原作:真山仁(代表作:ハゲタカ)
脚本:篠崎絵里子
監督:香月秀之/鈴木浩介
制作:WOWOW 2012年
出演:尾野真千子/長塚京三/津田寛治 他
おすすめ度 ★★★☆☆ 75点 発電を考えるいい機会
全5話 Huluにて鑑賞、DVDも発売済み
<ストーリー>
外資系ファンドに勤める妙子(尾野真千子)は、社長の待田(津田寛治)に、買収したばかりの不振企業の再建を任される。その企業は、地熱エネルギーを供給・開発している「日本地熱開発」という地方の小さな会社だった。左遷ではないかと不満に思いながらも、事業を立て直すべく乗り込んだ妙子は、現社長の安藤(谷原章介)に経営状況を厳しく追及。社員リストラと赤字部門閉鎖による合理化を発表し、長年研究に命を燃やしてきた所長の御室(長塚京三)らの猛反発を受ける。収益性を確保し、企業を立て直すという信念のもと突き進む妙子。 WOWOWより
2011年3月11日以来、原発事故による原発への世論は厳しいものとなりました。原発無しではどうにもならないと言われていましたが、一年のうちで一番電力需要の高い夏は、原発無しの火力発電等で乗り切れました。
私はたった1基の原発事故だけでこれだけの被害を出す原子力発電に疑問を感じます。まるでブレーキの無いダンプカーを運転していたようなものです。事故が起きた後も止まらずに放射性物質を吐き続けており廃炉までの道程は遠いです。自然エネルギーの一つである地熱発電を推し進めるべきだと思いましたが理想だけでは電気は生まれません。
地熱発電に関する「マグマ」というドラマがあるのを知り理解を深める良い機会だと思い鑑賞しました。
まるでNHKのプロジェクトXをドラマに仕上げたような作りで、「下町ロケット」とかなり似たような印象のずっしりとした社会派ドラマでした。
地熱発電 WOWOWより
火力や原発は、水を蒸気にして、その勢いでタービンと繋がっている発電機を回す。
つまり、水を沸騰させるコンロの役割をするのが火力なのか原子力なのかという違い。
地熱発電の場合は、地球の中にある天然のコンロ(=マグマ)を使う。地下にはマグマによって高温になった地下水が溜まっている。そこに、深い井戸を掘ってパイプを通してやると、地下から熱水が噴き上がって、地表に出た時には蒸気になる。地熱発電は、その水蒸気でタービンを回して電気を起こす。
ドラマの中に登場する高温岩体発電は、地熱発電の発電方式のひとつ。地上から水を勢いよく流し込み、その水圧によって高温の岩盤に亀裂を入れて人工的な水溜りをつくる。その水溜りがマグマに熱せられて熱水になる。
例えると、マグマが火で、岩盤がフライパンのようなイメージだ。その熱いフライパンに水を入れると蒸気があがって、タービンを回すことができる。
化石燃料を一切使わないからCO2の排出もほぼゼロ。
天候にも左右されず24時間365日安定供給できる。
しかも、日本は世界第三位の地熱資源国で、原発約20基分にあたる資源量が眠っているといわれている
◆ネタバレ含む感想
フィクションなのは仕方ありませんが、一番がっかりしたのは、ドラマでは高温岩体発電が成功して、めでたしめでたしで終わるのですが、ネットで調べると、研究は実用化のめどが立たず終了しているらしいです。成功していればプロジェクトxでしたね。
このドラマは成功していないのに成功しているように幻想を作り出していたわけです。
ただし、エネルギー問題を考えるきっかけにはなりましたし。フィクションとしてはきっちりとしたドラマに仕上がっています。
◆妙子が働く目的が明確になった
ハゲタカファンドから送られた妙子は会社を潰して利益を上げることを考えますが、その目的は、上司の持田を見返す事・・・しかし、所長を始めとした研究者達の熱い情熱に次第に心境の変化が現れていきます。
「時間も金もかかる、先も見えない、それでも日本の未来の為、世の中の為に必要なんだ」という御室耕治郎言葉やその他大勢の社員の家族と接していくうちに、自分は何のために働いているのだろう?と疑問が湧いてきます。ファンドに入社する時に持田が説明会で言った「ファンドは企業を救うことができる」という宣伝文句。それを信じて入社したのですが働くうちにいつの間にか目的が変わってしまいました。
しかし、最愛の父親の言葉「人には役割があるんだよ、自分たちが果たす役割、いつか妙子にもわかるよ」と、言われたことを思い出し、自分の働く目的を再確認した妙子はベッドの上で玉田の子供が書いた絵の前で泣きくずれます。そして、今自分ができる事を精一杯やろうと決心します。
◆対立より多様性
ドラマでは原子力発電推進の学者と地熱発電の御室耕治郎の間で言い争いが起こります。原子力や火力発電ばかりに頼るのはやはり危険です。政治家の思惑で何が正しいのかよくわからなくなって来ますが発電の多様化は必要だと思います。
◆WOWOW
テレビ局はスポンサーの絡みではっきりと物を言えない番組が多いですが、一般的なテレビ局よりしがらみが少ないところだからこそ作れるドラマだと思いました。
◆演技
皆さん重厚で緊張感いっぱいの演技をしていました。
中でも一番良かったのは御室耕治郎役の長塚京三さんです。頑固一徹の研究者を見事に演じていました。ファンドの持田顕一役の津田寛治さんもいっちゃってる目のスゴイ迫力の演技を最後まで演じてましたね。
◆現実の高温岩体地熱発電は実用化のめど立たず
高温岩体発電の事例(日本)
1992年 熱水滞留、1本の坑井で複数の貯留層の造成に成功(世界初)
1993年 22 日間循環実験開始
2000年から2年間、肘折地区で実証実験、発電が実施された。
現在、雄勝地区で実証実験プラント設備を使って、蒸気生産が行われている。実験開始当初、注入水より生産蒸気が少かったが(回収率3%)生産井戸を増やすことで80%回収するモデルを想定している。ただし生産井戸の増加はコストの増大につながる。 実証プラントは、現在、発電会社に譲渡された。
アメリカとオーストラリアで現在地下貯水槽や熱水滞留層が作られている。
スイス→地震を誘発し中止
wikiより
日本も米国に続き研究を2002年度で終了。当時を知る電力中央研究所上席研究員の海江田秀志は「技術をものにできれば、国産資源が手に入り、世界に事業展開もできる。すごく期待されていたが、コストが高すぎた」と語る。
現在は「EGS(強化地熱システム)」と名を変えて実験が続けられている。 朝日新聞より
※追記
2023年7月18日 米国ファーボ・エナジー社(親会社グーグル)が強化地熱システムの坑井試験が成功裏に終了したと発表。同社は400MW級のプラント建設を開始し、2028年までに稼働する計画。これにより、約30万世帯の電力を賄えるとしている。ファーボは、今回実施したProject Redを通じ、地熱エネルギーが米国の電力需要の20%超を賄えると共に、完全な脱炭素グリッド(電力網)の構築に向けて、出力が大きく変動する太陽光と風力発電を補完できるという画期的な成果を得られた。
◆一般的な地熱発電はやはり有望
「再生可能エネルギーの中で、24時間365日の稼働が可能な地熱は群を抜いて「安定的」な電源といえる。2009年に経済産業省がまとめた地熱に関する報告書によると、太陽光の設備利用率は12%、風力が20%なのに対し、地熱は70%だ。
発電コストはどうか。2010年のエネルギー白書によると、1キロワット時あたりの発電コストは、原子力が5~6円なのに対し、太陽光は49円と確かに割高だが、地熱は8~22円にとどまっている。
それでも「電力会社からみれば地熱は利益率が低く、事業の優先度が低いと判断された」と経産省幹部は語る。」 朝日新聞より