◆「スノーグース」は1941年にポール・ギャリコにより書かれた短編小説
<登場人物>
・フィリップ・ラヤダー
1930年の27歳の頃イギリスのエセックスにある古い燈台とその周辺の沼地と塩沢を買い取り1人で孤独に暮らしている。彼の職業は、鳥や風景を描く画家で、16フィートのヨットを所有している。
彼の容姿は、せむし男・左手は萎えしなびて鳥の鉤爪のようになっている。体は小さいが、逞しい体にどす黒い髭をはやし、らんらんと輝く目をしている。
その容姿とは反対に美しい心の持ち主で人間や動物や自然をとても愛している。憐れみと思いやりに満ちている。あらゆる野生の生き物の友だちで、彼らも友情をもって応えてくれる。
・フリス
痩せっぽちで垢まみれな12歳前の、すみれ色の瞳をもった金髪のサクソン人の少女。
・スノーグース(白雁) 別名迷子の王女様
大嵐に遭いカナダからエセックスに迷い込んだところを猟銃で撃たれた。腰と翼の先が折れている。フリスによってラヤダーの元に連れてこられた。
<ストーリー>※ネタバレ注意
銃で撃たれ傷ついたスノーグースをラヤダー(「燈台に住む人食い鬼は、傷ついた鳥たちを治す魔力を持っている」と噂されている)を恐れながらも連れてきた少女フリスとの2人と一匹の物語。
ラヤダーの手当によって傷の癒えたスノーグースは飛び立って行ったが、しばらくすると彼の元に戻ってくる。
ラヤダーは、村の郵便局に立ち寄りフリスに「王女様が戻ってきたよ」と伝言をする。
フリスはラヤダーの元に通ううちに12歳の少女はいつの間にか19歳の大人になっていた。
スノーグースもすっかりなつき、ラヤダーのアトリエまでついて回るようになった。
王女様は他の鳥達が飛び立つ中、ラヤダーの燈台を住処と決めて、飛び立つのをやめてしました。
「あたし---、あたし、行かなくちゃ。さようなら。あの---王女様がいてくれるんで、うれしいわ。あんたもう、そんなにさびしくないもんね」
3週間後フリスは王女様がまだいるか気になってラヤダーの元を訪ねました。
ラヤダーはヨットに物資を詰め込み戦地に向かう準備をしていました。
村で、イギリス軍がドイツ軍に包囲されているダンケルクの話を聞いてそこへ向かうのです。
「フリス!来てくれてよかったなあ。そう、出かけなくちゃならないんだ。ちょっと行ってくるだけさ。また帰ってくる」
フリスは戦争のことも、フランスで何が起こっているのかも、包囲された軍隊の意味もわかりませんでした。
しかし危険なものという意味だけはわかりました。
「フィリップ帰ってこれやしないよ、なんであんたじゃないとだめなの?」
「兵隊たちがね、狙われた鳥みたいに浜に追い詰められているんだよ。まるで狙われて怪我した鳥みたいに。ね、フリスぼくたちはそんな鳥たちをみつけては保護領につれてきてやったじゃないか。みんな行き場を失って、嵐にうたれて苦しんでるんだ。兵隊たちは助けを求めているんだ。ぼくの力でできることなんだよ」
「一緒に行くわ、フィリップ!」
「君が行けば兵隊が1人づつ取り残されてしまう・・さよならフリス!僕が戻るまで、鳥のせわをしてくれないか」
「鳥のせわはやっておくわ、フリップうまくやってきて!」
滑り出したヨットに王女様が円を描きながらついていきました。
その後の兵士たちの会話の中で鳥を連れた鉤爪のせむし男が6人乗りのヨットに乗り銃弾の嵐の中を恐れること無く突き進み、何人もの兵隊たちを何往復もして助ける話をしています。
そして、最後に、機関銃で撃たれ、水面に顔を沈め死んでいる鉤爪のせむし男の話をしました。
王女様はラヤダーの死を知らせに燈台にいるフリスの元へ戻ってきました。しかし、飛び立つと、2度と戻ってこなくなりました。
◆白雁(スノー・グース)(Music Inspired by The Snow Goose)CAMEL
1975年イギリスのプログレ・バンド、キャメルはこのスノーグースの話を1枚のコンセプト・アルバムとして仕上げました。全編ヴォーカルの入っていない演奏のみのアルバムで、レコード会社は売れないだろと難色を示しましたが結果的にキャメルの代表作となりました。
1. グレート・マーシュ
2. 醜い画家ラヤダー
3. ラヤダー街へ行く
4. 聖域
5. 少女フリーザ
6. 白雁(スノー・グース)
7. 友情
8. 渡り鳥
9. 孤独のラヤダー
10. 白雁(スノー・グース)の飛翔
11. プレパレーション
12. ダンケルク
13. 碑銘
14. ひとりぼっちのフリーザ
15. 迷子の王女さま
16. グレート・マーシュ
私の大好きな作品で、本当に良く聞くアルバムです。
プログレシブ・ロックというと、クリムゾンやピンク・フロイド系の難しいものを想像しますが、キャメルのこの作品はシンフォニックロックと呼ぶべき美しい作品郡です。
「醜い画家ラヤダー」はラヤダーの外見とは裏腹に彼の美しい心の世界を的確に表現しています。続く「ラヤダー街へ行く」は二週間ごとにチェルムバリの村に買い出しに行くラヤダーが疎まれる様子を描く作品で、ギターの名演です。ギター小僧はコピーをお勧めします。
醜い画家ラヤダー/ラヤダー街へ行く
白雁(スノー・グース)/友情/ラヤダー街へ行く
↑白雁(スノー・グース)は別名王女様のテーマです。
友情:もはやロックではなく、完全にクラシック音楽です。美しいです。
物語は涙なしでは読めない素晴らしい作品で、映画化されたら必ずヒットする作品に成るでしょう。スピルバーグあたりに監督してもらいたいです。
また、その際のサウンドトラックにはこのキャメルの作品を挿入歌にしてほしいですね。
作者のポール・ギャリコはタバコ嫌いでキャメルがこのスノーグースを発表する時にタバコの名前を付けたグループに難色を示しました。そこで、Music Inspired by The Snow Gooseというタイトルで発表することにしました。
キャメルは他にも1981年にルバング島で戦後29年投降しなかった小野田寛郎少尉の話を元に『ヌードの物語 ~Mr.Oの帰還~(Nude)』を発表しています。