J・K・ローリング『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』 | 文学どうでしょう

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ハリー・ポッターと炎のゴブレット 上下巻2冊セット (4)/静山社

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J・K・ローリング(松岡佑子訳)『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(上下、静山社)を読みました。シリーズ第四巻になります。

この第四巻辺りになると「ハリポタ」ならではの興味深い現象が起こりました。『炎のゴブレット』がイギリスで発売されたのは2000年ですが、翻訳はタイムラグが当然生じるので、2002年のこと。

つまり、「ハリポタ」続きが読みたいけれどまだ出ておらず、しかしながら原書なら手に入るという状況があったわけです。そしてこれが「ハリポタ」のすごい所ですが、この原書まで売れ出したんですよ。

当然英語ですから、英語が読めなければ読めませんし、しかも子供向けとは言え、「ハリポタ」は決して読みやすくはないのですが、さほど大きくない本屋でも原書を入荷するということがよくありました。

ぼくにとって、この出来事はかなりインパクトが大きかったです。電子書籍でわりと簡単に洋書が手に入る現在とは全然違って、当時なかなか洋書は手に取ることが出来ないものだったので、なおさらです。

言わば一つのブレイクスルーになりました。それまで考えたこともなかったですが、翻訳がないものは洋書で読めばいいし、手に入れようと思えば洋書は手に入ると。あとは、英語さえ出来ればいいわけで。

ぼくが洋書に興味を抱くようになったきっかけの一つで、フランスに旅行に行った時には、余ったユーロでフランス語版も思い切って全巻買ってしまいました。→フランス旅行記3.パリの本屋さんめぐり

自分が好きな本を読みながら語学の勉強をすることほど楽しいことはないので、「ハリポタ」が好きな方はぜひ勉強してみてください。今はもう全巻翻訳があるので比較対照しながら読むのがおすすめです。

一口に「ハリポタ」の洋書と言ってもハードカバーとペーパーバック(やわらかい表紙の廉価版)がありその中でさらに色々なサイズがあるので、セットで一気にそろえてしまった方がいいかも知れません。

また、今は電子書籍があるので、そちらで買うのもおすすめですが、電子書籍については、明日のマクラで詳しく書くことにしましょう。

「ハリポタ」の洋書に関して、ぼくがもう一つ驚いたのは、どちらも英語の本なのに、何故だか違うタイトルで二冊の本が出ていたこと。

第一巻『賢者の石』の英語版が、"Harry Potter and the Philosopher’s Stone"と" Harry Potter and the Sorcerer’s Stone"の二種類で売り出されていたんです。何故だと思いますか?

Harry Potter and the Philosopher’s Stone/J. K. Rowling

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Harry Potter and the Sorcerer’s Stone/J. K. Rowling

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正解は、イギリス版とアメリカ版。元々イギリスの児童文学なので、"Philosopher’s Stone"でしたが、アメリカ版では"Sorcerer’s Stone"で、「哲学者の石」から「魔法使いの石」に直されました。

「賢者の石」自体が古くからの伝説としてあるものですが、どうもアメリカでは馴染みがないということで分かりやすく「魔法使い」に変えたみたいです。そんな風に中の語がちょこちょこ変わっています。

あまり意識しないことですが、イギリス英語とアメリカ英語の違いがあるものなんですよね。それに気付かされたのも面白い経験でした。

さて、『炎のゴブレット』はホグワーツ魔法魔術学校が、三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)に参加する物語。ハリーは年齢が足らず、代表者に選ばれないはずだったのですが……。

この巻から「ハリポタ」シリーズはボリューム倍増の上下巻となり、出版界では異例の上下セットの販売が当時大きな話題となりました。

作品のあらすじ


新学期前の夏休み、ハリーはロンの一家に誘われてクィディッチ(ホウキを使った球技)のワールドカップを見に行きます。人間の交通機関を使うと大騒ぎになるので、使ったのは「移動(ポート)キー」。

「移動キー」は、ある地点から別の地点へと魔法使いを移動させるアイテムです。ワールドカップでは、ヴィーラという美しい種族が踊りを披露し、ブルガリア代表のビクトール・クラムが大活躍しました。

ハリーも学校ではクィディッチの選手なので、興奮する楽しい一時を過ごしましたが、不吉な出来事も起こります。それはヴォルデモート卿の「闇の印」である髑髏(ドクロ)マークが夜空に浮かんだこと。

新学期から新しく「闇の魔術に対する防衛術」を教えることになったのは、闇の魔法使いを捕まえる「闇祓い(オーラー)」として名高いマッド‐アイ・ムーディ。「透明マント」をも見透かす人物でした。

いつものように新学期が始まりましたが、今年はなんだか雰囲気が違います。やがてダンブルドア校長から驚きの知らせが発表されました。三大魔法学校対抗試合が開催されることになったというのです。

「三大魔法学校対抗試合はおよそ七百年前、ヨーロッパの三大魔法学校の親善試合として始まったものじゃ――ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの三校での。各校から代表選手が一人ずつ選ばれ、三人が三つの魔法競技を争った。五年ごとに三校が回り持ちで競技を主催しての。若い魔法使い、魔女たちが国を越えての絆を築くには、これが最も優れた方法だと、衆目の一致するところじゃった――夥しい死者が出るにいたって、競技そのものが中止されるまではの」
「夥しい死者?」
 ハーマイオニーが目を見開いて呟いた。しかし、大広間の大半の学生は、ハーマイオニーの心配などどこ吹く風で、興奮して瞬き合っていた。ハリーも、何百年前にだれかが死んだことを心配するより、試合のことがもっと聞きたかった。(上巻、291ページ)


そうした危険な競技なので、17歳以下は代表選手に立候補できないことに決まりました。14歳のハリーたちも当然参加はできません。

一方、その頃ハーマイオニーが頭を悩ませていたのは、屋敷しもべ妖精の問題でした。魔法使いには生活になくてはならない存在ですが、ハーマイオニーから見れば、奴隷制度以外の何物でもないんですね。

そこで、休みもなく賃金もないままにずっと労働させられ続けている屋敷しもべ妖精を解放させようと、「しもべ妖精福祉振興協会(SPEW)」を立ち上げ、周りへ運動の協力を呼びかけ始めたのでした。

十月末になり、ダームストラング校が城ごと空から、ボーバトン校が湖から船でホグワーツへやって来ました。ハリーとロンは驚きます。ダームストラングにはワールドカップで活躍したクラムがいたから。

ダンブルドアは荒削りの木の杯にしか見えないものの、中では青白い炎が踊っている「炎のゴブレット」を取り出し、代表選手への立候補者は羊皮紙に所属と名前を書いてここに投げ込むようにと言います。

「炎のゴブレット」の周りには「年齢線」が引かれていて、17歳以下は近くへ行くことが出来ません。17歳に少し足りないロンの兄たちフレッドとジョージがいかさまを試みるも、失敗に終わりました。

いよいよ発表の日。「炎のゴブレット」から、選ばれし者の羊皮紙が飛び出します。ダームストラングの代表はクラムに、ボーバトンの代表はヴィーラを思わせる美少女フラー・デラクールに決まりました。

ホグワーツの代表はハップルパフ寮のセドリック・ディゴリーになります。ところが、三人で終わりのはずなのに、「炎のゴブレット」からもう一枚飛び出します。そこにはハリーの名前があったのでした。

「炎のゴブレット」が決めたことなので、今さらもう変更は出来ません。やむをえず大会は四人の代表選手で競われることになります。先生方も当惑していましたが、一番困っていたのは当のハリーでした。

自分で名前を入れた覚えはないだけに、一体どうやって入れたのかと尋ねるロンと口論になり、いつも一緒にいて、ともに苦難を乗り越えて来た一番の親友ロンと、ぎくしゃくするようになってしまいます。

ハーマイオニーと散歩したハリーは、思わぬことを聞かされました。

「ロンを見かけた?」ハリーが話の腰を折った。
 ハーマイオニーは口ごもった。
「え……ええ……朝食に来てたわ」
「僕が自分の名前を入れたと、まだそう思ってる?」
「そうね……ううん。そうじゃないと思う……そういうことじゃなくって」
 ハーマイオニーは歯切れが悪い。
「『そういうことじゃない』って、それ、どういう意味?」
「ねえ、ハリー。わからない?」
 ハーマイオニーは、捨て鉢な言い方をした。
「嫉妬してるのよ!」
「嫉妬してる?」ハリーはまさか、と思った。
「なにに嫉妬するんだ? 全校生の前で笑いものになることをかい?」
「あのね」ハーマイオニーが辛抱強く言った。「注目を浴びるのは、いつだって、あなただわ。わかってるわよね。そりゃ、あなたの責任じゃないわ」
(中略)
「ほんとに大傑作だ。ロンに僕からの伝言だって、伝えてくれ。いつでもお好きなときに入れ替わってやるって。僕がいつでもどうぞって言ってたって、伝えてくれ……どこに行ってもみんなが僕の額をジロジロ見るんだ……」
「私はなんにも言わないわ」ハーマイオニーがきっぱり言った。
「自分でロンに言いなさい。それしか解決の道はないわ」
(上巻、447~448ページ)


やがて三大魔法学校対抗試合が始まり、ハリーは三つの魔法競技で他の三人の代表選手と熾烈な争いをくり広げていくこととなるのですが、やがてマクゴナガル先生から思いも寄らぬことを告げられます。

なんと、代表選手とそのパートナーはクリスマス・ダンスパーティーで最初に踊る決まりだというのでした。必ずパートナーを連れて来るよう命じられたポッターは、どうすればいいか悩んでしまって……。

はたして、三大魔法学校対抗試合で勝利するのはどこなのか!?

とまあそんなお話です。海外の物語には、結構こういうダンス・パーティーが出て来ますね。特にアメリカの高校では「プロム」と言って、卒業記念のダンス・パーティーがあるらしくわりと目にします。

誰を、そして、どんな風に誘えばいいか悩んでしまうハリーの姿はかわいらしいですが、自分が誘うと思うとやはり大変ですね。ドラゴンに立ち向かう方がましかもと思ったハリーの気持ちも、分かります。

ちやほやされる友達に嫉妬してしまったロン、ダンス・パーティーの相手探しに右往左往する生徒たち。大人へ成長しつつある登場人物たちは恋やアイデンティティなど、青春の悩みを抱え始めるのでした。

イベントごとが多いこともあり、前三作ほどの凝った作りにはなっていませんが、その分、登場人物の成長が感じられるような巻でした。

明日もJ・K・ローリングで、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』を紹介する予定です。