87.5.terayaki chickenとは


初めて米国本土に入った最初の大都会はサンフランシスコ(SFC)であった。坂道(hill)だらけの街で、その時はまだ行ったこともなかったスペインっぽい建物や通り名もあった。東京に来てしばらく滞在した San Francisco State College の米国人准教授、D. Stout氏の研究室を訪れたのであった。夕食を一緒にしようということで、彼が行きつけのレストランに連れて行ってくれた。

O: What would you recommend to eat here?
S: How about 'Terayaki Chicken'? It's very tasty. It's very popular nowadays.
O: Terayaki? How is it cooked?
S: I think Terayaki comes from a Japanese world.

そう言われた瞬間、そうだ「照り焼き」のことかとわかったのである。Terayakiと言われた時のそのアクセントも「テラキ」 と後のほうに置いていたのでわかりにくかったし、私は初め「寺焼き」とは一体どういうことか、サンフランシスコに寺があるのだろうか、と妙なことまで考えてしまったのである。それに当時の日本人にとって「照り焼き」と言えば魚を連想し、鶏肉のことなど連想しがたいものだっのである。

87.4.quiche


いまでこそ都内のおしゃれなパン工房的なパン屋(自分の所にパン焼き窯がある)では造って売っているもので、「キッシュ」と呼ばれている。

しかし私の第2回米本土旅行(1971年)頃は、日本では「キッシュ」はほとんど知られていなかった。

この第2回の米国旅行では、今度はNorth-West航空であったかと思うが、シアトル(Seattle)を経てシカゴに飛ぶランチの配膳をしている客室乗務員が、乗客一人一人に“Quiche?”と訊いては、トレーにのったquicheなるものをおいてまわっていたのである。quicheという単語はそれまで聞いたこともなかったので、私は客室乗務員に訊いてみたのである。

F:Quiche?
O:I'm from Japan, and this is the first time I've ever heard the name of the food "quiche." So what kind of food is it? I'd like to know whatever it is. I'm ready to taste it.

F: Well a quiche is a kind of cake, usually hot, not sweet, which is a mixture of eggs, cheese, onion, often with ham or bacon. It's a snack. I hope you'll like it.
O: Thank you for your explanation. Looks delicious. Anyway, "Eating is believing." Thank you again.


最後のほうの“Eating is believing.”は、ことわざ英語の“Seeing is believing.” にかけたつもりであった。そして食べてみて、私のそれまでの人生で初めての味であったが、なかなか美味なもので、おやつとしても主食としてもよいものと思われた。
87.3.beverage (service)


いま私が高校生だったとしたら、きっと外国語学部英語科か言語文化学科に進学していたであろう。私の母方の大伯父の服部應夫(よしお)は東京外国語大学イタリア語学科卒で、新聞社編集長を経て、大正14年(1925年)東京放送局(いまのNHKの前身)の初代局長を勤めた人で、私が小学校6年や中学低学年の頃、赤坂に住んでいたこの伯父の家に遊びに行くと、書斎に通されて洋書が書棚にぎっしり並んでいたものである。この大伯父の影響で、旧制中学校卒業の時、東京が以後をもう少しで受験するところであったが、私は旧制高校文科甲類に進学し、その翌年東京高等師範学校(略称:東京高師)の文科英語科に転じてしまった。

外語に進学するのをやめたのは、父方の叔父が東京の旧制豊島高等師範学校(今の東京学芸大学の前身)の助教授(社会教育学担当)だったのが、「外語はpractical語学だが、東京高師の英語はacademicで、林樹君に合っていると思うよ」の一言で、東京高師旧制英語科に入り、その英語科最後(第57回)の卒業生となったのである(ついでながら、東京高師の卒業生としては第90回生であったと聞いている)。

東京高師の英語化は文科英語科で、いまの言葉で言えば文学部英語英文科であるから、当時としては当然であったが、英文学(米文学も少し)のテクストを正確に読解する力をつけるような授業がほとんどであった。ただ併せて、英語を聴き話せるようにということも配慮されたカリキュラムではあった。英文学のややクラシックな作品のテクストであったkら、その中に'beverage'などという単語は出て来なかった。

もっとも後年私は国立大で最初に出来た国際学部(宇都宮大学)に出講していたが、これは外国語学部も同然の学部であったが、ここでも購読のテクストの中にbeverageという語は出て来なかった。

私が初めてbeverageという語を聞いたのは、私の第1回訪米本土旅行の途次にのったPan American航空の飛行機内でのことであって、離陸(take off)後しばらくして機内アナウンスで、

In about 30 minutes after our take-off, we'll be at the cruising height. Then we'll start our beverage service for each passenger.


このアナウンスの通り、羽田空港の離陸後30分ほどしたら、進行方向の先方のほうから、“Coffe, tea or orange juice?”という米国人の客室乗務員の声が聞こえ始め、そのうち目の前(と言うより目の横の通路aisle)にbeverageを積んだワゴン(push-cart)が押されてきたのである。私はオレンジジュースを持った。

この時の体験でbeverage(s)とは、「いわゆる飲み物」のことであり、それは具体的にはコーヒー、紅茶、オレンジジュース(場合によってはジンジャーエール、ワインなども含む)などのことであることが分かった。

このbeverageというのは、何年か前からカタカナ語に入り、東京の街中でも、ドリンクの自動販売機(vending machine)の前に業者の軽トラックが停まっていて、そのトラックには会社名の「キリン・ビバレッジ株式会社」と出ているのである。キリンビールの子会社である。