$Sam Cooke Taste Hunter


小籔千豊が主催するコヤブソニックをはじめ、エレキコミックのやついいちろうのやついフェス、カラテカの入江慎也のイリエ・コネクションなど、最近は芸人が主催する音楽フェスが活発化してきている。

吉本が音楽市場にも手を広げてきたのも一つにあると思うが、元々音楽が好きな芸人とかは多くて、聴く側だけにとどまらず、ギターを弾く芸人やクラブでDJをする芸人も増えだし、ミュージシャンと芸人との繋がりが深くいなっているのを、ここ最近特に感じていた。

以前は芸人とミュージシャンのコラボといえば、ダウンタウンの浜ちゃんと小室哲也とか、明石家さんまとBEGINなどの大物同士の繋がりしか無かったものが、今やそれ程メジャーでないような芸人層までその繋がりが広がっていることに驚く。

そんな流れのなかで話題になっているのが、芸人による音楽番組の『バカソウル』。
MCに小籔とEXILEのMATSUを迎え、ステージで芸人達が音楽パフォーマンスを繰り広げるという番組。

そこでアフロ・マンとしてライブ・レポートしているのが、今回サム・クック好き芸人として取り上げるダイノジの大谷ノブ彦。

僕の思うサム・クック好き芸人の筆頭は、昔のテレビ番組『北野ファンクラブ』で"A Change Is Gonna Come"と"Wonderful World"を、エロい日本語詞に変えて歌ったビートたけし(笑)
たけしはサム・クック好きを公言しているので、その時の日本語詞やパフォーマンスも、芸人としてたけしなりのリスペクトだったと思う。

その偉大な芸人としてたけしを尊敬しているのがこのダイノジ大谷で、彼はこの春からその先人であるたけしがやってきたオールナイト・ニッポンのラジオDJとして抜擢された。

憧れていた芸人の、憧れた番組のDJとして務めることとなったダイノジ大谷は、たけしみたいに面白い事を言って笑わせられないからと、自分の得意分野である音楽評論という芸を武器に、第一回のオールナイト・ニッポンの放送に挑んでいた。

憧れのたけしが初めてオールナイト・ニッポンのオープニングで喋った言葉をそのまま引用してスタートした、ダイノジ大谷の第一回の放送がこれ。
(画像添付できないのでリンクから)


2013年04月04日 ANN~ダイノジ・大谷ノブ彦のオールナイトニッポン~ (Youtubeリンク


ここでの彼の趣旨は、若い人には中々なじめない洋楽への垣根を取っ払い、世界にはこんなにもカッコいい音楽が溢れているんだよと誘い、はたまたジャニーズのような音楽を軽視するロック・ファンには、ジャニーズの曲の奥深さや、彼らの音楽に対する精神論にまで、幅広く音楽を紹介したりして、先入観を取り除き、良い音楽を幅広く伝えていこうというようなもの。

そこに笑いは少ないかもしれないが、ここで紹介される曲たちへのリスペクトは強く、一曲紹介するまでに解説されるその語り口は熱い。

そのダイノジ大谷自ら言う『熱』のこもった熱さで二時間を駆け抜ける様が、この番組の面白さになっている。

ダイノジ大谷は以前から自身のブログでサム・クックのことを取り上げたりしていたので、きっとこのオールナイト・ニッポンでも紹介してくれるだろうと予想をしていた。
それがいきなり第一回目の放送から紹介されてビックリ(笑)

サム・クックの曲紹介に入る前に、まず大谷自身の生い立ちが語られる。
難産で仮死状態で生まれてきた大谷は、幼い頃、父親が家を出ていき、母親とお風呂も便所も共同の1Kのボロアパートで貧乏な生活をおくっていた。
そんな中、母親は何度も心中をしようと試みては誰かに止められて、最後いよいよ死のうと母親が決心した時に大谷が見当たらず、見つけた時はトウガラシ畑のトウガラシを全部食べた後に、その辛さに気付いて泣いている大谷の姿だったという。
その姿を見た母親が、大谷の生に対する執着心に心を動かされ、踏みとどまったそうだ。

それから何年か過ぎ、いよいよ大谷が上京すると決めた一日前に、朝、目が覚めると、水商売から帰ってきて酔っぱらった母親に首を絞められて殺されかけたという。
そこまで家は貧乏なのかと落ち込んだ大谷は、最後の晩の食事中に泣き出してしまったそうだ。
その後、弟に母親のことは俺が面倒みるから心配するなと励まされ、上京する時に聴いたのがサム・クックのハーレム・スクエアのライブ盤だったと語られた。


それから曲紹介に入るくだりを、折角なので抜粋してみた。

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◆2013年04月04日 ANN~ダイノジ・大谷ノブ彦のオールナイトニッポン~◆

(45分あたりから。。。)

・・・給食費ずっと払えなくて、三か月まとめてやっと払えるようになって、やっぱり母子家庭で田舎だから嫌な思いとか一杯させられたこともあったんだけど、そういった時に思春期に出会った、ロックに出会った時に黒人音楽の世界にグッと勇気づけられたことがあったの。

そんな中でもオバマ大統領がね、チェンジって言葉いったじゃん、あの言葉のテーマになった曲を歌ってたサム・クックっていう人がいるの。
この人が演ってる、まさにもう皆さん1500円持ってるんだったらこのアルバムだけ、次の日にレコードショップ行って革命おこしてほしい、『ハーレム・スクエア・クラブ1963』ま、つまり1963年、ちょうど50年前、ここで行われたライブを収録したライブ・アルバム。

未だに夜中ヘッドフォンをして大音量で聴いてグッと胸を締め付けられる。
ボウディーズのROY君も世界で一番好きなアルバムと言ってたから、このアルバムを世界で一番好きな人ってほんと多いと思うんだけど、サム・クックのハーレム・スクエア・クラブのライブ・アルバム一枚だけでもいい、出来れば君に1500円余裕があるなら明日買いに行って、そして明日夜たった一人ぼっちでヘッドフォンに爆音で、もう、一度も早送りしないで、再生してほしい。

その中で、全ての人権を奪われてしまったようなね、もう人間扱いされてなかったその黒人の人たちがその集会にライブ・コンサートっていう場所だけに集まって、サム・クックに何かを託してるようにいる、その空間の中でサム・クックが言うわけ、「Don't fight」って言うわけ、「戦わなくていいんだよ」って、「It's All Right」って言うわけ、「大丈夫だよ」って言うわけ。
それがその時の俺に、全く同じメッセージが届いちゃったの。

このアルバムは、サム・クックのMCも収録されてるんで、殆ど喋ってる「It's All Right」って、でも「It's All Right」言う瞬間の優しさ、それがまるでそこに集まってる人たちの心をちょっとずつ撫でて癒していってるのが分かるの。
だから俺は母親にそういう気持ちになった時も自分はダメなんだ不幸なんだみたいなこと思うよりも、そっとその時にね、その時はまだカセット・テープでしたけど、カセット・テープの再生ボタンを音MAXで、あの鈍行列車で聴きました。

で、隣の奴に「うるせぇ!」ってキレられて、直ぐあの音を小っちゃくしたという(笑)
聴いていただきたいです、サム・クックで「It's All Right」。。。

(It's All Right)

あのぁ、これ実は「It's All Right」で「For Sentimental Reasons」って曲に今、メドレーなんですけどこの後歌うの、それがすっごく上手いんだよね、ちょっと聴いてもらっていい?

(For Sentimental Reasons)

ここに集まってる人たちは、明日また辛い毎日が待ってるかもしれない。
でも、サム・クックのライブだけはスッゲー楽しいのが伝わってくるんだよ。
もう、これ皆でワーって歌うところが、俺なんかもう胸が一杯になっちゃうんだよねぇ。。。

Sam Cooke , It's all right / for sentimental reasons medley


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彼のブログでも何度もこのハーレム・スクエアのライブ盤のことをプッシュしていて、その度に必ずこれを聴くときは「爆音でヘッドフォンで」と言っている。
これには僕も同じ意見で、会場に響くオーディエンス一人一人の声や音、そして消えかける寸前までのサムの歌声をしっかり聴いてこそ、このアルバムの良さが感じられると思うから。

「Don't fight」の解釈が本来は「気持ちを押し殺さずに発散しろ」という意味なんだろうけど、ストレートに「戦わなくていいんだよ」と受け止めた大谷の解釈も、あの場面では正解だったと思う。

大谷はこうも言っている。

「神々しい、少し神秘的な、穏やかで、宗教的なまっさらな感じ。心が洗われるような、そして突然確信的な意志が芽生える感じ。ソウルミュージックにはそういうところがあります。」

単にこのライブ盤のロック的なノリや激しさだけで、サム・クックの評価をしているなら、本当のサムの奥深さは感じられてないと思うのだけど、この言葉やラジオで喋っていた「It's All Right」のくだりを聴くとそうじゃないことが分かる。

「そこに集まってる人たちの心をちょっとずつ撫でて癒していってるのが分かるの」。

うん、素晴らしい表現だと思う。


この自分の生い立ちとサムのハーレム・スクエアのライブ盤とをリンクさせたように、もう一つダイノジ大谷が私生活の中でこのライブ盤をリンクさせたブログ記事がある。
それが下記リンクの、父の日の回。

不良芸人日記 「父の日ですね」(リンク

これは同じ子育て中の僕にとっても同じような経験があり、共感のできる記事だった。
感動し、笑える最高のブログ記事。
本当に家族が好きで、そしてサム・クックが好きなんだなぁと思う。

彼のこういった芸風は「評論芸」と呼ばれているようだけれど、それほど堅くなく、良い音楽をより良く伝える事の出来る「表現芸」と呼びたい。

彼はサム・クックのようには歌えないかもしれないけれど、早口な喋り、ハスキーな声、そして聴く者に感動と熱を与え、少しのユーモアで笑いを誘うあたりは、サム・クックと共通する部分があると思う。

そして今、ダイノジ大谷のオールナイト・ニッポンという番組の中で彼がやろうとしていること。
洋楽と邦楽、そしてアイドルと様々な音楽ジャンルの壁をぶち破ろうとしている様は、サム・クックが人種の壁と取り払おうとしていたそれに近いモノを感じられずにはいられない。。。


ううん。。。熱って伝導するもんですね、すっかり熱くなっちゃいました(笑)

僕もこのくらいの熱量でサム・クックの良さを表現し、伝えていきたいもんです。。。(^_^;)