28.4.Who do you work for?


明治時代、大正時代、昭和初期の英語学習書(参考書)では、work for~のforは前置詞であるから、その目的語([注])は、いわゆる目的格形でなくてはならないので、ここのwhoは目的格のwhomでにしなくてはらず、しかもforは前置詞なのでwhoの前に置かなくてはならない。そこで、“For whom do you work for?”が正しい英文である、と説明されていたものである。

その頃の英文法家の保守派の人々の間では、合言葉の一つの次のようなのがあった。


Never end a sentence with a preposition.


しかし、日常口語体英語では、別の原理が働いていて、whomではなくwhoで始めている。その原理とは、話し手の心理であって、文頭はそもそも主語(主格)の位置であるから、whomをその位置においてはいけない、とにかくwhoで始めなければならないと考えたためである、と進歩派英文法家は言っているのである。


“Who do you work for?”の意味するところを説明するつもりでいたのが、その文の形について思わず深入り(?)してしまった。本来の話に戻ることにする。


“Who do you work for?”を直訳して、「あなたは誰のために働いているのですか?」と取ったら、「私の家族のために」という話しになってしまう。

しかし言葉というものは、場面とか状況の中で使われるものであって、初めての人との社交的会話の中では、「誰のために働いているのか?」などという話題は、普通持ち出さないものである。

初めての人との社交会話なら、「どんな仕事をしているのか?」とか「どういう会社にお勤めですか?失礼な質問かもしれませんが・・・」といったやり取りがあるもので、そういう中での“Who do you work for?”であるから、その意味するところは、「どういう会社にお勤めですか?」→「どこの会社にお勤めですか?」、会社とは限らないのだから、要するに「どういう(お)仕事をしておられるのですか?」ということである。

つまり、whoはここでは雇用主(employer)のことに言及(refer to)しているのである。とにかく、この

“Who do you work for?”は、私に言わせれば、きわめて英語らしい表現である。



[注]前置詞の目的語という英文法用語がある。