椎名誠『武装島田倉庫』 | 文学どうでしょう

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新装版 武装島田倉庫 (小学館文庫)/小学館

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椎名誠『武装島田倉庫』(小学館文庫)を読みました。

みなさんの椎名誠のイメージはどういう感じでしょうか。旅する人、或いは独特で面白いエッセイを書く人という感じかも知れませんね。私小説的な作品のイメージが強いという方も多いだろうと思います。

仲間との共同生活を描いた『哀愁の町に霧が降るのだ』から始まる一連の作品や、子供との関係を中心に描いた『岳物語』などある程度椎名誠自身の人生をモデルにした小説があって、これが面白いのです。

岳物語 (集英社文庫)/集英社

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そちらもぜひ読んでもらいたいですが、椎名誠の小説にはもう一つ大きな流れがあって、それがSFです。「SF」という言葉からイメージされる洗練された雰囲気とは全く異なる、独特の世界観が魅力的。

安部公房や筒井康隆とも共通するような、どこかへんてこな世界に気軽に触れてみたい方は、『ねじのかいてん』(講談社文庫)や『鉄塔のひと その他の短篇』(新潮文庫)など、短編集もおすすめです。

そして椎名誠のSFを代表するのが1980年代終わりから1990年代初めにかけてほぼ同時に別々の連載されていた、『アド・バード』『水域』『武装島田倉庫』の三作。三部作とも呼ばれています。

というわけで今回の「椎名誠SF三部作特集」はその三作品をどどおんと続けて取りようじゃないかというものです。発表順と順序を入れ替えて『武装島田倉庫』を先頭に持って来たのには理由があります。

元々『武装島田倉庫』は新潮社の雑誌に連載されていたもので、新潮文庫に収録されていましたが、昨年の十月、小学館文庫から新装版が出たんですね。どうやらマンガ化されたことに関係があるようです。

武装島田倉庫 1 (ビッグコミックス)/小学館

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小学館の『ビッグコミックスペリオール』に鈴木マサカズ作画で連載されているようなので、興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。ぼくもまだ読めていませんが、その内読みたいと思っています。

新装版の文庫につけられた椎名誠の序文は「シーナ文庫新シリーズの開始」と題されていて、どうやら椎名誠の絶版になっている作品を順次小学館文庫で刊行していくみたいです。いやあ、嬉しいですねえ。

意外と手に入りにくい作品が多くておすすめしづらい部分もあったのですが、これで堂々とおすすめ出来ます。椎名誠は面白いのでぜひ読んでみて下さい。これが言いたいために初めに持って来たのでした。

さて、『武装島田倉庫』は、大きな争いのあった後の近未来、食糧危機に瀕した世界が舞台。見慣れぬ道具が出て来たり、アンドロイド(人造人間)や、ミュータント(突然変異体)が登場したりします。

作品の形式は同じ世界観を持つ短編が集められている連作。短編ごとに主人公は違いますが、どの話もインパクトの強いものばかりです。

文章は、三部作の中でも特にかたい印象があるので、世界観に入り込むまでに時間がかかるかも知れませんが、独特の言語センスと硬質な文体で綴られる世界観は、何度も読み返したくなる魅力があります。

作品のあらすじ


『武装島田倉庫』には、7編が収録されています。

「武装島田倉庫」

就職難と食糧難の時代。最終面接に合格した可児才蔵は、島田倉庫で働き始めました。みんなあだ名で呼び合っているので、自分にもいつかあだ名がつくだろうかと思っていましたが、あだ名はつきません。

仕事には慣れ始めましたが装甲貨物車や倉庫が襲撃される事件が相次ぎ、島田倉庫も火薬銃で武装することになりました。やがて金網格子に、おかっぱ頭で、小柄な若い女が入れられた荷物が預けられ……。

「泥濘湾連絡船」

切屑大橋が落ちて修復不可能の状態になったことに目をつけた漬汁屋の提案により、定吉はザンバニ舟でその間の船渡しをすることになりました。一緒に働くことになったのは、十九歳の色の白い女アサコ。

アサコは浅沼ドクタラシに噛まれて目が見えませんが、そのために波動脳感知の能力を持ち、航路に危険な生き物がいないかを察知することが出来るのです。手探りの状態で、船渡しは始まりましたが……。

「総崩川脱出記」

十一歳の綱島捨三の母の葬式が終わると、河原で暮らしていた群族は新たな地を求めて、旅立つことになりました。北政府の兵士に見つからないように移動する山道は険しく、途中で死者が出てしまいます。

やがて、昔人間が住んでいたらしき白い建物を見つけます。上下に動く箱など、見慣れないものに興奮する群族。しばらくはそこで暮らしていましたが、騎馬兵士を見かけ、また移動することになって……。

「耳切団潜伏峠」

急ぎの仕事ということで抜擢された十八歳の百舌は鉄色の眼をした男の助手となり、袖無湾まで装甲貨物車で荷物を運ぶこととなります。土砂で道が塞がれていた所は、放水で粘土のようにして進みました。

やがて大きな街に着き、食事をとろうとしますが、店の主人は両方の耳たぶを見せて欲しいと、おかしな頼みごとをします。話を聞くとこの先の峠には、ガスを吹き付けて襲う耳切団が出るとのことで……。

「肋堰夜襲作戦」

二十歳の灰汁は今ではもうほとんど誰もやって来ない耳鳴坂商店街近くの廃墟アパートで暮らしていました。時折、店や一般住居をあさり真空包装や缶詰などの食べ物を見つけて、なんとか生活しています。

ある時スーパーの地下倉庫でJ&B(スコッチウィスキー)を一ダース見つけたので大喜び。売れば大儲け出来そうです。大きな街へ行こうと糸巻市に向かった灰汁でしたが、何者かに襲われてしまい……。

「かみつきうお白浜騒動」

北政府が残していった九足歩行機、漁師たちの通称”カニムカデ”がある白浜海岸。漁は出来ないものの、九足歩行機の操縦が出来る二十歳の汗馬七造が、紹介状を持って、その白浜海岸へとやって来ました。

高さ十四、五メートルあるカニムカデを操り沈船『ディカバリー号』の看板扉を開けて〈潜り方〉が中に入れるようにします。お宝が手に入るとみんな大喜びですが、やがてかみつきうおが姿を現して……。

「開帆島田倉庫」

北政府の夜襲や挑発攻撃が活発になり、町の店屋がどんどん店を閉めているという噂が聞えて来ました。対応に迫られた島田倉庫は、偵察部隊を出すことにします。選ばれたのは可児と新入りの百舌でした。

小型トラックで町へと向かった可児と百舌は、町の人々から、新しい戦争が始まることになったと聞かされます。慌てて戻ろうとしましたが、空には濃脂雲塊が浮かび大量の油を含んだ雨が降り始めて……。

とまあそんな7編が収録されています。「かみつきうお」は本当は、「魚へんに乱」「魚へんに齒」の二文字ですが、変換出来ないので平仮名にしておきました。本来タイトルは六文字で統一されています。

各短編のさわりだけ紹介しましたが、どうだったでしょうか。好きな人にはもうたまらない世界観だろうと思います。少しずつ各短編が繋がっているのがこれまたいいんですよね。ぜひ読んでみてください。

どの話も面白いですが、仕事の面接や倉庫での労働という日常的な風景から、閉じ込められた女、襲撃と、異様な空間へぐんぐん引き込まれていく「武装島田倉庫」のインパクトが強く、印象に残りました。

「椎名誠SF三部作特集」明日は、『水域』を紹介する予定です。