サム・クック・アット・ザ・コパ RPL-2150 レーベル/メーカー:RCA/RVC 86年4月21日リリース
SIDE-A
1. イントロダクション
2. 自由が一番
3. ビル・ベイリー
4. 落ちぶれはてて
5. フランキー・アンド・ジョニー
6. メドレー(トライ・ア・リトル・テンダネス/センチメンタル・リーズン/ユー・センド・ミー)
7. 天使のハンマー
SIDE-B
1. 恋した時に
2. ツイストで踊りあかそう
3. ジス・リトル・ライト
4. 風に吹かれて
5. テネシーワルツ

七夕といえば、サム・クックのライブ盤『アット・ザ・コパ』が録音された日。
というわけで今回の「感性」を伝える宝のライナーは、そのコパで解説された時代の違う2つのライナーを2回に分けて取り上げてみることに。

今回の解説の中でも説明されているが、コパのオリジナル盤がアメリカでリリースされた64年の次の年の65年にコパの日本盤が最初にリリースされ、次に再発されたのがその10年後の75年で、3回目に再発された86年のものが、今回、最初に紹介する鈴木啓志さん解説によるもの。
だいたい10年スパンで再発されている。
しかし、こうやって解説された年数を並べて見てみると、約30年前となる86年の鈴木さんの解説ですら新しく感じてしまうから不思議だ(笑)

2回目で紹介する解説は65年と75年の両方で担当されていた福田一郎さん。
今回の鈴木さんの解説といい、福田さんの解説といい、どちらも気持ちのこもった素晴らしいものだったので、全て取り上げさせてもらうことに。

それぞれの年代で日本のライター方が感じてこられたコパ評というものを、この機会に堪能してみようと思う。


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アット・ザ・コパ/鈴木啓志

85年に突然発売された『サム・クック・ライブ~ハーレム・スクエア・クラブ1963』のおかげで全く影の薄くなってしまったLPがある。今みなさんが手にされている『サム・クック・アット・ザ・コパ』通称コパのライブといわれている本LPである。63年のライブのほうが、代表曲/ヒット曲を力一杯歌ったものであるのに対し、こちらのコパの方は大半がスタンダード/ポップスであり、しかもその雰囲気にはいかにも大人のクラブにふさわしいくつろぎがある。といって、このLPが63年のライブ盤に比べて劣るというものでもない。これはこれでライブLPの大傑作の1枚だとはっきり言うことができる。実のところ、63年のライブが出てから改めてこのコパのライブを聞き直し、ますますサム・クックというのはたいしたシンガーだと思うようになっているくらいである。単にどんなタイプの曲でもこなせるヴァーサタイルなシンガーというだけではない。サムの名が売れるにつれ変わっていった周囲の環境、それに対しても、サムは全く動ずることなく、自分で道を切り開いていったその才能と努力に改めて驚嘆するのである。

たとえば、このLPの中でぼくの好きな曲のひとつに「恋した時に」がある。他の人が歌ったなら、ぼくなどには全く興味のないようなポピュラー・バラードである。それをサムはゆっくりとかみしめるように歌っている。実は、この曲は58年頃、キーン時代にスタジオ録音しているのだが、そちらは全くといっていいほどつまらない。みなさんに聞き比べていただけないのが実に残念だが、その平板なナンバーをサムは、このライブでは全く自分のものにしてしまっている。1コーラス目はキーン時代と大差ないが、2コーラス目から、特に「オー・ウェナイ・ギィヴ・・・」と歌い出してからがすばらしい。こういう歌い方は、明らかにオーティス・レディングが学んでいるものである。はっきりいってキーン時代のものと、このライブの時のものの違いがわからないようじゃ、サム・クック、いやソウル・ミュージックを聞く資格はないとさえぼくは思っている。
今オーティスの名が出たが、実は生前のオーティスがこよなく愛したLPがこの『コパ』であった。
「(このLPの)"トライ・ア・リトル・テンダネス"のやり方にはしびれたね。それから"落ちぶれはてて"も好きだ。このLPでサムがそうやってるのを聞いてから、自分でも"トライ・ア・リトル・テンダネス"をやろうと思ったのさ。」
これはオーティスの談話だが、ウィルソン・ピケットの次のような談話もある。
「サム・クックのアルバムは全部持ってるよ。彼はぼくの好きなシンガーだった。そう、好きなアルバムっていえば『ライブ・アット・ザ・コパ』だね。そのショーで、彼は自分のできうる限りのものを見せている。」
これが載っているのは、いずれも67~8年頃の"ヒット・パレーダー"という雑誌で、この頃その雑誌には「マイ・フェイヴァリット・レコーズ」というのがあった。ちょっとしつこくなるが、もう1人、エディ・フロイドのフェイヴァリットも聞いてみよう。
「ぼくが1番好きなシンガーはサム・クックだね。ぼくが歌ったり曲を作ったりする時はサムのやるように考えることにしてるんだ。・・・サムのアルバムはみんな好きだよ。全部持ってるんだ。・・・そうだねぇ、フェイヴァリット・アルバムといえば『ライブ・アット・ザ・コパ』だね。ぼくには、これがあらゆるアルバムの中で最高さ。聞いてみれば、彼がミスったりしている(歌詞を間違えているということか?)のがわかるだろう?でもそんなのはおかまいなしなんだ。むしろジョークにしちゃってる。他のアーティストがそんなヘマしたなら、立ち上がれないかもしれないね。サムは本当に楽しんじゃっているんだよ。」
実際、こうした一連の記事を読んだ当時は、ぼく自身ロクに聞きもせずに、どうしてこんなポップなアルバムをみんな好きなアルバムにあげているのだろうと不思議に思ったものだ。だが、今だったら、彼らが好きな気持ちは完全に分かるつもりだ。たとえ、63年のライブを聞かされたとしても、上の3者は『コパ』に対する評価を崩すことはないだろう。

このLPは、サム・クックが64年6~7月にニューヨークのコパカバーナというナイト・クラブに出た時のもので、日本では、65年に1度出されているが、その後75年にも再発され、今度が3度目。ただし、裏ジャケットもオリジナルのものを使っているのは今度が初めてである。
コパというのは今でいえば恐らくラスベガスみたいなところで、むしろ出たがる歌手の方が多かったはずだが、サムは全く卑屈になることなく、自分のペースでステージを進めている。司会の声に送られて軽く歌い出すのが「自由が一番」。これは27年のミュージカル『グッド・ニュース』のための曲だそうだが、これはこの年の公民権運動の勝利を心に秘めての選曲に違いない。ソウルの乗りとは違うが、こうしたジャンプ・ナンバーでのサムは実にうまい。
続いて歌うのが「ビル・ベイリー」。これも中頃から後半にかけての歌い方が圧巻である。オーティスやボビー・ウーマックが手本にしたくなるような歌いっぷりである。そして"ちょっと人生哲学を"と歌い出すのが「落ちぶれはてて」。ブルースを人生哲学ととらえる彼の視点が面白い。非常に古い曲で、戦前にはベッシー・スミス、戦後にはルイ・ジョーダンあたりが歌っている有名な曲である。このサムの歌にオーティスがしびれ、後に録音しているのはいうまでもないところ。その気持ち分かりますねぇ。
次の「フランキー・アンド・ジョニー」は民謡だ。といっても黒人達には昔から歌われ、チャック・ウィリスのナンバーでも有名。スタジオ物は63年の夏にヒットしている。
ここでちょいとしたおしゃべり。このライブが決して強制されたものでないことが、こうしたおしゃべりからもわかるだろう。と、その話が途切れたあたりで、メドレーの形を取って3曲続く。最初はいうまでもなく「トライ・ア・リトル・テンダネス」。オーティスが感激して後に吹き込んだその原型がここにある。どうせなら、通して歌ってもらいたかった気がするが。そして、やはりスタンダードではあるが、彼のお得意のナンバーでもある「センチメンタル・リーズン」。63年のライブでも歌われていた曲だ。部分的には63年の方がいいが、全体としてはこうした作りの方がこの曲に合っていると思う。次の「ユー・センド・ミー」についてはいうまでもないだろう。
ところで、この後に「天使のハンマー」、そしてB面にも「風に吹かれて」と、フォーク・ソングが2曲も歌われているのを不思議に思われる方もいるかもしれない。ちょうど「ウィ・シャール・オーバー・カム」が公民権運動のテーマ・ソングになっていた時代であり、こうした曲を客に意識させることなく、スーゥと入れてしまうところに、ぼくはサムのしたたかさを見る。彼のアレンジはいずれも軽快で、全く彼独壇上のものだ。すばらしい。
B面に移り、「恋した時に」は先に触れたので先に進むと、やっと彼の代表作「ツイストで踊りあかそう」が通して歌われる。63年のライブ・ヴァージョンも良かったが、こちらも格別だ。軽く歌っているように見せながら、だんだんと自分の持ち味を出していくところなどさすがである。
次の「ジス・リトル・ライト」は「エーメン」といった方が通りがいいだろう。これもオーティスがサムのヴァージョンを手本にして録音しているものだ。
そして、「風に吹かれて」から「テネシー・ワルツ」へとつなげている。"パティ・ペイジが聞いたら面食らってしまうのでは・・・"といってる通りの独創的なアレンジで、元は失恋の歌なのにこんな明るい調子にしてしまうなんて、このくらいの失恋なんてどうってことないんだよとサムが皮肉っているようで面白い。ぼくが大好きな曲。アレンジは違うが、オーティスも録音している。
ぼくはどうしてもソウル側からこのLPを見てしまうが、いわゆるポピュラー・ファンも十分楽しめるLPだろう。そうした方が、このLPでソウルの深遠さをのぞいてくれたらこんな嬉しいことはない。

鈴木啓志
                     (86年、アット・ザ・コパの解説より引用)

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どうしてもハーレム・スクエア・クラブ(以下ハーレム)のライブ盤のリリースが今までのサム・クックの印象を変えるほど衝撃的だった為に、85年以降のコパ盤は隅に追いやられた感が強い。
便乗的な流れで86年にこのコパ盤が再発されたようにも感じ、当初は鈴木さんの解説もどうにかこのコパ盤の良い部分を探し出して褒めていこうという程度だったのではと思っていた。

しかし、トータス松本も最近のインタビュー記事で言っていたように、ハーレム盤は一度聴くと疲れるけれどコパは何度も聴けると感じ方が変わってきているように、年とともに僕もこのコパ盤が良盤だとお世辞抜きに言えるようになっている。
現に再生回数ではハーレムよりコパの方が上回ってきた。
それにつれてこの鈴木さんの解説が、本心からのものだったんだと理解できた。
最初に鈴木さんが「恋した時に」のスタジオ録音とライブ録音の違いを書かれているが全くその通りで、あの深みを感じられないとすれば、ソウル・ミュージックを聞く資格はないとまでは言わないものの、凄く勿体ないように思うほど。
全体的な評価が高い方より低い方を良しとして通ぶるわけでもなく、素直にコパ盤を好んで聴いている自分が不思議なくらい。

嬉しい情報が"ヒット・パレーダー"からのオーティス・レディングやウィルソン・ピケット、そしてエディ・フロイドのこの盤についての談話。
彼らもこのコパ盤からライブ・パフォーマンスのノウハウを学び、それを自分自身のパフォーマンスに生かしていたのが良く分かる。
それを考えると、もしも63年に行われたハーレムの音源がこれよりも早くリリースされていたら、もう一つのやり方の手本として彼らのパフォーマンスにまた大きな影響をあたえ、恐ろしいほどのモンスター・ライブアルバムが出来上がっていたかも、なんて想像をしてしまった。

それと「ちょっと人生哲学を」とか、「パティ・ペイジが聞いたら面食らってしまうのでは・・・」などのサムのMCの一部を訳して頂いているところも有難い。
リニューアルされたハーレム盤ではサムのMCまで翻訳されていて、とても助かり、改めてあのライブの世界観をMCの意味もふまえ堪能することができた。
コパ盤に関してはまだそこまでされていないので、英語の苦手な僕には少し分かっただけでも嬉しかった。

ふと思ったのが、以前ブルーハーツの「リンダ・リンダ」に対してのインタビューで、甲本ヒロトがあのリンダ・リンダという言葉は人の名前ではなくて、それ自体に意味はなくメロディーに合わせて「ラララ」と言ってるようなものと言っていたが、このコパ盤の中で「I know,I Know,I Know......」と言って観客に笑われたり、"You Send Me"の「You,You,You......」と繰り返すのは、ヒロトのそれと同じじゃないかということ。
そう捉えると「知ってる、知ってる、知ってる」だとか「あなた、あなた、あなた」などと訳すのは愚かな間違いだと気が付いた。
曲の中に組み込まれた「音」として使われている言葉を読み取ることが出来れば、サム・クックの作詞能力の素晴らしさを更に感じることが出来そうだ。


ちょっと話が鈴木さんの解説から離れてしまいましたが、次回は引き続きこのコパ盤の福田一郎さんの解説を。。。



Sam Cooke Medley (Live)