宮本輝『骸骨ビルの庭』 | 文学どうでしょう

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立宮翔太の読書ブログです。
日々読んだ本を紹介しています。

骸骨ビルの庭(上)/宮本 輝

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骸骨ビルの庭(下)/宮本 輝

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宮本輝『骸骨ビルの庭』(上下、講談社)を読みました。きりぎりすさんのブログで紹介されていた本です。

宮本輝は好きな作家で、古いのは大体読んでいますが、ちょっとした謎を作って、ぐいぐい読ませる達人だと思います。その謎がスパッと解決されるわけではないのが、あれですけども。

特におすすめの作品はですね、『私たちが好きだったこと』という作品です。

私たちが好きだったこと (新潮文庫)/宮本 輝

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ちょっと切ない感じの恋愛小説だったりしますが。ページ数もそれほど多くはないので、ぜひ読んでみてください。

さてさて、『骸骨ビルの庭』ですが、若い読者にはあまり向かない作品なのではないかと思いました。年齢層が上の読者だったら、楽しめるのではないかと思います。

戦争で親に捨てられたこどもが集まっていたビルがあるんですよ。それが骸骨ビルと呼ばれるビルです。会社としては、そのビルを壊して、新しい建物を建てたいわけです。

ところが、もうかなり年配になっている、かつてのこどもたちが、居座って出て行かないわけです。

主人公は、そのビルの管理人になるんです。そして、そのビルの管理人をしていた間の日記が、この小説であるという形式です。

住人たちは一癖も二癖もあるんです。ダッチワイフを作っていたり、オカマだったり、粉の雑誌を作っていたり。

なぜ住人は出て行かないのか? そして、なぜ以前の管理人はすぐ逃げ出してしまったのか?

という、まあそんな話なのですが、ドラマチックなストーリーラインというのは、基本的にないんですよ。主人公である管理人が、住人の思い出話を少しずつ聞いていくという話なわけです。

そうすることによって、骸骨ビルを作ったというか、こどもたちを集めていた人の姿が少しずつ浮き彫りになっていきます。

戦争が絡んでくるので、テーマ的に重かったり、そうした作中作(物語の中にある物語のこと)のような形式が続くこともあって、夢中になって読むということはなかったですが、しみじみしながら読むのに向いている本かもしれません。

主人公である管理人が、住人たちに与えた影響とは何だったのか、が読みどころといえるでしょう。主人公が日記の中で中国文学などの本を読んでいるのが、なんだか面白かったです。