A・A・ミルン『ウィニー・ザ・プー』 | 文学どうでしょう

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ウィニー・ザ・プー (新潮モダン・クラシックス)/新潮社

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A・A・ミルン(阿川佐和子訳)『ウィニー・ザ・プー』(新潮モダン・クラシックス)を読みました。

近年、出版界は「新訳ブーム」だと言われています。サリンジャーやカポーティなど、村上春樹によるアメリカ文学の翻訳がベストセラーになったり、光文社古典新訳文庫が注目を集めたりしていますよね。

基本的には、今では言葉遣いが古くなってしまい、読みづらくなった名作古典を新しい言葉で翻訳し直そうというのが新訳のコンセプトですが、必ずしも新訳がいいばかりではないのが文学の面白いところ。

たとえば、みなさんご存知の明治の文豪、森鷗外にはアンデルセンの『即興詩人』の翻訳があります。とてもかたい文章で、今では読みづらい翻訳ですが、原文以上に味があると言われ、親しまれています。

岩波文庫には『即興詩人』が、大畑末吉訳の赤帯(海外文学)と森鷗外訳の緑帯(日本文学)の両方に入っていて、森鷗外訳を緑帯に入れているのが粋だなあと思います。興味のある方は、ぜひ読み比べを。

「新訳ブーム」を受けて、新潮社でも様々な新訳が出ています。特に新潮文庫の「Star Classics 名作新訳コレクション」が値段的にもラインナップ的にもかなりいいので、書店で手に取ってみてください。

そして、新潮社のもう一つ面白い新訳の企画が、今回紹介する「新潮モダン・クラシックス」です。単行本なので値段は文庫に比べて高いですが、これはこれでかなり面白いコンセプトのシリーズなんです。

これからの刊行予定はまだよく分かりませんが、とりあえず最初に出たのがA・A・ミルンの『ウィニー・ザ・プー』とヒュー・ロフティングの『ドリトル先生航海記』。児童文学の、古典中の古典ですね。

訳者がどちらも変わっていて、『ウィニー・ザ・プー』はテレビの司会やエッセイストとして活躍している阿川佐和子、『ドリトル先生航海記』は新書『生物と無生物のあいだ』で有名な生物学者福岡伸一。

つまり、どうやら単に新訳というだけでなく名作古典×専門分野で活躍する訳者というコンセプトのシリーズのようなんですよ。この辺りは好き嫌いや評価が分かれそうですが、面白いコンセプトですよね。

さて、今回取り上げるのは、『ウィニー・ザ・プー』ですが、ディズニーアニメで有名なくまのプーさんです。定番になっている訳は、岩波少年文庫に収録されている石井桃子訳『クマのプーさん』ですね。

クマのプーさん (岩波少年文庫 (008))/岩波書店

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実は、くまのプーさんに登場するキャラクターは、アニメと原作とではかなりイメージが違います。アニメではなく原作の方が好きという人もいるくらいなので、この機会に読んでみてはいかがでしょうか。

「新潮モダン・クラシックス」の『ウィニー・ザ・プー』はイラストの方も新しいです。担当しているのは「Yonda? CLUB」のキャラクターデザインでお馴染みの100%ORANGE。イラストも必見です。

作品のあらすじ


1 ウィニー・ザ・プーとミツバチが登場。さて、お話は始まります。

トコン、トコン、トコンとクリストファー・ロビンに手を引かれ、後頭部を階段にぶつけながらテディベアが二階から降りてきました。クリストファー・ロビンにせがまれ〈私〉はテディベアの話をします。

森で暮らしていたテディベアのウィニー・ザ・プーは大好きなハチミツを探しにいくことにしました。そこでクリストファー・ロビンの元を訪ねて、ハチミツを手に入れるための作戦を練ったのですが……。

2 プーがお宅訪問して身動きが取れなくなる。

トゥラララと歌いながら歩いていたプーは土手に横穴を見つけます。きっと友だちのウサギがいるに違いないと思い中に声をかけますが、返って来たのは「誰もいないよ!」という返事だったのでびっくり。

ウサギが得体の知れない訪問者を警戒していただけだったことが分かり、穴の中で一緒にごちそうを食べました。ところが食べ過ぎておなかが膨らんでしまったせいで、プーは穴から出られなくなって……。

3 プーとコプタンが狩りに出て、もう少しでイタズラッチを捕まえられたのに。

コプタンが家の前で雪かきをしていると、プーがぐるぐると円をかきながら歩き回っていました。何をしているのかと尋ねると、足跡を追跡しているところだという答えだったので、不安になったコプタン。

「ちょっと、プー。まさかこれって、イ、イ、イタズラッチじゃないの?」
「どうだろう……」とプーは答えました。
「そうとも言えるし、そうとも言えない。足跡を見るだけじゃ、なんともね」
 プーはもったいぶってそう言うと、追跡を再開しました。コプタンはその後ろ姿をしばらく見守っていましたが、突然、プーのところへはしり寄りました。プーが立ち止ったからです。プーは困った顔をして、足跡の上にかがみ込みました。
「どうしたの?」コプタンが訊ねました。
「すごくおかしいんだよ」とプー。
「どうも二匹になったみたい。何の動物かわかんない一匹に、もう一匹が近寄ってきて、その近寄ってきた動物が何だかもわかんないけど、とにかくその二匹が一緒に行動を始めちゃったって感じ。ねえ、コプタン。よかったら僕と一緒に来てくれない? もしかして悪い奴らだったらいけないからさ」(46ページ)


そうしてプーとコプタンは謎の足跡を必死で追い始めましたが……。

4 イーヨーがしっぽをなくし、プーが見つける。

「なにゆえに?」と自問自答をし続け、結局何を考えていたか分からなくなってしまった年寄りロバのイーヨーの所へ、ドタドタとにぎやかにプーがやって来ました。プーはイーヨーの異変に気が付きます。

イーヨーのしっぽがなくなってしまっていたのでした。長く悲しいため息をついて落ち込むイーヨーを見たプーは、自分が必ずしっぽを見つけてあげると宣言をして、しっぽを探しに出かけたのですが……。

5 コプタン、ゾオオに会う。

クリストファー・ロビンがゾオオを見たと言ったので、自分たちも見たいと思ったプーとコプタンは巨大な落とし穴を作って、ゾオオを捕まえることにします。引き寄せるために底に置いたのは、ハチミツ。

その夜、おなかがすいて目を覚ましたプーは椅子に乗り、食糧戸棚のいちばん上の棚に手を伸ばしましたが、置いてあるはずのハチミツがありません。一方、コプタンもゾオオのことを考えて眠れずに……。

6 イーヨーが誕生日にプレゼントを二つもらう話。

イーヨーは、一年で一番幸せな日だと言いました。プレゼントの山にバースデーケーキ。ところが、プーにはなにも見えません。プーがそう言うと「わしにも見えん」とイーヨーは力なくハハハと笑います。

イーヨーは誕生日なのに誰からも祝ってもらえずに悲しんでいたのでした。そこでプーはハチミツの入った壺、コプタンは風船を誕生日プレゼントとしてあげようと、イーヨーの元へ向かったのですが……。

7 カンガと赤ちゃんルーが森にやってきて、コプタンはお風呂に入る。

森に新しい仲間のカンガとルーがやって来ました。ところが、みんなはいつもルーをおなかのポケットにいれているカンガが気にくいません。そこで、いじわるして森から追い出してしまうことにしました。

コプタンが赤ちゃんルーと入れ替わり「ヘッヘのヘ」と訳あり顔で笑い、カンガからルーの居場所を聞かれたらルーを返してほしければ、この森から出ていけと言う、計画ではそのはずだったのですが……。

8 クリストファー・ロビンがタンタン隊長になって北極を目指す。

クリストファー・ロビンはみんなと探険に出かけることにしました。目標は北極(ノース・ポール)。ウサギ、コプタン、プー、カンガ、ルー、フクロン、イーヨー、ウサギの親族が連って進んでいきます。

途中で、顔と前足を洗っていたルーが川に落ちてしまいました。水流に飲み込まれ流されながら「見て、僕、泳いでるよ!」(156ページ)とはしゃぐルー。みなで力をあわせて助けようとしますが……。

9 あわれ、コプタンの家、水没!?

ずっと雨が続き、コプタンの家は水につかっていきました。困ったコプタンは無人島に残された男の話を思い出し、助けを呼ぶため、コルクの栓のついたガラス瓶の中に「助けて!」という手紙を入れます。

ハチミツの壺と木の枝に避難していたプーがコプタンの手紙を見つけました。ところがプーは文字が読めません。クリストファー・ロビンに何が書かれているか聞きに行きたいのですが、プーは泳げず……。

10 クリストファー・ロビンがプーのためにパーティを開いて、みなさん、さようなら。

クリストファー・ロビンに頼まれ、フクロンはみんなにパーティの知らせに行きます。しかしイーヨーは「全員に? イーヨーを除いて、ではなく?」(192ページ)と、自分が招待されたと信じません。

段々と不機嫌になりながらもフクロンはイーヨーに納得させました。クリストファー・ロビンは、長い材木を組み合わせて細長いテーブルを作り、森で暮らすみんなが集まるパーティが始まりましたが……。

とまあそんな10章からなっています。プーさんをなんとなく知っていて、何故動物たちの森に、クリストファー・ロビンという少年がいるのか不思議に思っていた方は、謎が解けたのではないでしょうか。

つまり、クリストファー・ロビンという息子に、息子が持っている人形のおはなしをしてあげるという物語なのです。なので、おはなしの中では、クリストファー・ロビンが誰よりも賢くて、偉いのでした。

アニメに比べると原作は、キャラクターにせよストーリーにせよずっと大人しい感じなのですが、その分シュールな面白さがあります。この作品のシュールな笑いはむしろ、子供よりも大人がハマるのでは。

足跡を追いかけてぐるぐる回ったり、プレゼントをして喜ばせようとしてうまいこといかなかったり、思わずにやにやさせられること請け合いの一冊です。まだプーさんを読んだことがないという方はぜひ。

近い内に同じ「新潮モダン・クラシックス」からヒュー・ロフティングの『ドリトル先生航海記』も紹介出来たらいいなと思っています。