J・K・ローリング『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 | 文学どうでしょう

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J・K・ローリング(松岡佑子訳)『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(静山社)を読みました。「ハリポタ」シリーズ第三巻。

そろそろ映画について書かなければなりません。みなさんもご存じの通り、「ハリポタ」は小説が大ベストセラーになっただけでなく、映画化作品も大成功しました。これもかなりすごいことだと思います。

全作品は観に行けませんでしたが、ぼくも何作かは劇場に観に行きまして、特に、最終作である『死の秘宝 PART2』を、原作はあえて読まずに楽しみにとっておいて、観に行ったことを覚えています。

映画の特徴は監督が変わったことによってそれぞれ作風が違うこと。『賢者の石』と『秘密の部屋』はクリス・コロンバス監督で『ホーム・アローン』の監督だけに、アットホームな雰囲気の作品でした。

『アズカバンの囚人』の監督をつとめたのはアルフォンソ・キュアロン。今まさに監督最新作『ゼロ・グラビティ』が大ヒット中ですね。

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映画『アズカバンの囚人』は前二作から一転して、どことなく暗い雰囲気で、リアリズム風の作品になったのですが、それがぼくにはよくて、子供向けというイメージを一新する、鮮烈な印象を受けました。

そして、これはあまり触れられませんが、SF好きにはたまらない展開のあるストーリーになってまして、『アズカバンの囚人』以降、ぼくは小説よりもむしろ映画の公開を楽しみするようになったのです。

今作はタイトル通り、アズカバンという監獄から脱走者が出てハリーの命が危険にさらされるという物語。しかし脱走者を追ってホグワーツへ来た吸魂鬼(ディメンター)たちに、ハリーは苦しめられます。

ハリーはかつて死を身近に感じた人間なので、吸魂鬼がハリーに吸い寄せられてしまうから。そこでハリーはルーピンという新しく来た先生から吸魂鬼を撃退する魔法を特別に教えてもらうことになります。

「ハリー、わたしがこれから君に教えようと思っている呪文は、非常に高度な魔法だ――いわゆる”標準魔法レベル”(O・W・L)資格をはるかに超える。『守護霊の呪文』と呼ばれるものだ」
「どんな力を持っているのですか?」ハリーは不安げに聞いた。
「そう、呪文がうまく効けば、守護霊が出てくる。いわば、吸魂鬼を祓う者――保護者だ。これが君と吸魂鬼との間で盾になってくれる」
 ハリーの頭の中で、とたんに、ハグリッドくらいの姿が大きな混紡を持って立ち、その陰にうずくまる自分の姿が目に浮かんだ。ルーピン先生が話を続けた。
「守護霊は一種のプラスのエネルギーで、吸魂鬼はまさにそれを貪り食らって生きる――希望、幸福、生きようとする意欲などを――しかし守護霊は本物の人間なら感じる絶望というものを感じることができない。だから吸魂鬼は守護霊を傷つけることもできない。ただし、ハリー、一言言っておかねばならないが、この呪文は君にはまだ高度過ぎるかもしれない。一人前の魔法使いでさえ、この魔法にはてこずるほどだ」(308~309ページ)


守護霊(パトローナス)を出すための呪文は、「エクスペクト・パトローナム」。2004年の個人的な流行語大賞は、この「エクスペクト・パトローナム」だったと言えるぐらい映画を観てハマりまして。

今でも懐中電灯とか、部屋の電気とか、なにか光をつける時は「エクスペクト・パトローナアアアム!!」と叫んでふざけるぐらいです。

原作にも守護霊を出す場面は勿論あるわけですが、映像だとそれをより一層、美しく感じさせてくれました。映画は映画で、文章では表すことの出来ないビジュアルの魅力があるので、機会があれば、ぜひ。

親戚のダーズリー一家とうまくいかずにハリーが家出する所から始まるこの『アズカバンの囚人』は、様々なジレンマが感じられることもあり、SF的な展開も魅力で、ぼくがシリーズで最も好きな巻です。

作品のあらすじ


ホグワーツ魔法魔術学校の生徒は三年生になると、週末にホグズミード村に遊びに行けます。ところがそれには保護者の同意署名が必要なのでした。しかし、そう簡単に同意署名はもらえそうにありません。

なにしろバーノンおじさんは、魔法などという得体の知れないものが大嫌いですし、そもそもが厄介者のハリーをよく思っていないので。

バーノンおじさんの妹のマージおばさんが遊びに来ました。おとなしくしていれば署名をもらえる約束でしたが、亡くなった父親を侮辱されたハリーは、カッとなって騒ぎを起こしてしまい、すべて水の泡。

その頃、魔法界のみならず人間界をも巻き込んで大きな話題となっていたのは、アズカバンの要塞監獄から脱獄した凶悪犯シリウス・ブラックのこと。12年前に13人を虐殺したという恐ろしい人物です。

ブラックを追ってアズカバンから派遣された吸魂鬼と、学校へ向かう特急電車の中で遭遇したハリーは気絶してしまい、なにかと衝突するドラコ・マルフォイから、からかわれることとなってしまいました。

今年度からの新しい先生は二人。まず「闇の魔術に対する防衛術」の担当はリーマス・ルーピン先生。そして、「魔法生物飼育学」の担当になったのは、ハリーたちと仲良しのルビウス・ハグリッドでした。

ハリーたちはそれぞれどの科目を取るかで頭を悩ませていましたが、勉強好きのハーマイオニーの時間割を見たロンは目を白黒させます。たくさん詰め込まれている上に、同じ時間の授業をとっていたから。

「なんとかなるわ。マクゴナガル先生と一緒にちゃんと決めたんだから」
「でも、ほら」ロンが笑い出した。
「この日の午前中、わかるか? 九時、『占い学』。そして、その下だ。九時、『マグル学』。それから――」
 まさか、とロンは身を乗り出して、よくよく時間割を見た。
「おいおい――その下に、『数占い額』、九時ときたもんだ。そりゃ、君が優秀なのは知ってるよ、ハーマイオニー。だけど、そこまで優秀な人間がいるわけないだろ。三つの授業にいっぺんにどうやって出席するんだ?」
「バカ言わないで。一度に三つのクラスに出るわけないでしょ」ハーマイオニーは口早に答えた。
「じゃ、どうなんだ――」
「ママレード取ってくれない」ハーマイオニーが言った。
「だけど――」
「ねえ、ロン。私の時間割がちょっと詰まってるからって、あなたには関係ないでしょ?」
 ハーマイオニーがぴしゃりと言った。
「言ったでしょ。私、マクゴナガル先生と一緒に決めたの」(130ページ)


それからというもの、ハーマイオニーはさっきまで後ろにいたのに急にいなくなったり、なんだかちょっと混乱した様子を見せたりと、変な態度になる時があるようになって、ハリーとロンを心配させます。

ハグリッドが先生になったことをよく思わなかったのがマルフォイ。おまけに授業中、鳥の頭と馬の体を持つヒッポグリフのバックビークに襲われて恐い思いをし、怪我もしたので、父親に言いつけました。

週末になるとみんなはホグズミードへ遊びに行きますが、保護者の同意署名がえられなかったハリーはいつも寮でひとりぼっち。ロンとハーマイオニーがなにかと気を使ってくれますが、楽しくありません。

そんな時、ロンの兄でいつもいたずらばかりしているフレッドとジョージが、自分たちには用済みだからと、古い羊皮紙の切れっぱしをくれました。それはホグワーツの抜け道が書かれた地図だったのです。

しかもその「忍びの地図」は、決まった呪文をとなえなければ地図にはならないので、先生には見つかりっこありませんし、おまけに何より素晴らしいのは、人々の動きが、名前つきの点で把握できること。

そうして秘密の抜け道を通ってホグズミードへ行ったハリーはブラックが自分の両親の死に大きく関与していることを知ってしまいます。

クィディッチ(ホウキを使った球技)の試合中に吸魂鬼に襲われたハリーはホウキを壊してしまったのですが、クリスマスプレゼントに炎の雷(ファイアボルト)という高級のすごいホウキをもらいました。

欲しかったホウキを手にして大喜びのハリーでしたが、差出人が不明なことに危惧を覚えたハーマイオニーが先生に言い、悪い魔法がかかっていないか調査をするため、炎の雷は取り上げられてしまいます。

そしてロンのねずみスキャバーズが血を残して姿を消し、床にハーマイオニーの猫クルックシャンクスのオレンジ色の毛が落ちていたことでハリーとロン、ハーマイオニーの仲は険悪になってしまいました。

さらにそんな中、マルフォイの例の訴えで、ハグリッドが窮地においやられます。先生をクビにはならなかったものの、バックビークをどうするか、「危険生物処理委員会」で裁かれることになったのです。

どうやら処刑されることになりそうな雲行き。なんとかしてバックビークの命を救おうとする奮闘するハリーたちでしたが、学校ではハリーのことを狙うブラックが侵入したらしき形跡が残されていて……。

はたして、ハリーたちはバックビークを救うことが出来るのか? そして、絶体絶命に追いやられてしまったハリーの運命はいかに!?

とまあそんなお話です。ハーマイオニーという女の子は、真面目でがんばりやさんなのですが、なんだかちょっとずれてるところがあるんですよね。その性質が出ていて面白いのがクルックシャンクスです。

ハーマイオニーは「魔法動物ペットショップ」で長い間売れ残っていた、ガニマタでレンガの壁に衝突したような顔をした猫をわざわざ選んで飼い始めたのですが、本気で可愛いと思ってのことなんですね。

授業中に手をあげすぎて先生に煙たがられたり、試験がなくなったことに一人だけ落胆したりと、ハーマイオニーの変人ぶりというか、イタい感じも「ハリポタ」の魅力なので、ぜひ注目してみてください。

それにしても相変わらずいいのはダンブルドア。すべてを分かっていて、包み込んでくれるような素晴らしい校長先生で、ダンブルドアのハリーへの温かい言葉には、思わず涙しそうになってしまいました。

明日もJ・K・ローリングで、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』を紹介する予定です。