「あっ、あのな、これは、違くって」

由紀菜「………あなた何者?」

由紀菜は気にせずに千尋に話しかけた

由紀菜の身体は震えている

すぐに由紀菜は腰を落とし霊穴門を開いていく

蒼司「うっ」

木の葉が渦のように巻き上がる

由紀菜は、まだ霊力を上げようってのか? 

緊迫した空気が立ち込める

由紀菜は千尋が強力な何かであると感じどうするか周りや状況を確認しながら霊力を更に上げていく

そういった所は流石だと思う

由紀菜は間合いを確かめている

反対に千尋は余裕過ぎる表情

多分千尋にとっては今の由紀菜の霊力も脅威ではないのだろう

……………………

その由紀菜の問いに千尋は

千尋「鬼の"鬼灯千尋"です。こんばんはっ」

由紀菜「!?」

またしても固まる由紀菜

由紀菜「おっ…鬼…?」

千尋「そう、鬼。あなたは由紀菜? でいいのかな?」

由紀菜「…」

由紀菜が凍りついた表情のまま黙って頷く

千尋「蒼司の友達?」

由紀菜「…えっ、…えぇ……」

矢継ぎ早に質問をくらう由紀菜

鬼と聞かされ、その鬼に能天気に質問攻めに合うこの状況に全く付いていけていない

千尋「そっか、じゃあなたも霊力とかを使う家系なのかな?」

由紀菜「…」

由紀菜が頷く

千尋「あぁ、もう大丈夫だよ、そんなに警戒しなくても。私は人間じゃないけど別に私に敵意を持って襲ってくる相手じゃない限りは敵視しないから」

由紀菜「あ、天城君…どういうこと?」

やっと搾り出した台詞は、まだたどたどしい

蒼司「由紀菜こそ、どうして戻ってきたんだ?」

由紀菜「私は…天城君と別れた後、尋常じゃない殺気と妖気を感じて戻って来たの」

蒼司「あーそういう事か、千尋は俺を誰かと勘違いして殺そうとしてたんだ」

由紀菜「っ!? やっぱり危険じゃないっ!」

蒼司「いや、千尋の勘違いだったんだ。だから落ち着いてくれ」

由紀菜「…別に戦う気は無いわよ…むしろあんな強力な妖気を放っていた鬼と戦う事が無くてほっとしてるくらいだわ。それに敵じゃないのなら戒律は守られているもの」

千尋「うーん、ねぇ由紀菜、蒼司って妖力も使えるの?」

由紀菜「? 使えないと思うけど」

千尋「そっか、ほんとに私の勘違いかもしれないな」

蒼司「だからそうだってば」

由紀菜「…でも、なんで千尋さんは裸にコート羽織ってるだけなの………」

うっ

千尋「千尋でいいよ。私も由紀菜って呼ぶから♪ ねっ? …それでね、うん、それが……」

千尋「さっき彼に襲われて…」

そう言うと千尋は泣き真似をする

おい!

由紀菜「…………天城君……」

蒼司「ちょっ確かに言い訳しても通らないだろう状況だったけど話を聞いてくれ!」

千尋「あはは、ウソウソ。さっき話したとおり、蒼司を殺そうと襲ったの。そしたら霊気を放たれたのよ。油断して服にまで妖力を通す暇が無かったの…」

由紀菜「…ま、ほんとだったら今頃、骨の破片すら残ってないでしょうね」

千尋「そゆこと」

蒼司「……………」

千尋「それより、ほんと寒い…」

由紀菜「あっ、ちょっと待って」

由紀菜はコートを脱ぐと

由紀菜「これを下に巻いて天城君の自転車で送って行きましょう」

そういって千尋にコートを手渡した

千尋「ありがとう! うわぁっ! このコート暖かーい」

蒼司「由紀菜、俺の自転車って…」

由紀菜「私のはマウンテンバイクだから二人乗りは無理よ?」

蒼司「あっ二人乗りね! てっきり俺だけ置いていかれるかと思った」

由紀菜「そこまで鬼じゃないわよ」

千尋「あっ、今のうまーい! 由紀菜座布団一枚~♪」

なんなんだこのメンバー

しかもあんま面白くないし

俺でも言えるギャグだわい!



[神社~午後~七時四十七分]

蒼司「げっ! もうこんな時間か!」

由紀菜「ほんとよ! あぁ~夕飯どうしよう…なんか疲れたな……面倒くさいしカップめんにしようかしら…」

宮内戦では疲れた様子の無かった由紀菜がグッタリ

余程の緊迫間だったんだな

俺も精神的には瞬殺されたもんな…生きてるのが不思議だ

千尋「私はご飯、何にしよう…」

あっ、急いで帰らないと深夜怒ってるかも

蒼司「千尋! 早く乗ってくれ」

千尋「はいはーい♪」

軽っ!

由紀菜「じゃ、行きましょう」

千尋「しゅっぱーつ」

コブシを天に突き上げた千尋のコートがはだけた

千尋「おっとっと♪」

蒼司「やめんか!」

千尋「てへり」



[星見ヶ丘~峠~]

千尋「♪」

千尋は鼻歌を歌ってる

由紀菜も気が付いたのかこっちを見て声を出さずに笑っている

蒼司「千尋楽しそうだね?」

千尋「うん、人間とこうして一緒の時間を共にするなんて久し振りだな…楽しい」

由紀菜「へー変わってるのね、鬼が人間と居たなんて」

千尋「うん、変わってると思う友達にもそう言われた…」

そう言った千尋の声はとても穏やかで、優しくて…とても俺が思っている"般若"とか"すくな"とかの恐ろしい鬼のイメージが合わなかった

鬼とは昔から人々を惑わせたり怖がらせたり、命を奪ったり力の象徴等と考えられてきた

千尋「色んなヤツがいるよ…」

由紀菜「…何かあったの?」

千尋「…ん、昔とちょっとね」

千尋がアクビをした

二人とも口を開かずにカーブの外に見える景色を黙って眺めていた



[碧空町]

さてここからどうしよう…

星見ヶ丘から降りてきた俺たちは考えをめぐらす

蒼司「千尋?家はどこらへん?」

千尋「ワインズブルー」

蒼司「なんかお洒落な名前だね」

千尋「そうかな?」

由紀菜「えっ? あのワンルームマンション?」

千尋「うん」

由紀菜「あそこ結構家賃高いでしょ? こないだ、うちに入居者募集の広告着てたもの…」

千尋「うぅん、全然高くないよ」

由紀菜「……あのマンションが高くないなんて…なんて経済力……」

千尋、ワンルームマンションかよ! てっきり洞穴とか廃墟で暮らしてるかと思った。

命に関わるから言えないけど…

蒼司「千尋って、そんなにお金持ってるの?」

千尋「そんなに持ってないけど…って当たり前でしょ、ちゃんとバイトだってしてるんだから」

そう言いながら、こんにゃろーとばかりに背中に、頭をぐりぐり押し付けてくる千尋

由紀菜「バイト?」

そう聞いた由紀菜も俺と千尋の光景を見て笑っている

千尋「うん、碧空町の商店街に"ソリーゾ"って言う名前のパン屋あるんだけど? 知らないかな?」

蒼司「あー知ってる! あそこ地味に美味しいんだよね。うちのクラスの女子がたまに買って来てて、俺も貰ったことあるよ」

千尋「地味ってゆーな! 美味しいんだぞっ! 私そこでパン作ってるんだから」

由紀菜「へー、今度行ってみようかしら」

千尋「うん、来なよ! 焼きたてだすから」

蒼司「え? タダで?」

千尋「そんなわけないでしょ!店長に怒られちゃうわよ」

蒼司「だよね」

由紀菜「それよりこの後、どうしよう…マンションまで結構あるよ?」

千尋「……」

蒼司「…」

なんかやな予感…

千尋「ここから一番近い家の人」

由紀菜「…」

由紀菜は俺を指差す

俺は千尋を指差す

"GO HOME"っていう正義の意味をありったけ込めて

由紀菜「天城君の家は、ここからなら私の家より人通りが少ない道のりで行けるわ」

蒼司「おいぃぃーっ!」

千尋「今晩お世話になります」

蒼司「いや、そんなこと言われても…」

由紀菜「決まりね? それじゃ私こっちだから天城君また明日ね、千尋っバイバイ」

分かれ道うまく使って、しかも正論付けて逃げたな…

千尋「ばいばーい」

蒼司「………」

とりあえず俺は悲しそうな目をして、由紀菜に手を振り返した。

なんてこった…

後ろの鬼は呑気に手振ってるし

千尋「よし、じゃあ天城家へご厄介になりに行きますか」

…公園側から通っていくか。冬だし少年達も、もう公園にはいないだろう

うぅ…深夜怒ってるだろうなぁ…

早く帰れって言った本人がこれだもんな

ま、事件は解決したんだけど

千尋「蒼司の家、楽しみだなぁ…」

蒼司「家は、期待しないでくれよ」



[天城家前]

蒼司「着いた」

千尋「へー、中々良いたたずまいだね、趣のある民家だし。この隣の工事してるマンションも蒼司の家?」

蒼司「? そんなわきゃないじゃんか、マンションと一軒屋ってどんな増築だよ。うちはこっちの一軒屋だけだよ」

千尋「なーんだ、私蒼司の家には失望させられたよ…」

蒼司「…………なんで失望なんだ、しかも勝手に期待したんじゃないか」

千尋「じゃ、狭い所でなんですが」

蒼司「それは俺の台詞だ! そして人の話を聞けっ」

千尋「あはは♪」

からかわれてるのか俺は…

蒼司「ただいまー」

千尋「おじゃましまーす」

……………

居間に行くと

蒼司「うっ」

案の定、深夜がテーブルの前にちょこんと座り

両手に端を一本づつ持ち恨めしそうにこっちを見ている

その仕草が無性に可愛いんだが本人は怒っているのだ

千尋「あれ? ?屍…? どうして?」

知らない存在に気づいた深夜はきょとんとした顔で千尋を見ている

蒼司「あー、ちょっとね…うちで一緒に棲んでる?屍の"深夜"。まぁ妹みたいなもん」

千尋「へー可愛いね」

蒼司「すまん深夜、ここにいる鬼の千尋と色々あって今日一泊することになったんだ! 後、ごはん遅くなってごめん」

深夜「……………」

許してくれた?

…深夜はコックリとうなづいた

よかったジト目じゃないときはセーフだ、いじけてはいない

そして"お年頃の色"のある知識が無いだけに、千尋の裸にコートというふしだらな格好の部分には無関心だ

千尋は深夜の側までやってくると、目線を合わせるためにしゃがみ込んだ

千尋「あなたが深夜ね? 千尋よ、正体は多分気づいてるわよね? よろしくね?」

そういって深夜の頭をなでた

深夜は無視して俺のほうを見て茶碗を指差した

蒼司「はいはい今用意するからちょっと待ってくれ」

千尋「あら、私ふられちゃったかな」

蒼司「いや、人見知りというか…従姉弟に対してもこんな感じだよ」

千尋「そっか」

そのまま千尋は和室の方へと入っていくと俺の両親の仏壇に手を合わした

……………はぁー、利発そうなお子さんだこと

蒼司「深夜、千尋に服を貸したいから少し待っていてくれ」

深夜「………」

ゆっくりと深夜は頷いた

深夜の服じゃ流石に小さいからなー

別に俺のでいっか

蒼司「さーて、どれにするかなー」

タートルネックにトレーナーでズボンはGパンでいっか

下着は無理だな

我慢してもらおう

蒼司「はい」

千尋「それにしても蒼司の家って寒いわねー。あ、ありがとう、さすがに下着は無いわよね」

俺は変態か! 持ってたらマズイだろ

千尋「どこで着替えれば良い?」

蒼司「ここの突き当たりが洗面所になってて、風呂場になってるからそこで着替えれるよ」

千尋「おっけー」

蒼司「じゃ、俺は先に居間に行ってるよ」

千尋「はーい」

少しして居間に千尋がやってきた

千尋「おまたせ、ちょっとズボン痛いわね」

蒼司「しょうがないよGパンだもん」

千尋「財布まで消滅してるからな~」

蒼司「えっ!? まじで? うわぁごめん!」

だよなすっぽんポンだったし…

千尋「あーいや五千円しか入れてなかったから大丈夫だよ」

蒼司「いや、五千円弁償するって! 他にカードとかは?」

千尋「いや給料は手渡しで出してもらってるしカードは使うほどお店行かないから」

蒼司「………」

千尋「まっほんと気にしないでよ」

蒼司「ごめん」

千尋「大丈夫だって! あ、それじゃあ今日の夕飯ご馳走でお願い♪」

蒼司「オーケー! よし、どうしようかな」

今からご飯作ったらもっと遅くなるな……

蒼司「よし、今日は出前にしよう」

千尋「手抜き手抜きー」

蒼司「俺が今から作ったらもっと時間かかるよ?」

千尋「…」

蒼司「…」

決まりだな

千尋「…私オムライス~♪」

蒼司「そんなんでいいのか? もう少し良いものでも」

千尋「うんとびきり美味しいオムライスが食べたいな…いやグラタンとかも捨てがたいなー」

蒼司「オムライスにグラタンかぁ……深夜、何食べる?」

深夜「……………」

俺は電話の側にあった出前表を渡す

蒼司「あっ、千尋はオムライスだからエルパティオにでも食べに行くか、深夜それでいい?」

深夜は出前表を置いて立ち上がるとコクコクと頷いてニッコリ笑った

蒼司「深夜、外寒いから何か上着てきたほうがいいよ」

千尋「エルパティオ?」

蒼司「うん、碧空町の駅前にあるイタリアン専門店」

千尋「へーそんなところあったんだ。うん行ってみたい」

蒼司「よし決まり、じゃ千尋は由紀菜のコート借りてくれ」

千尋「はーい、由紀菜のコート暖かいのよねー」

蒼司「俺はこれを着てっと」

深夜が翔子姉から買ってもらったコートを羽織って来た

何で行こう…深夜と二人の時は二人乗りだったが

自転車…そうだな、三人で乗ってくか……

千尋は細いし、深夜は小さいしな

高校時代の正樹さんと翔子姉と、当時小学6年の俺でやっているので、お巡りさんに出くわさなければ全く可能な走法なのだ

あの頃は色んな乗り方を試しまくって何度のたうちまわったことか………

蒼司「よし、千尋後ろに乗るんだ」

千尋「よっと……? ねぇ蒼司、深夜は?」

深夜「……………」

深夜は俺と千尋の間に無言で割り込み千尋の方を向き千尋にしがみつく

蒼司「よし準備はいいなー?」

千尋「…………」

蒼司「行くぞー」

千尋「ま、いいけど…転ばないでよ?」

蒼司「まかせとけ! 千尋、地面蹴ってくれ!」

千尋「はいは~い」

千尋が後ろに乗ったまま地面を蹴ってくれたのを確認すると俺は漕ぎ出した

あらかじめギアを一番軽くしていたので余裕の発進だ

千尋「へー結構しっかりしたママチャリね」

蒼司「生活必需品は耐久力命かな」

重さに慣れてきたのでギアを一段重くした

蒼司「深夜、しっかり捕まってろ、坂下るぞー」

俺はハンドルを握り締める

転びませんように

対向車来ませんように

千尋「いけーっ!」

深夜「…………」

二人とももう少し怖がろうよ

大騒ぎして、偶然出くわしたお巡りさんに追いかけられたが上手く巻いてエルパティオへ到着



[エルパティオ前]

蒼司「ひぃーっ」

つっ…疲れた……

足がパンパンだ

反対に深夜と千尋は最高潮に楽しそうだ

千尋「いい運動になったんじゃない?」

蒼司「食べる体力が残ってない」

深夜は俺の袖を掴むとお店の中へと引っ張っていった

やすませてくれ~

ずるずるずる~

鐘の音:カランカラン系

翔子「いらっしゃいませー! って、蒼司に深夜じゃない、あら? 両手に花じゃな~い。…えーとそちらのお嬢さんは?」

早く紹介しなさいと浮き足立っている翔子姉

おばちゃんじゃないんだから

なんて股が裂けても言えない…多分そのまま真っ二つにされそうだ

蒼司「翔子姉っていって俺の従姉弟」

千尋「こんばんは、鬼灯千尋です」

翔子「ふむふむ、また可愛い子捕まえてきたわねー。興味無いみたいな事言ってたのにもう私たちの所に紹介しにくるなんて」

蒼司「…翔子姉、早く中に入れてよ…寒いよ……」

翔子「あっ、ごめんごめん、そうだった。三名? 公平とか後で来る?」

蒼司「うぅん、三人だよ」

公平が来たらなんて大騒ぎになりそうだから考えたくも無いぞ…

俺が最近由紀菜と喋っていると、話しただけでも絞め殺されそうだ……

公平立ち絵:

公平「蒼司ーーーーっ! 貴様ぁーーーーーっ!!!」

懐中電灯をおでこに二本さして、金属バットを振り回す公平の姿が浮かんだ

こっわ!

翔子「おっけー、三名様はご来店でーす♪」

蒼司「はぁ…」

もう少し話を聞いてくれると思ったんだけど、伊瀬鷲夫妻を甘くてみていた

千尋「ちょっと勘違いされてる?」

千尋がくすくすと笑っている。

蒼司「説明すれば大丈夫…だと思う」

翔子「はい、お水とメニュー」

渡された二つのメニューを深夜と千尋に渡す。

千尋「ありがと。 ん~私、海老グラタン! と黒豚のプッタネスカっての」

翔子姉「うんうん。うちのグラタン美味しいよ~♪」

蒼司「オムライスはいいの?」

千尋「うん、写真見てたらこっちが食べたくなったの」

千尋は目をキラキラさせていた。

蒼司「深夜は?」

深夜の指先をたどる"仔牛のグリルフィレンツェ風"……と、グリーンマルゲリータ……

蒼司「んまっ! なんて生意気なモノを」

深夜「…」

深夜がむすっとした目で俺を見る

蒼司「いえ、冗談デスヨ。好きなもの食べとくれ」

夕飯遅れたのは俺だし、ただの冗談だってばさ。

千尋「ぷっ」

深夜と俺の様子を見ながら千尋は楽しそうに笑っている。

翔子「海老グラタンと黒豚のプッタネスカ、仔牛のグリルフィレンツェ風にグリーンマルゲリータね、蒼司は?」

蒼司「えーと、俺は…シーフードグラタンと地鶏とバジルのスパゲッティ」

翔子「飲み物は?」

蒼司「深夜はトマトジュースでおけ?」

深夜は頷く

千尋「私グレープジュース」

蒼司「俺はココナッツジュース」

翔子「りょうかーい♪」

蒼司「お店、ディナーは相変わらず空いてきちゃったんだね」

あの事件依頼、やっぱり夜は他のお店同じくエルパティオにもお客の入りはよくないみたいだ。

翔子「そうなのよねー、まだ犯人も捕まってないみたいだし暫くこんな感じかな? 固定客の人たちは着てくれてるからほんと助かるわ。じゃ、ちょっと待っててねー」

千尋「犯人て…最近TVでやってるのよね?」

蒼司「うん…」

暫くして

翔子「おまたせー」

飲み物にパスタとピザ先にが来た。

千尋「わぁー美味しそう」

蒼司「待ってました~」

深夜「…………」

深夜も嬉しそうだ

深夜「……………」
蒼司「いただきまーす」
千尋「いただきまーす」

千尋「う~ん、とっても美味しい~」

深夜「…」

深夜も夢中で食べている

翔子姉も厨房から顔を覗かせた正樹さんも二人の食べっぷりにとても嬉しそうだ

俺もむちゃくちゃお腹が空いていて噛まずに飲み込む

蒼司「げふっげふっ」

深夜「……………」

蒼司「さんきゅ…げふっ」

深夜が背中をさすってくれた

お客「私もあんな妹欲しい…」

千尋「…確かに」

お客さんの呟きにそう、納得しながら優しい眼差しを深夜と俺に向けていた。

蒼司「げふっ」

さすさす

うぅ、ありがとう深夜。



[エルパティオ]

ドア音:鐘

翔子「また来てねー」

蒼司「うん、ごちそうさまー」

千尋「翔子さん、美味しかったです♪ ごちそうさまでしたー」

翔子「深夜もお金無くっても来なね?トマトジュースならタダにしてあげるし、食事なら蒼司の財布から抜き取ってきな~」

深夜「…………」

蒼司「ちょっ深夜! 元気良く"うんっ"じゃないだろっ! やっぱ翔子姉の入れ知恵かよっ!」

翔子「まぁまぁ」

まったくもう…

翔子「それじゃね、最近の事知ってるでしょ? しっかり守ってあげなきゃね!」

大丈夫…横の女の子は俺より数百倍は軽く強いから

蒼司「…正樹さん、そろそろそのニヤニヤやめてください」

正樹「あっはっは、お前は弟みたいなもんだからなぁ、兄貴としてこの状況でニヤケないのは無理ってもんだろ? じゃ、気をつけて帰れよ。深夜もまた食いに来い、えーと千尋つったっけ? いつでも来な。」

蒼司「じゃ、お休みなさーい」

千尋「はい、お休みなさーい」

翔子「気をつけて帰るのよ? どうせ三人乗りで来たんでしょ?」

蒼司「大丈夫だって! ごちそうさま。それじゃお休みー」

千尋「お休みなさーい」

翔子「千尋ちゃんもまた来てね? 千尋ちゃん可愛いからサービスするよ~」

千尋「あ、ありがとうございます」

蒼司「千尋が困ってるじゃんか」

あははと笑う翔子姉。

しかし、人間との生活はほんと長そうだな…礼儀作法とか人間というか、すごく日本人ぽい

不思議な子だよな

効果音:鈴

深夜「…」

蒼司「深夜?」

橋の向こうをジッと見つめている

蒼司「深夜おいで、そっちは行けないよ」

深夜は動かない

蒼司「どうしたんだろうな? ……千尋?」

千尋「…」

千尋が深夜を見ている

蒼司「千尋? 深夜どうかしたの?」

千尋「…うぅん、なんでもない」

蒼司「深夜、帰るよ?」

深夜の肩をつつく

深夜「………」

深夜:立ち絵位置変更

蒼司「よっしゃ、帰るぞー」



[夜道]

蒼司「あー、食った食った! お腹いっぱい」

千尋「美味しかった~、うちのお店のフランスパンとは違ってて、中はもちっとしてて美味しかったなぁ」

深夜「…」

千尋「深夜、寝ちゃった…可愛い寝顔」

蒼司「なんか静かだと思った」

千尋「この子表現豊かだよねぇ…それに、凄く幸せそう」

蒼司「…………」

千尋「ねぇ蒼司、この子って皇族?」

蒼司「うん、だと思う。初めて出会った時、清王朝時代の皇族の服を着ていたよ…翔子姉は彊屍のイメージ通りで喜んでたよ。着ていた服もちゃんとうちに取って置いてあるんだ」

千 尋「そっか、私も見るのは初めてだから、古書とかの資料や向こうに行った事のあるモノから伝わった話でとかしか知らないな。確かに、民間で亡くなった人も 相当憎まれ怨まれていれば?屍になるけど、やっぱり皇族の人は、人々の憎悪や怨みを受ける対象になりやすいものね…例え罪のない皇族であろうと…」

蒼司「………深夜に出会ってずっと気になってたんだが、なぜ日本で殭屍になる人がいないのかな?」

千 尋「それは、その国々の風土や治めている神様や悪魔の裁き方や考え方治め方が違うからよ…もしかしたら全てが偶然の産物なのかも知れないしね。詳しく考え 詰めた事がないわ。でもどこに行っても善い事と悪い事は変わらないし、その定義みたいなものは暗黙の中に常に存在していると思う。だから、死しても彼女の ような存在が生まれてしまうのだと思う」

蒼司「…」

千尋「この子自信の感情から発せられる邪気は無い…彼女は何も悪くないんじゃないかしら? 因果が人々に教えたかったのは、この子自信のこの存在…誰かが気づかなければ?屍や
成仏できない霊魂達が彷徨い続ける」

蒼司「恨みが形となって還って来るなんて…怨まれることをするのも、怨むのもどちらも良いことを生みはしないんだね…」

千尋「そう。でも深夜は本当に幸せだと思う、過去に何があったのかわからないけど…」

蒼司「深夜…」

千尋「この子の両親って?」

蒼司「こっちに来て言葉覚えてた頃に聞いたんだけど……覚えていないみたいなんだ…」

千尋「…そっか、それが嘘でも本当でも…いや嘘はつかないか、この子なら。今が幸せなら……いつかこの子が成仏する時が来るなら、
せめてその時が来るまで幸せでいてほしいな」

蒼司「うん」

きっと千尋は多くのモノを見てきたんだろうな

少しづつ千尋という存在に惹かれ始めていた

鬼という存在にして人や他の者を思いやる心を持っている

その力の強さの分彼女は優しい心を持っているのかもしれないと思った

そして、それこそ絶対的な強さ"そのものの"ような気がした。



[天城家]

蒼司「ただいまー」

千尋「おじゃましまーす」

とりあえず深夜を寝室まで運ばないとな

押入れを開け、そっと深夜を寝かせると布団をかけた

一瞬深夜が薄目を開けた気がしたが確かめなかった

蒼司「お休み」

静かに戸を閉め部屋を出る。



[居間]

千尋「♪」

居間に行くと千尋がまた鼻歌を歌っている

そういえば服を貸せば千尋は家に帰れるのでは?

千尋「はぁ~………ぬむい」

蒼司「…………」

楽しそうだし、今日一日くらいいっか

千尋「?」

千尋と目が合う。

蒼司「そういえば明日何時くらいに家出るんだ?」

千尋「そっか、蒼司は明日学校だもんね。うーん…私もその時一緒に出るよ。家を出るのは何時なの?」

蒼司「七時半」

千尋「じゃ、私は最悪七時に起きないとダメってことか。うん、わかった」

蒼司「そいじゃ、俺は風呂沸かしてくるから、適当にくつろいでてくれ」

千尋「ほほーい」

風呂のボイラーにスイッチを入れて戻ってくると、千尋は写真立てを見ていた。

うちの家族の、俺が赤ちゃんの頃の写真だ

蒼司「…千尋?」

千尋「ねぇ、蒼司…寂しい?」

千尋は振り返らずに答えた

ここからでは、千尋がどんな顔をして写真を見ているのかわからないが、声や雰囲気は真面目で、何かここにはない別のものを考えているような気がした。

蒼司「…いや、覚えていない部分が増えてきてる…でも、それが少し寂しく感じるかな? それに今は翔子姉や深夜達、学校の友達もいる」

そう…俺は寂しくない

両親の葬式でも泣いていなかった…葬式とは悲しいもので、泣かない者は頭がオカシイとさえ思っていた

それが両親への記憶や思いが薄いからなのか、まだよく理解していなかったのか覚えていないが

少なくとも今の俺は気楽で死んだら会える、だから見守っているならかっこ悪いところは見せられないなとか思っている。

千尋「そっか…」

蒼司「……………」

千尋「……………」

気分変えるか

蒼司「さっ、風呂が沸くまで何か見るかな」

テレビのリモコンは? っと

千尋「ねぇトランプやろう? トランプ無いの?」

トランプ?

蒼司「へー、トランプか、あるよ。久し振りだなー、よし、いいよ」

確か……ここに…

蒼司「あったあった!」

よく遊んでクシャクシャになるから、プラスチックに買い変えたんだよな

蒼司「何やる?」

千尋「…スピード」



愚かなり鬼灯千尋!

よもやこの俺にスピードで勝負しようとは…

俺が学校で"碧空の千手観音"と呼ばれているとは知らずに

蒼司「……ふふふ…っくっくっく、ふぁっはっはっはっはっ!」

千尋「なに、その薄気味悪い笑い…」

気味悪がる千尋

くくく、

ニヤケながら、カードをセットし終えた俺は天高く両手を広げた

蒼司「なにゆえ知らず挑むか、敗れ行く者こそ美しい、勝利こそ我が喜び、さぁ我が腕の中で滅ぶがいいぃー!」

千尋「…」



[天城家前]

蒼司「…行ってきまーす」

千尋「急いでね~♪、私、長風呂しないから~」

蒼司「…はい」

笑いの止まらない千尋を尻目に、自転車を漕ぎ出す。

見事五連敗した俺は、自転車を走らせソフトクリームを買いにコンビニへとパシられるはめになった

アイスは、二戦目も負けて躍起になった俺の提案だが…

まさか、この私が…負ける……なんて

ぎえぇぇぇぇぇー

………

"碧空の千手観音"敗れたり…

明日の朝刊の見出しはこれで決まりだな…

恐るべし"スペード・クイーン"!

最後の一枚をスペードで終わらせるところが名前通りでニクイぜ

流石に、あれはまぐれだけど…本人も驚いて「あははははは、ごめ~ん」とか言って、笑ってたし………

だが……おっ、俺の完敗だ!

くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

自転車:漕ぐ音高速

ズルッ

蒼司「っ!」

ガッシャーン!

カラカラカラカラ…

………いたいよぉ……

蒼司「…誰か…助けて………」



[天城家・風呂場]

千尋が出たので俺も風呂へ

蒼司「はぁー、今日も疲れたー! しかも、さっき擦り剥いた腕が染みる…」

幸い傷は軽症で済んだので血もほとんど出ていないのだが…

精神的には、もうズタボロさ…

千尋は今頃、俺の買って来たソフトクリーム頬張ってるんだろうな…

深夜のはイチゴのマーブルアイスで、俺のはソーダ味の氷バーだ。

ふぅー足がパンパンだぜ。

前日は宮内に殺されかけ、今日は自転車星見台で漕ぎまくり、練習、千尋との遭遇に全開に近い霊力の
放出に、またも殺されかけた精神的過労…そして三人乗りでチャリマツに追いかけられ…

翔子姉と正樹さんには千尋との関係を確実に誤解されてるし…

……この世の終わりまで寝たい

今日は早く寝よう。



[居間]

蒼司「良い湯だったー」

これ言いたかったんだよな

蒼司「ん?」

千尋が机につっぷして眠っている

起こさないようにそっと歩いて台所へ

あったあった俺のアイス~♪

ゴミ箱にはソフトクリームのゴミ

しっかり食べたようだな

ふぃー、風呂上りはやっぱり珈琲牛乳かコレだよなぁー

テーブルの上にあったテレビのリモコンに手を伸ばそうとしたが

…止めた。

起こしちゃうかもしれないしな

とても穏やかな寝顔だ

蒼司「うわっ、睫毛長っ…」

ほっぺたをつつく

蒼司「ふにふにだ」

赤ちゃんとか寝てるの見るとつい突付きたくなる

やっぱ良く見ると可愛いよな

いや、よく見なくても可愛いけど

寝てるの見ると、あどけなさが残っていて微笑ましい

千尋「…すぅー……」

運ぶか、このまま布団かけただけだと風邪をひかれてしまうかもしれないしな

変なとこ触らないように

偶然でも細切れにされるやもしれんからな

蒼司「やっぱ女の子って軽いんだな…」

深夜と身長は違っても女の子ってこういうもんなのか

軋む階段を気合で登りきり

二階の空いてる部屋に千尋を運ぶと、俺は押入れからお客様用の布団を取り出しササッと敷く

蒼司「こういう時、普段から使わない布団とかも洗ったり干したりしておくと便利だよな、うむ我ながら正に主夫の鑑だ」

そっと寝かす

あっ、頭が枕からずれちった

でも何回も頭ぐりぐり動かしたら起きそうだから

このままでいっか

すやすやと眠る千尋

蒼司「お休み」

電気音: