$Sam Cooke Taste Hunter

サム・クックは自身のレコード会社である SAR/Derby レーベルから様々なアーティストに曲を提供し、自らもその曲をセルフ・カバーしたりしてヒット曲を生んできた。

そのソングライティング能力にも定評があったサムの楽曲を、幸運にもプレゼントされたアーティストたちの曲を、この『Gift Song from Sam Cooke(サム・クックからのギフト・ソング)』で取り上げていこうと思う。

とは言えSAR/Derbyレーベルのアーティストの曲は、"Sam Cooke's Sar Records Story"で、ある程度CD化されていて面白味にかけるので、それ以外のレーベル・アーティストから探っていくことに。

$Sam Cooke Taste Hunterその第一回目のアーティストは、古くからサムと交流のあったジョージ・マッカーン(George McCurn)。
(写真:サムの右側に写る背が高く帽子を被っているのがマッカーン)

彼はルウ・ロウルズと同じピルグリム・トラベラーズで、ベース・プレイヤーとして活躍していた。ベース・プレイヤーと言っても楽器の方ではなく発声が低い音程のベース担当の方。

今までは大体サム・クックと声質が似ていて曲調もサムっぽい楽曲を取り上げてきて、サムのテナーとは正反対のベースの歌い手を紹介するのは珍しいと思う。

ゴスペル・ベーシストとしてのマッカーンの深みのある低音は魅力的だったようで、ピルグリム・トラベラーズに加入する以前には、フェア・フィールド・フォーにも在籍し、1985年にロサンゼルスで65歳で亡くなるまで、様々なグループのサポートをしていたようだ。

そんなマッカーンは62年にソロ・デビューし、最初に録音したのがマイナー・ヒットとなった"I'm Just A Country Boy"。
この曲は既にサム・クックがアルバム"Swing Low"でカバーしていたので、それに刺激を受けての録音ではないかと想像する。

このマッカーンがソロ・デビューした62年というのは、丁度サム・クックがアルバム"Twistin' the Night Away"をリリースし、ビッグ・ヒットしていた年で、RCAもサム・クック自身も潤っていた年。
その時にサムはルウ・ロウルズや、身近にいるゴスペル・グループのシンガー達にもソロ・デビューをするように強く勧めていたという。
曲を提供していたSARレーベルのシンガー達の曲が売れ始めたのもこの頃だ。

分厚い札束を見せびらかすサムの姿を眺め、彼の自信に満ちた勢いにそそのかされてソロ・デビューしてしまった一人が、このジョージ・マッカーンではないかと思う(笑)
そそのかされたというと語弊があるかもしれないが、ソロ・デビューしたからと言ってサムのように誰もがなれたわけではないので、あえてそう言った表現で(^_^;)

サムはそんな自分と同じゴスペル畑から飛び出してきたマッカーンのソロ・デビューを祝うかのように、彼にレーベルの垣根をこえてプレゼントした曲が、Libertyレーベルからシングル・リリースしたこの"The Time Has Come"。

George McCurn - The Time Has Come


家に帰りたくなるようなチャイムのメロディーから始まる叙情的な曲は、サムが"You Send Me"でそうしたように、ゴスペル臭を消したポップス・フィールドのバラードになっている。
デビュー曲の"I'm Just A Country Boy"の流れで、サムがこういう曲調のものを選んだのか判らないが、このマッカーンの低音でこの曲を歌われると、まるで欠伸でもしてるかのようで眠たくなってしまうのが正直な感想(^_^;)

The Time Has Come / Your Daughter's Hand - (Liberty) 1962
Written by Sam Cooke. Produced by Lou Adler and Herb Alpert.

このシングルのフリップの曲はサムのソングライティングではないが、どちらともにもルー・アドラーとハーブ・アルパートがプロデュースをしている。
ちなみにフリップの曲がこれ。

George McCurn - Your Daughter's Hand


ルー・アドラーとハーブ・アルパート、そしてマッカーンの共作となっているが、どちらかというとこちらの方がサム・クックっぽい楽曲のように思える。
彼らもそれを意識して作ったように思えるし、マッカーンの歌い方も低音を控えめにしてサムに近づけているようにも感じた。


それから63年には、ハーブ・アルパートとジェリー・モスが立ち上げたA&Mレーベルから、サムの作った楽曲を歌っている。
そのジェリー・モスはマッカーンの事を「ゴスペルの分野で非常に偉大で求められた低音歌手の一人」と絶賛している。

George McCurn - Clap Your Hand/ Well - A&M 741 (63)

これは両面ともにサムのソングライティングによるもの。
"Well"に関しては、バック・コーラスにJ.W.アレクサンダーが加わっている。

George McCurn - Clap Your Hand


George McCurn - Well


2曲ともにバックは手拍子がリズムをとる楽しそうなパーティー・チューンで、いかにもサム・クックらしいナンバーだ。

このシングルのリリースは63年ではあるが、サムがこの2曲を作った時期は62年の"Having A Party"が作られた頃と同じではないかと推測する。
丁度その頃にサムは自宅スタジオのあるロサンゼルスの邸宅に引越していて、そのスタジオにミュージシャンやゴスペル時代からの仲間も呼び、ツイストが世間を賑やかせてる最中に"Twistin' the Night Away"が作られ、そのパーティーのノリをそのままに"Having A Party"が次のシングル曲として録音された。
"Having A Party"のフリップに収録された"Bring It On Home To Me"の録音時は、サムのあけたウィスキーに酔いながら、ルウ・ロウルズやミュージシャンたちと深夜に録音されたという。
この"Clap Your Hand"や"Well"がその頃に作られたと思うのも、サムが自由に作曲し、仲間たちと楽しくレコーディングできる環境の中で生まれたハンド・クラッパーな楽曲というのは、この頃の象徴とも言えそうだからだ。

"Having A Party"の中の歌詞にも出てくる"Clap Your Hand"(手拍子)という行為。
サムはコパの時のインタビューで、ハーモニカに人気があるのは誰でも手軽で簡単に音を鳴らすことが出来る楽器だからだと語っていた。
その「誰でも手軽に簡単に音を鳴らす」ということの最たるものがこの"Clap Your Hand"であり、それに気づいたサムは、コパの"If I had a hammer"でそうしたように、殆どが白人相手のショーでは観客と一体化を図るために、まず観客に手を打たせている。

黒人ばかりのハコでのショーのように観客をメロディーに合わせて合唱させたり、「イェー!」と声を出させてコール&レスポンスを求めるのは意外にも難しく、その次の段階だと感じていたんじゃないかと思う。
大げさに言えば会場内だけでも人種統合するには、まず手を打つことから始まるんじゃないかと。

それだけこの手を鳴らすという行為は昔からある基本的な動作で、知らない曲であっても子供からお年寄りまでが簡単に参加しやすく、その場をあたため人々を笑顔にさせる効果がある。
まさに日本で言うところの坂本九が歌った「幸せなら手を叩こう」だ(笑)

しかしそんなパーティー・チューンな曲も、マッカーンの低い声で歌われると少し盛り上がりにかける(^_^;)
やはりサムの伸びやかな声で歌うこの曲を聴いてみたかった。

サムは曲を他人に提供するときは、譜面だけでなく必ず自分で歌ったデモ・テープも付けていたという。
きっと今回紹介した曲たちのデモ・テープもあったはずだ。

どこかにギターやピアノで弾き語るサムや、手拍子だけで歌うサムの歌声が収められた、まだ磨きがかかってないサム・クックの原石が沢山埋もれているに違いない。
いずれサムの"You Send Me"のデモ音源が聴けたように、それらの眠っているデモ・テープの音源を集めたCDなどが発売されないかと期待してしまう。

サムからの素敵なギフトを受け取った今回のマッカーンや他のアーティストたちが歌うその向こうに聴こえてきそうな、サムのデモ音源に収められた声を想像しながら聴くというのがここでの楽しみ方になりそうだ(笑)