サム・クック・ナイトで初の試みであった朗読を皆さん受け入れて下さり、良い感想を頂けたので、胸をなでおろしています。

 

その時の映像がYouTubeに公開されました。

 

ということもあり、朗読文も全文公開します。

 

福美さんの素晴らしい朗読の映像を流しつつ、朗読文にも目を通して頂ければと思います。

 

(福美さんの朗読は、22分20秒から)

 

 

朗読【THE FIRST SAM COOKE〜『カナンへの旅立ち』】  作:元親 朗読:福美        
 

″私はヨルダン川の岸辺に立ち
 うねる流れのかなたを見つめる
 そこにあらゆる重荷を休ませる
 全ての疑いと恐れがおさまるまで
 ああ 天使の歌が聞こえる
 ハレルヤ ハレルヤと
 私はカナンまで
 あとどのくらい離れているのか
 教えてくれ″

「サムで決まりだ!」
カナンを歌い終えたサム・クックを見て、ソウル・スターラーズのひとり、S.Rクレインは

メンバーにそう言った。
憧れのグループに加入できる。
クレインの言葉を耳にしたサムは、喜びを隠しきれなかった。

ソウル・スターラーズはシカゴの名門ゴスペル・グループ。
スターラーズは今、花形リードボーカルの、R.Hハリスが脱退する危機にあった。
そこで残されたメンバーは、ハリスの代わりに、地元シカゴで人気のある若いゴスペル・グループのリードを一人引き抜くことに決めた。
そのホーム・ボーイのファンが、自分たちのファンになる、というのがスターラーズの戦略だった。
 

オーディションに呼ばれたのは、シカゴで評判の若手ゴスペル・グループ、

ティーンエイジ・ハイウェイ・QCズのリードをとっていた、サム・クックだった。
クレインはサムの歌声に、それまでのゴスペル・シンガーが持てなかった、希望に満ちた明るさを感じていた。

「いや、ちょっと待った」
メンバーの一人が言った。
「四十代の俺たちと、十代のサムとが上手くやれるのか、そして彼がどのくらいの人を集められるのか、もう一度テストをさせてくれ」
同じ不安を感じていた他のメンバーも、その提案に賛成し、サムの母校である

ウェンデル・フィリップス高校の講堂で、最終テストを行うことになった。
サムの母校での最終テスト。
言うまでもなくホームのように思えるその場所は、サムにとってはアウェイだった。
幼い頃から明るく人懐っこい性格で、顔立ちも良く、利発で、歌も上手かったサムは、街の人気者だった。しかしそれはシカゴの黒人街だけの話。
勤勉なサムは、街でもシンボル的なウェンデル・フィリップス高校に進学した。
サムの住むブロンズヴィルから、黒人がその高校に進学するのは珍しいことだった。
けれどもサムは一月生まれというハンデもあり、高校内のレベルについていけず、埋没していく。
教師たちは黒人というだけで下等とみなし「攻撃的」という評価をつけた。
同級生の多くも、彼のことは覚えてないくらいの存在だった。

「あのソウル・スターラーズが近所の高校にやってくる」
噂は直ぐに広まった。
サム・クックのテストより、街の人の関心はそちらにあった。

「サム・クックって誰だ?」
「サムなんてハリスの足下にも及ばないよ」
高校の同級生や、スターラーズのファンからの前評判は酷かった。
プログラムの当日。
入場料を取ってのテストにも関わらず、会場には多くの人々が集まっていた。
伝統のあるウェンデル・フィリップス高校の講堂は、気品と重厚感があり、その内部は、晴れやかな外の陽気とは裏腹に、薄暗く冷ややかだった。

 

ステージ上、緊張のあまり背中で両手をこすり合わせているサムの脇で、クレインは紹介を始めた。
「さあ、彼にチャンスを与えてやってくれ。チャンスを与えるだけでいいんだ。みんなは俺達にもチャンスをくれたじゃないか、そうだろう?」
数人が「エイメン、エイメン」と応える。
講堂の中には、ソウル・スターラーズの偉大な先駆者だったリード・ボーカル、R.Hハリスを期待して観に来ていた者もいたかもしれない。
サムは恐る恐る会場を見渡した。
 

高みへ挑むサムの後押しをしてくれた父親が、彼を見て頷いている。
兄弟たちに囲まれた母親は、心配そうに手を合わせ、祈っている。
昔からの友人に混ざって、幼い頃、
道端で歌を歌っていた彼に、よくお小遣いをくれていた近所のおばさんの顔まで見えた。
人として、その存在すら認めてくれなかった母校の講堂に、同じようにしいたげられてきた同胞たちが、何かを求め、託すかのように集まっている。

 

期待と不安が入り混じった観衆を前にして、呆然と立ち尽くすサム。
コーラスとして彼の両脇に控え、今か今かと待ち構えているスターラーズのメンバー。
場内は張りつめた空気に包まれていた。

 

その時、観客の一人が叫んだ。
「サム!歌えって!俺ここにいるぜって!声上げろって!認めてくれって!」
それに続いて、会場のあちらこちらから声が上がった。
「イッツオールライト!」
「イッツオールライト!!」
「イッツオールライト!!!」
誰もが自分の存在を主張するように、サムの晩年の曲のタイトルとなる言葉を投げかけている。

 

―――その場にいた友人が回想する。
「アイツはバカみたいに何度も俺たちに『大丈夫、大丈夫』って、歌い続けてきてくれたんだ。

だからあの時、今度は俺たちがサムに言ってやる番だって思ってね」――――

スターラーズのメンバーが観衆に静まるように手で合図をして、それはようやく収まった。
目を閉じ、大きく深呼吸したサムは、そのあと小さく頷いた。
見開いたその目は、光が射し込む 講堂の二階の窓の方に向き、ここではない何処か遠くを見据えているようだった。
サムは一歩前に踏み出し、マイクの前に立って、そしてゆっくりと歌い出した。
曲はオーディションで歌った

「ハウ・ファー・アム・アイ・フロム・カナン(How Far Am I From Canaan?)」

( 曲3分 )

観衆がサムのうまさに気づくのに、歌詞は二行と要らなかった。
あとはサムの独壇場。
結果は明らかだった。
すっかり引立て役に回されたスターラーズのメンバーは「参ったね」と言わんばかりの顔をしている。
 

プログラムが終わり安堵した様子で笑みを浮かべるサムのもとに、観衆の波がどっと押し寄せた。
彼らは思い思いの言葉を口にし、サム・クックの健闘を称え、喜び合った。
その光景はまるで、約束の地、カナンへ向かうヨルダン川の流れのように、いつまでも、いつまでも、続いていた。

 

 

   完

 

 

(参考文献:ダニエル・ウルフ著『Mr.SOUL サム・クック』)

(リスペクト:ダイノジ大谷)

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

初の試みとしては上出来だったのではないかと思います(笑)

 

調子に乗ってvol.10では朗読『THE LAST SAM COOKE』をやるべく思案中です。

 

今度はナッシュビルウエストにプロジェクタースクリーンがあるので、それを併用してやってみようかとも思っています。

 

「朗読」と「音楽」と「映像」のコラボです。

 

構想段階で既にゾクゾクしています。

 

また福美さんにお願いしようと思うのですが、そんなの出来ないと言われるかもしれません。

 

次回のサム・クック・ナイトvol.10は土曜日、令和5年9月9日のクックの日です。

 

この新しい試みが成功するかどうかを生で確認しに来てください。

 

是非!