ジョージ・エリオット『サイラス・マーナー』 | 文学どうでしょう

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サイラス・マーナー (岩波文庫)/ジョージ エリオット

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ジョージ・エリオット(土井治訳)『サイラス・マーナー』(岩波文庫)を読みました。

『サイラス・マーナー』という作品は、今ではほとんど読まれることはなくて、ストーリーを知っている人も少ないとは思うんですが、かなりおすすめの1冊なんです。面白いです。

ぼくは昔なにも知らずに読んで、あまりに面白いのでびっくりしました。こんな名作があったのかと。心揺さぶられる物語です。

でも今回読み直してみたら、思っていたよりは若干読みづらい印象もありました。300ページくらいの小説なんですが、物語が大きく動き始めるのは200ページを越えたところからです。

エピーと名付けられることになる、小さな女の子が出てくるところから、ぐっと面白くなります。そこまでがんばって読んでみてください。もちろんそこまでもある種の面白さはありますけども。

詳しくはあらすじで触れますが、この小説は物語の筋が2つに分かれている感じがあって、ちょっとシンプルさに欠けます。ですが、その2つの筋が重なり合うことによって、物語はより深みを増すんです。片方がもう片方を対照的に照らし出すから。そうして浮かび上がってくるものがあります。

どういう話なのか、簡単に言うとですね、ヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』を知っている人は、あれに近い感じだと思ってください。主人公のジャン・ヴァルジャンはコゼットという少女を引き取りますよね。

あるいは映画で言うとですね、チャップリンに『キッド』という作品があるんです。

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浮浪者チャップリンが、捨てられていた子供を育てることになります。しかし本当の親子ではないから、引き裂かれそうになる。情が移れば移るほど、愛すれば愛するほど別れは辛いものです。こうした擬似親子の物語はある意味はずれがないですね。

『サイラス・マーナー』は人生に絶望したサイラス・マーナーという男が、小さな女の子を育てることによって、あたたかな心を取り戻していくというお話なんです。

そういった意味合いでは、シュピーリの『ハイジ』に似た部分もありますね。

そういうベタな話なので、もしかしたら人によっては退屈な物語かもしれません。でもぼくはこの話がベタであればあるほど、展開が読めれば読めるほど、余計に夢中になって読んでしまったのでした。

大体ぼくの好きな物語のパターンがあって、虐げられた人間が色々苦労をしながら、最後には幸せをつかむというものです。

『サイラス・マーナー』はそういったパターンの、まさにどストライクの作品で、前半はサイラス・マーナーの身に降りかかる様々な災難にはらはらして、それでも彼に幸せになってもらいたいと思う。そしてようやく幸せを手につかんだ時に・・・ああ、これ以上は言えない! 本編をぜひぜひ!

作品のあらすじ


物語の舞台は、ラヴィロウ村。よそから流れてきたサイラス・マーナーというリンネル織工が暮らしています。リンネル織工とは、織物を作る職人といった感じでしょうか。

もう15年ぐらい暮らしているんですが、周りから怖れられているんです。教会にも行かないし、人付き合いもしない。1人で孤独に暮らしているんですね。

サイラス・マーナーがなぜそんな人物になってしまったか、過去の話が語られます。サイラス・マーナーは親友がいて、婚約者もいて、幸せに暮らしていました。

ある時、教会に古くから勤める執事が重い病気になってしまったので、サイラス・マーナーと親友とで交代に看病することになる。サイラス・マーナーにはある病気があるんです。体が硬直して、その間は意識を失ってしまうという病気。看病している間に、その病気になってしまいます。

気がついた時には、もう執事は亡くなっていて、そして教会の金が無くなっていたんです。現場で見つかったサイラス・マーナーのナイフ。やがて彼の部屋から空の財布が発見されます。サイラス・マーナーは盗人の汚名を着せられてしまいます。

サイラス・マーナーは思い出します。親友にナイフを貸していたことを。やがて親友とサイラス・マーナーの婚約者が結婚します。そうしてサイラス・マーナーは生まれ故郷を出たんです。自分の潔白を証明してくれない神への信仰を失い、ずたずたに傷ついた心と大きな絶望を抱えて。

ラヴィロウ村に流れついたサイラス・マーナーは、仕事一筋。お金を貯めることだけが彼の唯一の楽しみであり、心の支えなんです。このサイラス・マーナーに関する筋がまずあります。

もう1つ物語の筋がありまして、地主の息子ゴドフリーの話があるんです。ゴドフリーには好きな人がいます。ナンシーという素晴らしい女性。ところが、結婚できないんです。なぜなら、ゴドフリーはひそかに結婚している女性がいたから。なぜ結婚したかはよく分かりませんが、その女性は阿片中毒に陥っていて、かなりひどい状況にいます。

ひそかに結婚している女性がいることがバレたら、ナンシーとは結婚できませんし、地主の地位を継げないかもしれない。そうした心の悩みを抱えているゴドフリー。弟のダンスタンというのはごろつきみたいなやつで、その結婚のことを知っているので、兄をおどしてお金をせびるんですね。

このろくでもないダンスタンが、サイラス・マーナーのお金に目をつけるんです。最初はお金を借りようと思って、サイラス・マーナーの家の戸を叩く。ところが誰もいない。そこでダンスタンはお金のありかを探し出し、お金を奪って姿をくらまします。

すべてに裏切られ、人生に絶望し、唯一の楽しみがお金の蓄えだったサイラス・マーナー。それがなくなっているのを見た時の衝撃はどんなものだったでしょう。察するに余りあります。かわいそすぎますよ!

ここでちょっとざっくり飛ばします。ある雪の降る夜。サイラス・マーナーは、例の病気になります。硬直してしまう病気。そうして気がつくと、暖炉の前になくなったはずのお金が戻ってきているのです。ところが手を伸ばすと、柔らかい巻毛に触れる。2歳くらいの小さな女の子が眠っていたんです。

この女の子がどこからやって来たのかは、まあ触れないでおきますが、サイラス・マーナーは自分のなくなったお金が返ってきたと思って、この女の子を引き取ることにします。女の子に洗礼が必要だと言われると、教会に通うようになる。女の子にはエピーという名前がつきます。

やがて、今までサイラス・マーナーをよく思っていなかった周囲の目が変わります。財産をなくしたかわいそうな人が、小さな女の子を抱えて困っている。マーナーさんなんかに子育てがしっかりできるわけはないから、これは助けてやらなくっちゃ! というわけです。

そうしてサイラス・マーナーの人生は大きく変わっていきます。仲睦まじく暮らすサイラス・マーナーとエピー。ところが本当の親子ではないから、2人が引き裂かれそうになる時がやってきて・・・。

とまあそんなお話です。面白そうでしょう? 面白いんです。サイラス・マーナーの絶望の気持ちも痛いほどよく分かりますし、希望の光を手に入れて、再びあたたかな心を取り戻すことに感動します。そこにゴドフリーの話が絡んでくるんですが、どう絡んでくるかは本編にて。

読み終わると、あたたかな気持ちに包まれる、そんな小説です。ぜひ読んで見てください。おすすめの1冊ですよ。