J・K・ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』 | 文学どうでしょう

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ハリー・ポッターと賢者の石 (1)/静山社

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J・K・ローリング(松岡佑子訳)『ハリー・ポッターと賢者の石』(静山社)を読みました。シリーズ第一巻です。

ぼくよりも少し若い世代と本の話をすると、必ずと言っていいほど出て来るのが「ハリポタ」。普段本を読まない人も夢中にさせた、すごいシリーズです。「ハリポタ」で読書好きになった方も多いのでは?

「ハリポタ」ブームによって「あの『ハリポタ』を越えた!」と散々色んな本でキャッチコピーとして使われ、邦訳であえてそうしたのかも知れませんが「〇〇と××」というシリーズが一気に増えました。

ブームになりすぎたが故に、ブームそのものにうんざりさせられたり、色々な弊害もあったりしたように思いますが、何より素晴らしいのは他の名作ファンタジーにも再び注目が集まるようになったこと。

いわゆる三大ファンタジー、J・R・R・トールキン『指輪物語』、C.S.ルイス『ナルニア国物語』、アーシュラ・K・ル=グウィン『ゲド戦記』も映画化されたり、読まれたりするようになりました。

そんな「ハリポタ」の第一巻『ハリー・ポッターと賢者の石』がイギリスで出版されたのは、1997年。1999年に静山社から翻訳が出ると話題を呼び、たちまち日本でも大ベストセラーになりました。

知名度も宣伝力もない小さな出版社からベストセラーが出るというのは極めてまれなこと。それだけ読者から愛された小説なのでしょう。

ぼくもリアルタイムで読んではいるのですが、その当時もう高校生だったので、むしろ第121回直木賞受賞の二作品、佐藤賢一『王妃の離婚』と桐野夏生『柔らかな頬』の方が印象に残っていたりします。

高校生もしくは大人でも楽しめるシリーズですが、冷静になって読んでしまう所があるので、やはり主人公のハリー・ポッターと同世代の小学生か中学生ぐらいが、物語に入り込みやすいだろうと思います。

さて、「ハリポタ」はハリー・ポッターという魔法使いの少年と、最強の闇の魔法使いであり、今は姿を消している「名前を呼んではいけないあの人」ことヴォルデモート卿との宿命の対決を描くシリーズ。

ハリーの両親はヴォルデモート卿に殺されてしまったのですが、何故か赤ん坊のハリーをヴォルデモート卿は殺すことが出来ず、逆に自らが姿を消すこととなりました。ハリーの額に残ったのは稲妻型の傷。

ホグワーツ魔法魔術学校に入学したハリーは仲間と魔法を学んでいきますが、一方ヴォルデモート卿も復活を目指して暗躍し始めて……。

「ハリポタ」の魅力は色々ありますが、何といっても物語に入り込みやすいこと。魔法界では「例のあの人」を倒した英雄であるハリーは人間の親戚の家で育ったので、魔法のことを全然知らないんですね。

ハリーにはやがて、ロン・ウィーズリーという親友が出来るのですが、魔法使いの一家に育ったロンが、ハリーに魔法界のことを色々と教えてくれます。たとえば、カードつきのチョコを買った時のこと。

 ハリーがまたカードの表を返してみると、驚いたことにダンブルドアの顔が消えていた。
「いなくなっちゃったよ!」
「そりゃ、一日中その中にいるはずないよ」とロンが言った。
「また帰ってくるよ。あ、だめだ。また魔女モルガナだ。もう六枚も持ってるよ……君、欲しい? これから集めるといいよ」
 ロンは、蛙チョコの山を開けたそうに、チラチラと見ている。
「開けていいよ」ハリーは促した。
「でもね、ほら、何て言ったっけ、そう、マグルの世界では、ズーッと写真の中にいるよ」
「そう? じゃ、全然動かないの? 変なの!」ロンは驚いたように言った。(155ページ、本文では「変なの!」は太字)


マグルとは人間のこと。魔法界ではカードの中の人物が勝手に動くのは当たり前なんですね。こんな風に人間界で育ったハリーが一々驚いて、周りが説明してくれるので、物語の設定が分かりやすいのです。

いきなり自分が魔法使いと知らされ、ホグワーツ魔法魔術学校に通うことになったハリー。右も左も分からないどきどきと、少しずつ魔法のことが分かって成長していく感じを、読者も体験出来る物語です。

作品のあらすじ


こんな書き出しで始まります。

 プリベット通り四番地の住人ダーズリー夫妻は、「おかげさまで、私どもはどこからみてもまともな人間です」と言うのが自慢だった。不思議とか神秘とかそんな非常識はまるっきり認めない人種で、まか不思議な出来事が彼らの周辺で起こるなんて、とうてい考えられなかった。(6ページ、本文では「まともな」に傍点)


いつものように会社に行こうとしたダーズリー氏は、奇妙な出来事と遭遇します。トラ猫が標識を読み、街外れではマントを来た人々が、「例のあの人が」ついにいなくなったと大騒ぎをしていたのでした。

しかもどうやらそれにはポッター家のハリーが関わっていると耳に挟んだのでぞっとします。妻のちょっとおかしな妹の息子の名前がハリーだったような気がしたから。気のせいだと自分に言い聞かせます。

一方、ハードリー夫妻が眠りについた頃、プリペッド通りに現れたのは街灯の光を自由自在に操れる不思議なライターを持つ一人の年寄り。年寄りはトラ猫に話しかけ、トラ猫は女性へと姿を変えました。

年寄りのアルバス・ダンブルドアとトラ猫に姿を変えていたマクゴナガル先生は昨夜起こった事件について話をします。ゴドリックの谷に「例のあの人」と誰からも恐れられるヴォルデモートが現れたこと。

優秀な魔法使いのリリーとジェームズというポッター夫妻は殺されてしまったが、赤ん坊のハリーは殺されずに、かえってヴォルデモートの力が打ち砕かれて姿を消してしまったという噂が流れていること。

マクゴナガル先生は、身寄りのいなくなったハリーを、いくら親戚とはいえ、人間の家族に預けることは反対でした。なんといってもハリーはもう魔法界では知らない人のいないほどの有名人なのですから。

しかし、小さい頃からちやほやされるより、本人が受け入れ準備できるまでは知らない方がいいと考えたダンブルドアは、巨大な体を持つハグリッドに命じて、ハリーをハードリー夫妻に届けさせたのです。

それから10年が経ち、年の割には小柄でやせた、額に稲妻形の傷を持つ少年ハリーは、物置でひっそりと、いとこのダドリーからお気に入りのサンドバッグのようにいじめられながら、暮らしていました。

ところが11歳になった時、ハリーの元に思わぬ手紙が届いたのです。それは、ホグワーツ魔法魔術学校からの入学案内でした。おかしなことを嫌っているハードリー夫妻はなんとか行かせまいとします。

そこへハグリッドがやって来て、ハリーは魔法使いであること、ハリーの両親に起こった本当のことを話してくれ、ハードリー家から連れ出してホグワーツに入学するための準備を手伝ってくれたのでした。

ホグワーツでは「組分け帽子」によって組が分けられる決まりです。

「ポッター・ハリー!」
 ハリーが前に進み出ると、突然広間中にシーッというささやきが波のように広がった。
「ポッターって、そう言った?」
「あのハリー・ポッターなの?」
 帽子がハリーの目の上に落ちる直前までハリーが見ていたのは、広間中の人たちが首を伸ばしてハリーをよく見ようとしている様子だった。次の瞬間、ハリーは帽子の内側の闇を見ていた。ハリーはじっと待った。
「フーム」低い声がハリーの耳の中で聞こえた。
「むずかしい。非常にむずかしい。ふむ、勇気に満ちている。頭も悪くない。才能もある。おう、なんと、なるほど……自分の力を試したいというすばらしい欲望もある。いや、おもしろい……さて、どこに入れたものかな?」
 ハリーは椅子の縁を握りしめ、「スリザリンはダメ、スリザリンはダメ」と思い続けた。
「スリザリンは嫌なのかね?」小さな声が言った。
「確かかね? 君は偉大になれる可能性があるんだよ。そのすべては君の頭の中にある。スリザリンに入れば間違いなく偉大になる道が開ける。嫌かね? よろしい、君がそう確信しているなら……むしろ、グリフィンドール!」
 ハリーは帽子が最後の言葉を広間全体に向かって叫ぶのを聞いた。(180~181ページ、本文では「グリフィンドール!」は太字)


こうして生徒たちはそれぞれグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンのいずれかに分けられクィディッチ(ホウキを使った球技)や寮対抗優勝カップをめぐって戦うこととなります。

この組分けによってハリーには心強い仲間と宿敵が出来ることとなりました。キングズ・クロス駅9と3/4番線から出るホグワーツ行き特急列車で出会いすぐ仲良くなったのが赤毛のロン・ウィーズリー。

魔法使い一家の生まれですがちょっと不器用なのと、兄たちが優秀な上にお下がりばかりで少しコンプレックスを抱えているロンは、やさしい人柄で、魔法界について知らないハリーに色々教えてくれます。

同じグリフィンドールに入ったロンとは親友になりましたが、スリザリンに入った魔法使いの名門の生まれドラコ・マルフォイはとにかくプライドが高くハリーのことを目の敵にするようになったのでした。

おまけにスリザリンの寮監で魔法薬学の先生スネイプもなにかとハリーに対して冷たい態度を取ります。最も厳しさで言えば、グリフィンドールの寮監で変身術のマクゴナガル先生も変わりませんでしたが。

やがて、『禁じられた廊下』で頭が三つある犬が何かを守っていることに気付いたハリーとロンはそれが何かを調べ始めますが、二人の好奇心に水をさしたのが、ハーマイオニー・グレンジャーという少女。

人間の両親を持つハーマイオニーは人一倍努力家をする優等生で、二人にグリフィンドールの減点になるようなことをさせたがらないのです。真面目なあまりに、嫌われてしまうこともあるハーマイオニー。

ハーマイオニーが褒められた授業の後「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなヤツさ」(251ページ)と言ってロンは、ハーマイオニーを傷つけてしまいました。

ところが、泣きながらハーマイオニーが駆け込んで行った先のトイレに、恐ろしきモンスター、トロールが現れたと知ることとなり……。

はたして、ハリーとロンは、ハーマイオニーを救えるのか!?

とまあそんなお話です。ハリーがクィディッチのメンバーに抜擢されたり、他にも色々と魅力的な人物や設定が登場したりしていくのですが、まあそれらについては、おいおい紹介していくことにしまして。

この巻で重要なのは、三つの頭を持つ犬が守っているもの。その謎を追うハリーに謎の差出人から「君のお父さんが亡くなる前にこれを私に預けた」(295ページ)とクリスマスプレゼントが贈られます。

そのプレゼントとはなんと、水を織物にしたような輝く銀色の布で、「透明マント」という、かぶると体が見えなくなる不思議なマント。このマントを使ってハリーとロンは学校中を探検していくのでした。

ハリーたちにどんな冒険が待ち受けているのか、様々な困難を乗り越えたハリーたちが目にするのは一体何なのか、読みながら一緒に体験できるわくわくの物語。興味を持った方はぜひ読んでみてください。

明日もJ・K・ローリングで、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』を紹介する予定です。