29.3.「株式会社」にあたる英語


私は実は旧制高校に入学し、卒業後は東大経済学部にほぼ自動的に進級できるコースにいたのであるが、同じコースに一年前に進級していた旧制高校の先輩が、「経済学部を卒業して会社か銀行に入って働く人生を送るのは、アカデミックな思考の持ち主の小笠原君には合わないち思うよ。君は文学部に行ったらいいのではないか」の一言で、結局文学部言語学科に行ってしまったのである。


そんな私だから、会社についての法律(会社法)や商法など何も知らないし関心もないのであるが、法律上認められている会社は、正式には“~Company”の直後におそのことを記号で示していることぐらいは知っている。そしてこれには、英国式を米国式の二つの形があることを、以下で示してみる。


<英国式> ~Company, Limited. (Limited.は、時にLtd. と略記することがある)

<米国式> ~Company, Incorporated. (Incorporated.は、Inc.と略記することがある)


limitedとかincorporatedとは、要するに<法人化された>ということである。


29.1.父はこの時間は「会社にいる」


ここでの「会社」は父が勤務している会社なので、“his companuy”と考えてよい。しかし、ここでの「会社」をcompanyと表すのは、日本語的発想であって、英語的発想ではない。英語では、父は「会社」という全体的存在に関わって働いているのではなく、その中の一部局で働いているわけで、companyというものは、いくつかのofficeから成っているので、このofficeに視点をすえて表現するのである。そこで、見出しの日本文は、次のような英語で表している。


My father is in his office at this moment of the day.



29.2.「会社員」にあたる英語


company employeeでもいいが、より普通にはoffice workerと表している。


28.4.Who do you work for?


明治時代、大正時代、昭和初期の英語学習書(参考書)では、work for~のforは前置詞であるから、その目的語([注])は、いわゆる目的格形でなくてはならないので、ここのwhoは目的格のwhomでにしなくてはらず、しかもforは前置詞なのでwhoの前に置かなくてはならない。そこで、“For whom do you work for?”が正しい英文である、と説明されていたものである。

その頃の英文法家の保守派の人々の間では、合言葉の一つの次のようなのがあった。


Never end a sentence with a preposition.


しかし、日常口語体英語では、別の原理が働いていて、whomではなくwhoで始めている。その原理とは、話し手の心理であって、文頭はそもそも主語(主格)の位置であるから、whomをその位置においてはいけない、とにかくwhoで始めなければならないと考えたためである、と進歩派英文法家は言っているのである。


“Who do you work for?”の意味するところを説明するつもりでいたのが、その文の形について思わず深入り(?)してしまった。本来の話に戻ることにする。


“Who do you work for?”を直訳して、「あなたは誰のために働いているのですか?」と取ったら、「私の家族のために」という話しになってしまう。

しかし言葉というものは、場面とか状況の中で使われるものであって、初めての人との社交的会話の中では、「誰のために働いているのか?」などという話題は、普通持ち出さないものである。

初めての人との社交会話なら、「どんな仕事をしているのか?」とか「どういう会社にお勤めですか?失礼な質問かもしれませんが・・・」といったやり取りがあるもので、そういう中での“Who do you work for?”であるから、その意味するところは、「どういう会社にお勤めですか?」→「どこの会社にお勤めですか?」、会社とは限らないのだから、要するに「どういう(お)仕事をしておられるのですか?」ということである。

つまり、whoはここでは雇用主(employer)のことに言及(refer to)しているのである。とにかく、この

“Who do you work for?”は、私に言わせれば、きわめて英語らしい表現である。



[注]前置詞の目的語という英文法用語がある。