Sam Cooke-Sitting In The Sun

サム・クックが歌うクリスマス・ソングとして“The Bells of St. Mary's”をあげていたものの、もっと他にクリスマスに聴けるものはないかと探していたところ、"Sittin' In The Sun"の歌詞の中に『"Sweeter than the Christmas chimes"「クリスマス・チャイムより甘い」』という一節を見つけた。

歌詞全体の意味合いとしては決してクリスマスを意識したものではないけれど、ルイ・アームストロングもこの曲をカバーし、"What A Wonderful World"もこの曲を元に作られたようにも感じるメロディーは、クリスマスに聴くサム・クックのカバー曲として選曲しても似合いそう。

更に意外なところでアイリッシュ・パンクで知られるポーグスの曲の中からも見つけた。
そのポーグスの曲とは、彼らのヒット曲でイギリスではこの頃になると日本の山下達郎の「クリスマス・イブ」のように頻繁にラジオから流されるらしい"Fairytale Of New York" (ニューヨークの夢)。

The Pogues - Fairytale Of New York (ニューヨークの夢)


(男性パート)
クリスマス・イヴだよ ベイビー
なのに俺は酔ったせいで牢屋の中
年老いた男に言われたよ「もう次の年は拝めないかもしれん」
すると奴は歌い出したんだ
"The Rare Old Mountain Dew"さ
俺は顔をそむけ
お前のことを夢見るよ

ついに、幸運をつかんでやったよ
18倍の配当の的中さ
ようやく俺とお前の時代がやって来た
そんな気分だったよ
ハッピー・クリスマス
愛しているよ ベイビー
きっと今より良くなって
俺たちの夢は全て叶うはずさ

(女性パート)
バーみたいな大きな車に乗った人たち
金色に光る川でも手に入れたみたいね
でも、時が流れ風が変わって
この場所に違和感を覚えたら年老いた証拠
あなたが初めて私の手を握ったとき
それは寒いクリスマス・イヴ
私に約束してくれたわよね
「ブロードウェイは君のためにある」って

「あなたはハンサムだったわ」
「お前はプリティー、まるでニューヨークの女王だったよ」
バンドが演奏を止めても
アンコールが高鳴り
フランク・シナトラも
酔っ払いたちもみんな歌いだした
俺(私)たちは隅っこでキス
そして夜通し踊り続けたもの

(コーラス)
ニューヨーク市警コーラス隊の"Galway Bay"
鳴り響くベル
今も変わらぬクリスマスの情景


このあとの歌詞は男女が罵り合うものの、これからも二人で夢を諦めずにいこうというハッピーエンドの内容。
歌詞の中に出てくる"The Rare Old Mountain Dew"と、"Galway Bay"(ゴールウェイ湾)の二曲はどちらも古くから伝わるアイルランドの民謡で、後者の"Galway Bay"をサム・クックはカバーしていた。

サムは他にも"Danny Boy"というアイルランド民謡もカバーしていて、映画『ザ・コミットメンツ』を取り上げた時と同じように、ここでも黒人サム・クックとアイルランド人の繋がりが見えてくる。
歌詞の中の二人のように夢を持ってアメリカに移り住んだアイルランド人が、アフリカから奴隷として移り住んだ黒人と同じように虐げられ、いつまでも貧しい生活からぬけだせないでいた。
そんな日々の中でも故郷アイルランドに思いをはせ、故郷の唄を歌い一晩中踊り明かし不安や悲しみを忘れていた。

同じ境遇であったアイルランド人と黒人であるサム・クックの共通項だけでなく、他にも歌詞の中にはサムの願いや憧れがキーワードとして含まれている。

サムの願いであるチェンジを表す「時が流れ風が変わって」。
サムがいつかその舞台に立ちたいと語っていた「ブロードウェイ」。
ストーリーテラーの先駆者として憧れていた「フランク・シナトラ」。
楽しむことを忘れずパーティーを続ける「夜通し踊り続ける」。
ついでに「ハンサム」なサム(笑)

このポーグスの歌の中にはサム・クックが求めた楽しさや夢が凝縮されているようだ。

そしてニューヨーク市警のコーラス隊によってクリスマスの夜に歌われる"Galway Bay"。

アイルランドの西部にあるゴールウェイ湾の、港町から観られる牧歌的な美しい情景を甘いメロディーにのせ歌い上げる名曲は、その港から異国へと旅立ったアイルランド人たちの心の支えであり望郷の唄だった。

そんな歴史を考えながら"Galway Bay"を聴くと、サムはそのニューヨーク市警のコーラス隊に代わり、クリスマス・プレゼントとしてアイルランド人や同胞、そして恵まれない全ての人々に歌い捧げているように聴こえてくる。

サム・クックが育ったシカゴの地と友人たちを思って作られた"Bring It Home To Me"の歌い出しが、この"Galway Bay"と同じ"If you ever~"であるのもサムは知ってのことだったのかも。

アイルランド移民の多くがニューヨーク市警に勤めたそうだ。
サムのあの忌まわしい事件が、ロサンゼルスではなくニューヨークであれば、サムの死は変えられないものとしても、その後の処置は当時のロサンゼルス市警(LAPD)よりニューヨーク市警(NYPD)の方がまだましだったのかもなんてことまで考えてしまった。

あんな事件に合わなければサムの64年のクリスマスはどんなものだったのか。。。

もう踊り明かすほど賑やかなクリスマスは体力的にも無理なので、今年のクリスマスはポーグスの"Fairytale Of New York" と、サム・クックの"Galway Bay"をセットで聴きながら望郷し、サムがクリスマスに描いた夢でも想像してみようと思います(笑)


Sam Cooke. Galway Bay.


次回は今年最後のエントリーとして、例の司会者を呼んでサクッと総括と展望、そして隠れサミーの特集で楽しく締めたいと思います。

それでは!(^^)