追いつめられて ~小心者の戦いⅡ~
ワサワサワサワサ・・・汚染箇所の周辺には、それまでに何度かお目にかかったことがある未確認歩行物体が、群れをなして這い回っていた。「オッ?こいつらに会うのは久し振りだな」最初はそんな余裕をかましていた私だったが、よく見てみるとその数は膨大。気のせいか、彼等は私に向かって近づいてきているように思え、その不気味さに鳥肌が立ってきた。「こんな所に長居は無用!退散、退散っと」現場見分の山場(汚染箇所の確認)をクリアした私は、気持ちも軽快に外に出るため玄関に進んだ。そして、老朽鉄扉のノブに手をかけた。「あれ?」ドアが開かない。「あれっ!?」まだ開かない。「あれーっ!?」全然開かない。私は、何が起こったのか理解できず、頭が真っ白になった。無意識のうちに、ドアをガチャガチャやり続けた。「ま、ま、まさか?」「ひょ、ひょ、ひょっとして?」「と、と、閉じ込められた!?」私は動揺しまくった!心臓はバックンバックン、身体からはイヤな汗がジトーッとでてきた。「落ち着け!落ち着け!」「慌てるな!慌てるな!」「冷静に!冷静に!」自分に言い聞かせる自分が、既にパニックに陥っていた。精神的にも物理的にも、完全に追いつめられた私。しばらくの間、ドアノブと格闘した私だったが、いつしか弱気になり、ついに自力脱出を諦めた。「どうしよぉ・・・」とにかく、他の住人に私の存在を知らせることにした。まず、ドアを内側からしばらくノック。時折、外から物音・人の動きを感じるものの、反応がない。「腐乱死体部屋の中からノック音がしたら、助けるどころかビックリして逃げてしまうか・・・」次に、ドアポストの隙間から「スイマセーン」と何度か声をだしてみた。「・・・ま、これも不気味だな」私は、他に助けを呼ぶことにして、ポケットの携帯電話を取り出した。「さて、誰(どこ)に電話しよぉか・・・」会社・大家・鍵屋etc、自分の面子や事の緊急性など色々考えて、とりあえず不動産会社に電話することにした。そして、特掃を依頼してきた担当者に、「玄関ドアが壊れたらしく、真っ暗な腐乱死体現場に閉じ込められてしまった」ことを伝えた。すると、担当者は驚いて「すぐに110番か119番に電話する!」と、見当違いな返答をしてきた。このくらいのことで警察や消防の手を煩わせる訳にはいかない。私はそれを制止して、とにかく鍵を持って急行してくれるように頼んだ。担当者が到着するまで、私は、そこで待つしかなかった。腐敗臭、未確認歩行物体、そして暗闇。私は、意識的に楽しいことを考えようと試みたが、思考はどうしてもネガティブな方向に傾いた。「俺には、楽しいことのネタがこんなにも乏しいのか」と苦笑したのもつかの間「未確認歩行物体が自分を食おうとするのではないか」「幽霊がでるんじゃないか」と言う不安が襲ってきた。「なんだか、恐いなぁ・・・」私は、余計なものが見えたり聞こえたりしないよう目を閉じ、両手で両耳を塞いでジッとしていた。そして、自分を励ますために、どこかで聴いたことがあるアンパンマンのテーマソングを不完全な歌詞で繰り返し唄った。ちなみに、「ウジとシタイだけがト~モダッチさ~〓」なんて唄ってないからね。助けを待つ、その場の臭かったこと、その時間の長かったこと。しばらくして、やっと担当者が来てくれた。そして、外からドアを開けてくれた。意味不明なことに、外からだと普通に開いたドアだった。「助かったーっ!」「だ、大丈夫ですか?」「あまり大丈夫じゃないです」「でも、大事にならなくてよかったですね」「まぁ・・・ね」長時間いたせいで、私の身体には腐乱死体臭がバッチリ着いていた。生きているのに死人の臭いを発しながら、ヨロヨロと帰途につく私だった。「追いつめられて・三部作」はこれで終了。記したこと以外にも、私は毎日色んなかたちで追いつめられながら生きている。そんな人生は、楽よりも苦の方が多いような気がしている。それでも、人は誰でも、追いつめられた土俵際で踏ん張る力は備わっているようにも思う。ま、踏ん張れないときは一旦負けて、また仕切り直せばいいんだけどね。気づけば、2006年も師走。大したことができないまま、歳だけとっていく。腐乱臭・異臭でお困りの方はヒューマンケア株式会社0120-74-4949