しばらく店でも会わなかったので、俺は家に行ったんだよね。
家の前に着くと、家の電気は点いてた。
どれくらいだろう。声をかけるべきか凄く迷った。
俺が失礼なことをしたという罪悪感だけが心にあった。
一時間くらいいたのかな。俺はインターフォンを鳴らした。
そしたら一人の男性が出てきたね。
びっくりした俺は、間違いましたと行って家を離れたよ。
彼氏がいたという、不思議に凄い安心感に包まれてた。
君が寂しい思いすることもないんだと思い、良かった、とずっと思ってた。
そして、玄関先にあった赤い靴がとても脳裏に焼きついてた。

ちょうど家に着くころ、君からメールがきたよ。
もしかして、家に来ましたか?私は岩盤浴に行ってて、友達が留守番してた、と。
戻ってきて欲しい、と。

もちろん家の近くだった俺は断り、彼氏が出来たんだね、良かったね。と送った。
あれは彼氏ではなくて友達、そう返事がきたけど、それでも守ってくれる相手がいる、
そう思って、安心感だけが漂ってた。

次の週末に、店に行くと君はちょっと黙り込んでたよ。
いきなり、ちょっと話したい。と言った君に、仕事終わったら家にくるか?と誘うと頷いてた。

その夜、何を話したかほとんど覚えてない。
ただ、ストーカー被害に遭って、大変だったということは少し聞いた。
あと覚えてるのは君が俺の家に泊まったこと。
君は俺のベッドでよく寝てた。びっくりするくらい深い眠りについてた。
その時に、君は疲れてた、安心して寝れる状況ではなかったことを悟った。
俺はソファで寝たよ。毛布一枚で、まだ寒かった。

朝起きて、会社へ行く準備をしてても君はスースーと寝てた。
昼に電話しても電話に出なかった君を、また連絡を取れなくなったと思ったよ。

夕方に電話すると、君がでた。
そして君は、今、起きました。ごめんなさい。と。
本当にビックリしたよ。夕方まで目が全く覚めなかったことも、
初めて泊まった家で、そんなに寝続けたことも。

そして、家に帰ったら、前に君の家で見た光景、赤い靴が並んでて、君がまだいたことも。




もう何年も前のこと。
店に着くまでの電車の中、何を話したのか覚えてないや。
一軒のお店に入り、もんじゃ焼きを食べながら、俺はビールを飲み、君はウーロンハイを頼んでた。
本当に、ほとんど会話を覚えてない。
大変だったらしいね。そんな話は少ししたはず。
ただ、それまでは彼氏がいるようなことを言ってた君が突然、本当は彼氏はいない、そう言い出した。

外に出ると凄く寒かった。君は特に寒そうにして、俺は自分の黒のダウンを着させて歩き、駅まで歩いた。
風が強く、まだまだ冬を感じる寒さだったよ。確か・・・2月くらいだね。
電車に乗っても凄く寒そうで、君は本当に辛そうだった。
座ったあとは、いつ倒れてもおかしなくらいグッタリとして、そして俺に寄りかかりながら寝たね。
下心も何もなく、ただただ寄りかかり、寒さに震えてる君を俺は支えてた。
家の最寄りの駅を聞き、結局は家に送るまでずっと君は俺に寄りかかってた。
フラフラになった君を俺はおんぶして家まで歩いたんだよね。

玄関口で、君がちょっと待ってとフラフラになりながら家に入っていった。
戻ってきて「ほら、飾ってるんだよ。ありがとう。」そう言って見せたのは、
俺がいつかあげたミッキーのお皿。
不思議な感じだった。
俺が「帰るよ、ちゃんと寝ろよ。」と言って君は黙り込み、数秒して、君が「寂しい」と言った。
「電車がなくなるから、帰るよ。」と言っても君は嫌がってた。
「じゃあ、おやすみのキスして・・・」
印象的だった。考えてもなかったし、いつもの君からそんな台詞も想像できなかった。
チュっとキスをして、じゃあねと言って俺は帰った。

一杯も飲みきっていないのに、あれだけ酔って、寒がってた君をずっと心配してた。
その日の断片的な言葉を何度も思い返して帰った。
翌日、心配でメールもしたけど全く返信なく心配になった俺は、仕事を早めに切り上げて、君の家の前まで行ったよ。電気が点いてて、人影が見えた。
ただただホッとした俺は、そのまま帰ったよ。本当に心配だった。

その後数日、何度かメールしたけど君は全く返信しなかったね。
週末に店へ行っても君は休みで会わなかった。


数ヶ月経ったのかな。
おばさんが、来週からあの子が戻ってくると言ってきた。

翌週には、俺は忘れていたよ。ただ、いつものようにお店へ行くと、何事もなかったかのように君が働いてた。
おかえり。そう言ったのは覚えてる。
でも君は、いつもの笑顔でいた気がするけど、何と返事していたかまでは覚えていない。
ただ、戻ってきた。

いつだろうね、君が一人でいる時に少し話始めたんだよな。
大変だったんだね。俺は知らなかったよ。
もちろん多くは語らなかったし、明るく振舞っていた。

興味本位だったのかな。俺も少し聞こうとしたし、君も少し話し始めた。
なんとなく聞いて欲しそうな感じの君に、俺はレシートの裏に電話番号を書いて渡したよ。
あんなこと、人生で初めてだった。渡すのに凄く緊張したよ。
もしかすると、その時には少し気になってたのかもしれないね。
でも、電話はかかってこなかった。

それから暫くはいつものようにいたけど、メールアドレスを渡したのかな。
メールがきたよ。
何通かメールをしてたら、少し話を聞いて欲しいってきた。

どんなタイミングだったのかな、俺は君を誘い食事に行ったね。
オシャレでもなんでもない俺は、何も考えずに、月島にもんじゃ焼きを食べに連れて行ったね。

あの時、スーパーの中で待ち合わせして、君が目の前からやって来た時の、
なんとも言えない笑顔、よく覚えてる。