子供たちが夏休みに入ったこの時期に、前回の記事に出てきた志賀直哉などの作家の名前を目にすると、学生時分に苦労した夏休みの宿題に出る読書感想文を思い出してしまう。
ドリルなどの宿題は先に終えた友人から借りて、夏休みの終わりに答えを丸写しして凌いでいた(^_^;)
それが出来ない読書感想文は最初の数ページだけ読んで後は殆どあとがきから引用して書いていたものだった。
当時よりは本が好きになってはいるけれど、他から引用してブログを書いている今の自分を見つめなおすとそうも変わってないのかも(笑)
今回は隠れサミーよろしく、小説の中にサム・クックの名前が出てくる小説の紹介。
トップ画像にある『あなた明日の朝お話があります』(アマゾン・リンク)がそれ。
奥方に隠し事でもしてるご主人が聞けばドキッとされそうなタイトルと、それに似合わない可愛らしい子犬が描かれた表紙のギャップが面白い。

ナインティナインが主演して映画化にもなった『岸和田少年愚連隊』の作家さんだ。
『岸和田少年愚連隊』が自伝的小説だっただけに、下町の岸和田で育ったチュンバさんは相当やんちゃだったようだ。
この小説に出てくる人物像も、近所の知り合いを参考にされて作られているようで、大阪人特有のボケ・ツッコミのやりとりがリアルに堪能できてとても面白かった。
とある界隈の人物がそれぞれ交代で一人称の主役となって綴られる短編集。
でもそれぞれの人物に共通して言えることが皆「自分大好き人間」だということ。
その最初の主役が患者の少ない診療所の先生から始まり、そこで早速『サム・クック』のキーワードが登場する。
例のごとくその部分を少し抜粋してみる。
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診療所の三軒隣にあるバイクショップ「サムの店」からリズム&ブルースの音楽が聞こえてきた。サム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」だ。転機はやってくる。オレはそのままバイク屋へと足を向けた。
ここもうち同様、客の姿なんて見たことがない。サムの店なんて洒落た名前がついてはいるが、何のことはない、町内一ぶきっちょなオサムという若い奴が開業したバイク屋だ。
「オサムの店でええんちゃうか」
「いえ、あの、ぼくの名前から取ったんちごて、サム・クックのほうから取ったんスわ。なんやったらオサム・クックにしてほしいくらいスわ」
そうらしい。だからいつも店にはサム・クックのリズム&ブルースやゴスペルが流れている。
オサムは真新しいスーパーカブの横にオイル缶の椅子を置き、一人でコーヒーを飲んでいた。
足のツマ先が音楽に合わして揺れていた。
「なにしてんねんオサム、さっきからずーとカブ見てるけど」
「あ、(オ)は取ってくれてもいいスわ。サムて呼んで下さい」
「いやじゃ、絶対にオサムて呼ぶ」
(中場利一著『あなた明日の朝お話があります』P9より)
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この一節の最後のやりとりだけでも読んでいてクスッと笑ってしまう(笑)
でも何だか自分の好きなサム・クックの名前を店名につけてしまうオサムの気持ちが分かるし、一字違いでサムと呼んでもらいたくなる気持ちも分かる。
それぞれが「自分大好き人間」だからオサムはサムと呼んでもらおうとするし、診療所の先生はそれを拒絶する。
こんなやりとりがテンポよく行われながら物語が展開していくのでダレることなく読み進めることが出来た。
『サム・クック』のキーワードが出てくるのはこの場面だけではなく、このバイク屋のオサムが登場する場面の要所要所で『サム・クック』や『ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム』のフレーズが出てくる。
それを見つけるたびにニヤッとしてしまうので、隠れサミーを探すのが好きな僕にはもってこいの小説だった。
ここまでサム・クックをフィーチャーされるだけあって、著者のチュンバさんもやはりサム・クックがお好きなようだ。
ツイッターの方もやられていて、サムBOTもフォローされている。
そのチュンバさんが最近引越しされたらしく、新居に届いたダンボール箱の中身の整理に追われているというツイートを目にしていた。
その途中で急にサム・クックが聴きたくなったらしく、沢山荷造りされたダンボールの箱の中からサム・クックのCDを探す日々へと変わっていかれてた(笑)
思った以上に顔を出さないサムのCDに苛立ちながら箱を漁るチュンバさんのツイートが面白かったので、ここでまとめさせて頂くことに。
名付けて『チュンバさんのサム・クックCD探索奮闘記』(笑)
まず始めはチュンバさんのこんなツイートからでした。。。
6月11日
@kishiwadachunba: 久しぶりにサム・クックのユーセンドミーを聴きたくなり、探したもんの引っ越し荷物のどの段ボール箱かわからん。しゃあないのーと柳ジョージのんを探すがこれも見つからず…。うーんと唸ってたら出てきたがな!ロッド・スチュワートのんが!ええわあ~。ほんまええわ。ありがとうロッド様。
6月13日
@kishiwadachunba: 桜井ユタカさんが亡くなった?哀しい。今日はサム・クックを聴くか。オーティスも引っ張り出そう。ライナーノーツ読み返してたら涙出てくるかも知れんな…
6月13日
@kishiwadachunba: 引っ越し荷物の中からオーティスは出てきたけど、いまだサム・クックにはたどり着けず…。この箱とは違うな。どこやー!サムー!
6月18日
@kishiwadachunba: 引越し荷物はまだまだ片付かず、よってサム・クックのCDはいまだに出てこずや。テレサ・テンは出てきたけど似てるのは語呂だけやし…。参ったなぁ。めんどくさいから買うか?こうしてまた同じもんが増えていくねんなぁ。
6月19日
@kishiwadachunba: オレが引越し荷物の中から探してんのはサム・クックや!なんで浪曲が出てくんねん!なんでこんなん持ってんねん…。
6月20日
@kishiwadachunba: 引越し荷物の中からやっとサム・クックが出てきた思たら高速道路のSAとかで売ってるパチもんのやつや…。こんなんでもつい買ってしまう。なんやねんこのジャケット。知らん人見たらどっちが...
6月20日
@kishiwadachunba: そやからオレが探してるのはサム・クックやあ!なんで北国の春と子連れ狼やねん!シトシトぴっちゃんシトぴっちゃん♪なんで知ってんねんオレも…。3番まで歌える…。
6月20日
@kishiwadachunba: 引越し荷物の中から探してんのはサム・クックのCDやあ!スケベなDVDとちゃうー!せっかくやから観たろか…?タイトルがナイスやしな…。すまんサム!
6月23日
@kishiwadachunba: 昔なにかの音楽番組に加山雄三が出てて、レイチャールズを知らんかった。びっくりしたのを覚えてる。ギターの若大将はそういうもんかて思た。サム・クックを知らんのに、やれゴスペルやらR&Bて言う奴もおるんやろなぁ…。R&Bがリズム&ブルースて知らんかったらどないしよ…。しくしく泣いたろ。
6月25日
@kishiwadachunba: 引っ越し荷物もあと10箱くらいやのにサム・クックのCDは出てけえへん…。なんでや!豚の貯金箱やら血圧計が「こんにちはー」て出てきたのに、サム・クックが「ハロー」言うてくれへん…。本やらビデオの箱に紛れ込んで遭難してんかサム!そない言うたらキャロルも出てきてないぞ…。
6月26日
@kishiwadachunba: 引っ越し荷物の中から、ついにサム・クックの層を発見したあ!ザクザク出てくるで。とりあえずこんだけあったら気持ちのええ1日が過ごせる。ああ、腰痛た…。
6月30日
@kishiwadachunba: さあ!やっとこさ家のオーディオ組み込んだし、サム・クックのこいつを大音量でいこか!こけら落としにもってこいやろ。
ということで半月をかけてやっとサム・クックのCDを見つけ出されたチュンバさん。
半分ネタちゃうかーって思いながらも楽しい探索奮闘記でした(笑)
見つけ出された時にチュンバさんに「おめでとうございます」のツイートをしたところ、次のような返信を頂いた。
「ありがとうございます。シトシト降る雨の中、車のフロントガラスの水滴を見ながら聴いたらたまりませんでした。あの澄んだ色気のある声、四角い口、余計な事まで思い出してしもてハンドルに突っ伏しそうになりました。幸せ。」
まだオーディオを組み込まれる前だったようで、仕方なく先に車のオーディオでサム・クックを聴かれてたのか、雨の中でのシチュエーションがチュンバさんの琴線にふれ、過去の切ない思い出を蘇らせたのかも。
しかし澄んだ色気のある声という表現と、もう一つのサムの特徴である四角い口までチュンバさんから出てくるとは思わず、ここでもまた笑わせて頂いた(笑)
同じ関西出身のトータス松本も、サムのフルカバー・アルバムを録音する際に、あの四角い口まで真似しようとしてたというくらいだから、サムのファン、特に関西人には強烈に印象づけられているのかも。
「なんやねんあの見たこと無い四角い口わぁ、普通あんな口して歌われへんぞぉ」
なんてボヤいていたりして(笑)
話しを小説『あなた明日の朝お話があります』に戻す。
一見すると吉本新喜劇のようなやりとりで終始する小説かと思いきや、『サム・クック』というキーワードが出てくると、急にシリアスな空気が物語に流れ込み場面が引き締まる。
それほど頻繁に出てくるわけではないけれど、『サム・クック』や『ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム』というキーワードはこの作品の重石となり、太い芯になっている。
物語がブレずにあるのは、それを構築している『サム・クック』という土台となる骨組みがしっかりあるからだと読み取れた。
チュンバさんご本人からすれば、そんな意図は無いよと言われそうだけれど、少なくとも『ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム』が表すように、物語の転機はそこで訪れている。
特にサム・クック・ファンの方にはあのサム・クックが好きなバイク屋のオサムには注目して読んで頂きたい。
サム・クック探索が終わったその後に、チュンバさんがこんなツイートをされていた。
7月13日
@kishiwadachunba: 「あなた、明日の朝お話があります」という小説の中に出てくるバイク屋のオサムのモデルになった山内さんからポンジュースが届いた。ありがとうな。小説ではいつもサム・クックを聴いてたけど、実はブルース・スプリングスティーンやねんな、あの人。
ブ、ブルース・スプリングスティーンやったんや。。。オサムさん(爆)
さすが岸和田生まれのチュンバさん、最後もちゃんとオチをつけて下さいます(^_^;)
ありがとうございました(笑)