『ねえ、遊ぼうよ』
『何しているの?』
『どこに行くの?』
声をかけられた。
落ち葉の季節
周りには 誰もいない 通学路
十歳くらい の頃 の出来事
この、おかしな現象を
不思議に思わなかった。
天竜川沿いの 小石だらけの道
毎日、決まったところで 声を掛けられた。
それは ひとつ?だけではなく
違う 何人か が、
ぽつり ぽつり と 話しかけてきた。
『ざわっ』 て、 落ち葉を踏む音にまぎれて
『がりっ』 て、 小石を踏む音にまぎれて
まっすぐに歩いてきた道から
天竜川に背を向けて、右に曲がると
映画館があった。
窓がない 長方形の大きな 建物
見上げた灰色の壁に描かれた、
螺旋状の大きな天然の模様が
頭上から襲ってきそうで怖かった。
この
券売所が見えてきたあたりから
『ねえ』
と
声がかかった。
それ は、
おれにとって、いつものことで
あたりまえのことで
何とも思わなかった。
そう
あの時、 あの出来事が 起こるまでは・・
とある 雨の朝 のことである。
今も昔もそうなのだが
おれは雨の日が 好きだったのだ。
例えるなら・・
校舎の廊下を掃除したバケツの水をぶちまけたような 空の色が ・・
ところどころ、まっ暗になったり 薄らと明るかったりと・・
そんな情景の全てが好きだった。
あの頃
そんな雨の日に
最も好きだったのは、
傘の中 である。
傘の中 は、おれにとっての 個室だった。
『ポツ』 『ポツポツ』 『ポ』 『ポ』 って
傘を通して伝わる 不規則な音のつながり
これを最大限に楽しんだ。
その日も、いつもと同じように 長靴をはき
水溜りを無理に踏んで、
いつもの映画館の前まで来たとき、
・・やはり
『ねえ』 って、話しかけられた。
今、思い返せば
これが、最後の 『ねえ』 だった。
『遊ぼうよ』
という いつもの問いかけに
おれは 答えた。
初めて その声 に向き合ったのである。
『何するの?』 って ・・・
一斉だった。
おれが答えた途端
『○%&#!!』『%○×%!!』『×&%&!!』
ワーッと 数え切れないほどの 無数の 声が
おれの頭の中に飛び込んできた。
それと同時に飛び込んできたのは
『ぎらっと 見開いた 目』
『歯の無い まるく大きな 口』
この世に存在する 色という色 全てと同時に
人間の顔の パーツ だけ が、
おれに 向かってきたのである。
びっくりした。
でも、
歩いていた。
上も下もわからない 状態だったと思う。
嫌な気持ちの塊が、体の中を通り抜けて行った。
憎しみや悲しみに似た感情っていうやつなんだろうか?
あまりにも多くの声が同時に飛び込んできたので
何が何だかわからなかったが
最後の方の
一言だけ、 理解できる 言葉 があった。
それは、
いつも 必ず最初に聞こえる声だった。
『ありがとう』
我に返ったのは
大衆浴場の横を通過した時だった。
どれだけの時間、
おれはそこにいたのだろう・・
降っていた 雨 は 上がっていた。
こういうの 心霊現象って、いうのですかね?
『怖い体験だね』 って、言われるけど
何も怖くなかった。
不思議な体験は他にも多くしているのだが
怖いと思ったことは少ない。
ただ
一度 だけ 背筋が凍る っていう
比喩 が正しいのか、わからないが
そんな思いをしたことがある・・あれは怖かった。。
まあ
それはまた、機会があれば 書こうと思う。
長文なってしまいましたが
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
写真提供 ライダー写真家 唐澤さん 『弥彦公園の紅葉』

