48.2.downtownの品詞


前項での downtown についての私の説明は、名詞 downtown についてであった。名詞 downtown は他の名詞の前に修飾語(形容詞)として、次のように使われることがあるのはもちろんである

・the downtown area

・a downtown street


興味深いのは、downtown は副詞として、次のように使われる。

・go downtown

・go shopping downtown

・walk around downtown








48.1. downtownとは


この語は実に頻繁に使われている。仮にこの語を見たことも聞いたこともないという日本時がいたとしたら、その人はイギリス英語のものにしかふれていないか、そもそも学校の英語の授業や教科書でしか習ってこなかった人ではないだろうか。時には英字新聞を読んでみたり、日本にいてもAFN(米軍放送)に時々耳を傾けてみるなら、downtown いう語に出会っているはずである。


その語を聞いた時、私はこれはどうも日本語の「下町」のようなものではないな、と感じられたのである。そもそも「下町」というのはどこの都市にもあるもではなく、東京の用語で「山の手」に対する地域名である。ついでながら私は山の手生まれの母親から牛込区(現在の新宿区)河田町で生まれ、新山の手(東中野)で育ち、山の手の中学校(千代田区九段)に通い、高校と大学は山の手(文京区小石川茗荷谷と本郷)の学校に通ったのである。そして、山の手の言葉と下町の言葉はかなり違うこところがあることに気付いていた。私が大学で4月の第1週に自己紹介をすると、「先生は江戸っ子ですね」と言われるが、山の手生まれは東京っ子であるが、江戸っ子ではない。江戸っ子は、下町生まれの人々である。父方(小笠原姓)は、松本城の初代城主であり、江戸中期から徳川幕府の要職にあった。


話しを戻すと、 downtown は、どの語構成から「下町」と訳したくなるが、これは一種の文化的誤解である。と言うのは東京で言えば、浅草、上野、両国、亀戸、深川などが「下町」だからである。


私が downtown について高校教師時代に友人の米国人(東京に比較的長く住んでいた)に、都内で downtown と言える具体的場所を言って欲しいと頼んだところ、「丸の内、大手町、日比谷、銀座、京橋、日本橋…」と言ったのである。丸の内や大手町がdowntown なのか、と問い返すと、市の行政や経済の中心的建物があるからだと言う。なるほど、都庁(当時は丸の内の一角にあった)、中央郵便局、大銀行本店、有名ホテルは、みなこの地区にある。東京の中央駅である東京駅もそうである。


私が downtown とはどういうところか、かくも関心を持って調査、考察していた頃、英和辞典の多くは、「下町」という訳をつけていた。しかし私は、「中心街」と訳出したほうがよいと提案したこともあってか、英和辞典で、まだ「下町」という訳を載せているものは、今ではないのではないか。


『源氏物語』を英訳したことで著名で、日本文化の良き理解者である Edward Seidensticker 氏は、「下町」のことを Low Town、「山の手」のことを High Town と英訳したらどうであろう、と提案している。


[付] downtown は必ずしも繁華街であるとは限らない。








47.2 「上り列車」/「下り列車」


日本語で鉄道の「上り」「下り」という区別があるのは、東京という中心があるからで、米国の中心とは首都 Washington D.C. なのか New York City なのか米国人に訊いたことがある。すると、次のような答えが返ってきた:

There are several cities all of which can be called centers of the States, like New York City, Boston, Chicago, San Francisco, L.A., Houston...

このように米国には、日本と違って、中央集権的なセンターというものがあってそこから一極集中しているのではなく、Several centers があるのだから、「上り」だの「下り」といった考えは持ちにくいことになろう。何かで、「上り列車」は up-train、「下り列車」は down-train と表せば良い、とあったことを思い出し、米国人(ニュージャージー州出身)に訊いてみると「いや、自分には up-train は北に向かって行く列車、down-train なら南へ向かって行く列車という意味にしか取れない」というのであった。

その数年後、福井大学に講義に行った時に知ったことがある。明治初年に福井藩から、米国東海岸でニューヨーク市の南方ニューブランズウィック(New Brunswick)にある Rutgers Universityに留学した二名の侍がいて、学業が優秀であったが、そのうちの一名は現地で病没した、というのである。

さらにそれから数年後に、思い切って Rutgers University とその隣の墓地にあるこの侍の墓を訪ねてみたのであった。その帰り、ニューヨークの私の宿に戻るため New Brunswick Stationのプラットホームに立っていた。その時、そうだ、例の「上り」「下り」のことはどう表示されているか確かめてみようと掲示の類に注意してみると、

・右側のホーム:Northeren-bound trains
・左側のホーム:Southern-bound trains

と示してあるではないか。やはり、「上り」「下り」という概念はないことが現地で確かめられたのであった。同様にして、東西の方向に走っている列車とプラットホームの区分は、Eastern-bound trains、Western-bound trains となる。