『クックを聴いてください (LISTEN TO COOKE)』

 

驚いたことに、サム・クックのレコードは、レディングよりもずっと一貫して興味深いものです。

彼がポップ・シンガーであることを主張していたアレンジメントに対して、クックのキャリアの大半を戦わなければならなかったので、彼のレコードの全体的な音はレディングのものよりも古いと言えます。

しかし、殆ど奇跡的にクックは彼のレコードの大半で、彼自身を表現し知らしめることができました。

良い断片は、「The Late And Great Sam Cooke」(RCA International 1080)の中にあります。

クックは誘惑されるような魅力的な良い声を不変に持ち、彼が選んだどんな方面にも簡単に流れることができました。

 

"Shake、Rattle、and Roll"では、歌の持つ意味合いに影響されることがなく、熱のない歌い方のように聴こえます。

しかし、クックは頻繁にリスナーを歌の世界に引き込んでいきます。

それは私が知っている限りのどんな似非ロックン・ロールシンガーより、早く良い気分にさせてくれます。

信念を台無しにする仕組みでない似たものとしては、アーサー・コンレイの "Sweet Soul Music"や、ピケットの"Land of 1,000 Dances."があげられるでしょう。

 

クックの"Having a Party"(これはもっとユニークでした。座ってても良いようなツイスト・ソング)"Good Times," そして"Yeah Man"("Sweet Soul Music"のオリジナル曲)はまだ8年前の曲で、クックがまだいる気分にさせてくれます。

"Somebody Have Mercy" と "Bring It On Home(To Me)"では、全く違う抑揚を繰り返す独自の唱法で、あなたを掴んで離しません。

 

クックを聴いてください。

その後で、オーティス・リーヴィルやタイロン・デイビスを。

間で何が起こったか気にする必要はありません。

ソウルは生きています。


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この記事で特に珍しいのが、使われているサム・クックの写真だ。

ライブ盤でもお馴染みのツイスティンを歌う時に行われるハンカチーフ・ラン(ウェーブ)の瞬間を捕えている。

「僕のように頭の上でハンカチをグルグル回して!」

歌の途中で観客に向けて発せられたサムの声は聴きとれてはいたものの、こうして実際にサムがやっている姿を確認したのはこれが初めてだ。

記事よりも何よりも、先ずこの写真を見た瞬間の興奮といったらもう(笑)

ほんと、貴重なものが発掘されて嬉しい。

 

で、文中に出てきたサム・クックの良い断片を収録されたアルバムというのが、次に紹介する1969年にイギリスでリリースされたアルバムのこと。

 

Sam Cooke ‎– The Late And Great Sam Cooke
レーベル:RCA International (Camden) ‎– INTS 1080
UK(1969)

A1 Send Me Some Lovin'
A2 Good Times
A3 That's Where It's At
A4 Sugar Dumpling
A5 Yeah Man
A6 Driftin' Blues

B1 Tennessee Waltz
B2 Bring It On Home To Me
B3 Somebody Have Mercy
B4 Shake, Rattle & Roll
B5 Having A Party
B6 Soothe Me

 

多分、今回紹介している『クックを聴いてください』の記事は、このアルバムがリリースされた直後の宣伝用に、イギリスの雑誌に掲載されたものではないかと推測する。

1962年に、サム・クックとリトル・リチャードがイギリス・ツアーを行っていたが、当時の人気の度合いからして、サム・クックより、ロックン・ロールを主体にしていたリトル・リチャードの方がイギリスでは上で、ツアー中もサムは前座的な役割であったようだ。

ビートルズが待ち望んでいたのも、サム・クックよりもリトル・リチャードだった。

 

本国アメリカの白人市場を意識したスタンダードなソウルより、イギリスではダンサブルなソウルやロックン・ロールがもてはやされていた。

69年にリリースされた先ほどのイギリス盤の紹介文の冒頭ですら、オーティス・レディングを引き合いに出し、そのフォロワーであるアーサー・コンレイやウィルソン・ピケットの名前からサム・クックの曲を説明していかないと伝わらない。

イギリスでのサム・クックの人気はファンが思うほど絶大なものではなかったように受け止められる。

"Bring It On Home To Me"の曲紹介のところでも(To Me)が抜けているのは、レッド・ツェッペリンの"Bring It On Home"と勘違いしてたからではないかとも。

 

それでも紹介文を書いているライターにはサム・クックの素晴らしさは理解してもらえてるようで、サムの魅力を上手く表現して説明してくれたと思う。

「サム・クックを聴いてください」、この言葉の前に「先ず」という言葉が隠れている。

69年当時、デビューして勢いに乗っていたオーティス・リーヴィルやタイロン・デイビスを聴く前に、「先ず」それらの若いソウル・シンガーたちの主軸となったサム・クックを聴けと。

8年前の曲でも古くはなく、今の若いあなたたちにもサム・クックが目の前で歌ってくれてるような新鮮さがそこにありますよと。

その間に起きた事件や、それから生まれたソウル・シンガーのことなど考えなくて良いから、とにかくサム・クックを聴いてくれと。

そこにソウルは生き続けてるよと。

その真意は当時のイギリスの若者に伝わっただろうか。

いや、あれだけのノーザン・シーンが生まれた国だけにそれは愚問といったところか(笑)

 

考えてみれば記事と共に使われていたあのハンカチーフ・ランの写真はイギリス・ツアーのときのものかもしれない。

アメリカからの提供された写真ではなく、イギリス・ツアーのときにイギリス側のカメラマンに撮られたもの。

今までなかなか見当たらなかったものだけにそう捉えることもできる。

そもそも、イギリスの記事かどうかも怪しいのだけれど(^_^;)