リアル
現場に行ってから、「こんなのありかよぉ」と思うことは多い。床を埋め尽くすウジの集団、壁を黒く染めるハエの大群、飛び散る血、正体不明の肉塊etc。私が現場に到着するのは、腐乱死体の本体は警察が回収した遺体の後。死体本体が残っていることは稀である。まぁ、「死体本体」と言っても、その溶け具合いによって、指すモノが変わってくるのだが。溶けた人間が相手じゃ、何が「死体本体」なのか不明確だ。とりあえずは、骨は本体にあたる。では、「死体本体」に含まれないものは?お馴染みの、腐敗液・腐敗粘土・毛髪などの小物(?)がそう。現場によっては、残された汚物から遺体があった状況がリアルに想像できるところがある。手足や頭があった位置がハッキリ分かると、結構不気味なものである。人間の痕を残す汚物が、私の想像力をバーチャルな世界に引き込むのだ。そんな時は、いつもの手段で脳の思考を停止させるしかない。防衛策はそれしかない。ある腐乱現場。汚染場所は洗面所だった。洗面台の前に膝まづくような格好で汚染が広がっていた。その汚染から、シンクに両腕と頭を突っ込み、膝立ち状態だったことがうかがえた。シンクの内側には無数の頭髪がつき、腐敗液・腐敗脂が溜まっていた。死後日数がそんなに経っていなかったのだろう、腐敗液はみずみずしい(変な表現?)ままで、腐敗粘土にまではなっていなかった。大量の髪が小さな排水口に詰まっているらしく、先に腐敗液を除去するしかなかった。吸水・吸油用のパックを使って吸い取りながら、髪の毛も拭き取った。排水口が浅いところで詰まっていたのは不幸中の幸いだった。深いところまで汚染されていると、水回りの管を通じて風呂・トイレ・キッチンにまで悪臭がまわる可能性があるからだ。アパートやマンション等の集合住宅の場合、その臭いは他住居にまでまわることもある。「家の水回りから変な臭いがしてくると思ったら、他世帯の腐乱死体臭だった」なんてことも有り得るわけ。こうなると、部屋の消臭だけではどうすることもできない。ま、ここではそこまでのことにはなっていなかったので、よかった。シンクの脇には腕の痕、ワインレッドの液体が伸びていた。腐敗液の態様からは、警察が遺体を回収した様もうかがえる。それもひたすら拭き取るしかなかった。床の汚染も同様。特掃作業が終わってから、依頼者が現場確認にきた。「遺体はどんな格好で死んでたんでしょうね?」そう尋ねられた私は、洗面台の前に膝まづきポーズをとって言った。「ちょうど、こんな感じだったと思います」何も考えずに安易な行動をとってしまった私。とっさに、特掃前の光景が頭を過ぎった。頭の中で、自分と腐乱死体が重なってしまい、思わず「ウワッ!」と叫んで飛び退いた。こともあろうに、実際の現場で腐乱死体を代演する自分にこう思った。「いい度胸をしてるのか、バカなのか・・・」汚物が人間的だと精神的にキツい!人間が汚物的だと、これまたキツそうだけど。特殊清掃についてのお問合せはヒューマンケア株式会社0120-74-4949