フランツ・カフカ『訴訟』 | 文学どうでしょう

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訴訟 (光文社古典新訳文庫)/フランツ カフカ

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フランツ・カフカ(丘沢静也訳)『訴訟』(光文社古典新訳文庫)を読みました。

こちらは、あとがきによると、今まで翻訳されていた元の本と、少し違うものを使ってるそうです。

〈史的批判版〉というものです。カフカの小説は友人であるマックス・ブロートが手を入れて出版されているものが多く、〈史的批判版〉は、カフカが書いたものにできる限り近づこうとしたバージョンの本です。

そういうわけで、タイトルも馴染みのある『審判』から、『訴訟』に変わっています。

『訴訟』は未完成の作品とされていますが、かなり面白いです。書き出しはこんな感じです。

 誰かがヨーゼフ・Kを中傷したにちがいなかった。悪いこともしていないのに、ある朝、逮捕されたのだ。(9ページ)


というわけで、Kは逮捕されてしまいます。ところが、逮捕されたという事実があるだけで、どこかに連れて行かれるということはないんです。

銀行で働いているんですが、いつものように銀行に出勤します。そうしてKはいつ終わるのか分からない、しかも曖昧な裁判の被告になってしまいました。

出頭しろと言われて、裁判所に出かけて行ったり、どうにか無罪を勝ち取ろうとして、弁護士を雇ったり、裁判所に詳しい画家に会いに行ったりします。

行く先々で、恋人というか情婦のようなものができたりもします。突然、逮捕されてしまったKの運命はいかに!?

とまあそんな話です。この小説のおもしろさというか、後生に与えた影響が大きかったのは、いわゆる「不条理」という部分だと思います。

つまり、突然Kは逮捕されるわけですが、なぜ逮捕されるのかは分からない。「なぜ?」という問いに対して、「なぜなら、そういうものだからだ」と答えるしかない世界観を構築しているわけです。

そして組織や事件の全貌は限りなく曖昧で、どこまでいっても明らかになりません。

Kはぐるぐると同じところ回っているような感じなんです。そして思わぬ行動が、悪い結果を生んでしまう。「なぜ?」「なぜなら、そういうものだからだ」というわけです。

こうした、主人公の置かれる境遇や、周りの人間や組織の不気味さが、いわゆる「カフカ的」と呼ばれる空気を醸し出しています。

その「カフカ的」というのはうまく表現できないんですよ。こればっかりは実際に読んでもらうしかないです。

どことなく不気味で、曖昧で、しかもユーモラス。そんな感じです。その独特な空気が、色々な作家に影響を与えました。

興味のある方はぜひ読んでみてください。世界文学を読んでいく上で、間違いなく大きな作家の一人だと思います。

カフカは次、『』を読み直す予定です。